教皇庁宮殿のあるアビニョン旧市街は、古い城壁に囲まれた狭い都市である。その中に10メートル以上の高さの建物が次々と並んでおり、その間の狭い道を走ると異様な圧迫感を与えられた。
そして、今はその細い道が人の波によって塞がれている。これを突破しない限り、目的地にはたどり着けない。
「行くぞ」
すると、当麻も駿斗と同じことを考えていたようだ。
「そうだな。土御門の連絡や天草式との合流を待っている時間はなさそうだ。それよりも、連中がバチカンにC文書を持ち帰ってしまう可能性も否定できない。今は、C文書の破壊を最優先にするべきだ」
五和はわずかに逡巡したが、やがてゆっくりと頷いた。
彼らは満員電車のような暴徒たちの壁を見据える。
「……突っ込むときは中腰になって下さい」
五和が言った。
集団の中から顔が出ていると、ターゲットにされる恐れがあるとのことだ。
「よし」
異様な緊張を感じながら、当麻が言う。
「走るぞ」
その言葉と共に、彼らは自ら暴徒たちの中へと突き進んで行った。それと同時に、駿斗は
超能力なら魔術と異なり、近くに魔術師がいたとしても気が付くことはない。
掴んでくる手を、振り回される腕を弾き飛ばしながら、駿斗はその中を強引に突破した。
「当麻、五和、大丈夫か?」
「はい!」
先に返事をしたのは五和だった。しかし、彼女はこめかみから一筋の血を垂らしている。バッグの中には槍があるという話だったが、それを振り回す気にはならなかったのだろう。駿斗は黙って
「駿斗! 五和!」
その直後人並みの中から当麻が現れた。彼は血こそ流れていないが、足元が多少おぼつかないようだ。
「い、五和。教皇庁宮殿は?」
しかし、それでも次に進むために彼は話を聞いた。
「まだ先です。向こうの方に屋根が見えているのが宮殿ですから……つ、次はあれを越えなくちゃいけません」
五和が指さした方向を、2人はゆっくりと見た。そちらにあるのは、今さっき乗り越えたものとは比べ物にならないほどの大規模な暴動の渦があった。
教皇庁宮殿への道は険しすぎる。
駿斗はその気になれば建物の屋上を跳んでいくこともできるのだが、他の2人を移動させる手段までは持ち合わせていない。
暴徒が自分たちの方へと移動してきているのを確認した彼らは、一度近くにある集合住宅の中へと駆け込んだ。厚い木の扉を閉めると、ガンガンと衝撃が伝わってきた。道いっぱいに広がった暴徒たちの腕や肩が当たっているようだ。
当麻と駿斗は、背中を扉に預けたままずるずると床に腰を下ろした。
「……こんなのどうするんだよ。これじゃあ教皇庁宮殿なんて行けないぞ」
「たしかに、この暴動の中を進んで行くのは難しそうですね……」
彼女はそういうと、バッグの中から部品を取り出して
その様子を見ていた2人であったが、思わず顔を逸らす。ブラウスの前だけを適当に縛った五和の谷間が見えかけたせいだ。その服は色々と反則だろうと2人は思うのだが、当の本人は全く気が付く様子がない。
「どうしましょう。暴動は避けることを前提としていたので、実際にそこに巻き込まれたときの策や術式は持っていないんです」
「俺の方も、暴動を治められるような力は持っていないからなあ」
食蜂なら『エクステリア』を用いれば簡単なのだろうけれど、と駿斗は考えるが、彼に『エクステリア』は使用できない。
「暴動を治めるためには教皇庁宮殿へ行く必要があって、教皇庁宮殿へ行くには暴動を治める必要がある、か」
当麻が堂々巡りだな、と呟いた。
おまけに、敵が危機感を抱けばC文書をバチカンへと持ち帰ってしまう可能性がある。そのために、あまりゆっくりとしている余裕はない。
その時、駿斗のポケットから軽快な音楽が流れだした。
発信源である携帯電話を見ると、相手は土御門。
『はやとん、そっちは大丈夫か?』
「お前は今どこにいるんだよ! こっちは今暴動から退避するために近くにあった建物の中にいる。一緒にいるのは当麻以外に、天草式の五和だ」
『今は教皇庁宮殿って建物に向かっている最中。天草式と一緒にいるってことは、大体の事情は聴いているのかにゃー?』
「ああ。暴徒のせいで動けない。お前の方はどうなんだ」
『こっちも似たようなもんだにゃー。まあ、いろいろあった』
やはり、土御門も同じような状況になっているようだった。
そして、こちらから合流を、と駿斗は言うが、
『自然に起きている騒ぎならそれでもいいんだろうが、こいつはC文書によって意図的に引き起こされたもんだ』
ローマ正教の都合でいくらでも引き延ばせるため、ただ待つだけではどうにもならないという。
しかし、他にも手がある、と彼はあっさりと言った。
『逆転の発想ってやつだな』
教皇庁宮殿へ行けないなら、教皇庁宮殿へ行かずに問題を解決できる方法を使えばいい。
『――ってことで問題です。教皇庁宮殿が重要視されている理由はなんでしょう』
「バチカンにある施設を遠隔操作できるからだろ……ああ、そういうことか」
その質問に答えた駿斗は、土御門の言いたいことを理解した。
「アビニョンとバチカンを結んでいる術的なパイプラインを破壊する……それがやるべきことなんだろ?」
『ああ。それだけで連中はC文書を使えなくなるはずだ』
教皇庁宮殿へ近づけなくとも、その途中にあるパイプラインまでだったらまだ近づける可能性がある。
しかし、この方法にもやはりネックとなることが1つ。
「でも、C文書が使えなくなれば、教皇庁宮殿でそれを扱っている連中も気づくはずだぞ。そうなったら逃げられちまうかもしれない」
『そうだな。その可能性は否定できない』
したがって、パイプラインを遮断してから教皇庁宮殿へ向かうまでが勝負となる。
しかしそれに成功すれば、駿斗なら誰がC文書を使っているのかなど一目瞭然で分かるはずだ。
「地脈を利用した魔術を発動する霊装。それを持っている奴を倒せば、それでOKっと」
『ようやく活路が見えてきたな』
土御門の声が少し明るくなった気がした。
彼らは通話を切ると、集合住宅の中を通り抜けて裏口から外へ出る。
「五和の仲間……天草式の連中ってまだ来れないのか?」
「す、すみません。先ほど緊急連絡はしておいたのですが、明日の朝に合流できるかどうか」
五和たちはまさかこのような展開になるとは思わず、数日後に突入するつもりでいたためであろう。無理もない、と駿斗は思った。
「その、ツチミカドさんに指定された場所は分かりますけれど……本当にそこに教皇庁宮殿からバチカンに繋がるパイプラインがあるんですか?」
「土御門の術式はたしか陰陽系だったはずだ。それに関しては信頼していいと思う」
むしろ、その手に関しては彼を頼るのが一番手っ取り早いのではないだろうか。
『ま、地脈の読み方は文明によってだいぶ違うものだが、これに関しちゃほぼ間違いないぜい』
そのポイントは駿斗たちの近くにあるらしい。そのため、地脈を壊すのは五和がやれ、とのことだった。駿斗は地脈を利用することはできるものの、パイプラインの切断までできるかは分からないからだ。
「っていうか、俺の右手を使えば地脈だろうがパイプラインだろうが一発じゃねえの?」
当麻が自分の
確かに、駿斗もその方が早いとは思う。だが。
『かみやんの右手で本当に地脈が消えるのかは分からないな』
本当に地脈が消えるのであれば、当麻の右手が地面に触れた時点で地球が粉々になるだろう。人間の
何か奇妙な『例外』が存在する気がする――と土御門は言った。
『はやとんはどう思っているんだ』
「できるかもしれないが、無理な可能性も高いな。俺から言わせてもらえば、当麻の右手には対象が『異能の力』であること以外にも制限があるはずだ。今のところは、一度に打ち消すことができる許容量が存在するとしか分かっていない」
許容量――それは、
当麻は思わず自身の右手に目をやっていた。
(――例外、だって?)
そこにはどんな意味があるのか。
仕組みがあることに、何らかの意味があるのか。
それは駿斗の力にしても同じ事であった。
3人は小さな街の博物館に辿り着いた。博物館といっても、道の左右に聳える砦、あるいは城壁のような建物の一角が展示室のようになっているだけのものだ。
今は平日の昼間なのであるが、その正面玄関には金属格子のシャッターが下りていて恐らくは『閉館』と書かれているのであろう、フランス語の看板がノブにかかっていた。
「暴動を恐れて、早めに店じまいにしたみたいですね」
五和が言う。
「この中にあるのか。シャッターをバラバラに分解するという方法もあるが、天草式には鍵開けのスキルとかは――」
「えいや」
駿斗の言葉は五和の可愛らしい掛け声に遮られた。
彼女は槍の先端をシャッターと地面の隙間に差し込むと、てこの原理っぽく槍を動かして中の歯車を壊したのだった。
「さ、早く早く」
「ええと……五和さん?」
当麻はぎょっとした顔で小柄な少女の顔を眺める。駿斗にしても、予想外の方法に少しの間呆けていた。
館内は真っ暗だった。恐らくは、展示品を余計な光に当てないように窓を全て塞いであるのだろう。非常口を示す光以外のすべてが失われているため、足元が心もとない。
しかし、五和と駿斗は迷わずに足を進めていく。
「ここか」
「はい、そうですね」
当麻を置いて先行していた彼らは、一か所に集まる。そこは何の変哲もない床であったが、展示用のガラスのショーケースの配置を見ると、なぜかここだけ規則性が無視されていて、不自然に何もなかった。
「巧妙に隠蔽が施されてはいるが、ローマ正教式の術式だな。他宗教に対する一種の浄化作用を併せ持っている。西洋社会特有の『脈』ってやつだ」
「はい。では、これからパイプラインの切断に入りますから、ちょっと下がっていてくださいね」
パイプラインの切断は、つまり地脈を1つ切断することと同義だ。したがって『聖人』クラスの人間あるいは駿斗でもない限り完璧に切断することは不可能だが、利用ができなくなるくらいに傷をつけて方向をずらすくらいなら五和1人でもなんとかなるようだった。
天草式の少女はバッグを置くと、その中をゴソゴソと漁る。どうやら、術式に使う道具を選び出しているらしい。彼らは日常に埋もれている何気ない物や仕草、作法で魔術を発動するのだ。
「ええと、今必要なのは……カメラに、スリッパに、パンフレットに、ミネラルウォーターに白いパンツ―」
彼女は一度それを取り出してから、「ひゃあっ!?」と叫んで恐らくはさっき着替えた時に脱いだものであろう下着を慌ててバッグに戻した。
顔を真っ赤にしたまま、彼女の動きがピタリと止まる。
「……なんです」
ぼそりと、五和は口だけを動かして呟いた。
「この術式の構成に、どうしても必要なんです……」
彼女は希望を失ったような表情で淡々と魔方陣の構成を進めた。男2人は後ろを向こうかとも思ったのだが、「い、いえ。気にしないでください」と言われるとなんとなく後ろを振り向いてしまうのも悪い気がしてしまう。
そして、いざ準備が整ったところで。
「行きま「五和、後ろへ跳べ!」」
駿斗が、術式のために槍を地面に突き立てようとしていた彼女の目の前に立ちふさがった。その次の瞬間、壁を切り裂きながら白い刃が彼らに襲い掛かる。
「おおおっ!」
駿斗は既に取り出していた
その刃はいとも簡単に切り裂かれたが、緑色の服を着た男が手をかざすと、再びその掌に納まっていく。
「おやおや。まとめて3人も引っかかりましたか。2人だと思っていたのですが余計な虫が1匹いるようですねー」
痩せ細ったその男は言う。さらに、その後ろから3人の男たちが姿を現した。
「……ローマ正教か」
「間違いではありませんが、どうせなら『神の右席』と呼んでほしかったですねー」
『神の右席』。
9月30日に、学園都市の機能のほとんどを麻痺させたヴェントと肩を並べる者。
その言葉に当麻と五和が一気に警戒心を跳ね上げ、駿斗はやっぱりか、と呟いた。
「私の名前は『左方のテッラ』。後ろにいるのが『十二使徒』。ヨハネ、フィリポ、バルテルミ」
『十二使徒』。
『神の右席』に付き従う男たち。
「やっと私の出番が来たようです。何せ『
テッラは小麦粉を収束させ、その手にギロチンを生み出した。本来縄で吊るすべき場所を手で持っている。いや、正確には彼の手の動きに小麦粉の刃が連動しているのか。
処刑用の刃を無造作にぶら下げながら、楽しそうに笑うテッラ。後ろに控えている3人も、それぞれの武器――杯、十字架、ナイフを構える。
テッラは処刑用の刃をぶら下げてにっこりと笑う。
その直後、戦闘が始まった。
先に動いたのはローマ正教の4人だった。
テッラが
テッラがその刃を振るい、その斬撃が辺りに立ち込めている粉塵を切り裂く。
「おおおっ!」
当麻は反射的に右手を構えた。
建物が裂かれ、当麻の右側を境に風景が2つに裂かれた。
当麻の左には古い街並みがある。
しかし、当麻の右はすでに瓦礫の山となっていた。
「(あいつの攻撃は俺の右手でなんとかなるなら)五和!」
当麻は叫ぶと同時にテッラへと突っ込んだ。
一方で、テッラの方も彼の右手に注目したらしい。
「本来なら今の一撃で死んでいたはずですけれど。なるほど、それが
彼は不健康そうな目を細めながら感心したように言ったが、その直後ギロチンを振るった。
当麻がそれを右手で弾き飛ばし、その直後、ヒュッ、と五和が槍を構えてテッラに突撃した。
「ふん」
テッラのギロチンが五和に襲いかかる。しかし、彼女は足を止めずにその一撃を上半身を振るうようにして回避した。そして槍を構え、一度後ろに引いたそれをまっすぐに突き出す。
テッラはそれをギロチンで横に弾いた。返す刀で白い刃が五和を襲う。だが、彼女はそれを無理に受け止めようとはせず、斜め前に飛ぶようにして攻撃を避けながら前へと進む。そのまま槍を突き出そうとするが、回避行動によって生じた余計な時間のせいで、このままではテッラの攻撃が彼女よりも先を制する。
しかし、チカッ、とテッラの周囲に光の筋が現れた。それは彼をあらゆる角度から取り囲んでいる。
「すみません、と謝っておきます……」
五和はギリギリと音を立てて力をためていたそれを解放した。
「――七教七刃!」
空気を裂きながら、
しかし。
「――優先する」
テッラは表情を変えずにそう呟いた。そして、鋼糸は彼の体を切断せずにタコ糸のようにその体に絡みつくだけだった。
五和の表情が驚愕に染まる。
しかし、彼女とは対照的にテッラは、体に絡みついた蜘蛛の糸で裂くかのように腕を軽く振るうだけでその鋼糸を切り解いてみせた。
五和はすぐにその槍を前に突き出す。
「優先する。――外壁を下位に、人体を上位に」
テッラが一言を呟いた途端、彼の体は背後の壁の中へ吸い込まれるようにして消えて行った。まるで、その壁がただの立体映像であったのかと思わせるような動きだった。
「っ!」
しかし五和の槍の先端は壁に突き刺さり、彼女は手に伝わってきた衝撃に歯を食いしばった。
その直後。
「優先する。――外壁を下位に、刃の動きを上位に」
壁を突き抜けたギロチンが五和を襲う。彼女は地面を転がるようにして回避、髪の毛が数本切れて宙を舞った。
自らが壊した外壁の隙間を跨いだテッラが、地面に転がっている五和にギロチンを振り下ろした。このままでは彼女は回避が間に合わない。
「おおおっああ!」
当麻がその白い刃をギリギリのところで右手を使って吹き飛ばす。ギロチンは爆発するかのように周囲に白い粉となって舞った。
「優先する。―外壁を下位に、刃の動きを上位に」
しかし、テッラが再集結された白い刃を横合いの壁に無造作へ突き刺した。外壁はメロンほどの大きさの岩の塊に数十に分かれ、当麻へと向かって飛んできた。
「くっ!」
当麻は起き上がりかけた五和の腕をつかみ、左手に装着した硬化手袋で1つの岩を横へ受け流しながら彼女を引き寄せる。つい先ほどまで2人がいた場所が、簡単に建材によって潰されていた。
テッラはその様子を見ながら、余裕をもって彼らに近づいていく。
「
当麻は相手の一挙一動に警戒する。
あのヴェント――学園都市の機能をほぼ完全に麻痺させた彼女と肩を並べる男が、ただ刃物を使って攻撃してくるだけで終わるわけがないのだ。
(これが、『神の右席』……!)
「おやおや、どうしたのですか。まさか、後ろに下がっているだけで私に勝てるとは思っていませんよねー?もっと私を楽しませてください。これでは『調整』の参考にもならないのですが」
「くっ!」
当麻は五和と共に重たい体を引きずりながら、同時にテッラに向かって突っ込んだ。対するテッラは、再び言葉を口ずさむ。
「優先する。――槍の動きを下位に、空気を上位に」
五和の動きが、何か見えない壁に阻まれたかのようにガクンと落ちた。当麻はそれを横目に見ながら突撃する。
しかし、その拳が届くよりも早く、テッラの一撃は当麻の脇腹に吸い込まれて行った。
(まずい!)
ギロチンが当麻の体を横合いの壁に叩き付ける。
激痛が走る。
(……あれ?)
しかし、それ以上のことは何も起こらなかった。あの硬い壁をいとも簡単に切り裂いていた刃が、人間の体どころか当麻の制服すら切り裂かなかったのだ。
明らかに不自然な現象。それに対して怪訝な目を向ける当麻だが、そこで五和がぽつりとつぶやいた。
「『優先する』……」
そして、彼女は自分の槍の穂先についている白い粉に気が付く。
「……小麦粉?」
彼女はぎょっとしたように顔を強張らせる。
「まさか、その武器……『神の肉』に対応しているんじゃ……」
「へえ。東洋人でも分かりますか」
テッラは挑発するように告げた。
「ミサでは葡萄酒は『神の血』、パンは『神の肉』として扱われます。そしてミサのモデルとなったイベントは、言うまでもなく『十字架を使った「神の子」の処刑』ですよねー?」
だが、処刑の話には1つ矛盾がある……そう、本来ならば『神の子』を『人間』が殺すことはできないのだ。それは、身分階級表である『セフィロトの木』から考えても当然のことである。
「しかし、神話は時として『優先順位』を変更します。例えば『神の子』が世界人類の『原罪』を背負うために、本来の順位を無視して『ただの人間』にあっさりと殺されてしまったように」
『神の子』の神話を完成させるための秘儀……『優先順位の変更』。小麦粉を媒体とした刃物への任意変形はその副産物に過ぎない。
テッラは楽しげに解説した。
つまり。
『ワイヤー』よりも『テッラの体』が優先されたから、彼の体は傷1つ付かなかった。
『外壁』より『小麦粉の刃』が優先されたから、いとも容易く破壊された。
『槍の動き』より『空気』が優先されたから、その動きは阻害された。
「この私の前では強さ弱さなど関係ありません。そもそも、その順番を制御できるのですからねー」