とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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9月30日。学園都市に、衣替えの季節がやってきた。

御坂美琴は、上条当麻との罰ゲームに心を躍らせ、待ち構える。

一方通行は、平穏な日々を慌ただしく過ごす。

神谷駿斗は、幼馴染や友人に囲まれながら、これからの戦いに思いを巡らせる。

そんな中、ローマ正教はついに上条当麻及び神谷駿斗の2名を公式に『敵』と断定。学園都市へと刺客を放つ――――


〇九三〇事件編 Imaginary_District
始まりの日の朝


 約1か月前に終わった夏休みに1人の少年は、2人の少年と2人の少女に、その目標を阻まれた。

 

 そして、その結果9989人の『死亡する予定だった』クローンの少女たちは研究者たちの当初の予定を裏切って、生き残ることとなった。

 

 そして、『彼女たちの10032人の姉を殺し、そして生き残っていた彼女たちをも殺すはずだった』その少年は、夏休みの終わりの8月31日に、彼女たちの『末っ子』を死の崖っぷちから引きずりあげた。その行動の代償に脳に障害を負い、彼の言語能力と演算能力を失うという形で。

 

 そして、ある医者や学園都市の協力機関に派遣されその先で短命な肉体に『調整』を施すことで、彼女たちは今の所は生き永らえ、その彼女たちのサポートを受けつつも彼は末っ子の世話をしながら、以前とは異なる平和な日常を――例えそれが一時的なものであったとしても――送ることとなった。

 

 しかし、それは本当に全て真実だったのだろうか。

 

 もしも、この都市の全てを管理しきるほどの権限と頭脳を持っている人間がいたとすれば、人間の心境を読み取り、人物像を読み取り、人々の動きを誘導することくらい、訳はないのかもしれない。

 

 これは、神谷駿斗がそんな恐ろしい考えに気付く物語。

 

 

 

 

 

「見てみて! ミサカが入院してた間に、皆の服装が変わっているーって、ミサカはミサカははわあっ!?」

 

 車の窓から外を眺めていた少女打ち止め(ラストオーダー)を、白と灰色を基調とした服装をしている少年、一方通行(アクセラレータ)は、彼女の襟をつかむと後部座席の上に雑に倒す。

 

「テメエの服装は涼しすぎるンだよ。つーか病み上がり早々、病人の膝の上に乗っかって外を見てンじゃねェぞクソガキ」

 

 そう言う一方通行に、空色のキャミソールに男物のワイシャツを羽織っている打ち止めは起き上がるとかん高い声で文句を叫ぶ。

 

「ひどい! 病み上がりなのはミサカも同じなのにって、ミサカはミサカは」

「はいはい、そこまでよ。心温まる喧嘩は、新しい滞在先に着いてからにして頂戴ね」

 

 そこに、乗用車を運転していた女性が割って入った。

 

 彼女の名は芳川桔梗。

 

 遺伝子方面を専門とする研究者であり、かつてはその腕を買われて『絶対能力進化実験(レベル6シフト)』と呼ばれる『実験』に参加していた経緯がある。

 

 しかし現在は絶対能力進化実験の完全なる中止に伴い、現在は研究職を終われ無職に近い状態となってしまった。研究所を1つ潰してしまうという失態は研究者としてあまりに大きいものであり、もう研究者としては生きていけないためか、現在は旧友である高校体育教師(兼警備員(アンチスキル))の黄泉川愛穂と一緒に職を探している最中である。

 

「で、その『滞在先』ってのはどこなンだ」

「私の知り合いよ。君、今の学校はもうやめてしまうのでしょう?」

絶対能力(レベル6)なンてものに関わるのは、もうごめんだからなァ」

 

 そして、彼らは出会った。

 

「何だこれは……」

 

 一方通行は『彼女』の姿を見るなり驚愕の表情を露わにする。その彼に付き添う打ち止めは、彼の服の裾をつかんでいた。

 

「おいおい、どうした人の顔を見るなり固まって。もしかして、もう私の顔を忘れちゃったじゃん?」

「お前のことじゃねェ」

 

 彼は黄泉川の言葉に不機嫌そうに返すと、その杖の先で『彼女』の顔を指した。

 

「俺が言ってンのは、この説明不能の生き物のことだァ!」

 

 どこからどう見ても小学生にしか見えない容姿を持つ『教師』の顔を。

 

「説明不能とはなんですか!? こう見えても、私は先生なのですよー」

 

 その言葉を聞いているのかいないのか、杖の先を降ろした一方通行はチッ、と舌を鳴らす。

 

「細胞の老化現象を抑える『二五〇年法』は、もう完成していたのかァ!?」

「そ、そうではなくてですね……」

「可哀想に。きっと実験ばかりで、このままずっと自由時間とかもないんだって、ミサカはミサカはそっとハンカチを目に当ててみたり」

「先生の話を聞いてくださいですー!」

 

 小萌が叫ぶ。すると、その様子を見ていた黄泉川は笑って言った。

 

「いやあ、掴みはもう完璧そうじゃん」

 

 彼女は車を動かすために、キーを取り出しながら歩いて行く。その背中に、一方通行が訊いた。

 

「良いのか、この俺を居候なンかさせて」

「ノープロブレム。部屋は余っているし何も」

「そうじゃねェ」

 

 一方通行が訊いているのは、そういった“一般的な心配事”ではない。

 

「俺を匿うってのは、学園都市の醜いクソ暗部を丸ごと相手にするってことだ」

 

 彼は最強の超能力者(レベル5)だ。例え能力に制限が設けられてしまった今となっても、その事実は変わらない。

 

 彼からもたらされる『利益』を巡って、『闇』の連中が彼に何かを仕掛けてくる可能性は十分に考えられる。

 

 しかし、彼女の答えは一方通行の予想の斜め上を行った。

 

「だからこそ、じゃんよ。私の職業を忘れたか? 警備員の自宅をバカ正直に襲撃する人間は少ないと思うけどね」

 

 彼のせいで死ぬようなことになっても、彼女は文句を言わない。

 

 自分の名前が『連中』のリストに登録されたなら、その『連中』を更生させるのが彼女の仕事なのだ。

 

「にしても、良かったよ。あんた、聞いていたよりもずっと助けるのが簡単そうだ」

 

 黄泉川は、彼に背を向けてまま言った。

 

「……本気で言ってンのか」

「だってそうじゃんよ。なんだかんだ言って、家主の心配をしている。……それってつまり、私たちを守る気満々なんでしょ?」

「チッ。だからこの手のバカは始末に負えねェンだ」

 

 その言葉を聞いた打ち止めが嬉しそうに一方通行に駆け寄った。その一方通行にしても、忌々しそうに言ったがそれでも「お前らを守るつもりはない」などとは言わない。

 

 それは、8月31日に打ち止めを助けたことによって彼に起きた、心境の変化なのか。

 

 だがそんなやりとりをしていたその時、予期せぬ相手が現れた。

 

「……一方通行」

「御坂妹に聞いた話は、超事実だったようですね」

 

 その場に現れたのは、真新しい常盤台中学の冬服に身を包んだ2人の少女だった。

 

「テメエらは……」

 

 その顔を怪訝そうな顔で見つめた一方通行に最愛は近づくと、他の人間には聞こえないように小さな声で耳打ちする。

 

「『暗闇の五月計画』といえば、分かるんじゃないですか?」

 

 その言葉を聞いて、一方通行は顔をしかめる。

 

「何の用だ」

「何の用だ、じゃねえだろ。お前が今妹達(シスターズ)の個体の世話をしているということ。それが、どれほど私たちにとって驚きだったか分かって言っているのか?」

 

 不機嫌そうな一方通行に対して、平然と答える黒夜。並大抵の人ならビビッて逃げ出してしまいそうな状況だが、『攻撃性』を植え付けられ、1か月半ほど前まで『闇』の中で生きてきた彼女にはその威圧は通用しない。

 

「まあ、様子見ですよ。一応ですが超大丈夫そうなので、とりあえずは安心、といったところでしょうか」

「……フン」

 

 そう言って、一方通行は打ち止めを連れてマンションの中に入っていく。その後をついて行こうとした芳川だったが、ふと思いついたように彼女たちの方へ振り返ると言った。

 

「2人とも『あの子たち』を助けてくれて、ありがとう」

 

 あの子たち。

 

 2人とも、8月31日のことは聞いていた。そして、布束と同じように研究者であった彼女が妹達(シスターズ)を救おうとしていたことも。

 

「じゃあ、これからはあなたが『親』として面倒を見てやってくださいよ」

「以下同文だな」

 

 そう言って、彼女たちは離れていく。

 

 その様子を、事情を知っている一方通行と彼(と打ち止め、というかミサカネットワーク)から聞いている芳川は様々な思いを巡らせながら見つめ、何も知らない小萌と黄泉川は頭に疑問符を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 9月30日。打ち止めが気づいていたように、この日は学園都市の全学校が、衣替えのために午前中授業であった。

 

 全人口の8割を学生が占めるこの街では、『衣替え』というのは都市全体において大きな行事となるためである。今日行うのは新調した冬服の受け渡しだけなのだが、業者で制服の受け渡しをする学生と、それに合わせてスーツを変える教師やサラリーマンなども含めると、服飾業界は大忙しになるのだ。

 

 また、新しい服を『慣らす』ために、この日から冬服を身にまとうのも風習の1つとなっている。

 

 そして、とある高校に通う上条当麻と神谷駿斗もまた、この日から白いワイシャツ姿から詰襟へと姿を変えていた。

 

「……出会いが欲しい」

 

 休み時間、廊下で当麻がそう呟いた瞬間、その頬に両サイドから拳が入った。

 

「うにゃあ!? 何するんですかー!?」

 

 当麻がそう言うと、

 

「いやあ、かみやんが言うと嫌味にしか聞こえないんだぜよ」

「その言葉を引き金にして、そこらじゅうからけったいな女子(おなご)が出てきそうやもんなあ。ああ、そうや。かみやんとはやとんなら、超電脳ロボット少女から泉の聖霊風お嬢様まで、なんでもどうにかなってしまうんや!」

 

 デルタフォース(当麻、土御門、青ピの3人組の通称、命名吹寄)が騒ぎ出すのを横目に、駿斗ははあ、とため息をつく。その時、彼の携帯電話にメールの着信があった。

 

 折り畳み式のそれを開いてみると、差出人は佐天涙子。

 

 内容は簡単に言えば、「他のみんなも誘って一緒に出掛けませんか」とのこと。最愛と海鳥も来るようなのだが、駿斗は疑問に思った。

 

 こういったことなら大抵最愛か海鳥のどちらかが彼に連絡するのだが。

 

 実は佐天がこのメールを送信したわけではなく、恋愛関連の話で盛り上がっていた彼女の友人たちが勝手に佐天のケータイを使ってメールを送信しただけであるのだが、駿斗はそんな事とはつゆ知らず。

 

 恥ずかしさのあまり慌てて最愛と海鳥にメールを送ったことを、佐天は後で後悔することになる。

 

 そんな事情を察することもないまま、駿斗は二つ返事でそれを承諾した旨をメールで送る。

 

 最愛に海鳥、佐天と初春、御坂に白井、食蜂……俺は年下だけなら女子との出会いに恵まれているのかもしれないなあ、などと考えつつそのメールを送信する。そして、彼が教室の方を見るとデルタフォースが健康オタク少女・吹寄制理に拳と頭突き(通称おでこデラックス)で倒されているところであった。

 

 駿斗は知らないが、原因としては彼らが「揉ませて、吹寄!」などと言って彼女に突進していったためである。……“揉む”という言葉の前に、“肩を”という言葉を入れなかった当麻に、大半の原因があるのだが。

 

 その時、次の授業のために小萌先生が教室へと入ってきた。

 

「さあ、皆さん。次は先生の化学の授業なのですよ……ふええ!? このクラスが、一転してルール無用の不良のバトル空間っぽくなっているです!?」

 

 床に倒れたまま頬を姫神秋沙につつかれている当麻を見下ろしながら、仁王立ちしている吹寄は堂々と言い放った。

 

「世界の平和のためです!」

 

 ……とまあ、そんなことがあり、波乱万丈の大覇星祭、そしてイタリア旅行から平和な日常へと戻ってきたことを噛みしめつつ、騒がしくも穏やかな生活を送っていた当麻だったのだが、その放課後に御坂美琴に見つかった。

 

「いたいたいやがったわね、アンタ!」

 

 お嬢様学校である名門常盤台中学のエースとは思えない口調で、御坂は当麻に迫る。それに対し、当麻は彼女を一瞥すると明後日の方向を見つめながら呟いた。

 

「はぁ……まあ、あれだ。不幸だー」

「人の顔を見てその反応は何なのよ!?」

 

 寝言でルームメイト(白井黒子)の安眠を妨害するほどに(声が大きくて煩かったという意味ではない)楽しみにしていたにもかかわらず、相手にすっとぼけようとされたことに対して声を荒げる御坂。

 

「で、何か俺に用でもあるのか、ビリビリ」

 

 ビリビリ、というのは当麻が彼女と出会ったばかりのころ、会うたびに雷撃の槍を放っていたことからついた呼び名である。

 

 しかし、そんな当麻の様子に対して、御坂は腰に手を当てた格好をすると挑発的な態度で言った。

 

「今のアンタにそんな態度をとる権利があるのかしら?」

「はあ?」

 

 言葉の意味が分からずに、彼女に聞き返す当麻。すると、御坂はビシィ、と当麻の顔をまっすぐに指さして、言った。

 

「罰ゲームよん♪」

 

 罰ゲーム、というのは、大覇星祭において彼らが交わした『大覇星祭で負けた方が何でも1つ言うことを聞く』というものである。

 

 そしてその大覇星祭の結果はというと、こんな無能力者(レベル0)が大半を占めている一般校がエリートの集まりである常盤台にかなうはずもなく、頼みの同じ白組にいる他の学校の努力もむなしく、今年は常盤台に優勝を持っていかれることとなってしまったのだ。

 

 そんなわけで、御坂には当麻に何でも1つ命令ができることとなったのだが……。

 

「あれ? あれってまだ有効だったっけ?」

「勝手に水に流しているんじゃないわよ! とにかく、本当に何でも言うことを聞いてもらうんだから。もっとも、アンタみたいな凡人にできることなんてたかが知れてるんだろうけど。まあ、その辺は? せいぜい頑張ってみたらー……?」

 

 余裕の表情を見せながら話し出した御坂であったが、言葉が進むにつれて彼の表情が変わっていくことに気が付いた。

 

「分かったよ」

 

 ひょっとして怒ったのか、と一瞬考えた御坂だったが、その言葉にパアッ、と顔を輝かせる。

 

 訳は分からないがとりあえず、彼とこれから一緒に過ごすことができる。そう安堵しかけた御坂であったが、彼女はその後の彼の行動を予測することができなかった。

 

「よろしい!!」

 

 当麻はガバッ、と顔を上げるとカバンを地面に置き、拳を握りしめて声高く宣言した。

 

「ならばこの愛玩奴隷上条当麻に何なりとお申しつけるが良い!!」

 

 な……? と一瞬思考が停止する御坂。

 

 しかし、その間に当麻はカバンから下敷きを取り出して、彼女の前に跪くとそのまま下から下敷きで御坂を仰ぎ始める。風でスカートがめくり上がりそうになるのを御坂は慌てて手で押さえているのだが、そのことに当麻は気が付いていない。

 

 そして、ただでさえカオスなその状況に更に別の人間が加わってしまう。

 

「お姉さま……」

「「御坂……?」」

 

 そこにいたのは黒いオーラを纏った、最近車椅子から解放された後輩にしてルームメイトである白井黒子。そして、その同級生で友人である絹旗最愛と黒夜海鳥であった。

 

「ま、まあ趣味は人それぞれだからな……。私は御坂の趣味に口出しはしないぞ?」

「ま、まあ私も超関わるつもりはありませんし……いや、むしろ超何も知りたくありませんが」

 

 最愛と海鳥にあらぬ誤解を受けている御坂。

 

(な、なんという直球服従姿勢! この類人猿、只者ではありませんの!?)

 

 そして、自身も下敷きで彼女を仰ぎ始める白井。

 

「いや、ちょ、誤解だから! 誤解だからいい加減下敷きで仰ぐのをやめなさい! 私はどこぞの教祖なのかー!?」

 

 最愛と海鳥の生暖かい視線を受けながら、混乱して叫ぶ御坂。

 

 だがその後「セブンスミストにきっかり13時に来なさい!」と約束を(一方的ではあるが)取り付けたという点は、しっかりしているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 今日は午前授業であり、駿斗も当麻も、自分の弁当もインデックスの食事も用意していない。

 

 というわけで、2人とも寮に戻って昼食を取ることになったのだが。

 

「今日もそうめん」

「やだ!」

 

 当麻の言葉に、インデックスは両手に白い棒のような乾いた状態のそうめんが束ねられているものを持って、それを振り回しながら叫ぶ。

 

「これって何!? 食という文化を応用した体内調整魔術の一種なの!?」

 

 もちろん、そんな訳ではない。

 

「たまたま貰い物が重なっただけだって、言っているだろ!」

 

 当麻が叫ぶ。

 

 始まりは、「さすがにインデックスにも、そうめんを茹でるくらいはできるはずだ」と安売りをしていたそうめんを駿斗と当麻の2人で大量購入したことだった。

 

 しかしそのタイミングで、学園都市の『外』で生活している当麻の両親から『福引きでたくさんもらっちゃってさ』と、大量のそうめんの箱が学生寮の部屋に届けられてしまった。

 

 インデックスの食事代が浮くことは2人にとってもうれしいことなのだが、さすがに毎日のように食べていれば飽きる。

 

 しかし、賞味期限までにはまだ十分な月日があるものの、さすがにある程度は減らしておかなければ来年の初夏あたりがやばいことになるので、このあたりで食べておくに越したことはない。

 

 そのため、当麻は駿斗とも協力して新しい食べ方を模索しつつそうめんを消費する毎日だったのだ。

 

 しかし、サラダ風、パスタ風、うどん風……と頑張ってみたものの、さすがに男子高校生の料理では限界というものがある。

 

 どうするべきか、と駿斗が新たな手法を模索し始めた時、当麻の部屋のインターフォンが鳴らされた。

 

「うふふふふー」

 

 出てきたのは、ものすごく上機嫌な土御門舞夏であった。

 

「どうしたんだ?」

「この幸せをおすそ分けしたいのだー!」

 

 頭に疑問符を浮かべる3人に、土御門はそのメイド服の袖口を見せつける。

 

「これだよ、これ!」

 

 その白い袖口は先が折りたたまれ、そこには薄く花の模様が付けられていた。どうやら、自分のメイド服に改造を施したらしい。

 

「メイドってのは、基本的に目立っちゃダメだからなー。こうしてこっそり個性を出しているんだぞー。今の私はとーっても気分が良いから、ちょっとしたお願いくらいは聞いてやってもよろしいー」

 

 突然の来訪に驚いていた駿斗たちであったが、その言葉に顔を輝かせる。

 

 そして、3人一斉に言った。

 

「「「そうめんの新しい食べ方が知りたい!」」」

 

 

 

 

 

「という訳で、旅行帰りから話していた物が出来上がったぞ、当麻」

 

 昼食を終え、御坂との約束のために出かけようとした当麻に対して、駿斗は1つの物を手渡す。

 

「ああ、あれか……」

 

 当麻は駿斗の方へ振り返ると、少し複雑そうな表情でその『手袋』を受け取り、自分の制服のポケットへと入れた。

 

 ためらう気持ちは分からなくもない、と駿斗は思う。なぜなら、『それ』は便利な『道具』であると同時に、『武器』なのだから。

 

 『硬化手袋(フリックグローブ)』。

 

 一切『異能の力』を用いることのできず、だがそれらを打ち消すことのできる当麻のため、これからの戦いのことを危惧した駿斗が用意した、当麻専用の武器。

 

 特に重量が重いわけではないが、左手だけに用意されたそれは、手の甲と手首にマジックテープで巻きつけるベルトの部分が非常に硬い。その『手袋』全体において学園都市製の防弾・防刃繊維が使用されているというだけでなく、その部分には薄く小さな特殊合金の板があてはめられているからだ。

 

 当麻の右手は異能の力に対しては有効だが、それが関わらない普通の物理攻撃に対しては全く意味を持たない。だから、その弱点を補うためのもの。野球でバッターが使用しているようなバッティンググローブのような見た目は裏腹に、あらゆる凶器に耐える『硬さ』を持つ手袋(グローブ)だ。

 

 また、それ以外にも先端に小さなかぎづめをつけられた、細いが極めて丈夫な鋼糸(ワイヤー)を圧縮ガスによって射出する機構なども存在する。何かしらの原因によって落下する際に、少しでも手助けになればと思って用意したものだ。

 

 異能の力に対抗する右手に対し、物理に対抗する左手、というコンセプトで、駿斗が作製した。

 

 駿斗だって、武器を使う必要がないのならば、使わない方が良いと思う。それなりに凝って作成したものではあるが、やはり平和な方が良いに決まっている。

 

 しかし、そんなに甘いことを言っていられる場合ではないだろう、とも考えるのだ。

 

 インデックスから魔術を学んでいる駿斗にとって、あの『アドリア海の女王』事件において自分たちが旗艦を破壊したことが、どれほど大きな意味を持っているのかを少しは理解できるようになっていた。

 

 片手で持つことのできるサイズの、象徴武器(シンボリックウエポン)とは違う、例え一流の職人が何百人と集まっても完全に再現できるか難しいような、ローマ正教において極めて貴重な霊装。それが、『使徒十字(クローチェディピエトロ)』のような、『聖霊十式』なのだ。

 

 それを破壊したということはすなわち、ローマ正教にそれだけの脅威であることを伝えるとともに、彼らが何かしらの『行動』を起こすための『理由』を与えることにもなる。

 

「やっぱり、嫌か?」

 

 駿斗は、自らの手で作成した『武器』を携帯した親友に尋ねる。

 

「まあ、それもあるけど……それよりも、現実味が湧かないというか、現実を認めたくないという感じかもな」

 

 当麻は、片手で頭を掻きながらそう言うと、インデックスに留守番を任せて部屋を出て行った。駿斗も、佐天さんとの約束に間に合うように、外へ出かけていく。

 

 そして、その腰には詰襟の制服に隠すように1本の『杖』が携えられていた。

 

 『幻想核杖(イマジン・コアロッド)』と名付けたそれは、これから彼の『力』の核となるものだ。

 

「使いたくないが、使わなければならないだろうな。だが、いつかはその幻想もぶち殺してやるよ」

 

 駿斗は呟くと、寮を後にした。




遅くなってすみませんでした。

最低でも週1ペースで投稿する予定です。

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