とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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その意味は

 迫る当麻に対して、テッラはさらに下がっていた。身体能力では当麻の方が上のようだが、足元に散らばっている瓦礫などが進行を妨げ、両者の移動速度はほぼ同じだ。

 

 これでは、いつまでたっても追いつくことができない。

 

 床に会った駆動鎧(パワードスーツ)の弾丸を足の裏が捉えたが、無視してさらに強く踏みつけた。

 

 そして、足元にあった物を前方へ思い切り蹴飛ばす。

 

 床の上を滑って行った五和の海上用戦闘槍(フリウリスピア)は、対隔壁用ショットガンの銃身に激突してその軌道が曲がる。それは、テッラの足首に襲いかかった。

 

「ッ!」

 

 テッラはそれをギロチンで床に叩き付けた。

 

 足を少し動かせば避けられたのにも関わらず、わざわざギロチンを選んだのだ。

 

(やっぱり)

 

 当麻はその間に、さらにテッラとの距離を縮める。

 

(左方のテッラは強くなんかない)

 

 テッラ自身にもとから強大な力があれば、『優先順位を入れ替える』という術式は必要ない。本当の意味での強者とは、そのようなことをしなくても最初から頂点に立ち続けることができるのだから。

 

(安全地帯に隠れて強いように見せているだけの野郎が、実際にこの足で戦場に立っている俺や五和、駿斗よりも強いわけがねえだろうが!)

 

 槍をギロチンで地面に叩き付けたテッラは、「優先する」と呟くと返す刀で当麻に向けてギロチンを振るう。だが、その攻撃は右手に防がれた。

 

「遅っせえんだよ!」

 

 彼の拳が、テッラの顔面を捉えた。

 

 しかし、彼はまだ倒れない。

 

「キ、サマ……異教のクソ猿があぁぁぁぁ!」

 

 怒声と共に『神の右席』に力が戻る。

 

 靴底が床をすべる音がした。テッラは倒れている駆動鎧に足をひっかけてバランスを崩しているが、そのままギロチンを横に振るおうとする。

 

 それは当麻の腹に向けて突き出された。

 

「優先する。――人体を下位に、小麦粉を上位に!」

 

 右手でガードするのは間に合わない。左手では防ぎきれない。だから、当麻は足を動かした。足元の対隔壁用ショットガンを踏みつける。瓦礫によって斜めに傾いていたショットガンは、当麻の足に踏まれることによってシーソーのようにその銃身をまっすぐに起こす。

 

「甘いんですがねえ!」

 

 だがテッラは焦らなかった。

 

 ショットガンは駆動鎧用のものだ。人間用の物とはサイズが全く異なるそれは、簡単につかんで構えることなどできない。仮に当麻がそれを試みたとしても、引き金が引かれるよりも早くテッラのギロチンが彼の体を引き裂くだろう。

 

 起死回生の手は通じない。ショットガンごと、当麻の体に白い刃が突き刺さる。

 

 ズドッ! というすさまじい音が教皇庁宮殿に響き渡った。

 

 赤い血が舞った。

 

「なっ……」

 

 息をのむ音。だが、それは当麻の口から洩れたものではない。

 

 テッラが目の前の光景に驚愕し、思わず口から出たものだ。

 

 そう。『優先』の魔術によって強化された一撃は、当麻の体を真っ二つにできなかったのだから。

 

 当麻はニヤリと笑うと、腹に突き刺さったギロチンを右手で握りしめる。小麦粉の刃物は簡単に砕けた。そして、左手の『硬化手袋(フリックグローブ)』からワイヤーを射出して、テッラの首に絡める。

 

 テッラはもう、彼の拳の射程圏内に捕らえられた。

 

「何だ、このふざけた結果は……幻想殺しは右手にしか適用されないはず。何が起きた。異教の猿が、まさかすでにその力には――」

「そんなもんじゃねえよ」

 

 混乱するテッラに、当麻は拳を握りしめて告げる。

 

「今のは幻想殺し(イマジンブレイカー)とは関係ねえ」

「ならっ……!」

 

 テッラが叫ぶよりも早く、当麻が動く。

 

「答えると思うか」

 

 テッラの体が床に投げ出される。

 

 ――決着がついた。

 

「ぐっ……」

 

 それを見届けた当麻は痛む腹を押さえながら、足に力を入れて踏みとどまった。さすがに、最後の一撃で横腹に加わった衝撃は大きかった。

 

(どうにか、助かった……か)

 

 当麻は床に散乱している五和の槍やショットガンを眺める。そのショットガンが衝撃で歪められているのを確認するとぞっとしたが、それでも安堵の息を漏らした。

 

 テッラの最期の一撃は『上条当麻の体よりもギロチンの威力を優先する』とされていた。普通なら真っ二つにされている当麻だが、その間に挟んだショットガンに遮られたために、凌ぐことができたのだ。

 

『光の処刑』は確かに強力な術式だが、その『優先順位』は1種類の項目にしか適用されない。つまり、『上条当麻の体よりもギロチンの威力を優先する』時には、『上条当麻の体以外にはギロチンの威力が優先されない』ということになるのだ。

 

 財布など元から柔らかいものは別として、ギロチンの威力は当麻の体を引き裂けない程度の物でしかないことは分かっていた。

 

 ネックだったのはどこまでが『上条当麻の体』に適用されるのか、ということだったが、その直前に蹴りあげた五和の槍によって、蹴り飛ばす程度の接触なら『他人の持ち物』として扱われることが分かった。もしも当麻があの槍を普段から持ち歩いていたら、当麻は槍ごと真っ二つにされていただろう。

 

 当麻は床に転がっているテッラを見る。術が解除されたのか、周囲にギロチンの形状から崩れた小麦粉が散らばっていた。

 

(どうにか、終わったな……五和は大丈夫か。駿斗は『十二使徒』とまだ戦っているのか。土御門もまだ駆動鎧と戦っているのかもしれない……)

 

 彼に近づくと、その懐から筒状に丸められた古い羊皮紙が転がり出ているのを発見する。

 

 Document of Constantine――通称『C文書』。

 

 今回のデモを中心とした騒乱の中心となった霊装だ。

 

 当麻は体をかがめてそれを掴もうと右手を伸ばす。だが掴む前に、まるで燃え尽きて灰となったものがしばらくの間その形状を保っていただけであるかのように、砂の城よりも簡単に崩れた。

 

 拍子抜けするほどだった。あまりにも呆気なかった。

 

 粉末が風に乗って飛ばされて行くのを見届けると、今度は今まで戦っていた敵について考える。

 

 ここは学園都市ではないから、今までのように後始末を学園都市に任せることはできない。できれば『十二使徒』とまだ戦っているかもしれない駿斗の方へ応援に行きたい当麻だったが、テッラを拘束して、しかるべきところへ預けなければ安心できないのだ。

 

(そういえば、土御門の奴は大丈夫なのか。あいつと連絡して、とりあえずイギリス清教の方とかけあうかな。なんとなくだけど、ここだと学園都市の影響って少ないような気がするし……)

 

 一応アビニョンへ強襲してきた駆動鎧も学園都市製なのであるが、第一印象が最悪だったためか彼らと相談するという選択肢は思い浮かばなかった。

 

 当麻は周囲を見渡すと、少し離れたところに倒れている五和の下に近づいて行く。肩を掴んで揺さぶってみると、呼吸は確認できたが反応はなかった。

 

「そうだ、こいつの槍……」

 

 自分が蹴とばした槍を拾うと、彼女の隣にそっと置いた。

 

「ありがとう、五和。お前がここにいなかったら、多分俺は勝てなかったと思う」

 

 彼女は気を失っていたため、駿斗が侮辱されたことについては五和に聞かれなかった。

 

 それでいいと当麻は思った。駿斗の事情は、学園都市ではある程度の確率で存在するとはいえ、そんなに言いふらして良いものではない。

 

 それに、と当麻は考える。

 

『俺が置き去り(チャイルドエラー)であることと、幻想創造(この力)を持っていることは何か関連があるかもしれない……最近はそのように邪推してしまうんだ。例えば、もしも仮に俺の親が魔術に関わっていたら、そんな力を持っている自分の子供がどうなるかなんて分かってしまうんじゃないのかな』

 

 9月のいつだったか、駿斗が言っていた言葉を思い出す。

 

 駿斗の履歴について分かっているのは、少しだけだ。

 

 当麻と同じ中学に通っていたこと、小学校よりも以前から学園都市に預けられ、置き去りにされたために施設で生活していたこと。その程度だ。

 

 親のことは名前はおろか、どのような話をしたかすら思えていない始末である。

 

(……いくらなんでも、不自然すぎないか?)

 

 当麻は思う。

 

 幼稚園のことであっても、親の顔を少しくらいは覚えているものではないだろうか。

 

 だが思考を中断して、とにかく土御門と連絡を取ろうとポケットに手を入れた。しかし携帯電話がない。辺りを見ると落ちていたのでそれを手に取る。液晶が砕けて、何も見えなくなっていた。

 

 くそ、と吐き捨てた当麻であったが、後ろから発生した物音に反応して振り向く。

 

 テッラは倒れたままだったが、その腕の位置が移動していた。恐らくは、起き上がるだけの力がまだなかったのだろう。

 

「なるほど。確かに幻想殺し(イマジンブレイカー)は我々とは相性が悪い。何でもかんでも無効化してくれて、全く自分たちの努力を否定されているような気分ですよ」

 

 床に転がったテッラが、当麻を忌々しげににらみつける。

 

「尋ねないのですか」

「何を」

「幻想殺し。そして、幻想創造について」

 

 その2つの単語がテッラの口から再び出てきたことで、当麻の動きがわずかに止まった。

 

 これまで当たり前のように使ってきて、しかし原理も正体も正確なところは何も分かっていない、使い方がある程度判明しているだけのこの力。

 

 テッラがこの力の正体を知っているということは、これはやはり魔術サイドのものなのか。しかし、10万3000冊の魔導書図書館、インデックスはこの2つの正体を知っている感じではない。

 

「知っているのか」

「くっくっ」

 

 その言葉を聞いたテッラが、酷薄に笑う。

 

「そこで私に確認を取るということは、本当に彼に教えてくれる人はいなかったようですねー。そうですね、まずはその幻想殺し(イマジンブレイカー)が、なぜあなたの『右手』に宿っているのかを考えてみることです。幻想創造についても同様で良いでしょう。そこには大きな答えが隠されている。あらゆる魔術を問答無用で打ち消し、あらゆる魔術を自在に生み出し行使するというその効力にも、意味があるんですがね……」

 

 当麻は黙って、笑うテッラの言葉の続きを待った。

 

「簡単なことですよ」

 

 テッラの薄く息を吐く音が、当麻の耳にやけに大きく響いた。そして、その唇から決定的な言葉が紡がれる。

 

「まず、幻想殺しの正体は――」

 

 

 その時、ゴッ! という轟音と共に、天井を突き破って降り注いだオレンジ色の閃光が左方のテッラの体を爆発させた。

 

 

 当麻の体だけではなく、周囲に転がっていた五和の体や駆動鎧までもが吹き飛ばされた。

 

「ぐああああああ!?」

 

 床に叩き付けられた当麻が絶叫する。腕の辺りからジリジリとした痛みがあった。これは、外傷による痛みではない。日焼けの感覚に似ていた。

 

(な、何が……)

 

 爆破地点へ視線を移した当麻の顔が強張った。先ほどまでテッラが倒れていた場所が溶岩と化していたからだ。大穴の開いた天井からも、オレンジ色のものがドロッ、と垂れている。

 

 窓の外には、黒い影が見えた。

 

 爆撃機だ。

 

「テッラ……」

 

 当麻はその熱気の立ち込める中に近づくこともままならないまま、敵だった男の名前を呼んだ。

 

「テッラぁぁぁぁ!」

 

 ――再度爆破されたその場所からは、左方のテッラは遺体すらも残さずに消えた。

 

 

 

 

 

 その衝撃で五和は目を覚ました。

 

 すぐそばに壁があることに気が付く。自分は部屋の中央辺りで気を失ったはずだが、そこまで転がされたようだ。すぐそばには槍もある。あの少年が、持ってきてくれたのだろうか。

 

 重い体を動かして、その槍を手に取る。体に熱があるような気もする。

 

 しかし、次の瞬間それが間違いであることに気が付いた。

 

 前方。

 

 十数メートル先からその場所は溶岩の海と化していた。

 

「な、にが……?」

 

 視界が白い蒸気に覆われていた。しかし周囲を観察すると、周辺に散らばっている駆動鎧と、そして幻想殺しの少年が見つかった。近づいてみると、少年の肌には赤みが差している。火照っているのではなく、軽い火傷を負っているようだ。

 

 この程度なら痕は残らないと判断した五和は、得意ではない氷の魔術を使うのはやめておしぼりを彼の腕に押し当てた。

 

(左方のテッラは……?)

 

 五和はぼんやりと考えた。

 

 そもそもさっきまで気を失っていた彼女は、C文書がどうなったのかも、どうしてこんな惨状になったのかも、分からないままであった。

 

 自分たちは勝ったのか、それとも負けたのか……それすらも判断できない。

 

 少年は重傷を負っているようには見えないので、彼が意識を戻してから話をしてもらった方が良さそうだ。あるいは、もう1人の少年が『十二使徒』との戦いを終えてこちらに来るかもしれない。

 

 彼女はテッラとの戦闘の途中で気を失い、残りをこの少年に押し付けてしまった不甲斐なさをそっと噛みしめた。しかし、その時声がした。

 

 

「チッ、何だか面倒臭ェことになってンなァ」

 

 

 突然聞こえた声に、五和の全身が強張った。彼女は慌てて槍を構える。

 

 これは左方のテッラの声ではない。しかし、声の聞こえてきた方向が異常だった。

 

 前方だ。その溶岩の中、立ち込める蒸気の中に1つの人影が平然と立っていた。その蒸気だけでも100度を超えているであろう、その中心部に。

 

 相手は無線か携帯電話で誰かと話をしているようだ。彼は五和の方を振り向きもしていない。

 

 それで良い、と五和は思った。

 

 槍を握った手から嫌な汗が噴き出る。

 

 あそこに立っている人影は別格だ、ということを自然と五和は理解していた。奇蹟が起きれば勝てるかもしれないとか、そういう段階を軽く超えている。それは巨大な鉄の塊に細い槍を振るう感覚を思い起こさせた。

 

「一応この辺を洗って死体を捜してはみるけどよ。あァ? 機能停止した駆動鎧の回収だァ? そんなもんは雑用係に押し付けちまえよ。フランスにも学園都市協力派の組織や機関ぐらいあるだろォがよ」

 

 そこで通話が途切れたのか、声が聞こえなくなった。そして、その人影は蒸気の奥へと消えていく。

 

 五和は声をかけることなどできなかった。むしろ、去って行ったことに、それで良い、とさえ思う。追いかけることなど、できるはずもなかったのだ。

 

 駿斗から声をかけられるまで、五和は緊張で体を動かせなかった。

 

 

 

 

 

 処刑塔の尋問室で、ステイルとアニェーゼはリドヴィアから話を聞いていた。どうやら、ビアージオは最後まで非協力的な立場を崩すつもりはないらしく、一言も口を利かなかった。

 

「十字教では『神の子』の死後に『神』は現れませんが」

 

 リドヴィアの声が、狭い尋問室に響く。

 

「代わりに、その手足として動いている『天使』はかなりの頻度で人前に出現します」

 

 天使と悪魔で大戦争を起こしていた、だとか、ある神学者が9つのグループに分けた、といったことから考えても、天使の総数はかなりのものになるのかもしれない。しかし、そのように『天使』が人前に現れるのであれば……『神』もまた、人の前に現れていないのではなく天使のふりをしてこっそり人間と接触しているのではないか。

 

 そのように考え、『天使の中に紛れ込んだ何者か』の影を追いかけているのが『神の右席』だという。

 

 十字教以外の神話では、神が別のもの……人間と同等か、あるいは下位のものに化けて地上へやってくる話は珍しくない。たとえば、ギリシア神話で主神ゼウスは、白鳥の姿に化けて王妃レーダーの前に現れた。

 

 そのあたりの思想が混じっているのか、とステイルは考える。

 

「……それが『神の右席』という名前とどうつながる? 確か君の話だと、『神の右席』は組織名であると同時に最終目標であるということだったけれど」

「人間は神にはなれません」

 

 リドヴィアは直接質問には答えず、それまでの話を続けた。

 

 そういう術があるらしい、という仮説は存在するが、実践されたとの報告までにはいかない。しかし、そのかい段階、つまり『天使』までなら、極めて稀ではあるが錬金術などで一部報告が挙げられている。

 

「彼らは人間を縛り付ける『原罪』を消去したうえで、『天使』となるための法を求めています。しかも、それはただの『天使』ではありませんので」

 

 すなわち、『天使』の中に紛れ込んだ真の『神』たる個体。神の力を認めるだけではなく、その力をもぎ取ろうとする傲慢な意思がそこには現れている。

 

「……立派な異端宗派だな」

 

 ステイルは口の端を歪めて笑った。

 

「今の所、彼らは天使の中でも最大級の力を持ち、『光を掲げる者(ルシフェル)』の対として生み出された個体『神の如き者(ミカエル)』に狙いを定めています」

 

 『光を掲げる者』は唯一神の『右側』――『対等』を意味するその場所に座ることを認められた個体だ。そして、その『光を掲げる者』が堕天使の長として反乱を起こした時、それを一撃で打ち倒したのは『神の如き者』であった。

 

 しかし、なぜそうなっている?

 

 本来、神が唯一の存在というのであれば、『対等』を意味するその場所には誰も座らせないはずだ。ましてや、神の下僕として生み出された天使になど、その座を与えるとは考えにくい。

 

 にも拘らず、そこに天使長を置いているということには、何か特別な意味がある――そう考えているのだろう。

 

「彼らは『神の右席』に座ることを目的とした集団です」

 

 そして、その場所を得た彼らはその力を持って天使からさらに別の存在へと進化できる……そう信じているらしい。

 

 その名は。

 

「La persona superiore a Dio」

 

 ――神上、とそう呼ぶらしいです。

 

 その言葉にステイルとアニェーゼは、それぞれ眉をひそめた。

 

 だが、まだ聞くべきことはあったので、尋問を続ける。

 

「では、『十二使徒』は? 『神の右席』とどう繋がりがある?」

「先ほども言ったように、『神の右席』は人間用の術式を使えません」

 

 リドヴィアの声は平坦なままだ。

 

「そのため、何か儀式などをすることには不都合が生じるのですよ。何しろ、扱える『天使の力』の属性すらそれによって制限されてしまいますからね。ですから、その代わりをするための人員が必要になったわけです」

 

 そして生み出されたのが『十二使徒』。

 

「だが、ただの人間の寄せ集め……というわけではないのだろう?」

 

 ステイルが言った。

 

「ええ」

 

 リドヴィアはそれに首肯する。

 

「彼らもまた、特定の『素養』を持った人間たちです。『十二使徒』のための、ね」

「素養?」

「簡単に言えば、偶像崇拝の理論を利用しています」

 

 例えば、『聖人』というのは『神の子』と身体的特徴の一部が似通っているために偶像崇拝の理論によって大きな『力』を持つことに成功した人間である。

 

 だったら、同じように『十二使徒』に似通った身体的特徴を持たせてしまえば良い。

 

「神の子と異なり、十二使徒は処女から生まれたわけでもなく、普通に生まれた存在です。そのため、彼らはその後に力を授けられたと言っても良いでしょう。そういった点からも、『神の右席』よりも選ぶのが簡単だったわけです」

 

 簡単に言うが、そのためにどれほどの魔術が使われたのであろうか。

 

「したがって、彼らも『聖人』……とまではいかずとも、並の魔術師では太刀打ちできない力を持っています。司教程度では、話にならないほどにはね。術的素養も上がっておりますが、さすがに天使の術式までは扱えません。さしずめ、その真似事を行うのが精いっぱいでしょう」

 

 逆に言えば、天使の術式の劣化版までなら扱えるということである。

 

 1人や2人ならまだしもそれが12人揃うとなると、『聖人』でも勝つことは難しいだろう。

 

 ステイルはそのことを考えながら、新しい煙草に火をつけた。


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