東方千夢劇 ~Infinite DANMAKU for Lotus Land.   作:かぶらや嚆矢

27 / 31
三ノ伍・後

 

 第1アリーナ全体を覆っているバリア状の遮断シールドが、超大出力のレーザーによって破られた瞬間、観客の安全を保護するための隔壁が一斉に降り始め、メインアリーナと客席は分厚い壁によって隔てられた。

 

 それと併せて、有事の際の人員として確保されていた1年生がただちに動き始め、来客の避難誘導を迅速に行い始める。

 

 また別のところでは、ネットワークルームであらかじめ待機していた3年生の精鋭たちが、管制システムに不正侵入を仕掛けてくる何者かと、アリーナの支配権を激しく奪い合っていた。

 

 扉開閉システム、照明、通信といったインフラは奪取されたが、避難や救援を行うにあたっての生命線である隔壁操作、遮断シールドへの干渉は跳ね返していたため、予断を許さない状況ながらも、最悪の事態はかろうじて回避できていた。

 

 無人機の襲撃をIS学園は想定しており、対策も十分に講じている。そして最前線に立つセシリアもまた、自身に与えられた指揮官のポジションにかけられる期待を裏切らない活躍をしてみせた。

敵の隠密処理が一枚上手だったために攻撃を事前察知することはできなかったものの、攻撃を受けたのと前後するタイミングでハイパーセンサーの索敵機能を活用して急報を発しつつ、即座に狙撃体勢に移行していたのだ。

 

「メインアリーナへ降下中の動体反応、3! いずれも識別信号無し、呼びかけに応答無し! 所属不明の無人機と断定して排除を開始します! 各員ISを展開してください!」

 

 アリーナ各所を守る仲間たちと管制室へ、迎撃作戦展開の通達を行う。

 

 それと同時に大型映像装置の真上へと降り立ち、敵からの反撃を受けないよう遮蔽物の後ろへと隠れたセシリアはニーリングの姿勢を取り、遠間からの釣瓶撃ちを開始した。

 

「一対多こそ、このブルー・ティアーズがもっとも得意とするところ――あなた方に好き放題されると、それだけISによる弾幕ごっこの実現が遠ざかりますの。あくまでISを兵器として扱うおつもりなら、こちらもあなた方の流儀でお出迎えさせていただきますわっ!」

 

 そう啖呵を切る間にも、数発から数十発のレーザーをアリーナめがけて高所から乱射する。

 

 スターライトmkⅢは連射に向く装備ではないうえ、メインアリーナは未だに煙と砂塵がもうもうと立ちこめており、視界は極めて悪い。そのうえ今度の無人機もゴーレムⅢと同様のジャマーを搭載しているためか、ハイパーセンサーを用いたロックオンが出来ないでいた。

 

 また、こんな蜂の一刺し程度で倒せるような相手ではないことも、重々承知している。

 

 だが、ダメージを与えるのでなく、動きを止めるという点で、セシリアの狙撃は奏功していた。

 

 ゴーレムたちはアリーナ着地までは順調だったものの、上方からの射撃を防御するため、あるいは回避することに集中させられる。

 

 狙い撃ちにしてくるだけでなく、周囲にも絶え間なくレーザーが降り注いでくるため、ゴーレムたちはその場に釘付けにされ、3機が3機とも機敏な行動が出来ないでいたのだ。

 

「もうっ、視界さえクリアなら百発百中で当ててみせますのに……!」

 

 リロードが必要になるまで撃ちまくったセシリアは、鋭く舌打ちしてみせる。即座にエネルギーの再充填を行うとともに遠隔操作型ビットを飛ばし、それと同時に鈴音と簪に指示を発した。

 

「鈴音さん簪さん、攪乱をお願いしますわっ! こちらもブルー・ティアーズで援護します!」

 

『りょーかいっ。あたしが先発するわ! ばっちりフォロー頼むわよ簪!』

 

『うん。鈴音に合わせる……!』

 

 がいん、と、オープンチャネル越しに、鈴音が二振りの青竜刀を連結させる音が響いた。

 

 瞬後、セシリアの意思通りに飛び回る4基のブルー・ティアーズが流星雨のごとく次々とビームを撃ち込んでいるアリーナめがけ、甲龍が突撃を仕掛ける。その勢いの激しさは、赤黒い機体色と相まり、まるで激しく燃えさかる隕石のようにセシリアの双眸に映っていた。

 

『うっりゃあぁぁ! こっちは暴れたくてウズウズしてたんだかんね! 派手に行くわよーっ!』

 

 さながら無駄撃ちをするように龍砲――不可視の拡散衝撃砲を乱射し、圧力を掛けてゴーレムの足を止める。その隙を突いて、手にしていた双天牙月を勢い任せに投げつける鈴音。全重量と加速度をフルに乗せて投じられた双刃は、防御を固めたゴーレムの巨腕をへし折るところまでは至らなかったが、それでもその巨体を吹っ飛ばし、転倒させることに成功する。

 

 この頃にはメインアリーナを覆っていた砂煙も払われ、襲撃者たちの姿をはっきり視認することが出来た。

 

 ゴムラテックスにも似た黒光りを放つ装甲に覆われたフルスキンの体躯は、これまでの無人機と同様である。また、先般襲撃してきたゴーレムⅢのように、流線型で女性的なシルエットを保ってもいる。バイザー型ラインアイも、角のように伸びるハイパーセンサーも、大型ブレードが据え付けられた右腕も、超高密度圧縮熱線を放つ砲口を備えた左腕も変わっていない。

 

 異なっているのは、先端部が鋭利な両刃ブレードとなっている、節足動物の脚のように伸縮する可動肢を背面から生やしていた点だ。

 

 天使の翼のごとく伸びる四対のブレードは、両手両足とは別に動かせるため、両腕以外にも刃物を手にした腕が8本あるのと同義だろう。不用意に近付いたが最後、なますのごとく切り刻まれるのは避けられない。しかし、接近戦の間合いにいない限り、恐れるのは左腕から放たれる大出力のビームだけで済む。

 

 倒れ伏したゴーレムは迎撃しようと甲龍を狙い、左腕の砲口を構えて立ち上がろうとするが、

 

『させない……!』

 

 一拍遅れたタイミング、すなわち鈴音の強襲が終了したタイミングで現着していた簪が、すでに追撃準備を整えていた。

 

 8発の小型ミサイルを備えた6連装ポット――打鉄弐式の最大武装である山嵐を開放するや否や48発のミサイルを雨あられと乱れ撃ち、倒れ伏した1機含めてゴーレムを3機とも、爆炎と熱風の底へと叩き込む。

 

 立ち上る火柱がアリーナを覆う間、セシリアと鈴音も、指を咥えて見ているわけではない。

 

 ブルー・ティアーズたちには半自動操作で連射させておき、セシリア自身は精神感応制御を介した偏向射撃でビームの軌道を操作する。ときにターゲットを絡め取るように渦を巻き、ときに地表すれすれのところから急角度でホップする軌道でもって下方向から撃ち抜き、ときに複数本のビームを一束に収斂させ、面状制圧でゴーレムを押し返す。そしてスターライトmkⅢのエネルギー再充填が完了するや否や、高所からの狙撃を再開した。

 

 セシリアのサポートと連携し、中距離まで下がった鈴音は甲龍の機動性を活かして所狭しと飛び回っては、当たるを幸いとばかりに、衝撃砲をめったやたらに撃ちまくる。

 

 簪が駆る打鉄弐式もまた甲龍と互角の機動性でアクションを同期させ、ミサイルと荷電粒子砲の連射で、ゴーレムたちを手玉に取っていた。

 

 3機のゴーレムを円の中心に捉えて逃がさず、その周りを衛星のように周回飛行する鈴音と簪が見せる息の合ったコンビネーションを高所から見下ろしていたセシリアは、射撃技術に秀でているだけに、2人の動きが一朝一夕の急ごしらえでないことを見抜き、感嘆の口笛を吹いていた。

 

「ほぼ完璧に円上制御飛翔を保ってる――お2人とも、いつの間にこんな連携を?」

 

『セシリアたちと同じ。私と鈴も、みんなに内緒でこっそり秘密特訓をしてたの……』

 

『そーいうこと。あんたたちがコソコソするんなら仲間はずれのあたしたちも、ってね!』

 

「う。な、なかなか手厳しいですわね……」

 

『簪! もし怖かったら、無理して前に出なくていいわよっ! セシリアの狙撃とあんたの爆撃でサポートさえしてくれれば、あとはあたしが散々引っ張り回してやるから!』

 

『平気。私も鈴と同じおとり役……怖くない。今回はみんながいるもの……!』

 

「その通りですわ簪さん。全員で力を合わせて戦いましょう! だから……」

 

 先般起きたゴーレムⅢとの戦闘で大きな被害を受けたのは、愚かにも、戦力を分散してしまったことが原因だ。

 

 各個撃破に集中してメンバーが連携し、きちんと戦術を組み立て、状況の変化に即応できる指揮官がいれば、たとえ戦闘力で勝るゴーレムといえども敵ではない。

 

 簪の広範囲爆撃で動きを封じ、鈴音の衝撃砲で足を止め、セシリアとブルー・ティアーズのオールレンジ攻撃で体勢を崩す。かくのごとくして反撃の機会と行動範囲を限界まで奪い、ある程度のダメージを与えたところで――

 

「みなさん出番ですっ! きついお仕置き、お願いしますわよ!」

 

『おっしゃあっ!』

 

『いざ参るっ!』

 

『行くよリヴァイヴっ!』

 

『任せろっ――!』

 

 一夏、箒、シャルロット、ラウラと、アリーナ両翼最上段から閃光のごとく続々と飛び出してきたアタッカーが、一斉に波状攻撃を仕掛けていった。

 

 一番槍を付けた白式がスピードに乗ったまま袈裟掛けに、続けて紅椿が逆袈裟に斬撃を見舞う。わずかの間も与えずに到着したフィニッシャーの役割を担う2人、シャルロットが放つパイルバンカーでカメラごと頭部を粉砕し、とどめとしてラウラの繰り出した大口径レールガンが、ゴーレムの胴体に大穴を穿つ。

 

 一気呵成のコンビネーションを叩き込まれたゴーレムは、専用機たちの猛攻撃によってぼろぼろになった巨体を、大木が傾ぐようにぐらつかせた後、どうと仰向けに倒れ込んだ。

 

『よしっ、まず1機! この調子で行こうぜ!』

 

「完璧ですわっ――次はシフトDで行きます! おとり班は前へ、援護班は散開しつつ後退!」

 

 箒、一夏、鈴音の3人でゴーレム1機を攪乱し、遠距離からセシリア、そして中距離からシャルロット、ラウラ、簪の4人が一斉に砲撃を仕掛けて足を止める。ターゲットを防御に集中させたら

攪乱を行う3人にラウラと簪を加えた5人がかりでとどめを差す――オーソドックスゆえに不安要素の少ない布陣を敷く指示をセシリアが号令すると、命令を受けた各員は、即座にそれぞれのポジションを入れ替え始める。

 

 ただし今度はゴーレムたちも臨戦態勢に入っているし、一夏たち第二陣の存在を認識しているため、先のようにスムーズには行かないだろう。

 

 ――状況は7対2。数の上では圧倒的優勢ではあるが、敵の火力はまだ計り知れない。勝ち急ぐよりも、こちらが被害を受けないようにしなくては。

 

 指揮官たるセシリアはじめ全員が抱いたそんな警戒はしかし、まったく不要だった。

 

 被害を受けるも何も、気を引き締めてから数秒も過ぎないうちに勝負が決してしまったからだ。

 

 西側観客席の最上段。シャルロットとラウラが急行してきた通用口から突如として膨大な数の、かつ幾筋もの光芒が迸り、アリーナめがけて殺到してくる。

 

 よく見ると一筋の線でなく、白い札状の光弾が密集するあまり、ひとつながりであるように見えたのだが、それに驚いたのはセシリアたち迎撃部隊よりもむしろ無人機の方だった。謎の光学兵器をカメラで捉えるなり、ゴーレムたちは硬直して立ち尽くしてしまう。

 

 光弾の正体が何であるか分析しようとしたのだろうが、結果的にはその行動が、彼あるいは彼女たちが逃げて生き延びるためのチャンスを、完全に奪い去ることになった。

 

 ゴーレム2機のうち1機は、左右両方向に大きくカーブして押し寄せてくる四角い光弾群を避けられなかった。

 

 接触するだけで爆発を引き起こす光弾を直撃で、しかも立て続けに数十発まとめて食らったゴーレムは、まるでトラックとの衝突実験に使われた木偶人形のように、その巨体をぶっ飛ばされる。

 

 さながら、ガトリング砲の連射速度でロケットランチャーの砲弾を浴びせられたようなものだ。シールドも全身もまとめて木っ端微塵にされたゴーレムは、被弾前はメインアリーナの中央付近に立っていたにも関わらず、集中砲火が終わったころには、ISからスクラップへと摘要を変えられた状態で、メインアリーナの外壁にめり込んでいた。

 

 最後に残る1機は巧みに抵抗した。殺到する光弾を危険だと判断して全速で飛びずさり、執拗にホーミングしてくると見るや、左腕の掌に穿たれている4つの砲口から熱線を放ち、あるいは大型ブレードと可動肢で光弾をすべて叩き落とすなど健闘してみせる。

 

 そんな無人機に与えられたのは表彰状などではなく、無慈悲な鉄槌だった。

 

 観客席通用口から、今度は新たに、虹色に輝く巨大な光球が7つ放たれたのだ。猛烈な速度で襲いかかってくる光球を撃ち落とすことも防ぐこともできないと悟ったゴーレムはスラスターに火を入れて飛翔すると、フルスピードでもって第1アリーナからの逃走を図る。だが、速度ではるかに勝る光球にあっさり追いつかれてしまい、7度繰り返された光球の大爆発に巻き込まれ、コアもろとも粉々にされた単なる鉄屑と成り果てて、その短い生涯を終えることとなった。

 

 かくて敗北者たちは完全殺滅され、戦場には勝利者たちが残される。しかし勝利者たちもまた、唐突に降ってわいた勝利に対し、大いに惑乱していた。

 

『なっ、ななな何よ今の!? なんなのっ、何が起きたのよーっ!』

 

『危険……! ここにいたら私たちも狙われる。早く逃げないと……!!』

 

 ほとんどヒステリーに近い叫声を上げたのは、かかる光弾の使い手――霊夢の存在を知らない、鈴音だった。彼女と同じ境遇にある簪も青ざめた表情をし、怖くないと表明した前言を反故にするように怯えきって、がたがた震えている。

 

「す、凄まじいなんてレベルじゃありませんわね……本当にあの方、いったい何者なの……?」

 

 停止結界などのフィールドを無効化できる力を備えている、とラウラから教えられていたし、あいつの攻撃はISのシールドバリアを貫通してくる、と箒も言っていたが、絶対防御も何もあったものではない。言うなれば、零落白夜を常時発動しているようなものだ。

 

 戦闘終了を見て取ってメインアリーナへと降下していくセシリアは唖然としつつも、まだ冷静さを保っていた。彼女は霊夢の存在や、その実力をあらかじめ知っていたからである。条件的には一夏たちも同じだが、メインアリーナにあってゴーレムが瞬殺される光景を間近で見せつけられた分、鈴音や簪より多少は落ち着いているという程度で、彼らもまた冷静とは言いがたい精神状態だった。

 

『り、鈴も簪も落ち着けって! 今のは俺たちの味方だよ!』

 

『はあ!? あんな、たった一発でISを粉々にぶっ壊せるような味方がどこにいるってーのよっ!』

 

『……それに、あんな超大質量の攻撃ができるISがいるなんて、聞いたことない……』

 

『さ、最初にゴーレムを葬ったアレは、私が食らったホーミング弾と、同じものか……?』

 

『……たぶん……それに、僕が受けたのも、同じ光弾だと思う……』

 

『わ、私、あんな攻撃を受けてよく無事でいられたな――なぁ、シャルロット……この競技会が終わったら私はもうISに乗るのをやめ軍も退役して、オカルトの勉強を始めようと思うんだが……』

 

『うん……僕もそうしようかな……あ、ところで箒。箒の神社って巫女さん募集してない? フランス人の枠があると嬉しいんだけど……』

 

『外国人枠は何人までだ? もしドイツ人の枠があったらよろしく頼む……』

 

『らっ、ラウラもシャルロットも気をしっかり持たないか! 巫女は巫女でもあいつが飛び抜けて異常なだけだ! 虚ろな目で笑えん冗談を言うな!』

 

 現場にいた全員パニックを起こしかけている様子が、オープンチャネルから伝わってくる。だが誰もがうろたえるあまり、役目をおろそかにしているのはいただけなかった。口論を始める仲間たちと離れた場所にいるせいか、それとも指揮官としての矜持か、セシリアにはまだ全体を大局的に見られる精神的なゆとりがあった。

 

 そんな彼女がアリーナに足を下ろすなり、鈴音が肩を怒らせて歩み寄ってくる。

 

「セシリア! あんたならさっきのアレが何だか知ってるんでしょ!?」

 

「知ってます。ですが、まず何よりも周辺確認とお客さまの安全確保が最優先でしょう!? 皆さん揃って何をなさってるんですか! 鈴音さんと簪さんとわたくしで、ゴーレムが完全に沈黙したか調べます。他の方はそれぞれの持ち場に戻って、すぐに状況確認を行ってください!」

 

 声を荒げて指示を出すセシリアの言の正しきを認め、冷静さを取り戻した代表候補生たちは誰も反論することなく、割り当てられた作業へと戻る。

 

 シャルロットとラウラが東側観客席へ、箒と一夏が西側観客席の通用口へ慌てて飛んでいき、それを見届けてからセシリアは鈴音と簪を伴い、無人機が完全に停止しているか確認作業に入った。

 

 とはいえ3機のうち、霊夢の攻撃によって倒された2機は確認するまでもない――それどころか鉄屑になっているためもはやISですらない――ため、セシリアたちが打倒した、原形を保っている1機が再起動する可能性はないか、爆発の危険はないかを調べるだけだった。

 

 4基のブルー・ティアーズに護衛をさせたセシリアが、ハイパーセンサーでもってゴーレムの状態を確認していると、側に控えていた鈴音と簪が、ぽつりとした声音で謝ってくる。

 

「――その、悪かったわねセシリア。あんまり予想外のことで、ついパニくっちゃって」

 

「ごめんなさい……」

 

 自分に非があると分かればすぐに謝るこのさっぱりした性格が、鈴音の魅力だろう。

 

 簪もひどく落ち込んでしまっており、反省していることは十分見て取れた。

 

 緊急性の高い脅威がないことを確認したセシリアは管制室に安全宣言を発したのち、鈴音と簪の方に向き直って頭を下げてみせる。

 

「こちらこそ、怒鳴ってしまってごめんなさい。きっとお2人とも、嫌な気分になってしまわれたでしょうね……もしわたくしたちも同じ立場だったら、間違いなく取り乱してたのに」

 

「でもあれ、本当に何だったの……? というより誰……?」

 

「申し訳ありません。ご説明したいところですが、今はまだ、わたくしたちからはお教えできませんの。競技会のあとで織斑先生からご説明があるでしょうけど――」

 

 ああ、と閃いたセシリアは言葉を切った。

 

 そういえば霊夢の存在については箝口令が敷かれているが、この後に行われることについては、黙っているようには言われなかったのだ。

 

 だいたいにして、話したい欲求を抑え込むのもそろそろ限界に来ている。それに先の光弾を撃った霊夢について言及されないようにするためにも、早々に話題を切り替えて鈴音と簪の関心を別のところへ逸らす必要があるだろう。

 

 理論武装――要するに言い訳をいくつか見繕ったセシリア、ついでいわく、

 

「怒鳴ってしまったお詫びに、ひとついいことを教えて差し上げましょう。実はこの競技会で、織斑先生から重大発表がありますの――うふふ。きっと先ほどの比ではないほど驚かされますわよ」

 

「重大発表? しかも千冬さん、じゃなくて織斑先生から?」

 

「私、噂は聞いたことある。整備科の先輩たちが話してた……競技会の最後に何か凄いことが起きるかもって。それに、織斑先生が関係してるの……?」

 

「申し訳ありません。今はまだ、わたくしからは説明できませんので……許してくださいませね」

 

 ぴっと指を立て、いたずらっぽいウインクをしてみせるセシリア。事情を知らず、また想像できようはずもない鈴音と簪はただ首を傾げ、訝しげな表情をしている互いの顔を見合うことしかできなかった。

 

 

 




ご高覧ありがとうございました。
ご意見ご感想、誤字脱字のご指摘等々お待ちしておりますm(_ _)m


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。