一方、駿斗と対峙している『十二使徒』の3人の中で最初に動いたのはバルテルミだった。彼は霊装であるナイフを構え、風を放つと同時に駿斗に向かって駆け出す。
対する駿斗は
2つの暴風が相殺された直後、2つの武器がぶつかり合う。
「近接格闘までいけるのか。なら!」
駿斗は足下を中心に四方へ向かって地割れを発生させ、さらにその瓦礫を宙に浮かばせて反転させた。加えて、その下から
「単なる物理攻撃如き……」
「で終わるとでも?」
バルテルミの言葉が言い終わらないうちに、駿斗が呟く。その直後、土の槍に描かれていた魔方陣が光りを発し、そこから無数の石のナイフが飛び出す。
しかし、彼はそれを炎を発生させて簡単に防いでしまった。そして、すぐに距離を取る。
(バルテルミの反応、早すぎるだろ……!)
駿斗が思った直後、左右からヨハンが霊装の杯から水弾を、フィリペが十字架から風を生み出して攻撃してくる。
「喰らうか!」
駿斗は自在変換で自分の足場を沈めて2つの攻撃を回避、直後杖を振るって爆発を発生させた。
ヨハンがその攻撃を受けて吹き飛ぶ。
しかし、他の2人はそれを無視して攻撃を加えてきた。どうやら、攻撃には互いに協力するものの、庇おうとする意思はないらしい。
「仲間をかばう気はないのかよ……。今の一撃なら、ヨハンを意識を奪うとまではいかなくても戦闘不能には追い込んだだろうに」
駿斗は特に返事を期待せずに、思ったことを口に出す。すると、意外なことにバルテルミが言葉を返してきた。
「その点についてはご心配なく。あの程度ではすぐに復帰できるかと」
何!? と駿斗が驚くよりも早く2人の後ろ、未だに土煙が立ち込めていてはっきりとヨハンの姿が見えない場所から天使の力が感知され、その直後に水の刃が駿斗に向かって放たれた。彼は慌てて防御術式で防ぐ。
土煙が晴れると、ダメージを負ってはいるもののかなり肉体を治療したヨハンが立っていた。
駿斗はその光景に驚愕する。
(ばかな……魔方陣を構成せず、呪文の詠唱もなしにあの短時間であそこまで回復するまでの治癒術式。あれがあいつの『十二使徒』特有の術式だというのか?)
驚きのあまりその動きを止めた駿斗に対して、3人から次々と魔術が放たれる。しかし、すぐに防御術式が発動し、それが宙に現れた複数の光る魔方陣によって防がれた。
「まだ行くぞ!」
駿斗は自分を奮い立たせるようにそう叫ぶと、次々と魔術を発動させた。3対1の、魔法の打ち合いが始まる。
ドォ! と空間そのものが爆発したのではないかと思うくらいの衝突が起きた。
互いに拮抗し、衝突し、行き場を失ったエネルギーが横に漏れてすでに崩れている周囲の瓦礫を薙ぎ払う。
今までの戦闘で、すでに当麻たちとは離れていた。今はどうやら、博物館から少し離れた、暴動で壊された喫茶店の中にいるようだ、と駿斗は周囲の瓦礫の狭間にあるティーカップや、洒落ているが半ばほどで割れてしまっている看板を見て推測する。
そうやって周囲を見ていて初めて、駿斗はヨハンの持っている杯について気が付いたことがあった。
「その霊装……単なる杯じゃない。それは十二使徒ヨハネの象徴である蛇が巻いているものか!」
その言葉を聞いたヨハンは、一度攻撃の手を休め感心したように駿斗を見る。
「へえ、気付きましたか。どうやら、少しは勉強してきたようですね」
「毒抜き……魔術によるダメージを『毒』と定義している。そういうことか」
十二使徒ヨハネに、エフィソスのディアナ神殿の祭司から罰として与えられた毒が入った杯が与えられたことがある。しかし、その毒は蛇となって去ってしまったという。
駿斗の言った通り、魔術によって生じる傷、ダメージを『毒』と定義することでそれを治療することができるのだ。
最も、これは『ローマ正教にとっての毒』でならなければならない以上、純粋なローマ正教式の術式によるダメージはは通用しないのだが、駿斗が使っている十字術式は、基本的にインデックスから教えられた知識をもとにしているため、ほとんどがイギリス清教式である。
つまり、駿斗の攻撃によって受けた傷はすぐに治療できてしまう。
(つまり、あいつを倒す時は一撃で意識を奪うしかない)
放たれた暴風を土の壁で守り、返す刀で水弾を放ちながら駿斗は考える。
(それに、他の2人の術式がまだ分からない。ヨハンは治癒術式、バルテルミは反応速度の増幅、か?)
先ほどの攻撃の結果を思い出す。だとしたら、ヨハンの体が治っていたのも、バルテルミの切り替えしが早かったことにも納得がいく。
駿斗は攻撃用の術式と防御術式を同時展開させ、相手を倒すための算段を考え始めた。
バルテルミのナイフから放たれた暴風が防御術式で防がれたが、彼はその反動を利用して大きく跳び上がる。
上から落ちてきたバルテルミを避けると、駿斗は自分に向かって突き立てられたナイフを幻想核杖で防ぐ。
駿斗は肉体を使った格闘戦には(不良との戦いレベルではあるが)そこそこ慣れている。だが、プロとの戦いなどできないし、まして『十二使徒』などという役職についている人間とはまともに戦える自信はない。
だが、それはあくまで『普通の』駿斗であるならば、の話だ。
「チャンスだな」
「まず――!」
そう呟いた声にバルテルミが表情を変えた次の瞬間、駿斗の背から水翼が生えた。
起こったのは爆発とも呼べるほどの衝撃波だった。それは、『十二使徒』を含めた周囲のあらゆるものを吹き飛ばしていく。
大天使の一角に相応しい破壊力が見せつけられる。
だが。
「あ、危ないところでした……」
聞こえてきた言葉に駿斗は驚愕する。その声の主は、バルテルミだったのだ。
「ばかな……ゼロ距離からの攻撃だったんだぞ!」
神の力など、いかに『十二使徒』が特別であったとしても大天使にかなうはずがない。それに、あのタイミングでは術式の構築と発動は間に合わなかったはずだった。
なのに。
「いえ、あなたが発動しようとするのが見えたので。慌てて防御させていただきました……といっても、この程度で済んだのは奇蹟だと思いますけれどね。主から加護を受けたのでしょう」
バルテルミは服が破けところどころに血が滲んでいるものの、それでも戦闘ができるようなのだ。戦闘不能どころか、意識を奪ってもお釣りがくるような一撃を放ったのにも関わらず。
これは、何かの形で防御をしたとしか考えられない。反応速度の増幅、という言葉で済ませられるものではない。
つまり。
「……使用する術式の予知?」
駿斗は声に出していた。
「……ええ」
バルテルミは、ナイフを持ち直しながら頷く。
「私の術式は『天使の加護』を受ける、というものですよ。天使の加護を受けるがために、肉体は疲れを知らず、傷も癒され、御言葉を授かることで相手の術式を予知できるのです」
十二使徒の1人……バルテロマイには天使が付き添っていたと言われている。
そのため、彼は疲れも飢えも知らずに働くことができ、その上ありとあらゆることを見通していたと言われている。
「やっかいな術式を……」
駿斗がそう言いかけた次の瞬間、轟音が鳴り響いた。
爆薬がアビニョンの街並みを突き崩し、駿斗たちが立っていた場所が吹き飛んだ。
「……何なんだよ、これ。何がどうなっているんだ」
当麻は思わずぽつりと呟いた。
当麻はテッラから『光の処刑』という彼固有の術式の説明を受けた後、打開の策が見つからず焦っていた。その状況を動かしたのは、土御門であった。
『大サービスだな。10秒もあれば、3つは思いつくぞ』
土御門はそう言って、炎に包まれた折り紙の魔術と拳銃を順番に相手に撃った。
当然ながら結果は無傷。
『優先する。――魔術を下位に人肌を上位に』
『優先する。――弾丸を下位に人肌を上位に』
その言葉で簡単に防がれていた攻撃だが、土御門は彼の相手をしながら同時に、五和を通じて教皇庁宮殿へ行くよう、当麻に指示してきた。
しかし、その次の瞬間建物の外壁が吹き飛び、彼らが姿を現した。
当然ながら、それを実用化できるレベルで開発できるところなど、1つしかない。
(土御門の話じゃ、学園都市は動かないって話じゃなかったのかよ!)
彼らの手には、リボルバー方式の対壁用ショットガンが握られていた。
歩く上で邪魔となる建物や自動車には実弾を。
暴徒たちには空砲を。
容赦なく叩き付けている。
空砲、と言ってもそれは駆動鎧の外観に相応しい大きなサイズのものだ。当然ながらその分火薬の量も多いために、衝撃波だけで人間の体を地面に叩き付けることができる。その光景を見た暴徒たちは静まり返り、そして道路の隅でガタガタと震えだした。
親船最中の話と違う。
いや、むしろ彼女の話の通りであるからこそ、必要な利益がもう得られたので事態の収拾に乗り出したのだろうか。
「なるほど、そうきましたか」
テッラが言った。彼は集合住宅の外壁に開けられた大穴を使って、どこかへと去ってしまう。
土御門が叫ぶ。
「かみやん、動けるか。俺たちも教皇庁宮殿へ行くぞ!」
「くそ、問題をややこしくしやがって……学園都市は動かないんじゃなかったのかよ!」
当麻は忌々しげに叫ぶ。
「今はC文書を追うのが先だ! 連中の目的も同じだろうから、それが破壊できればこの混乱も収まるかもしれない!」
「ちくしょう、本当にあいつらはこの混乱を収めるつもりがあるんだろうな」
アビニョンの人たちは暴動と駆動鎧、いったいどちらを憎んでいるのだろうか。
そんな考えが、当麻の頭に浮かぶ。
だがその時、テッラが通って行った大穴から駆動鎧が姿を現した。しかもそいつは、同じ学園都市の人間のはずなのに、銃口をピタリと当麻たちに向けている。どうやら、一々どこの所属なのかを確かめるつもりはないようだ。アビニョンにいる人たち全員が、敵と定められているのだろう。
「……かみやん、ここで二手に分かれよう。イツワだったか。お前もかみやんと一緒に教皇庁宮殿へと向かえ」
「土御門?」
「俺は後からやってきた学園都市のバカどもを止める」
どうやら、こいつらを放っておくのは難しいようだしな。と答える土御門。反論しようとする当麻に向かって、彼は言葉を続けた。
「連中は完璧に敵って訳じゃない。一度は戦うことになるだろうが、話をするチャンスを作ってみる。こういうのは、俺の方が得意だろうが」
「……ちくしょう」
「はやとんも戦っているはずだ。友人を助けるためにも、行け、かみやん!」
「ちくしょう!」
当麻は叫び、五和と一緒に狭い通路を駆け抜けて行った。
火薬と煙の臭いが鼻につく。逃げ惑う人々と、それを的確に追いかける駆動鎧の姿があちこちに見えた。
(どうなってやがる!)
デモや暴動とは比べ物にならない、軍事行動という圧倒的暴力を見ながら、頭の血管が切れるような思いをしながら当麻は五和と教皇庁宮殿へ走る。
しばらくすると、あれだけ恐ろしかった暴徒たちがいなくなっていた。その大半が駆逐されてしまったようである。
道路がめくれあがったり、建物の瓦礫で塞がったりしてまともに道が進めない中、当麻は瓦礫を乗り越え穴の開いた壁を潜り抜けながら進んで行く。
周囲を見渡せば、街のあちこちに駆動鎧が確認できた。
彼らが扱っているのはあくまでも空砲であるためか、この街の風景とは裏腹に血の匂いは感じられなかった。アビニョンの暴徒たちは気を失ったままあちこちに積み上げられ、防弾繊維でできた偵察用のバルーンにつけられたゴンドラに積み込まれて行く。恐らくは、彼らを作戦行動の領域外まで追い出してしまうためであろう。
彼らの考えは土御門と同じなのかもしれない。
でも。
「土御門はこんな手を使わない……」
思わずつぶやいた言葉に振り向いた五和だったが、当麻は応えない。
今なら親船最中が止めたかったものが分かる気がした。彼女はローマ正教を倒したかったのではなく、全てはこのような――あらゆるものを破壊していく『争い』そのものを止めてほしかったのだ。
(止めてやる。この状況が正当なものだと思っている奴の幻想なんか、ぶち壊してやる!)
当麻は歯を食いしばって走る。
「つ、着きました。あそこです……!」
五和が声を上げた。
宮殿、という言葉のイメージとは裏腹に、そこにあったのは中世の要塞だった。砦、という言葉が似合いそうなものだ。
しかし、彼らはそれを見た途端に顔をしかめた。
「風穴が……」
両開きの巨大な正面入り口が内側に吹き飛ばされ、窓は壁ごと粉砕されている。さらに、その中から銃声や爆撃音が聞こえてくる。
「もう始まってやがる! 行くぞ、五和!」
「は、はい!」
彼らは広い建物の中を駆ける。
壁紙のない石の壁以外にあるのは、建物を支える石の柱のみであった。本来なら平日には観光地としても解放されている建物であるが、今は人間などいなかった。
銃声や爆撃音が続いている。彼らは抵抗を続けているのだろうか。
「……そもそも、あの駆動鎧。いったいどこから出てきたんだ」
当麻が呟く。
「学園都市から来たのか、それとも協力機関に依頼したのか。大体、ここまでしたら隠蔽などできないだろうに……」
彼は考えた後、携帯電話を開いた。テレビニュースが映らないことを確認すると、登録されているメモリに電話をかける。
「御坂!」
『な、なによ』
通話の相手は、御坂美琴。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけれど、今いいか?」
彼は相手と2つ3つ言葉を交わしてから本題に入る。
「御坂。今ニュースで海外のアビニョンって街で何が起きているのか調べてほしいんだけれど」
『はあ?』
あまりに唐突な質問だったか、と当麻が考えるが、その予想は裏切られた。
『あんた何言っているわけ? テレビなんてどこをつけても臨時ニュースしかやっていないじゃない。フランスのアビニョンでどっかの宗教団体が国際法に抵触する特別破壊兵器を作っていて、その制圧掃討作戦が開始されたって大騒ぎになっているでしょ』
「……何だって?」
ギョッとする当麻に、御坂はそのまま説明を続けた。
本来ならフランス政府が対処すべきものなのであるが、特殊技術関連のエキスパートが必要だということで学園都市がかなり深く食い込んでいるとのことだ。
「……つかアンタ今どこにいるわけ? むしろこの情報が入ってこない場所を探す方が難しいんじゃないかしら」
ええとだな……と当麻が誤魔化そうとした時、彼は気が付く。
先ほどまで騒がしかった場所が、静まり返っていた。携帯電話から聞こえる御坂も声を無視して、五和と2人で耳を澄ませる。ゆっくりと前に進む。
得体のしれない緊張感に包まれた2人だが、その原因を知る前に変化があった。
ゴバッ! という破壊音と共に、当麻の右手にあった分厚い壁が破られたからだ。
「なっ!」
その壁から出てきたものは駆動鎧。当麻は自分に寄りかかってきたその重量に耐えきれず、そのまま倒れてしまう。五和は慌てて槍の穂先を駆動鎧に向けるが、それが完全に機能停止に追い込まれているのが分かり、その手が止まった。
さらには、周囲に駆動鎧が使っていたのであろう銃器やその弾丸が散らばっていた。
五和は当麻を庇うように前に出る。
「やられましたねー」
駆動鎧によって崩された壁の向こう。そこから1人の男が影を現した。『光の処刑』を使って、汗1つ書かずに学園都市製の駆動鎧を倒したテッラだ。
彼の言葉には、わずかな苛立ちがこもっているように思える。
「暴動を混乱で呑み込んでしまおうとするとは、学園都市はある程度国際的非難を受けてでもこいつをどうにかしたいようですねー」
彼の手には羊皮紙が握られていた。それを見た五和が、その正体を呟く。
「C文書……」
その霊装を使用していた他の術者ではなく、彼自身がそれを握っている。ということは。
「まったく、面倒な連中です」
彼はそう言った。
「私が蹴散らしている間に術者が攻撃されてしまう可能性は否めませんし……人間の術式を扱えないっていう私の『体質』も問題ですね。凡人の術者に足を引っ張られて……今回はこのあたりで引き上げておくのが得策というやつでしょうねー」
「黙っていかせると思うか」
当麻は両手を構える。
あらゆる魔術を打ち消す右手と。
物理攻撃を弾く左手を。
「C文書はバチカンに戻っても扱える。それを分かっていて、俺たちが行かせるとでも思っているのか?」
「だから何だと言うのです。このアビニョンに来た学園都市の舞台では私を止めることはできないんですねー。それとも、あなたの右手は彼らよりも優れているとでも?」
テッラは嘲るように言う。
しかし、当麻は言った。
「確かに、俺の力はあいつらに比べれば大したことがないかもしれない」
一度認め、だがよ、と続ける。
「それで諦める理由にはならねえよ。親友に、任せられちまっているんだ」
当麻は、贈り物をはめた左手を突き出した。その様子を隣で見ていた五和も、
テッラも、それに呼応するように白いギロチンを構える。
「存分に挑戦し、存分に諦めてください。こちらとしても、そういう展開の方が面白くて大好きなんでね」
その頃、アビニョンの上空9000メートルには11機の爆撃機が飛んでいた。
超音速ステルス爆撃機、HsB-02。
その内4機が、正方形を描くような軌道を取った。その機体には、機体の全長の半分ほどの長さもある漆黒のブレードが付いている。それは大気を時速7000キロオーバーで切り裂き、真空の刃を生み出していた。加えて、そこに砂鉄が投下される。
ゴバッ! と大地がアビニョンを取り囲むように正方形に切り裂かれた。
『
時速1万キロオーバーで投下されたことにより気体と化した砂鉄が、大地を切り裂いたのだ。
幅20メートル、深さ10メートル以上のオレンジ色の溝は、旧市街を外と完全に隔離させてしまう。電気や水道はおろか、ローヌ川の流れすら完全に断ち切られ、アビニョンの人間を完全に閉じ込めた。
まっすぐに飛ぶだけで、その純粋な速度でミサイルを振り切れる爆撃機は更に動く。
「作戦行動領域の隔離を確認!」
その機内でメンテナンス要員が声を上げるのを、学園都市最強の怪物は側で聞いていた。
次の攻撃目標はアビニョン旧市街内部らしい。駆動鎧を使っていた人間たちは、その技術を外に出さないように地殻破断によってできたマグマの溝を使って完全に焼き払い、得体のしれない技術を使ってマグマの皮を飛び越えるはずだ。最期には地中海沿岸に待機している潜水艦で脱出する手はずとなっている。
しかし、旧市街内部にまだ逃げ遅れている人間が数多く残っていることを知った
「変更だ。狙いは教皇庁宮殿だろ。先にそこを叩く。爆撃しても成果が出ねェよォなら俺が落ちる。その後に俺からの連絡がなかったら、予定通り旧市街を爆撃しろ」
「いえ、しかし……」
「変更だ」
言葉を遮ってそう告げた一方通行を見て、メンテナンス要員の背筋が強張った。彼がこの期待に乗っている理由を思い出したからだ。
この
彼は上層部の人間と無線で連絡を取る。『爆弾』が言った言葉の内容を伝え、作戦を仕切っている上層部の人間と掛け合うしかないからだ。何度も何度も言葉の応酬を繰り広げたのちに、メンテナンス要員は無線機を置いて静かに超能力者を見た。
「……し、申請は受理されました。作戦行動Bの予定を変更し、教皇庁宮殿への攻撃に集中します」
「それで良い」
上層部の柔軟すぎる対応に奇妙な表情をしているメンテナンス要員に向かって、一方通行は言う。
「一流の悪党ってのはな、カタギの命は狙わねェンだよ」