とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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英国騒乱編 Curtana
騒乱の最中へ


 学園都市にあるとある高校の教室で、神谷駿斗と上条当麻は放課後の雰囲気の心地よさに浸っていた。

 

 この時期、学園都市は11月に控えている超巨大な文化祭『一端覧祭』の準備に向けた動きが始まっており、街全体が少し祭りに向けて浮き足立っている感じがする。また、いろいろあって中間テストが中止になり、心に余裕があることも拍車をかけているのかもしれない。

 

 その証拠に、駿斗たちの教室の中でもあちらこちらで一端覧祭の話が聞こえていた。そして、普段はエロトークをしている青髪ピアスや土御門元春なども、グダグダと話を展開している。

 

「っつか、高校の一端覧祭って中学の時とは何か違うんかいな。予算とかいっぱいもらえると色々やることの幅も広がったりするんやけど」

「にゃー。ぶっちゃけ学校見学会やオープンキャンパスも兼ねたりしているから、そういうことに積極的なトコじゃないと予算はいっぱいでないにゃー。ウチの学校はそういう欲が全然ない平凡学校だから思い切り地味そうだぜい」

 

 すると、そんな男たちを尻目に、黒髪でおでこで巨乳で実行委員に目がない生徒(別に実行委員の男の子を見ると飛びかかるという訳ではない)、吹寄制理は腕組みをするとフンと鼻を鳴らした。

 

「世界最大の文化祭である一端覧祭が近いということは、ようやくこの私の季節がやってきたという訳ね。貴様たちも時間を無駄にしているようなら、少しは有意義な使い方をしてみたら? 自分の新しい一面を見つけられるかもしれないわよ……特に消しゴムのカスを丸めて遊んでいるツンツン頭の貴様!」

 

 指摘された当麻はビクゥ! と肩を震わせた。

 

「えっ、ええー!? 新しい自分とかいいっすよ。どうせあれだよ、今までメイド好きだと思っていたら実はウエイトレス好きだったということが判明するくらいだよ」

 

 当麻はめんどくさそうに言うが、『メイド』というその言葉に反応しない土御門ではない。

 

「にゃー、それは超重要なことですたい! メイドはウエイトレスの仕事もできるけど、ウエイトレスにメイドの仕事は務まらないという事実を忘れてないかにゃー!」

「ふっ……馬鹿やね。メイドが好きだからってウエイトレスを好きになってはならないという法則はどこにもあらへんのに。まぁ、たった1つのフェイバリットジャンルに操を立てようとするその純粋さが悪いとは言わへんけど」

「……この会話の内容、どこからツッコめばいいんだか」

 

 例によってデルタフォース特有のバカトークが目の前で繰り広げられていく様子に、駿斗はぼそりと呟いた。まあ、今は別に真面目に一端覧祭の出し物について相談をしているわけではないので、駿斗はそれを止めようとはせず会話に加わるのだが。

 

「それでも、有意義な時間の使い方と言われたところでなあ。そのたぐいって、結局いろいろあってなあなあ(・・・・)のまま終わっちゃうことが多くないか? っていうか、2人が言っていた通り、大して力を入れようともしないこの学校の場合、そうなりそうな気がするんだけど」

 

 ま、特別突飛なことをしなくても、それなりに準備や本番に参加するだけでも結構楽しいもんだとは思うけどな、と駿斗は付け加えて言った。

 

 しかし、と彼は呟いた後で教室を眺めてみる。

 

 このクラスだけでも、ロシア正教に『敵』として認識されている幻想殺し(イマジンブレイカー)幻想創造(イマジンクリエイト)、イギリス清教と学園都市の両方に所属している科学サイドと魔術サイドの二重スパイ、イギリス清教から力を借りてその『原石』の能力を封じている吸血殺し(ディープブラッド)……本当にこの学校は『平凡』と言っていいのかなあ、などと駿斗は考えるのだった。

 

 そして何より、とそのタイミングで教室に入ってきた影を見る。

 

「はーい、それではホームルームを始めますー。今日は一端覧祭に向けて、各自の役割分担を決めるのですよー。部活や委員会の関係で優先順位のある人は先生に申告してくださいー」

 

 すると、姫神秋沙の動きがピタリと止まった。

 

 身長135センチ、見た目が12歳前後でランドセルが似合いそうな外見をしているのにもかかわらず、その中身はビールやたばこに目がない女性。専攻である発火能力(パイロキネシス)の他にも多種多様な学問に通じ、学者の間でも扱いが分かれるAIM拡散力場関連の研究にも余念がないという……個性が1つや2つあるかないかではなく、もうどこからどう見ても個性しかない幼女教師、月詠小萌を目の前にした姫神は、自分の没個性な状況と彼女を比較すると、

 

「……。はう」

「ひ、姫神?なんで真っ黒に絶望しているんだ? 姫神っ、姫神ィィいいいいいいいい?」

 

 当麻ががくがくと肩を揺さぶり呼びかけるが、彼女は返事をしなかった。

 

 

 

 

 

「やれやれ、学園都市の外ではユーロトンネルの爆破。まったく、この街で大きな事件が起こってなくても、外では起こるみたいだな」

 

 背中まで延ばした黒い髪を持つ少女、黒夜海鳥は、放課後に『学舎の園』の中にある喫茶店の中で、アイスコーヒーを片手にそんなことを呟いた。その傍らでは、茶色の髪をボブカットにした同い年の少女、絹旗最愛がC級映画のパンフレットを広げて眺めている。

 

 しかし、今回はあまり興味の惹かれるタイトルがなかったのか、最愛はパンフレットをテーブルの上に放り出すとアイスティーのストローの先を口に持っていく。

 

「ユーロトンネルはイギリスとフランスを超結ぶ、唯一の陸路。所謂生命線というやつですね。それが爆破されたということは、おおよそ今回もフランスが超きな臭いでしょう」

 

 一見すれば、フランスにも被害が及んでいるのだから、彼らも被害者のように見える。しかし、イギリスというのは日本と同じで島国なのだ。

 

 大陸と島を結ぶ唯一の陸路であるユーロトンネルを爆破すれば、残りは時間のかかる海路か、輸送費がかさむ空路。そのどちらかしかなくなってしまう。被害の度合いで言えば、圧倒的にイギリスが不利というわけだ。

 

 仮に、何かしらの要因で空路も潰されてしまった場合には、イギリスは完全に孤立してしまうことになる。

 

「まったく、ついこの間フランスでもアビニョンで学園都市に対する暴動があったばかりだというのに」

 

 ここ最近――具体的には例の『〇九三〇事件』の日から、学園都市の様子が次第におかしくなっていくのを彼女たちは感じ取っていた。街中で『暗部』の匂いのするものを見かけることも、少しずつ、しかし確実に多くなっている。(もっとも、幼馴染の『お兄ちゃん』とともに巻き込まれたあの日を除いて、彼女たちはその方面には関わらないようにしていたが)

 

 学園都市の『外』がおかしくなっているから『内』もおかしくなっているのか。

 

 それとも、『内』から何か行動を起こしたことで、『外』が反応して何かが起こっているのか。

 

 『闇』から離れて基本的には普通の(とは言っても、今までの雰囲気とは似合わないお嬢様学校であるが)中学生生活を送るようになった彼女たち。以前と比べて平和で退屈な日常を送ることができるようになっていたが、逆にそれは今までの『情報源』が失われたということでもあった。

 

 この街で何が起こっているのか。

 

 彼女たちが知らない『外』の世界は今、どうなっているのか。

 

 そして何より――自分たちが大好きな少年は、それにどのような形で関わっているのか。

 

「9月30日。アビニョン暴動。そしてつい先日に起きた、第22学区の壊滅……その全てに駿斗兄ちゃんと上条が関わっている。それは間違いなさそうだな。そして、この間、10月9日、独立記念日の暗部間抗争は、おそらく」

「超準備ですね」

 

 最愛は話す。

 

「例の『スクール』と『ブロック』の連中。『メンバー』は別の目的だったようですけれど……精鋭部隊とはいえ、学園都市との超交渉ができるという時点で異常です」

 

 しかし、あの時は学園都市の一部の人員がアビニョン騒動の収束のために、『外』に出ていた。そのため、『内』の警備が甘くなり、彼らの暴走を後押ししてしまったのだ。

 

 あの時、3人は何かを守ることができたのであろうか。

 

 最愛や海鳥も、下っ端を何名か昏倒させたものの、結局エツァリたちの戦いは魔術に詳しい駿斗が担当し、特に最後の場面は第1位の一方通行(アクセラレータ)と第2位の未元物質(ダークマター)、垣根帝督との戦いでは間に入る余地などなかった。

 

 そのことを考えて、彼女たちははあ、とため息をつく。

 

「……で、結局あのあとはどうなったんだっけ? あの後、第4位が元スキルアウトの連中に倒されたとか言う話は聞いたけど」

 

 黒夜が憂鬱そうに聞くと、最愛も残りのアイスティーを飲み干してからめんどくさそうな表情で返事をした。

 

「話に聞く限りでは、滝壺さんはあの無能力者(レベル0)……浜面でしたっけ? に保護されて、今は病院で超治療を受けているそうです。とは言っても、完治とまではいかないようですけどね」

 

 滝壺理后の使用していた『体晶』は、学園都市の『闇』から生まれたものだ。一般の病院では、完治させることは難しい。

 

「今は、時々お見舞いに超行ってますよ。最も、うざったいことにあの男がたいてい一緒ですが」

「……ま、珍しい奴もいたもんだな」

 

 珍しい奴、というのは当然、『暗部』という世界の中では、という意味だ。滝壺のように、ぼーっとしている人間など普通いない。というか、索敵や追跡専門であっても、普通は生きていけない。彼女が特別なのだ。

 

「しかし、能力追跡(AIMストーカー)、ね。話には聞いていたが、あんな奴だったとはな」

 

 AIM拡散力場干渉系の能力というのは、非常に珍しい。というか、彼女たちが知っているのは『能力追跡』である滝壺理后と、風紀委員(ジャッジメント)に所属しているらしい木原那由多だけである。

 

「とりあえず、注意だけはしておく必要がありそうですね」

「門限は破れないけどな」

 

 ……実際のところ、彼女たちは一度だけ門限を過ぎてしまい、その能力を使用する前に寮監に意識を刈り取られたことがあったりする。

 

 

 

 

 

 食蜂操祈は、落ち着かない日々を送っていた。

 

 というのも、彼女はこの1か月少し前の大覇星祭のときに、あの少年……神谷駿斗に救われてしまったのだ。

 

 木原幻生の1件に関しては、御坂美琴や彼の幼馴染である『暗闇の五月計画』絹旗最愛と黒夜海鳥が絡んだことは、全てを1人で片づけるつもりであった彼女としては少々不満ではあった。

 

 しかし、それを上回るものを得ることができたという思いもまた、彼女は抱いていた。

 

 そんなある種の満足感と共に、再び退屈な日々に戻った第五位の超能力者(レベル5)であるお嬢さま、心理掌握(メンタルアウト)の使い手である彼女なわけであるが、近ごろ再び面倒なことが起こっているのを彼女は知っていた。

 

「報告を頼めるかしらぁ」

「了解しました、女王」

 

 食蜂操祈を『女王蜂』だとするのであれば、彼女の『派閥』に属する少女たちは『働き蜂』である。

 

 精神系最強の能力を持つ食蜂からすれば、学園都市で生活している、それも『暗部』に所属しているわけでもない1人の少年のことを調べ上げることなどわけもない。それだけの働き蜂(人員)は、いくらでも手に入る。

 

 しかし、食蜂は不思議と必要以上に彼のことを調べ上げようという気にはなれなかった。結局、現在駿斗について入手している情報は、彼の年齢、通っている高校、出身、そして、『表向きの』能力値だけである。人の心へとダイレクトにハッキングできる彼女からすれば、異常な情報量の少なさだ。

 

 それは、彼が『特別』であることの明確な証明であるために、食蜂はそうしていたのかもしれない。実際、今『派閥』の少女たちに調べてもらっていたことも、彼に関することではない。

 

 それは、学園都市内外で発生している『事件』のことであった。

 

 事務的に次々と目の前の少女の口から、彼女の『派閥』の少女たちが集めた情報が告げられていく。しかしそれは、普段何かの調査を依頼した時の情報量の半分にも程遠いものだった。

 

(これで、独立記念日に起きたことは、残りは『裏』の方から情報を仕入れるしかなくなっちゃったわねぇ。だけど、結局〇九三〇については、学園都市の情報力でも難しいのかしらぁ?)

 

 9月30日の事件。表向きには、『学園都市外で科学的な能力開発を受けた人間が、学園都市のゲートを破壊して襲ってきた』ということになっている。しかし、都市の大部分の人間はその情報を鵜呑みにしようとはしていない。そして、『闇』との関わりを少しでも持ったことのあるものは、その情報に感じるきな臭さに気が付いている。

 

 そしてその後に世界各地で発生した、ローマ正教による学園都市に対する大掛かりなデモ。その解決策として、なぜか学園都市の空港から最新鋭の爆撃機HsB-02が出されていること。そしてその日のある時刻を境に、あっさりとデモが収束に向かって行ったこと。その日には、HsB-02の前にも統括理事会の力によって超音速旅客機が出されていたらしい。(この辺りは『派閥』の少女だけでなく、かつて『エクステリア』計画に関わっていた連中の調査も含めているが)

 

 そして極め付けには、第二十二学区が半壊した謎の事件。

 

 独立記念日に起きたツートップの超能力者(レベル5)同士の戦闘においても、あそこまでの破壊は生じていなかった。何しろ、あの学区の階層が丸ごと1つ、破壊されていたのだ。

 

 そして、その痕を調べた警備員(アンチスキル)は有用な情報がつかめず、すぐに上層部によって専門家のチームによる調査が決定していた。しかし、実際にはただ修復作業がされただけであり、調査と呼べるような調査はまるでなされていなかった、らしい。

 

 それ以上の情報は出てこなかった。しかし、食蜂はあまり残念そうな表情をしていない。

 

「『あの人』も相変わらずなのねぇ。駿斗さんと一緒に、本当にいいコンビだわぁ」

 

 そんなことを呟くだけで、満足そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 駿斗の部屋へその電話があったのは、当麻と駿斗は帰宅してからあまり時間が経っていないころであった。

 

『はやとん、ちょっと俺に頼まれて今すぐイギリスへ行ってもらえないかにゃー?』

「電話に出たら最初の言葉がそれか!? というか、今すぐって急すぎるだろ!?」

 

 大方、目下話題の渦の中にあるユーロトンネルの爆破に魔術的な事情が絡んでいるのであろうが、と駿斗は考えるが、いくらなんでも急すぎる。日本にある学園都市に住んでいる身としては、そんな「ちょっと買い物に行ってきてくれる?」みたいなノリで頼まれるようなこととは、断じて違う。

 

 しかし、どうせ行かされることになるのだから、と駿斗は思い、じっくりと話し合ったうえで、今後の動きを考えるか……などと悠長に考えていたのであったが、土御門の次の台詞によってその思考は遮られた。

 

『ちなみに、かみやんとインデックスはもうすでに第23学区の国際空港にいるぜい。パスポートとか必要なものは全部向こうに用意してあるから、はやとんは手ぶらで2人を追いかけてくれれば構わないにゃー』

 

 土御門はそれだけ言葉を言うと、通話を切ってしまった。

 

 本音を言えばすぐにでも2つ隣の部屋に駆け込みたい駿斗であったが、しかし親友と少女のことが心配であったため、仕方なく彼らを追いかけることにした。

 

「まったく……毎度毎度、やってくれるぜ」

 

 駿斗はそう呟きながら運動靴を履いて玄関から外へと出ると、寮の外へ出ると同時に高速移動術式を発動し、即座にその姿を消した。

 

 

 

 

 

『イギリスーフランス間をつなぐユーロトンネルの爆発事故の影響が、空路の方にも広がっています。両国間で物資・人員を運搬するために多数の飛行機が動員されているため、通常のスケジュールが遅延する可能性があります。詳しい発着予定については、各受付カウンターにて――』

「……きろ、当麻。起きろ」

 

 アナウンスと、聞き慣れた少年の声。当麻は肩を揺さぶられながら、目を覚ました。

 

 いつの間にか、空港のロビーにあるベンチの上で眠っていたのだ。

 

「……あ? あ、サンキュー駿斗。しかし、ちょっと今回はいろいろとダイナミックすぎねーか……」

「俺も、いきなり土御門から『当麻とインデックスは第二十三学区の空港にいる』とか言われたからさ。おまけに、いつの間にかポケットに入れてあったはずの財布がなくなっているし。多分、下校するときにでも取りやがったなあいつ……」

 

 土御門の性格を考えれば、大方3人が出発した後で部屋の郵便受けにでも入れてくれてあるのだろうが、それでもやり方というものがあるはずだ。

 

「今からでも、取りに行けないことはないけど……、まあ、どちらにせよ、結局はイギリスに行かなきゃならないはめになるんだろうからな。このまま行っちゃった方が、いろいろと楽かもしれん」

「っつーか、学園都市の『外』に出るのって、発信機機能のついたナノデバイスを体内に入れたり、保護者を同伴させなきゃいけないんじゃなかったっけ? なんか最近、いろいろと裏技だらけな気がするぞ……」

 

 とりあえず彼らはインデックスを起こすと、指示のあった第3受付へと足を運ぶ。

 

「上条当麻様ですね。3293番の荷物をお預かりしております。こちらでよろしいですか?」

 

 受付のお姉さんがそんなことを聞いて来るが、2人に荷物の内容が足りているかどうかなど分かるわけがない。とりあえず頷いておくと、中身を確認する。

 

 その中にはイギリスのお金がいくらかと、いつの間に持ちだしたのか、土御門が言った通りパスポートが入っていた。他にはフライトチケットや、いかにもな指令書っぽい紙束。あとは激安チェーン店で買ったと思われる着替えが数日分である。

 

「……マジかよ。本当にロンドンの空港の名前が書いてあるぞ」

「というか、そもそも何でこれからイギリスに行かなくちゃいけないの?」

「ええっとー……なんかゴチャゴチャ書いてあるなぁ」

 

 どうやら当麻は、土御門から喰らったガスの効果がまだきちんと切れていないらしい。駿斗は彼から紙束を受け取ると、その内容にざっと目を通していく。

 

「あー……やっぱり、この間起きたユーロトンネルの爆破が、何やら魔術がらみである線が濃厚なんだと。だから、魔導図書館であるインデックスを国家公式に招待する……」

 

 駿斗は、ものすごく面倒くさそうな表情でその内容を眺めていく。正直なところ、彼としても今回の呼び出しは緊急性があまり感じられない上に(自分の身近で起こっていないせいもあるが)、わざわざ3人で火中の栗を拾うような真似はしたくないのが本音だった。

 

「で、インデックスの保護者役である俺たちも一緒に呼び出された、と」

「とうまとはやとに保護されているというのは心外な評価なんだよ」

「そういうのは、他人の飯を食って生きている人が吐ける台詞じゃねえよ」

 

 インデックスの抗議をばっさりと切り捨て、3人は搭乗の手続きを済ませていく。

 

「で、俺たちが乗る、土御門が用意した飛行機ってのは?」

「ああ。えっと……」

 

 当麻に訊かれ、駿斗はチケットをもう一度取り出して確認した。

 

「4番ゲートで待っている、0001便、らしいな」

 

 しかし、そちらを見た3人の顔が、ピタリと止まった。

 

 

 

 最大時速7000キロオーバー。

 

 日本と西洋の間をおよそ2時間で突っ切る、例の怪物飛行機だ。

 

 

 

 その瞬間、3人の脳裏にはキオッジアから日本へ緊急帰国する際に受けた、強烈なGと内臓を圧迫する不気味な苦しみとその状況でインデックスが機内食を注文したため全てを後ろ方向へ吹き飛ばしたあの悪夢だった。

 

「なあ、2人とも」

「ああ、俺も多分同じこと考えてた」

「……あの便はわざと諦めて、キャンセル待ちでもいいから次の飛行機に乗ろう。もっと普通で、人体の害にならない飛行機に」

「私はとにかく、ご飯が後ろへ飛ばないひこーきなら何でも良いんだよ」

 

 はくじょうもの、という三毛猫の叫びが聞こえた気がした。


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