当麻は美鈴を連れて扉を開けた。
「裏口か。とりあえず、人の多いところへ行こう」
駿斗が言う。だが、その瞬間彼は防御術式を展開した。
「誰か、そこにいるな?」
「何でだよ……」
その後ろの陰から、茶髪の男が姿を現した。
「何でこのタイミングでやってこれた。依頼そのものがダミーで、俺たちははめられたのか?」
その男は、右手に金属棒のような武器を持っていた。
「依頼だと?」
「駒場の野郎が殺されて、路地裏に対する制圧作戦を回避するには、奴らに取り入るしかねえと……くそ、最初から見捨てる腹だったのか!」
彼の言葉の意味を、2人は徐々に理解していった。
「お前は勘違いをしている」
防御術式を消して、駿斗は言った。
「俺たちは、この人から電話を受けてやってきただけだ」
当麻の言葉に、男の表情が変わる。
「つまり、あれか」
男が声を荒げる。
「この浜面仕上の人生が終わるっつうのに、巨大な陰謀に巻き込まれたとか、とんでもない策士がいたとか、そういう風に誤魔化すこともできないってのか!?」
浜面は伸縮式の特殊警棒を取り出した。
「甘い」
駿斗は、すぐにそれを塵にする。
右手から砂のように崩れていく警棒を見て、浜面は舌を鳴らした。
「くそ、能力者が……」
「当麻、俺は御坂さんを連れて行く。ここを頼めるか?」
この男には、2人でわざわざ勝負する必要がない。そう駿斗は判断した。
むしろ、当麻1人でも過剰なくらいだ、と。
「分かった。御坂さんを頼む」
「おう。という訳で、こっちに来てください」
駿斗は彼女の手を引きながら走り、片方の手で携帯電話を操作する。
(やっぱり警備員にはつながらないか。とすると、風紀委員、いや、初春さんあたりにでも頼んだ方がいいか?)
一方で、当麻は浜面と戦っていた。
自分の武器である警棒を失った浜面は、拳を振るう。
対し、当麻も『
「ってことは、あれだよな。お前が依頼主と無関係ってことは、まだ依頼は有効って訳だ。ターゲットの死体をもっていけば……」
「もう一度言ってみろ、テメエ!」
当麻は浜面の胸倉をつかむと、頭突きを喰らわせた後に右拳をお見舞いする。
「ふざけんなよ……人の命をなんだと思ってやがる!」
当麻の言葉に対し、浜面は鼻から血を流しながら叫んだ。
「仕方ねえだろ! 俺たち無能力者はこうでもしねえと生きていけねえんだ!」
始まりは自分たちのリーダーであった駒場利徳の死であった。
路地裏に対する制圧作戦のために、彼らスキルアウトは大きくその力を失った。だから、上層部に取り入ることにしたのだ。
そうしないと、この先を続けて行くことができないから。
だが。
「一緒にするんじゃねえよ」
その言葉を
「全ての無能力者を、テメエ見てえな野郎と一緒にするんじゃねえよ!」
その言葉で、浜面は気が付く。
先ほど御坂美鈴を連れて行った男は確かに能力を使用していた……だが、目の前のこの男はどうだ?
ここまで追って来たのは、その足だった。
仲間を倒していたのは、その拳だった。
「無能力者の人間なんざ、学園都市にはゴロゴロいる。だけど、そいつらも普通に学校に行って、普通に友達作って、普通に生活しているんだろ。そういうお前の方が、一番無能力者をバカにしているんじゃねえか!」
「テメエも、俺たちと同じ……」
「同じじゃねえよ」
当麻は即答する。
「確かに俺は無能力者だけどな……他人の足を引っ張って喜ぶほど、“マイナス”になった覚えはねえんだよ!」
「俺たちがマイナスだと……力を持っているのに何も与えてくれない、あんな連中に比べれば! 俺たちスキルアウトの方が、100倍マシだろうが!」
「じゃあお前は、助けを求めている人に手を差し伸べたのか」
その言葉に、浜面が虚を突かれたような表情になる。
「もしもスキルアウトを結成するだけの力を使って、もっと弱い立場の人を助けていたら、それだけでテメェらの立場は変わったんだ! 強大な能力者に反撃するだけの力を使って、困っている人に手を差し伸べていれば、テメェらは学園都市中の人たちから認められていたはずなんだよ!」
「黙れ!」
浜面がもう一度、特殊警棒を構える。
「そういう風に生きてきた駒場利徳って無能力者のリーダーは、殺された。場違いにも! 弱者を守ろうとしてな!」
「だがそいつには、テメエにはなかったものがあったはずだ!」
だが、上条当麻の言葉は止まらない。
「だから、逃げずに最期まで戦ったんじゃないのか。弱者なんて言わずに! 仲間を守るために!」
「ふざけるな! 俺たちと同じ無能力者のくせに、ろくな力も持っていないくせに、バカにしやがって!」
浜面が駆け出した。当麻は、右拳を握りしめる。
「お前たちがバカにされてきた理由は、力のあるなしなんかじゃねえ」
特殊警棒を振るう浜面に対し、当麻がやることはいつもと同じだ。
相手の幻想をぶち殺すために、全力で右拳を振るう。
「そんなつまんねえ幻想なんて、自分でどうにかしやがれ! このクソ野郎が!」
2人は交差し、そして片方の影だけが崩れ落ちた。
「実を言うとね」
救急車に乗せられた当麻を見ながら、美鈴が言う。
「私は、美琴ちゃんを連れもどしにきたの。でもまあ、安心したよ。君たちみたいな子が、美琴ちゃんを守ってくれるのなら、何も問題ないって話よ」
「……そうですか」
ふと、今までの
自分は、そこまで大層な人間なのだろうか、と。
救急車が発進したので、駿斗は病院へと歩き出した。
「そうだ、インデックスも連れて行かねえと」
一度寮に戻る必要がありそうだ、と駿斗は考え移動する。
「おーい、インデックスー」
当麻の部屋の扉を開けると、インデックスはスフィンクスを抱えながら部屋でテレビを見ていた。だが、駿斗が1人で入ってきたことに驚く。
「あ、はやと。あれ? とうまは?」
「いつもの病院。ちょっくら友人の母親を助けてきました」
その言葉に表情を変えたインデックスが、スフィンクスを抱えたまま部屋を飛び出そうとする。このままでは危ない、と駿斗は彼女を落ち着かせて(具体的には後ろから襟首を捕まえて)部屋を出た。
暗い夜道の中を、駿斗とインデックスは歩く。
その途中で、電話が鳴った。
駿斗がケータイを開くと、そのディスプレイには『絹旗最愛』の文字。
『もしかして、今日そちらで超面倒なことが起こりませんでした?』
知っていたのかよ、と駿斗は心の中でツッコんだ。
「ああ……えっとだな」
『心配しなくても、自分たちの部屋からかけているから御坂はいないぞ』
「そうか」
駿斗は、大人しく御坂美鈴を中心とした一連の騒動を説明する。
「……という訳でした」
『『御坂の母親が、ねえ……』』
駿斗からの説明を聞いて事情を理解した最愛と海鳥は、そう言った。
「とりあえずそのスキルアウトはぶっとばしておいたけれど」
『しかし、どうしてわざわざスキルアウトなんかに依頼したんだ?』
海鳥が疑問を発する。
「路地裏に対する制圧作戦を回避するためにやつらに取り入った、とか言っていたけどな」
『まあ、すでに暗部に所属している奴よりも安く利用できるのは超分かりますけれども』
最愛が話す。
『考えても分からない物はしょうがない、か』
「それよりも、また0930事件の二番煎じが起こらないように、今はローマ正教が何かしてこないかを考えた方が良い気がするからな」
そこまで話すと、病院が近づいてきたので駿斗は通話を切った。
「さて、いつもの『ふりだし』に戻った親友を……と、あれ?」
「あ、ひょうかだ!」
病院の1つ手前の交差点で、駿斗達は風斬氷華と遭遇した。
「あれ、2人……?」
彼らを見た風斬が、そんなことを呟いた。
インデックスはどちらかというと、駿斗よりも当麻と一緒にいることが多いからだろうか。
「当麻には、今から会いに行くとこだ。例によって面倒ごとに巻き込まれて入院したからな」
「それは大丈夫なの?」
風斬が心配そうに言う。
「大丈夫だと思うぞ」
だが、駿斗は言った。
「多分、明日には退院しているってオチだと思うから」
駿斗にとっては、親友の入院騒ぎは中学の頃から手慣れたものであるために、あまり危機感がなかったりする。(それもどうか、とは本人も思っているが)
そういうわけで。
「こんにちは」
「上条さんなら、いつもの部屋ですよ」
「ありがとうございます」
――というやりとりだけで、駿斗のお見舞いの受付は済んでしまったりするのだが。
最近では、インデックスもほとんど顔パスに近い状態になりつつあったりする。
「あまりうれしくない『慣れ』かも」
「
冥土返し。
どんな病気・負傷であっても最後まで患者を見捨てず、あらゆる手段を用いて治療してしまうという。
噂によれば、現在まで行った全手術を成功させている上に、彼自身は寿命すら克服してしまったらしいとのこと。
例の病室の前にたどり着き、インデックスがその扉を開ける。
「とうま!」
入院着を着て頭に包帯を巻いた少年を確認すると、彼らは部屋の中に入った。
始まりは例によって、インデックスのお説教である。
「もう、また駿斗と出かけて大けがするなんて、相変わらず2人の行動は訳が分からないんだよ!」
「あ、今回はまだ運がよかったほう……」
言い訳を始めた言いかけた当麻だが、インデックスの纏うオーラが黒くなったのを見て顔を引きつらせる。
シスターの口が大きく開かれた。
「はいはい、落ち着けってインデックス」
駿斗が彼女を拘束し、当麻は何とかかみつき地獄を逃れることに成功する。
「しかし、上層部からそういった命令が出ているとすると、どうするつもりだろうな」
この街は、このまま戦争に向けて準備を進めていくのだろうか。
「戦争か……土御門も今日言っていたけれど、あまり実感がわかないんだよな。それとも、また9月30日のような事件が起きるっていうのか?」
深刻な顔をした当麻が言う。
「どうだろうな」
駿斗はあごに手を当てた。
「世界史の教科書などを見る限り……過去の戦争においては、その引き金は様々だ。第一次世界大戦ではオーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者の夫妻が銃撃されたことがきっかけだったし、第二次世界大戦では世界恐慌の結果、ファシズムが台頭したドイツがポーランドへ侵攻したことが始まりだったと思う」
だけど。
「今の世界情勢……それは、今のところ学園都市&イギリス清教VSローマ正教という構図になっているということだ。だが、今のところは2つの勢力に大きな隔たりがある」
「大きな隔たり? ローマ正教っていうのは、信徒に20億人をかかえているんだろ?」
駿斗の言葉に当麻が疑問を呈した。だが、彼は言葉を続ける。
「だが、それらは全て宗教であり、魔術サイドなんだよ。たしかに魔術は強力だが、学園都市の驚異的な科学はそれに対抗し、そして打ち勝つ可能性すら秘めているからな」
さらに、魔術は必ず人間が使用をしなければならないのに対し、科学は一度兵器を作ってしまえばある程度自動操縦で活用することもできるというメリットも存在する。
それに、魔術は基本的に表に出てはならない物だ。その辺りにも制限という物は存在するだろう。
「まあ、今はニュースを見て世界情勢をチェックしておくことが、俺たちにできることだろうな……」
少年のつぶやきが病室に霧散する。
争いが迫っていることは分かっている。
しかし、彼らは必ず後手に回ってしまうのだった。
暗部もまた、次なる戦争に向けて動く。
スキルアウトの撤退を確認した一方通行は、現代的なデザインの杖をつきながら路地裏を歩いていた。
だが、十字路の手前で急に立ち止まると、言葉を発する。
「……上に言われて、俺に罰則でも与えに来たのか?」
その言葉に応じるように、横から土御門、海原、結標の3人が姿を現した。
「まさか」
土御門が言う。
「御坂美鈴の件について、娘を学園都市から連れ出そうという気は失せたらしい。なので、殺害は中止」
「上がそンな曖昧な結論で認めるのかァ?」
一方通行が疑問を発したが、土御門は海原の方へと視線をやった。
「認めるだろうさ。主に、海原のバカが1人で頑張ったからな」
海原は柔和な笑みを浮かべた。
「いやあ、あの少年にはこちらの思い人とその周りの世界を守ってもらうという約束を、守っていただけているようですし。自分も頑張らないといけないなー、と思いまして。少しだけ、肩に力が入りすぎてしまったのですよ」
「……さっきからずっとこの調子で具体的な回答を控えているのよ。恐らく、よほど醜い手を使ったのでしょうね」
結標が呆れたように言った。
「とにかく、残業も含めて初陣お疲れさま」
土御門が言うと、一方通行は「クソッタレが」と吐き捨てるように言った。
「ルールに従っているだけじゃ、奴らは出し抜けない」
土御門が話す。
「普通の方法じゃ、ダメってことさ。上にとってお前は、よほど貴重な物らしいからな。手を結ぼうぜ、一方通行」
「面白ェ。ただし、お前らが足を引っ張るなら、容赦なく切り捨てる」
その言葉に、土御門は笑った。
「威勢の良い小僧だ。ついてこい。そろそろ、上の連中に反撃しようぜ」
土御門を先頭にして、結標、海原も歩き出した。その後に、一方通行も続く。
(楽しいねェ。目的があるっていうのは、本当に楽しい)
初陣を終えた彼ら『グループ』は、本当の目的に向けて動き出す。
そして、それは彼らだけでなく、他の暗部もまた同じだ。
夜。学園都市の外周にある、壁からあまり離れていない場所。そこの暗闇を、一筋の閃光が切り裂いた。
「ブ・チ・コ・ロ・シ確定だ、クソ野郎-!」
通常、『粒子』あるいは『波』の状態をしている電子を、その2つのどちらにも属さない『曖昧な状態』で固定、高速で射出する第4位の
その能力を所有しているのがこの暗部組織『アイテム』のリーダー、麦野沈利であった。
「むぎの、あの扉の向こうにも1人」
そう言った少女は滝壺理后。
学園都市内では希少なAIM拡散力場に関わる能力、
「りょーかい」
麦野は扉を気にすることなく、原子崩しで打ち抜いた。
『曖昧な状態』となった電子は本来、その場に『留まる』性質を持つ。しかし、彼女はそれを無理矢理高速で移動させることにより、擬似的な『壁』となった電子を相手に叩きつけることができるのだ。
その破壊力は
科学的な正式分類名は『粒機波形高速砲』。
扉ごと切り抜かれた先には、1つの肉塊と1人の男がいた。
「侵入者はっけーん! 結局、私達の手にかかればこんなものって訳よ」
「残念でした、ってことで」
そこに金髪にベレー帽をかぶった少女、フレンダと、ジーンズにパーカーという非常にラフな格好をしたサイドポニーの黒髪の少女、
フレンダが手に爆弾を持っているのに対し、霧丘という少女が持っているのは、刃渡りが15センチほどのナイフだった。
正確には、ナイフはその右手にだけ握られているのではない。その前方にも6本が浮いていた。
「ば、化け物……」
「そんな言葉、今更なんですけれど」
侵入者の男が言葉を発するが、霧丘はさも当然といったように受け流してしまう。
「く、くそ!」
男は彼女に向けて銃を向ける。
彼女の前に浮いているナイフが3本落ち、だがそのナイフが向けられるよりも早く引き金が引かれた。
しかし。
「ば、馬鹿な! ハンマーが」
拳銃に取り付けられているハンマーはそのままであった。
「さようなら」
彼女が男に向かって突進すると、浮いていたナイフが彼女の動きにシンクロするように男に突き刺さり、そして彼女の手に握られていたナイフの刃が男の首を切る。
「あら、アンタも少しは慣れた? 霧丘」
麦野は霧丘に向かって声をかける。
「まあ、少しは」
「霧丘はもう少し話すことが多くても良いと思う訳よ」
フレンダが話に加わる。
「絹旗がいなくなって、あのうるさいC級映画の話も……ヒィ!」
フレンダが途中で言葉を止めた。
その視線の先には、いかにも「不機嫌です」と言わんばかりの表情をした麦野がいる。
「ふーれんだぁー? あのクソ処女野郎の話はやめようってこの間言ったばかりじゃなかったかにゃーん?」
「ゆ、許してほしい訳よ、麦野」
その表情に、冷や汗を全身から流しながら後ずさりをするフレンダ。
「待って、麦野」
彼女が振り上げようとしたその手が、突然不自然に停止する。
「全く、やっかいな能力ね。その
「たいしたこと、ない。私は、『不適合者』だから」
『不適合者』――それが、彼女がかつて研究者に押された烙印だった。他でもない、かつてこの『アイテム』に所属していた少女が巻き込まれていた『暗闇の五月計画』――その計画に参加すらせずに切り捨てられた少女に。
「ま、使えるなら別に良いわ」
麦野は気軽に言う。
この少女が『アイテム』に所属することになったのは、つい最近のことだ。8月の中旬に抜け出したかつてのメンバー、絹旗最愛に変わり、『上』が用意した人員であった。
「使える人間、じゃなきゃ。そもそも、下部組織に配属される」
「ご名答、霧丘」
麦野は合図をして、そして彼女たちは撤退を始めた。
今日の『仕事』が終わったのだ。
「はー、今日も今まで通り、か」
「霧丘が来たから少し変化があるかと思ったら、結局今まで通りの依頼だったって訳よ」
麦野の言葉に、フレンダが苦笑いで返す。
「南西から信号が来てる……」
車内ではそんなことを呟いて、滝壺はひたすらぼーっとしていた。その様子を見た霧丘が言った。
「そういえば、滝壺さんって。『体晶』、を使用しているんだっけ」
「そう」
彼女の言葉に、滝壺は簡潔に答えた。
「どう?」
「別に」
それだけで会話は終了し、霧丘と滝壺の2人はそれ以上何もしゃべらなかった。
麦野は思索にふける。
(あの時から1ヶ月半か)
あの時――第4位の彼女が1人の少年に敗れ、そしてメンバーであった少女が、『裏』から『表』へと返されてから1ヶ月半。
それだけの時間が経った。
(絹旗のやつは『表』で暮らせているのか?)
あの男に連れられるように『アイテム』から姿を消した絹旗――だが、その後に来たのは「絹旗最愛を『アイテム』の正規メンバーから除外する」というものだった。
本来なら暗部から、そして現実世界からも『クビ』になっていなければおかしい状況。
だが、彼女がまだ生存しており『表』の学生として常盤台中学に編入したことを『アイテム』はつかんでいた。
(あの男には、それだけの価値があるってことか)
麦野はあのときの少年を思い出す。
様々な能力を使い、1人の少女を救い出していったヒーローのような彼を。
「じゃあ、今日はこんなところで終わりかしら」
彼女たちはワゴン車に乗り込む。
しばらくは適当に話をして時間のつぶしていたが、そこへ通信が入った。
『連絡があるからさー。黙って聞いといてね』
「連絡だと? どうした、メンバーの補充なら間に合っている」
電話の先の女の声に、麦野は面倒くさそうに返す。
『そうじゃなくてさー、下っ端の方。どうでもいい仕事をスキルアウトの奴に依頼したらさー、失敗しやがってさ、こいつときたら。そのリーダー格の男をあんたらの下働きとして入れることが決定したから』
その言葉を聞いて、麦野はつまらなそうな表情を浮かべた。
「使えない奴はいらないんだけど」
『決定したことだから、文句言わないでよね。こいつときたら。じゃ、よろしくー』
通話が切られてしまったので、麦野はメンバーに一言伝えた。
「下っ端が増えるってさ」