東方千夢劇 ~Infinite DANMAKU for Lotus Land.   作:かぶらや嚆矢

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一ノ陸・

 ストライキに入ってしまったセシリアをよそに、箒と霊夢は互いに距離を詰めていった。

 

 近付き合う両者のうち、制空圏が重なったときに先に動けるのはより長いリーチを持つ箒の方である。実際、霊夢が間合いに入ったと見るや、箒は再び雨月でもって突きを試みていた。

 

 初撃と同様レーザーをまとった刺突を繰り出されても霊夢は回避行動を起こさない。否、むしろ急加速をかけて箒の刺突をかいくぐり、それと同時に、目にも止まらぬ滑らかな高速旋回でもって箒の背後へと回り込む。

 

 ゆっくりしたアプローチから最速で旋回して目眩ましをした後、死角へと回り込んで一息に詰め寄る――それは先程、ラウラが霊夢に対して仕掛けた接近方法だった。

 

「っ!?」

 

 ISに搭載されているハイパーセンサーは五感を高める効果はあっても、第六感や予測能力を高める機能はない。予想だにしていなかった霊夢の奇襲に不意を突かれ、目を丸くした箒が体の向きを修正し終えた頃には、霊夢はすでに彼女の懐深くまで潜り込んでいた。

 

 お祓い棒を振りかざし、箒を殴打する霊夢。立て続けに3度打ち据えられたところで箒は雨月でこれを受け止めると、そのまま腕を外向きに薙いで霊夢を弾き飛ばした。裏拳めいた打撃をお祓い棒で防御した霊夢だったが勢いは殺しきれず、至近戦の間合いから下げられてしまう。反攻のチャンスを掴んだ箒は続けざまに、空裂での一閃を放とうと欲して右腕を振り上げたが、彼女が見せた反撃の兆しにも霊夢は怯まない。スリークォーターに近いフォームから袈裟斬りが繰り出されるよりも早く、そして弾かれた距離以上に間を詰めた霊夢は装甲がなくISスーツが露出している箒の腹部めがけて、飛び込んだ勢いをそのまま乗せた強烈な膝蹴りを食らわせる。

 

 飛び膝蹴りにも似た一撃を鳩尾でまともに受けた箒は苦悶の呻きを漏らし、よろめくようにふらふらと後退した。これを好機と読んだ霊夢はぴったりと箒をマークして零距離を保持したまま足を引き、再度の膝蹴りを繰り出すが、

 

「調子に――乗るな!」

 

 空裂を携えた右腕で腹部を庇い、膝蹴りを阻む箒。ついで雨月の柄頭でもって霊夢の脳天めがけ打ち下ろしの一撃を見舞おうと狙い、大上段に振りかぶる。タイミングや間合いを考えれば確実に命中するはずだったのだが、あろうことか霊夢は箒の右腕を足場にしての昇天蹴――サマーソルトキックを繰り出し、逆に雨月を蹴り飛ばしてしまう。

 

「な、なんだと!?」

 

「さぁ、いろいろと一本取ったわよ!」

 

 箒の手から弾かれた雨月はくるくる回りながら放物線を描いたのち落下していき、今まで督戦していたセシリアが慌てて回収に向かう。完爾として笑う霊夢に、箒は慄然とした。

 

(反撃を――い、いかん、空裂を使うには間合いが近すぎる!)

 

 ほとんど密着している位置関係では、刃渡りの長い太刀を振るったところで効果など望むべくもない。霊夢が攻勢に転ずることを察した箒は次善の策を導き出すため一旦後退しようとするがその行動は遅きに失し、勢いを得た霊夢に完全に主導権を奪われてしまう。

 

 お祓い棒で打ち、突き、払う。至近戦を嫌った箒が後退しようとすれば、まるで離脱を先読みされているかのようなタイミングで懐に飛び込んできて膝蹴りを放ってくるし、反撃しようとすれば前触れなく放つサマーソルトキックで体勢を崩される。いいように翻弄され身動きが取れなくなったところをお祓い棒で連打を仕掛けてくる。

 

 かかる猛攻を凌ぐだけで、箒は手一杯になっていた。

 

 一撃一撃はそれほど重くはなく、スピードもそこそこだが、とにかく要所要所でこちらの狙いを先読みして潰してくる霊夢の技量に箒は舌を巻いていた。鍔迫り合いを図って前へ出ようとすれば足やお祓い棒を突き出してこれを制し、少しでも後退すれば、こちらがバランスを崩すまで力業で押し込んでくる。かといって空いた左手で殴打を見舞おうとしたり霊夢に組み付こうとすればそれを予見していたように身をひねって距離を取り、隙を窺おうと守りを固めればガードを挫くほどの猛攻撃に転じてくる。

 

 そして攻撃のリズムそのものも千変万化に変わるため、呼吸を盗んでカウンターを仕掛けたり、離脱できそうな瞬間を見つけることができなかったのだ。もしも意図してこれをしているのならば達人技であり、意図せず無意識で出来ているなら天才肌と呼ぶしかない。それらも確かに攻略しがたい難問であったが、それよりも差し迫った危機と呼ぶべきものがあった。

 

(な、なぜ単なる打撃で、こうもダメージを受けているんだ!?)

 

 一撃を見舞われるごとにシールドエネルギーが削られていくことに、箒はむしろ混乱していた。

 

 すでにこの場から退場していったラウラのみが知り得た事実として、霊夢は触れただけで結界を消滅させる特異な体質を持っている。そしてそれは、ISが誇るシールドバリアでも同じだったのだろう。本来ならばいくら殴打されたところでシールドバリアさえ破られなければエネルギーが減少するということはない。だというのに霊夢がお祓い棒でもって、あるいは徒手で繰り出す打撃は、さながら灼けたナイフでバターを切るように難なくバリアを貫通し、シールドエネルギーに直接ダメージを与えてくるのだ。

 

 このままでは押し切られる! どんどん目減りする数値に焦りを色濃くした箒が、距離を大きく取るか、それとも捨て身の一撃で状況の打開を図るかを思案し始めた、その時だった。

 

「箒さん!」

 

 セシリアが雨月を手に戻ってくる。セシリア! と、雨月を受け取ろうとした箒はよほど焦っていたのだろう。迂闊にも、意識をセシリアの方へと向けたままで霊夢から離れてしまった。結果、時節到来とばかりにお祓い棒を両手で握りしめた霊夢が体重を乗せて放った、捻り込むような諸手突きで鳩尾を貫かれ、箒は空中でぐらりと体を傾がせる。 

 

「箒さん!? ああもう、見てられませんわっ。勝手に助太刀しますが、ごめんあそばせ!」

 

 相方の窮地を察したセシリアは色を失い、一旦は格納していたブルー・ティアーズを再び4機とも飛ばそうとする。

 

 火線上に箒を巻き込む恐れがあるのでレーザーは撃てず、せいぜい霊夢へ体当たり攻撃を仕掛けるぐらいだが、それでも霊夢の気を引き、劣勢に追い込まれた箒への一助くらいにはなるはずだ。そう判断していたが、

 

「邪魔すんじゃないわよっ!」

 

 霊夢の応撃は素早かった。フルスピードで迫り来る特攻隊を視界の端で捉えていた霊夢が、箒の方を向いたままでお祓い棒を横薙ぎに薙げば、その軌跡から札状の追尾弾が生み出され、ターゲットめがけて突撃するブルー・ティアーズを左右両側面から迎え撃つ。

 

「しまった!? 追尾弾――!」

 

 セシリアの表情が青ざめる。陰陽玉に頼らずとも、単身で追尾弾を放てることを失念していた。

 

 今すぐ射界から逃げろ! 泡を食ってセシリアは指示を上書きする。彼女の軽率さを責めるより霊夢の反応の鋭さを誉めるべき場面ではあるが、しかし一度の判断ミスで支払わされた代償は大きかった。追尾弾は人間には効果が薄いのか、それとも人間以外のものには絶大な効果を発揮するのか、真正面で被弾したブルー・ティアーズの1機が空中で爆散し、スラスターが追尾弾に接触した2機が航行不能に陥り、制御を失って墜落する。

 

 とっさに残る1機に全意識を集中させることで追尾弾を振り切りはしたが、わずか一瞬で3機のビットを撃墜されたセシリアが受けた動揺は、決して小さくない。

 

 しかしながら、霊夢の気を引くという当初の目標は達成したようだった。すでに霊夢から離れていた箒は千鳥足のごとくふらつきながら、ショックで顔面蒼白になっているセシリアと合流し、雨月を受け取る。

 

「げほっ……すまんセシリア、恩に着る!」

 

「どういたしまして! ――それよりも本当に大丈夫ですの!? あの方、寒気がするような弾幕を使ううえに接近戦でも相当腕が立ちますわよ!」

 

「そのようだな。だが……私は退かん。行くぞ霊夢! 勝負はここからだ!」

 

「うぅ、これだから箒さんは……冗談のつもりでしたのに、本当に猪武者ではありませんか……」

 

 頭を抱えるセシリアとは裏腹に、雨月を取り戻した箒は自らを奮い立たせると、再び霊夢に躍りかかる。だが霊夢は、先ほどまで烈火のごとく猛攻を仕掛けていたにも関わらず、箒との接近戦を嫌がるように大きく後退を始めた。

 

「なぜ逃げる!? 怖じ気づいたか!」

 

「あいにく時間切れなのよ。本当は少しオーバーしちゃってるけど、まぁルールはルールだしね」

 

 猛る箒とは裏腹に、霊夢はあっさりしたものである。箒とのドッグファイトで乱れてしまった髪を簡単に梳ってみせた後、破れたり煤けたりしてボロボロになっている袖の中へと手を差し込み最後のスペルカードを取り出す霊夢。

 

「さて。最初の宣言通り、私が使うスペカはこの1枚で打ち止めよ。あなたたちから見れば最後のひと踏ん張り。私から見れば、とどめの一手。ここさえ乗り切れれば勝ちだけど、いろんな常識に囚われてるあなたたちの目に果たしてこの弾幕はどう映るのかしら?」

 

 芝居がかった口振りで見得を切る霊夢の掌にあって、スペルカードが輝きを増していく。

 

 霊夢からの弾幕に備えて、箒とセシリアともに武装を格納していた。制限時間を過ぎるまで逃げ切ることの他にも霊夢を倒すという選択肢もあるが、次なる攻撃がまったく未知であるうえ、箒はエネルギーを散々に失いセシリアはビットの大半をロストしている。まさに弓折れ矢尽きた状態であり、かてて加えて、万全な状態の2人がかりで挑んだときも大したダメージは与えられなかったのだ。現状を鑑みると、なお戦いを挑むよりも逃げ続けた方が勝てる確率が高いように思われた。

 

「セシリア! もうエネルギーも多くは残っていない私が、いざとなったらお前が言ったとおりに囮になってやる! お前だけでも逃げ切ってみせろ!」

 

「あんな軽口を真に受けないで! あなたを盾にしたいなんて本気で思ってるわけないでしょ!? まだ余裕のあるわたくしが攻撃を引き受けます。箒さんは時間まで何とか耐えてください!」

 

 互いを気遣いつつも、やはり我を通し合ってしまう箒とセシリア。自信過剰め! と箒が罵れば意地っ張り! とセシリアが言い返す。しばらく睨み合っていた2人だったが、ややあって両者はふっと笑みをこぼした。

 

「劣勢だがまだ負けたわけじゃない! 勝って戻るぞ!」

 

「当然ですわ!」

 

 箒とセシリアは並び立ち、決然とした表情で霊夢を見据える。集中を研ぎ澄ませる霊夢の手中にあるカードは、すでに直視できないほどの輝きを発していた。さながら光の塊と化しているスペルカードを掲げた霊夢は、

 

「夢符――」

 

 朗々とした声でもって、箒とセシリアの2人を相手取って攻撃を宣言する。

 

「『二重結界』!!」

 

 宣言と同時にスペルカードが消失し、同時に、霊夢を中心に、2枚の不可視の力場が展開されるのを箒とセシリアはハイパーセンサー越しに知覚していた。ひとつは箒とセシリアを含めた広範囲を覆い、そしてもうひとつは霊夢を中心に数メートルほどの範囲で展開されたようであり、ちょうど霊夢の周りにはフィールドが2重に掛けられている格好になっていた。

 

 いかなる攻撃が来るかと霊夢を隙なく観察していたセシリアと箒のうち、最初に異変に気付いたのはセシリアの方だった。

 

「あら――ほ、箒さん。何だか彼女の周りの景色が歪んで見えませんか?」

 

「なに? ……ふむ、そう言われてみれば……」

 

 セシリアの言葉に応じた箒は眉を潜めながら、霊夢とその周囲を見やる。

 

 2人と霊夢の間には7メートルほどの間隙があるが、霊夢が宣言を発してからこっち、彼女の周囲だけ、度が合わないメガネ越しに世界を見ているようにぼやけて見えるのだ。嫌な気配を感じた2人はハイパーセンサーを操作し、霊夢の周辺で何が起こっているのかを分析しようとする。だがセンサーから返ってきたレスポンスは、まったく意味を成さない言葉の羅列であった。

 

『ネケリリリ、テ、ケリテテテリ、リケメ、テリリ』

 

『れくいこく れ、とれど いつかくいゃう。くもがおろ すしかしど』

 

「ななな、な、何ですのこれは!? ハイパーセンサーがおかしいですわ!」

 

「わ、私の方もだ……これがシャルロットの言っていた、センサーへの弊害というやつか?」

 

 ただでさえ緊張しているところに謎のエラーが発生したことで、セシリアは明らかにうろたえている。セシリアと比して箒はまだいくらか落ち着いていたが、それでもまったくの平静とはいかないようだった。

 

 霊夢が展開したフィールドの影響を受けてセンサーがまるで機能しなくなったということは、IS任せにしていたあらゆる処理を自分自身の手で行わなければならないということになる。そればかりでなく、不可視の力場は機体制御を行うパッシブ・イナーシャル・キャンセラーにまで干渉してきているのかISの反応速度も著しく低下しており、思い通りに動くことが困難になっていた。装甲を纏った部分がずしりと重く感ぜられるうえ、スラスターに操作命令を発してから実際に動作するまでに若干のタイムラグが生じてしまうのだ。

 

 言うなれば今の箒とセシリアは目隠しと耳栓をされ、重りが付いた手枷足枷をはめられたような状態であった。そんな状況下にあって箒は何とかセンサーだけでも復調させようと慣れない手つきで悪戦苦闘していたが、

 

「箒さん! 弾幕、来ましたわっ!」

 

 緊張にこわばるセシリアの声にハッとなり、弾かれたように霊夢の方を見る。

 

 霊夢は前にシャルロットへとそうしたように、夥しい数の光弾をあらゆる方向へ撃ち放っていた。地上で見たそれとの違いは光弾の形が赤い札状をしていることと、ある程度の数の札弾が編隊を組むように密集していることだろうか。

 

「シャルロットさんがなさったように、十分引き寄せてから避けた方が良さそうですわね……た、ただ、今のこんな状態で、どこまで引き寄せても無事に避けられるのでしょうか?」

 

「その匙加減は実際に試してみないことには分からんが――とにかく出来うる限り、ギリギリまで動かずジッとしているべきだ」

 

 箒とセシリアはすぐにでも光弾を避けたくなる衝動を抑え、その場に留まって札弾の塊が迫ってくるのを待った。

 

 横長だったり縦長だったりと、でこぼこした歪つな壁のようにも見える密集札弾は結構な速度で迫ってきている。それゆえに箒とセシリアは決して密集札弾から目を離さず、いつでも回避できるよう身構えていた。だからこそ目算ではまだ3メートルほど離れた前方に赤い札弾の塊があるにも関わらず、被弾のショックが不意打ちで背中に走ったときは度肝を抜かれてしまった。

 

「うあっ!」

 

「きゃああぁ!」

 

 まったく突然に襲ってきた衝撃に悲鳴を上げる箒とセシリア。それに伴い、シールドエネルギーも当然のように削られる。目を白黒させながら2人がほぼ同時に振り返ると、

 

「な、何だと……!」

 

「ど、どうして。どうしてっ! どうしてこちら側からも弾幕が迫って来てるんですの!?」

 

 裏返ったセシリアの悲鳴通り、2人の背後からもまた無数の札弾の塊が迫ってきていた。

 

 ただしこちらは、赤色ではなく白色の札弾である。混乱しながら再び霊夢の方へと向き直れば、今もなお霊夢が撃ち出し続けている無数の赤い密集札弾がじわじわと、手を伸ばせば触れられるあたりまで迫ってきている。再び後ろを見てみると、こちらにもやはり白色の札弾があり、大挙して襲いかからんとしていた。

 

「な、なんだ。一体なにがどうなってるんだ!?」

 

「わたくしに訊かれたって分かりませんわ! 分かりませんがっ……とにかくこれを避けないことにはどうしようもありませんわよ!」

 

 訳が分からないながらも、とにかく時間切れまでこれを避け続けないことには負けである。半ばパニックに陥りながらも、前後から挟み撃ちで迫ってくる赤い札弾と白い札弾を必死に避け続ける箒とセシリアだが、ただでさえ思い通りにISを動かせない中、タイミングを同じくして挟み込むように迫ってくる無数の飛来物を肉眼だけで完全に認識し、避けることは困難を極めた。

 

 あるときは前後から同時に飛んでくる紅白の札弾を避けきれないセシリアの腕を取った箒が自分の方へ引っ張り寄せて窮地を救い、またあるときは、背後に気を取られるあまり正面から迫る赤い札弾に気が付かない箒を、セシリアが身を挺して庇う。正体が掴めない弾幕挟撃を相手どって箒とセシリアはよく持ちこたえるが被弾数は増え続け、それに伴ってシールドエネルギーも激しく目減りしていく。

 

 だが何度も被弾するうちに、箒とセシリアはおぼろげながら弾幕の仕組みを理解していた。

 

 霊夢は赤い札弾を闇雲に撃ちまくっているように見えて、その実、2種類の札弾を使い分けていたのだ。ひとつは、撃ち出されたらただ直進するだけのもの。もうひとつはある程度、おおよそ3メートルほど推進したところで消えると箒達の背後あたりまでワープし、白い札弾に変化して霊夢の方へと戻っていくものである。もしハイパーセンサーが完全に機能していたならばその2種類を識別することができたかもしれないが、外見がまったく同じ札弾を肉眼だけで見分けることは不可能に近かった。

 

 常識に囚われてるあなたたちの目に果たしてこの弾幕はどう映るのか。霊夢が言い放ったフレーズが脳内で繰り返される。なるほど、正面から来た弾幕がそのまままっすぐ進むと常識的に考えていたのでは決して見破ることのできない、変幻自在の弾幕だった。

 

「もう少し早く見破れるか、センサーさえ使えれば……」

 

「そうですわね。言っても詮無いことですが、ここまで被弾することもなかったでしょうに……口惜しいですわ。いったいあとどのくらい、シールドが持ち堪えてくれるものか」

 

「私はもってあと2、3回ぐらいか……絶体絶命だな」

 

 唇をかみしめたセシリアは悔しそうに呟き、眉根を寄せる箒もまた悔しそうに応じる。

 

「でも、最後まで勝負を捨てたりしませんわよ。ようやくこの弾幕の正体も掴めたんですから」

 

「その通りだ――ふん、こんな土壇場でようやく意見が一致するとは」

 

「それは箒さんが意固地なせいでしょう!」

 

「うるさい自信家」

 

 悪口でもって、お互いに未だ意気軒昂であることを確かめ合う箒とセシリア。

 

 開始から何秒経過しているかも判然としないが、霊夢からの弾幕は時間を追うごとに数を増し、その弾速も速くなってくる。しかしその攻撃の正体を掴むことはできた。

 

 激しく消耗し、2種類の弾幕を目で判別できる見込みもなく、ハイパーセンサーも使い物にならない窮地であるが、もしかしたらあと5秒、あるいは10秒を耐え切れば勝てるかもしれない。そう信じるよりもほかになかった。前後から迫り来る札弾の塊を避けることに箒とセシリアは全神経を集中させるが、結果として2人が弾幕を避けきって勝利を収めるということはなく、また、被弾の後に具現維持限界値に達して行動不能に陥るという事態にもならなかった。

 

「そこまでだ! 3人とも下りてこい!」

 

 勝負が決着する前に、思わぬところから水入りが入ったためである。

 

 




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