「何で……言わないのよ」
どうして、この少年は何も言わないのか。
助けてほしいとか。力を貸してほしいとか。いや、もっと単純な言葉で良い。怖いとか、不安だとか。
彼がそのような言葉を口にしたことは、思えば今までに一度も聞いたことがなかった。
「御坂、何言って……」
それでもとぼけようとしているのか、あるいは言葉の意味がよく分かっていないのか、そのように言う当麻に御坂はため込んでいた物を吐き出すように言った。
「知っているわよ! 決して具体的ではないかもしれない。だけど、アンタたちが日頃から訳の分からない騒動に頻繁に巻き込まれていることくらい! 誰かのために体を張って戦っていることくらい! 私は知っているわよ!」
彼女の言葉は止まらない。
これは、この少年が隠したがっていることに土足で踏み込むようなやり方だ。デリカシーのかけらもない、ともすればプライバシーの侵害にすらなるような意地汚い方法だ。
だから、どうした。
御坂は、かつてそのような方法で2人の少年に救われた。1万人の『
ならば、この少年もそのような方法で救われても良いはずだ。
「アンタの中にはそれぐらい大きなものがあるってことくらい分かる。でも、それは全部たった2人で抱え込まなくちゃならないものなの? 頼れる友人が1人いるからって、どうしてその2人だけで終わらせてしまうの? こんなにボロボロになって、それでもまだ他の人には隠れて戦い続ける理由って何なのよ!」
当麻は、その言葉を黙って聞いていた。
「私だって、戦える。アンタの力になれる!」
彼女の言葉は、学園都市第3位の『
「アンタたちばかり傷つき続ける必要なんてどこにもない! だから言いなさい。今からどこへ行くのか、誰と戦おうとしているのか! 今日は私が戦う。私が安心させて見せる!」
「みさ、か」
「言いなさい! どうしてアンタたちは人を助けておいて、自分たちは人に助けを求めないのよ!」
一気にまくし立てるように叫んだ御坂の言葉を聞いていた当麻だったが、そこではじめて、少しだけ笑った。
「……そう、か」
ようやく、当麻が唇を動かした。
しかし、その次に出てきた言葉は肯定でも拒絶でもなかった。
「でも、違うんだ」
ゆっくりと、しかし確実にその言葉を紡ぐ。
「でも、ボロボロになるとか、2人だけで戦うとか。俺たちばかりが傷つき続ける必要はどこにもないとかさ」
今まで誰からも言われなかったような御坂の言葉。だが、それでも当麻の芯は揺らがなかった。
なぜなら、彼の、いや、彼らの芯はそこではないからだ。
「違うんだ。今まで体を張って、2人で背中を預け合って……そうやって親友と2人で戦ってきたのは、そんなことを言うためじゃないんだよ。それが、俺たちにとっての信じるってことだから」
これが、彼らの関係だった。
友情だった。信頼関係だった。だからこそ、彼らは親友以外の人間に助けを求めるようなことをしない。
確かに、助けてくれと言えば大勢の人が助けに来てはくれるかもしれない。だが、果たしてそれは正しい行動なのだろうか?
親友が勝ち残る可能性は上がるだろう。生き残る可能性は上がるだろう。
しかし、それはどれほどの『仲間』を呼べば良いのだ?
そして、そのような助けを求めたところで、本当に『何か』を残せるのか?
今まで戦ってきたのは、決してお涙ちょうだいの自殺願望などではない。ただやるべきことの先にある種の終わりが待ち構えていて、それでも前に進んだのだという1つの結果だ。
信念があるからこそ、彼は後悔しない。たとえ、親友がどんな面倒事を2人の間に持ち込んだとしても、全てが終わった後には、笑顔で『ありがとう』と言える。当麻は、絶対にそう信じている。
「悪い、御坂。お前はもう帰れ」
誰かに任せればよいのではない。
絶対にやらなければならないなんて強制力もない。
しかし、それでも当麻は御坂の下を離れて進んで行く。
(どうしよう……)
その後姿を見ながら、しかし御坂は動くことができなかった。
彼女が言ったことは間違いではない。彼は重傷だ。すぐに病院に戻るべきだ。あるいは、彼女は付き添いでその現場に行くという選択肢もあるはずだ。
しかし、彼は自分の足で親友のいる戦場へ行くことを望んでいる。ならば、笑顔で送り出して無事に戻ってくることを願うのが正しい。
なのに。
(どうしよう。全然納得できない)
知らず知らずのうちに、彼女は自分の胸に手を当てていた。そして、自分の内側に眠る感情にようやく気が付いた。
論理や理性や体面や世間体や恥や外聞までもが関係ない、ただただ自分自身を中心に据え置いた1つの意見こそが、まさしく御坂美琴という人間の核なのだと。惨めで醜くわがままで駄々をこね――それでいてどこまでも素直なむき出しの『人間』なのだと。
彼女はこの感情の名前を知らなかった。
しかし、今日この時、この瞬間。
彼女は自分の内側に眠っているこの莫大な感情を知る。学園都市の中で7人しかいない
上条当麻の背中が、闇の中へと消えていく。しかし、御坂は最後まで彼を止めることができなかった。
当麻の言葉に納得したわけではない。その行動に心打たれたからでもない。
気づいてしまった感情の片鱗に胸を圧迫され、指1本動かせなかったのだ。
後方のアックアの体が宙を舞い、そして先ほどの現場からさらに離れた場所、第二十二学区第四階層の端に彼らは移動していた。
「ふう」
「?」
宙で追撃を警戒していたアックアであったが、駿斗はアックアに一定距離を保ちながら近づいてきただけで、それ以上の追撃をしないどころか、圧倒的な力を持った4枚の翼をひっこめて『
その行動に、アックアは怪訝な表情をしつつも、警戒心を上げてメイスをもう一度構えなおした。
アックアを
並の『聖人』を上回る力を持つそれをやめたのは、必ず理由があるはずだ。
つまり、それは新たな切り札。
(ならば、一太刀をもらっても返す刀で粉砕する!)
相手はあらゆる力を生み出す
だからこそ、攻撃を防ぎきるのは不可能と考えた上で、確実に倒す。
そう考えて攻撃を繰り出そうとした次の瞬間、駿斗から得体のしれない圧迫感が来た。
(何だ……これは!?)
アックアは魔術を繰り出す。巨大な水のハンマーが、槍が、駿斗の周囲から殺到してその体を貫こうとする。
駿斗が立っている地点で爆発が起きる。
「陰陽ノ鏡、発動」
だが、その中からはまるでダメージを受けていないような駿斗が現れた。
そして、その右手には先ほどまでの短い杖ではなく、鏡のついた腕輪のようなものが装備されている。
鏡。そして、駿斗が言った『陰陽』という言葉に、歴戦の猛者であるアックアはすぐに気が付いた。
(風水……陰陽道であるか)
占いを始めとして、魔術を使わない人にも非常にポピュラーなものだ。そして、魔術の世界にも陰陽道専門の魔術師というものは存在する。
若くして陰陽博士と呼ばれた土御門元春などが良い例であろう。
「行くぞ!」
暴風が起こる。さらに、そこに水も加わって槍と化した十数本の激流がアックアに狙いを定め、襲い掛かってくる。
アックアもまた、やはり魔術でもって迎撃し、そして圧倒的な速度でメイスを敵に叩き込む。
駿斗は、敵のメイスを腕輪で受け止め、そして拳を突き出してきた。
アックアがそれをいなすと、駿斗へ水の槍を襲い掛からせる。
だが、駿斗は今までのように魔術で迎撃することもなく、それらを無視してアックアへと攻撃を仕掛けてきた。傭兵がそれらの攻撃をいなし、そして駿斗の立っている場所が再び水に包まれる。
だが、それでも駿斗には傷一つ付かない。
「気づいたか?」
「相剋、であるな」
短い言葉で、答え合わせがなされる。
陰陽五行説、というものが、かつて中国で生まれた。西洋で発達した
その中で、『五行』にはその5つの間に、『相生』『相剋』『比和』『相乗』『相侮』という5つの関係が考えられていた。
その中でも、駿斗がアックアの魔術を凌いだのは『相剋』である。これは、相手を打ち滅ぼして行く、陰の関係だ。
木剋土――木は根を地中に張って土を締め付け、養分を吸い取って土地を痩せさせる。
土剋水――土は水を濁し、水を吸い取り、常にあふれようとする水を堤防や土塁等でせき止める。
水剋火――水は火を消し止める。
火剋金――火は金属を熔かす。
金剋木――金属でできた斧や鋸は木を傷つけ、切り倒す。
西洋の
(……それだけではないのである!)
そして『風水・陰陽道』ともかかわりが深いので、地脈や龍脈を利用しやすい。すなわち、周囲の力を徹底的に利用できるのだ。
だが、アックアが感じ取ったのはそれだけではない。
「疑問に感じているな?」
駿斗の問いかけに、アックアは沈黙を返す。
「確かに、ただ単に地脈・龍脈を利用するだけでは、足りなかった。俺が扱える範囲の魔力・天使の力を扱おうとしても、それでもこれからの敵と戦って行けるかどうかは不安だった」
しかし、そんな時格好のエネルギーを見つけた。
まるで未開拓の分野であり、そして駿斗以外に扱える人間はいないエネルギーを。
「学園都市にいる人口230万人。その能力者が、無意識のうちに出している能力の残滓」
AIM拡散力場。
アックアはその言葉を知らないが、それでも駿斗の言葉から想像がついたのであろう。
方や、偶像崇拝を用いて『神の子』の力の一端を握ることができるのは、偶像崇拝をするような人間が世界中にいるからだ。つまり、『聖人』の力は十字教徒によって支えられている。
駿斗の場合は、それが学園都市230万人によって支えられたAIM拡散力場だ。
だが、おかしい。
魔術を扱う上で、科学から生み出される能力者の残滓など、邪魔にしかならないはずだ。確かに目の前の男なら扱えても不思議ではないが、その2つが独立している様子がない。
同時に扱っているというよりは、一纏めにされている感じがする。
いくら幻想創造でも、相反する2つを同じように扱えるものなのか……?
「2つを扱っているのではない。AIM拡散力場の質を変えているんだよ」
だが、アックアの疑問を呼んだように駿斗が答えた。
風水においては、土地によって『気』の良し悪しというものが当然ある。だから、悪い土地があった場合その悪い『気』を良いものに変える術も、当然考えられている。
そして、駿斗はあらゆる異能の力を素で感じ取れる。
そんな彼にとって、『悪い気』を『良い気』に変える方法を創造するのは、知識さえそろえばそこまで難しいものではない。知識が欲しければ、
「とはいっても、どこでも使えるような便利なものではないけどな。使用できる条件は限られているし」
彼はそう言うと、その右手に力を集めた。そして、相手の懐へ一気に飛び込む。強力な一撃が、その威力でメイスごとアックアの体を貫通し、吹き飛ばした。
駿斗は、『権天使』のような速さはないものの強力な力を扱うことができる。対してアックアは、純粋な腕力に頼るしか方法がない。
学園都市230万人に支えられた力でもって、駿斗はアックアに立ち向かう。
「テメエの幻想は、ここでぶち殺す! 親友の敵も取らなきゃならねえからなあ!」
駿斗の周囲から土や水が飛び出す。アックアはそれを迎撃しようとするが、しかし、量が多すぎる。間に合わない。
先ほどまでは物量においては対等であった。だが、駿斗の『陰陽ノ鏡』によって、それは覆された。
「分かったことがある」
さらに、その激闘の中駿斗はアックアに向けて語り掛ける。
「テメエは単に『聖人』だとか『神の右席』だってわけじゃねえ。そもそも、『
駿斗の拳がその強靭な肉体を後ろへとのけぞらせた。カウンターでメイスが放たれるが、魔術的で増強された破壊力は全て相剋され、『聖人』としての腕力は『天使の力』による身体強化で対等に並ばれてしまう。
「それはなぜか、って考えた時に思い出したのが『
駿斗が真実を述べていく。
幾重にもかけられた鍵が、次々と外されて行く。
「それをせずに、わざわざお前は『受胎告知』なんて迂回をしてまで『聖母』の属性を得ることを選んだ。普通に考えたら回りくどすぎる」
暴風がアックアを襲い、そしてそれを切り抜けた直後にその下の地面から無数の杭が現れる。
「だが、そんな方法を選んだ理由として、最も簡単なものが考えられる――そう、お前は『神の右席』であるとか以前に、もともと『聖母』の素質を持っていたんだよ」
聖母崇拝。
『神の子』を産むという、十字教の中でも最高の奇蹟を起こした存在として、やはり強大な力を持つ。また、世界のルールとして厳正な『神の子』よりも例外的な慈悲を与えてくれる存在でもある。そのために、その『奇蹟』の報告が多く教会に寄せられた結果、当時のローマ正教上層部は『このままでは聖母崇拝だけで独立してしまうのではないか』と危機感を抱いた程だ。
神の子と聖母。その2つを兼ね備えた、奇蹟的な逸材。
それが、アックアだった。
だが、その大きな力には決定的な弱点がある。
「聖人崩し……それを喰らえば、本来『聖人』は力の制御を失って硬直するはず。だが、お前の大きすぎる力なら……もっと大きな変化が起きる。そう、2つの力が競合を起こし、そして暴走となる!」
メイスを弾いて相手を大きくのけぞらせ、一時的にその動きを封じた直後、地面に変化が起きた。
そこから現れたのは、コンクリートが形を整えて出来た、いばらの冠、十字架、槍だった。
駿斗は叫ぶ。
「俺が抑えつける! バトンタッチだ!」
第五階層では、未だに『聖人』神裂火織と『十二使徒』レビ、トマ、ジミーの戦いが繰り広げられていた。
しかし、『唯閃』という術式によってあくまでも一時的に力をブーストする神裂と、偶像崇拝によって力を向上させ巧みな連係によってそれを防ぎ、確実に攻撃を加えてくる『十二使徒』との間では徐々に差が広がっていき……そして、ついに限界が来た。
「が、ァァああああああああ!」
ジミーの縮絨棒を受け止め損ねた神裂の体が、ノーバウンドで80メートル近くも飛ばされて行く。その体が砲弾のようにコンクリートの壁を突き破り、粉塵をまき散らす。
それでも、神裂は『七天七刀』を握りしめ、構えようとする。
「まだ戦うのですか。ですが……ここまでやって逆転の目などないでしょう」
ジミーは感心したように、しかし他人を見下すような眼で告げた。
「それはあなたが一番分かっているはずです。努力や祈りで奇蹟が応じないからこそ、あなた方のような『聖人』は重宝され、もてはやされますし、そのような力・奇蹟に届くために我々も『神の右席』や『十二使徒』といったものを生み出しているのですから」
「……もてはやされる、ですか」
ぽつりと、吐き捨てるような声で神裂は言う。
「そうですよ。生まれ持った才能、用意した武器の性能、戦う人員の数。そう言う歴然とした違いが出てくるのが戦場というものです」
ジミーが、さも当然と言うように告げた。
「そういったものが嫌だというのなら、初めから戦場になど来なければ良いのです。武器などというものは手にせず、いつも通り、日曜には教会に通い、神に感謝しながら家庭と仕事に生きる日々を過ごしていれば良いでしょう」
トビの硬貨袋が、4色に輝きながら宙を舞う。砲弾のような速度で神裂にせまったそれは、ワイヤーを引きちぎって刀と衝突した。
「力なきものが戦う必要などありません」
トマの周囲の地面が隆起し、神裂の周囲を塞いでいく。
「戦うのは真の兵士だけで良いのです」
神裂は1人だけで閉じ込められる。
そう、1人だけ――。
彼女は1人だけで戦っていた。
それが正しいことだと信じていた。
かつては彼女も仲間と呼べる人間たちと共にいた。背中を預け合って戦っていた。
だが大きな力は、やはり大きな力を呼ぶ。そして、大きな力が衝突すれば、当然戦いの規模も大きくなる。仲間も巻き込まれる。
そして、そのような戦いの中で仲間を全て守り切れはしない。あちこちに散らばるリスクをすべて排除した上で、安全な戦場を用意するなどできない。
かつて、彼女はそれを未熟と評した。
だが。
(なんて……なんていう、傲慢な考えでしょう)
天草式の魔術師が弱いから死んでしまった。本当にそうか? ならば、どうしてあの少年たちは、仲間と共に戦えているのだ。みんなと一緒に戦い、最後には笑いあっているのだ。
結局は、もっと単純な話――神裂は、天草式を信じ切ることができていなかった。彼らの人格や精神ではなく、その実力を。だからこそ、彼女は自分の背中を正直に預けることもできず、必要のない敗北を重ねていたのではないのだろうか。
本当に弱かったのは、どこの誰だというのか。
『聖人』と『十二使徒』――選ばれた者どうしの戦いは、どこまで傲慢であれば気が済むのか。
「私は……大馬鹿者です」
神裂は、吐き捨てるように言った。
神裂も、『十二使徒』も、あるいは後方のアックアも、同じ。『特別な誰か』が全てを管理し、『それ以外のすべて』はただ黙って管理されろ。凡人がどれほど努力したところで、結局は無様な姿をさらすだけなのだから、何もせずに従っていれば良い――自分は、そんなことを知らず知らずのうちに、仲間に対して要求していたというのか。
彼女は、血まみれの唇を手で拭った。手の中にある七天七刀を、改めてつかみ直す。
自分がとるべき選択は何か。
(分かってる)
本当の意味で『仲間』たちを救い出し、彼らが正真正銘の『仲間』であることを認めるにはどうすればいいか。
(分かってる!)
『十二使徒』という強力な敵を戦うためにすべきことは何か。理不尽な暴力を受けた少年と、今も親友のためにアックアと戦っている彼のために、神裂はどうするべきなのか。
(分かってる!!)
そして、彼女は叫んだ。
その時、現天草式の人間たちは、呆然とした様子で彼女の戦いを見ていた彼らは、確かに聞いた。
「――、……を」
世界で20人といない『聖人』の声を。
「……、……してください」
かつて天草式を率いていた元
「力を貸してください! あなたたちの力を!」
最初、彼らは自分たちが何を言われたのか分からなかった。だが、その言葉をようやく理解した。
あれほどの高みにいた彼女が、自分たちとは遠い存在だった彼女が、助けを求めている。
そのことを知った彼らは、震えていた。あるいは、涙を浮かべていた。
あの女教皇様が認めてくれた。
単なる重荷としての仲間ではなく、共に肩を並べるための戦力という意味での仲間として。
五和は、一度落としてしまった槍を、もう一度拾い上げた。同じように、他の者も武器を手に取った。
雄たけびを上げて繊維を奮い立たせるものがいた。世界で最も明るい涙をこぼすものがいた。誰にも悟られぬように、そっと幸福をかみしめる者がいた。戦うことに対する怯えはそこにはなく、喜びが彼らの中であふれていた。
教皇『代理』の建宮斎字は、肩の荷がおりたとばかりに息を吐いた。そして、彼は天草式十字凄教仮の指導者として、最後の指示を出した。
「行くぞ……」
一言では足りず、もう一度。
「行くぞ! 我ら天草式十字凄教のあるべき場所へ!」
叫び声と共に、彼らは戦場へと飛び出した。