とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

21 / 76
戦闘開始

 無駄に絡んでくる警備員(アンチスキル)の黄泉川愛穂から逃れた浜面は、一気にアクセルをふかした。

 

「お、おい。霧丘とフレンダの2人はどうしたんだよ!?」

「あいつらはあのぐらいじゃ死なない。今はあのステーションワゴンが先!」

 

 麦野の声には苛立ちが含まれていた。

 

 ルームミラーを使って見ると、彼女の半そでコートの端は黒く焦げていて、頬は殴られたように腫れている。

 

「何でこんなことになってんだよ、お前。第4位のくせに」

「向こうにも超能力者(レベル5)がいたの。垣根帝督、第2位のクソッタレがね」

 

 もっとも、一方的に『スクール』にやられたわけではなく、1人のメンバーをつぶしてきたらしい。彼女は戦利品であるのか、ゴツイ機械製のヘッドギアを振る。頭をぐるりと囲むように輪になっているもので、土星の輪を連想させるが、そこには血がべっとりとついていた。

 

「で、あのステーションワゴンを追ってどうするんだ?」

「乗ってるやつを叩き潰して、積み荷は回収」

 

 聞くと、あのワゴンには『ピンセット』と呼ばれるものが積んであるらしい。超微粒物体干渉用吸着式マニピュレータと説明されたが、浜面には理解できなかった。

 

「っつか、この車で追いつけるんだろうね!?」

「大丈夫」

 

 癇癪を起こすように叫ぶ麦野に対して答えたのは滝壺だった。後部座席に座っている彼女は、だらりと手足を投げ出している。

 

「私の『能力追跡(AIMストーカー)』は一度記録したAIM拡散力場の持ち主を徹底的に追い続ける」

 

 能力追跡。

 

 学園都市では非常に希少なAIM拡散力場に干渉する能力であり、例え対象が太陽系よりも外に出てしまったとしても、検索・捕捉することができる優れた能力だ。最も、『体晶』を使用しない限りには『漠然と感じ取る』程度にしか使えないという欠点があるが。

 

「優秀なナビがついていれば見逃すことはないさ。それよりも、あの車の動きを封じた後はどうするん――」

 

 しかし、すぐ横の道から大型のクレーンが飛び出してきたことにより、浜面の声は途切れた。

 

「ッ!」

 

 ハンドル操作をする余裕も与えられずに、浜面の駆る4ドアの横にクレーン車が激突する。グシャア! という音を立ててドアがへこんだ。エアバッグが作動するが、横からの衝撃に対して有効とは思えない。

 

 クレーン車の衝突によって横向きのベクトルを加えられた浜面の車は、ガードレールを突き破って歩道に乗り上げると、ビルの壁に激突した。黄色いクレーン車とコンクリートの壁に囲まれた4ドアは、動きを封じられる。

 

 相手は周囲の騒ぎを考えていない。多少『表』に騒ぎが漏れたとしても、ここで浜面達『アイテム』を殺すつもりだ。

 

「くそ、『スクール』ね。どうしてもあのステーションワゴンを逃がしたいらしい。私らの足止めに出てきたんだ!」

 

 麦野が噛みつくように言うと、クレーン車は10メートルほど後退した。その運転席にはホステスを思わせるようなドレスを着た、14歳ほどの華奢な少女が座っている。

 

 もう一度衝突するつもりか、と身構えた浜面に対して、クレーン車の動きは予想とは異なっていた。つまり、クレーンのアームを伸ばしたのだ。そして、その先に取り付けられているのは金属製のフックではない。

 

 それは、建物を壊すための巨大な鉄球だ。

 

「ちくしょう!」

 

 麦野がドアから出ようとするが、歪んだ扉は開かない。だから、浜面はフロントガラスを叩き割った。

 

「フロントガラスから出るんだ! 早く!」

 

 ボンネットの上に飛び出した彼の後を追うように、倒したシートの上を通って麦野と滝壺が前の席へ回って来る。しかし、その時振り子のように鉄球が放たれた。

 

 麦野は脱出するが滝壺は間に合わない。そのことを感じ取った浜面は、慌てて滝壺の手を掴むと車から引っ張り出す。その直後、轟音が炸裂した。

 

 ボンネット上にいた3人が横からの衝撃で地面に振り落される。浜面は顔を上げようとしたが、その前に麦野に頭を掴まれると地面にたたき伏せられるような状態になった。そして、一拍遅れて乗用車が炎上と共に爆発を引き起こす。

 

 全員生きているのが不思議な状況だった。

 

 しかし、辺りに集まり始めた野次馬などお構いなしに、クレーン車の少女は鉄球を再び操作する。ゴゥン、という不気味な響きと共に、それが吊り上げられていった。

 

「三手に分かれよう」

 

 麦野はそう言った。

 

「戦わないのかよ、超能力者」

「私の目的はあのステーションワゴンと積み荷の『ピンセット』。雑魚に構って時間稼ぎに付き合うつもりはないからね」

 

 あのクレーン女のチカラは鬱陶しいし、と付け加える彼女。どうやら、麦野は少女の能力を知っているようだ。あの麦野をして鬱陶しい、と言われる時点で、凶悪な能力を保有していることがうかがえた。

 

 車道を横断して細い道に麦野が入っていくと、滝壺も別方向へと去って行った。

 

 彼らから離れるように、浜面もビルとビルとの間にある路地を駆け抜ける。しかし、後ろから湿った足音が聞こえてくると、浜面の額に嫌な汗が流れた。

 

(やばいぞ、おい! 俺を追って来やがった!)

 

 浜面の喉が干上がる。あの少女は小柄な体格であったが、『スクール』という組織に所属している時点で強力な戦力となるような人材であろう。浜面はひたすら逃げ続けると、ビルの外側に付けられた金属製の非常階段を駆け上がって適当な階で建物に入った。

 

 どうやらそこは学生寮だったらしい、と入った後で浜面は気が付く。直線的な通路を駆け抜けるが、その時ガチャリと背後で音がした。

 

 追いつかれた。

 

 少しだけ後ろを振り向いた浜面は、例の小柄な少女の姿を確認する。その手にはレディース用の、小さな拳銃が握られていた。

 

(死ぬ!?)

 

 浜面は横の壁にあったボタンに手を叩き付ける。鋼鉄でできた暴走能力用のシャッターがギロチンのように落下する。少女が拳銃を発砲すると、浜面は思わず目をつぶったがその弾丸は彼と少女との間を遮っている鋼鉄の壁を貫いてはいなかった。

 

 どうやら相手の火力では、このシャッターは破れないらしい。

 

 そのことを確認した彼は、世界で一番人を馬鹿にした(オモシロイ)表情を作ると、両手を上にあげ左右に尻を振りながら「いっひいっひいっひいっひ!」と叫んだ。

 

 すると、壁のボタン近くにあるモニターに映されている少女は、拳銃を太股にしまうと今度は後ろへと手を回し、40ミリの小型のグレネード砲を取り出してきた。

 

 これ、絶対死んだんじゃね? などと思いながら冷や汗を流す浜面が通路の奥へと走ろうとすると同時、シャッターがその破片をまき散らしながら爆発した。その煽りを受けた彼はノーバウンドで5メートル以上吹き飛ばされる。

 

「ぐ、がああっ!?」

 

 悲鳴を上げながらも浜面はどうにか立ち上がると、壁に手を突きながらよろよろと通路の奥へ。しかしその先はテラスになっており、逆に逃げ場がなくなってしまった浜面は『3階分の高さダイブ』と『正体不明の「スクール」の少女』から1つ選ばざるを得なくなった。

 

(もちろん3階ダイブに即決定!)

 

 あんなあからさまに強そうな相手は、自分が立ち向かうような相手ではない。小物なりに自分の道を選んだ浜面は、着地地点の確認もせずに宙に身を躍らせた。

 

「ハハッ! 負け犬上等ォおおおおおお!」

 

 しかし、ここで彼は1つ失敗した。跳ぶことに対して恐怖心を極力抱かないようにするために、着地点を確認してなかったのだ。また、追手のことを考えると確認するだけの余裕が時間的にも精神的にもなかったためでもある。

 

 つまり「くそ、何か下にクッションになるものは―――」と確認した時には、自分の着地予想地点に乳母車を押す幸せそうな若奥様がいるのを発見してしまった。

 

「ぐおおおおおぉ!?」

 

 浜面は手足を必死にばたつかせてエアウォークを試みる。その甲斐あって、彼の大柄な体は乳母車の横15センチに足から伝わる鋭い痛みを伴って着地に成功した。

 

 若奥様は口に片手を当ててお上品に驚き、乳母車にいた赤ちゃんは泣くことも忘れて目を丸くしている。すると、若奥様が言った。

 

「え、ええと……どちらさまでしょう?」

「空から落ちてくる系のヒロインです。ここは危ない、早くお逃げなさいお嬢さん」

 

 爽やかな笑みと共に適当なことを言って、近くにある路地へと逃げ去る浜面。

 

 一方、標的を失った少女はリーダーに報告する。「ターゲットの男が幼な妻またはベビーカーに偽装しているという可能性はあると思う?」と訊くと、ばーか死ね、という答えが返ってきた。

 

 

 

 

 

 初春飾利と打ち止め(ラストオーダー)は第七学区の駅のホームにいた。打ち止めは電車は初めてらしく、辺りをうろちょろして危なっかしいので初春は手をつないでいる。

 

(まったく……なんでわたしがこんなことを)

 

 もともとはタクシーのお釣りを渡した後一度警備員(アンチスキル)に預けたのであるが、一体どういうスキルを使ったのか、気が付けば打ち止めは詰め所を抜け出して再び街の雑踏をウロウロしていた。このままでは永遠にそのまま彷徨っていそうな彼女だったので、初春はこうして迷子探しを手伝っているのである。

 

 途中で一度会った最愛達からは「多分……会うのは超難しいんじゃないですかね。もう警備員に丸投げしてしまった方が良いんじゃないかと思いますよ」との助言を得ていたが、それでも放ってはおけないのが彼女である。

 

 最も、この子1人のために親友の佐天や先輩の固法に頼るわけにもいかないので、自然と初春が1人で彼女に付き添いながら、打ち止めが検討をつけて歩く後ろをついて行く、という形になっていた。幼い少女は一応時折考えるようにしながらも、それでもある程度の見当をつけながら歩いているようだ。

 

(それにしても、打ち止めってどういう能力なんだろ?)

 

 ちょっと聞いたぐらいでは中身の想像できない呼び名だった。

 

 能力名というのは、その名づけ方からおおまかに分けて2つに分けられる。1つは学校が決める『念動力(テレキネシス)』『発電能力(エレクトロマスター)』といったシンプルなもの、そしてもう1つが学生自身が申請を出して決める『超電磁砲(レールガン)』などだ。恐らくはこの子も自分で考えて決めたものなのだろう、と初春は適当に想像した。さっき会った最愛達に、聞いてみればよかったのかもしれない。

 

「なんで電車が来ないの? ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」

「貨物列車が通過するみたいですね。というか、迷子はいったいどの辺にいると考えているのですか?」

 

 彼女はうんうん唸りながらも、何かしらの見当をつけながら歩いている。

 

「こんなので本当に迷子を見つけられるのかな、ってミサカはミサカはしょんぼりしてみたり」

「大丈夫ですよ」

「超アバウトな応援ありがとう、ってミサカはミサカは一応お礼を言ってみる」

「そんなあなたのアホ毛に元気が出るように、プレゼントを差し上げます」

 

 初春は頭に大量につけている造花の中から、鮮やかな赤い花を取り出した。

 

「ええっ! 頭のお花って自在に取り外せるの、ってミサカはミサカは驚愕を露わにしてみたり!」

「はいこれ。ハイビスカスの花言葉は『まあやってみたまえ』です」

「しかも間違った花言葉を堂々と宣言してるし、ってミサカはミサカは混乱してみる!」

 

 打ち止めの言葉を笑顔で無視する初春。すると、その横をスポーツカーがけたたましいエンジン音を立てながら猛スピードで過ぎ去って行った。

 

「いったいどこを走っているんでしょうね。警備員もしっかり取り締まってくれないと」

 

 初春は呆れたように言ったが、打ち止めはその横で何やら難しそうにうんうんと唸っていた。

 

 

 

 

 

 海原のいる第十一学区では、『空白』の20分が始まろうとしていた。

 

 第十一学区は、海に面していない学園都市において、『外』とのつながる手段である『陸』と『空』のうち、『陸』の最大の玄関口として機能する場所である。『ブロック』の周囲にある四角い建物に窓が存在していないのも、その中では大勢の人間が働いているわけではなく、立体駐車場のようになった内部には学園都市製の電気自動車が出荷のために待機しているからだ。

 

 その倉庫街からは、1日に7000トン以上の物資がやり取りされる。

 

 管理が厳重なゲートに比べて、この倉庫街はそこまで警備が厳しくない。そのため、昔の映画において夜の港で密会をするマフィアのように、夜な夜な怪しげな取引がされることも珍しくはなかった。

 

 さらに、海原の注意は倉庫街の奥にある、500メートル以上離れているいるにもかかわらずその存在感をはっきりと示している巨大な壁に向けられた。その上は万里の長城の如く通路になっており、しかしその上を歩いているのは観光客ではなくドラム缶型の警備ロボットである。

 

 このセキュリティは通常、科学を騙すことができる魔術師でしか乗り越えられない(その侵入を許していることさえも、アレイスターに計算されている……とは思いたくなかった)。しかし、現在は人工衛星による監視が消えたために、警備強度は極端に下がっていた。

 

 あの向こうには、『ブロック』の佐久が呼び寄せた傭兵5000人が待機しているはずだ。

 

 そして『グループ』のメンバーはこれを知らない可能性が高い。上層部でも掴んでいるかどうか疑わしい。『衛星による光学兵器を使った攻撃の阻止』という目先の危機を乗り越えたことで安堵している可能性も高い。

 

 そして、海原にはこの情報を知らせるだけの余裕がない。さらに言えば、この後『ブロック』が傭兵を引き連れてどこに行くつもりなのかも、分かっていない。

 

 そんなことを考えていると、不意に声がかけられた。

 

「山手。心配でも、してるの」

 

 近くにいた手塩恵未(てしおめぐみ)だった。海原は「別に」と短く答える。本来は最低でも1週間以上かける変装先の相手の調査がないのであるから、モデルとなる人物像がつかめないうちは、発言を控えた方が良い。

 

 幸い、大きな計画に緊張していると思われたのか、その態度については言及してこなかった。

 

 彼らの話によると、『グループ』(正確にはその所属の一方通行(アクセラレータ))を使って衛星を潰すことには成功したものの、警備ロボットは依然として残っているらしい。

 

「問題が、あるのか」

「いいや。あの手のロボットには火器は搭載されちゃあいないし、障害にはならないだろう。タイミングさえ誤らなければ、外壁は乗り越えられる」

「なんで武装してねえんだ?」

 

 ずっと黙っているのも不自然であるため、海原も会話に加わった。

 

 佐久は海原の眼をちらりと見る。

 

「理由はいろいろだよ」

 

 外周部を歩いているロボットから放たれた弾が、万が一『外』にいた人間に当たったら大問題になってしまう。また、装弾数が空になっても自分では補給が行えない。

 

 しかし、その一方で警報を鳴らされると、第二十三学区の管制から無人攻撃ヘリ『六枚羽』を呼び寄せることになっているらしい。この間の『迎撃兵器ショー』でも出展された最新型だ。

 

 だが、警備ロボットには充電するための時間が必要だ。駆動組と充電組に分けて稼働させている訳であるが、その交代の間には20分から30分の隙が生まれる。

 

 普段であれば、人工衛星が全てを担っているその時間。しかし、今はそれが完全な『空白』になろうとしていた。

 

「可能な限り、車を用意しておけ。ナンバープレートを付け替えるのも忘れるな。その辺の立体駐車場に止めてある、出荷予定の電気自動車だ。そいつを使って5000人ほど運搬しなくちゃならないからな」

 

 佐久は、『ブロック』の下部組織の連中に指示を出す。

 

 そして、ついに空白の20分が始まった。

 

(……やるしかない)

 

 海原は懐にある黒曜石のナイフに意識を集中させた。すでに傭兵たちが外壁をロープを使ってよじ登っているのが分かるが、その方向にナイフを向けたところで5000人が4999人になるだけだ。

 

 彼の得意とする魔術、トラウィスカルパンテクウトリの槍は、金星から放たれる光を黒曜石のナイフで反射し、その光が当たった物体を分解するという極めて強力なものだ。しかし、一度にその矛先を向けることができるのは1つのみ。つまり、『どんなに強力な敵でも一撃で葬る』代わりに、『どんなに弱い敵でも1人ずつ攻撃しなくてはならない』のだ。

 

 したがって、より効果的な一撃となる標的を選ばなくてはならない。

 

『ブロック』の正規メンバーを狙うべきか。確かに指揮を執っている佐久が倒れれば効果はあるだろうが、すでにここまで計画が進んでしまっている以上、リーダーを失った程度で完全に停止するとは考えにくい。代わりの誰かが臨時のリーダーとなって行動を起こすだけだ。

 

(一撃でこの流れを断ち切れるような、そんな攻撃対象は……)

 

 したがって、彼は外壁を上る傭兵たちへ向けていた双眼鏡を顔から外し、一気に視線を別に向ける。

 

(――そこだ!)

 

 黒曜石のナイフを引き抜き、金星の光が向けられた先は、すぐ近くにある立体駐車場だ。

 

 佐久や手塩は海原が黒曜石のナイフを取り出しても、ポカンとしていた。魔術についての知識がないため、何をやっているのか理解ができなかったのだろう。しかし、海原が突然ビルに向かって走り出したことと、そしてその立体駐車場が何の前触れもなく崩れ始めたことを関連付けるくらいの想像力はあったようだ。

 

 バキン、という音と共に、鉄筋コンクリートでできた立体駐車場の崩壊が始まる。

 

「なっ、山手ェェええええ!」

 

 佐久の叫びが響くが、海原は頭上から降り注ぐコンクリートの中を走った。その破片が銃弾から海原の背中を守る。彼はさらに地面を破壊すると、下水道に飛び込んでその身を守ろうとする。

 

 しかし、あまりにも多くの崩落物は下水道さえも押しつぶしてきた。

 

「おおおおおおおおっ!」

 

 海原は全力で走り、躓いて地面に倒れても横に転がる。

 

 そして立体駐車場の崩落が終わると、海原は天井に空いた光の差し込む穴から顔を出した。

 

 そこには。

 

 

 

 

 

 HsAFH-11、無人攻撃ヘリ『六枚羽』が第十一学区の空を舞う。

 

 ヘリコプターというものの定義は、縦軸に取り付けられた回転軸(ローター)によって揚力を生み出し、その翼の角度によって移動する航空機のことである。その定義に従っている以上、『六枚羽』はヘリコプターという分類になっている。

 

 しかし、一般的な感覚からすれば、補助動力として2機のロケットエンジンを搭載し、最高でマッハ2.5に達するそれをヘリコプターと呼んでいいのかどうかは微妙なところだ。

 

 無人攻撃ヘリの演算機能は最初に崩れた立体駐車場を確認し、そしてその次に数百メートル離れた位置にある外壁をよじ登って来る不審人物の集団を認識した。

 

 5000程度の敵に対して、すぐに自動攻撃が開始される。

 

 機銃。大量の地上用攻撃ミサイル。弾丸に刻んだ溝により、空気摩擦を利用して2500度まで熱した超耐熱金属弾、摩擦弾頭(フレイムクラッシュ)。傭兵の対空ミサイルに対しては、宙に砂鉄をばらまいて高圧電流を流すことで発生した『面』によって命中する前に爆発させ、返す刀で放たれたミサイルが辺り一帯を紅蓮の炎に包み込む。

 

 そんな地獄の最中、駿斗はその現場に到着した。

 

「学園都市製の戦闘ヘリ……! こんな強引な方法で『排除』するってのか!?」

 

 駿斗はヘリが無人機であることを見抜くと、身体強化をして後ろからその後部に飛びついた。そして、それを下に誰もいないことを確認してから重力操作(グラビティ)によって地面に叩き付け、その後魔術によって爆破する。

 

 だが、そうなれば今度は傭兵たちが中に入って来る。駿斗は『ブロック』と彼ら(そもそも傭兵であるということも知らない)の正体をよく分かっていなかったが、今までの情報から恐らく衛星をハッキングした連中だろう、ということを察していた。

 

 そこに駆けつけてきた一方通行(アクセラレータ)が同じように『六枚羽』を壊すのを見て、駿斗は周囲の状況を今一度確認する。そして、ヘリを倒している横で傭兵たちがどこかへ立ち去ろうとしているのを見つけると、堂々とその前に立ちはだかった。

 

「物騒なやつらを見つけたんだ。そのまま素直に帰るかっつの」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。