キルアが斬る!   作:コウモリ

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第1話 ③

「な、何だこりゃ!?」

 

部屋に入るなり、タツミはその光景に目を覆いそうになる。ただの死体ならば見たことが無いわけではない。だが、目の前の死体はただの死体では決して無かった。恐らく自身の心臓を持ったまま絶命している者たち。首を一周回されたまま絶命している男。首を捻り取られて絶命している老人。とてもまともな光景ではない。

何よりも一番驚かされたのは、その地獄絵図の中、涼しげな顔で立っていたのが、自身よりも幼い外見の年端もいかなそうな少年だったことであった。

 

「お前が…やったのか?」

 

思わずタツミは銀髪の少年へ問いかける。少年の返答を待つ間もなく、アカメが刀…一斬必殺「村雨」を抜き、構えた。

 

「動くな!」

 

刀の刃先を少年へ向け、アカメが言い放つ。彼女にしては仕掛けが早過ぎるとタツミは思った。

アカメが持つ刀はただの刀ではない。帝具と呼ばれる異質な武器である。その刃をあんな子供に向けるなど、普通ではない。

 

「お、おい、アカメ。相手は子供じゃ…」

「ただの子供がこの惨状の中で平然としていられると思うか?」

「それは…」

 

普通に考えれば、アカメの言う通りではある。仮に巻き込まれただけだったとしても、ただの子供がこの状況で泣いたり、恐怖に怯えもせずにいられるなど、とてもではないが考えられない。しかし、タツミはこんな子供がこの惨状の当事者であるとも考えたくはなかった。

 

「本当に…お前がやったのか?」

 

タツミは再度、銀髪の少年へ問い掛けた。相変わらず少年からの返答はない。

その間もアカメは村雨を構え、少年の様子を伺っている。一つタツミが気になったのはアカメの様子であった。元々、相手が誰であろうとも油断を見せるようなタイプでは無かったが、それにしても些か慎重過ぎるように見える。構えてさえいない一見無防備な少年を前に、余裕が全く無い。

 

(…どうしたんだ?子供相手に何をそんな警戒して…まさか!)

 

タツミは改めて少年を真正面から見据える。

 

(こいつが…それだけの相手ってことなのか!?)

 

 

 

(面倒臭そうな奴が現れたな)

 

キルアは新たに部屋へ現れた二人を見て、そう思った。

 

(後ろの男はそうでもないけど、あの女の方は結構鍛え込まれてるみたいだな。それに…)

 

キルアは体内に流れる生命エネルギー、つまりオーラを発すると、それを目に集中させた。これは、オーラを一点に集め増幅する能力…即ち「念」の応用技の一つ「凝」である。オーラを目に集めることで相手の隠しているオーラを見ることが出来るのだ。熟練の念の使い手であれば、敵と相対した時には自然とこの「凝」を使って、相手の力量を測るのは日常である。

 

(あの女が持ってる刀から得体の知れないオーラが見える。あれは注意しねーとな)

 

目の前の黒髪の少女がこちらへ向けている刀からは並みではないレベルのオーラが迸っていた。

念とは、キルアのように意識して操ることの出来る者もいれば、無意識で念を放つ者もいる。特に芸術家や作家などのクリエイターで天才と呼ばれるような人物にはそういった者が多い。そして、そういった者たちが作り上げたものには少なからずオーラが宿るのだ。目の前の黒髪の少女が持っている刀も恐らくその類のものであろう。少女自体からはオーラをあまり感じない。念使い同士が対峙してオーラを出さないのは、舐めているか自殺行為に等しいので、彼女自身は念を使えない可能性が高いだろう。

 

(…こっちにはアルカもいるし、迂闊に手は出せねーな)

 

キルアは自然と後ろで安らかな寝息を立てている“妹”の前に盾になるように移動する。アルカもゾルディック家の子供ではあるが、とある特殊な事情でずっと閉じ込められて生きてきた。故に、キルアと同じような訓練などは受けておらず、殆ど普通の子供と相違が無い。戦闘になった時にアルカに攻撃がいくようなことがあれば、それが致命傷となってしまう可能性が非常に高いのだ。先程の男たちのように圧倒的に格下相手ならば例え後手に回ったとしても何とでもなるが、目の前の二人はそうもいかなさそうである。慎重に慎重を重ねるのがキルアの性分であった。

 

「アンタたち何なの?そいつらの仲間?」

 

今度はキルアが尋ねる。単純な疑問であったが、言葉を用いて相手の油断や隙を誘う意図もあった。黒髪の少女の方は何も答なかったが、後ろの男の方がその質問に答えた。

 

「俺たちはそいつらの仲間じゃない。お前こそ何者なんだ?そいつらを殺ったのはお前なのか!?」

 

向こうからの三度目の質問 。この状況を見れば、凡そ検討はつくだろうが、キルアは敢えて惚けることにした。

 

「いや…俺たちが来た時にはこのオッサンらは既に死んでたんだ。ほら、きっとアイツらに殺られたんだよ。ええと、確か…」

 

キルアは街中でチラリと見た手配書を思い出した。

 

「そうそうナイトレイド!そいつらが殺ったんじゃね?」

「…!」

 

目の前の二人は「ナイトレイド」という言葉にピクリと反応した。その様子を見てキルアはニヤリと笑った。

 

「へー、アンタたちがナイトレイドだったんだ?」

「…だったらどうする?」

 

黒髪の少女があっさり肯定した。

 

(口から出まかせでも言ってみるもんだな)

 

キルアが街中で見た手配書は男のものであった。手配書には夜中に人を殺す集団とだけあったので、目の前の二人が男たちの仲間で無いのならば、もしやと思い言ってみたのである。

 

(取り敢えずこの二人がコイツらの用心棒の類じゃないことは分かったな。さて、どうすっか?)

 

仮に目の前の二人がキルアたちを眠らせて拉致しようとした連中の仲間であったならば、後々報復される可能性も考えてここで始末しておくのが確実であった。

しかし、そうでないのであれば、後は向こうの出方次第ではある。キルアだってアルカがいる以上は出来れば戦いを避けたいのだ。相変わらず黒髪の少女はこちらを警戒しているようだが、そもそも戦う理由はもう無い。

 

「…なあ、取り引きしないか?」

 

キルアは二人へそう取り引きを持ちかけてみた。

 

「取り引き…だと?」

「ああ。俺たちは何も見なかった。だからアンタたちも何も見なかった。それで手打ちにしようぜ?」

「…………」

「俺たちはただ観光しに来ただけでそれ以上は何もするつもりはないよ。コイツらだって、襲って来たから返り討ちにしただけだしさ」

「自分がやったと認めるのか?」

「え?だって最初からそう思っていたんじゃないの?つーか、俺以外に犯人いないだろ?この状況でさ」

「本当にお前が…」

 

男の方が信じられないという表情でこちらを見る。どうやら、あの男の方はあまりこういった仕事に慣れてはいないようだ。新入りか下っ端なのだろう。

 

「…お前は危険だ。ここでお前を野放しにするのは良くない。そんな気がする。だから、お前とは取り引きはしない」

 

黒髪の少女はそうキッパリと言い放った。それを聞いてキルアは少しカチンと来る。

 

「へー…。アンタらだけで俺を止められると思ってんの?」

「…!」

 

キルアが発した殺気に黒髪の少女は思わず距離を取り直した。先程よりも両者の間が離れている。

 

「…やはり、お前は危険だ。ここで、斬る!」

「あっそ。…上等だ。返り討ちにしてやるよ」

 

キルアはこの日、初めて構えを見せる。結局、戦うことになってしまったが、どの道このまま見逃してくれる雰囲気では無かった。ならば、力ずくで押し通るしかない。

 

「すぐに片付けてやるよ」

 

そう言って最初に動いたのはキルアの方であった。


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