キルアが斬る! 作:コウモリ
「あ~あ。こっちは外れかな~」
ラバックが欠伸混じりに言った。要人警護の任務とは言え、まさか警護対象に側へ張り付くわけにもいかないので、ラバックとアカメは遠くから警護対象を見守り、異変があったら急行するという方法を取っていた。アカメと違いラバックは手配書に載ってはいないが、敵が帝具使いであることを考えればバラバラに行動するのは得策とは言えない。その為、こうして二人は一緒に行動しているのだ。
「油断するなラバック」
アカメが忠告する。
「敵が何処に潜んでいるのかもまだ分からないのだぞ?」
「…とは言え、周囲に張った罠のどれにも反応は無いし、仮にそれらを上手く潜り抜けたとしても、殺るチャンス自体は今までにいくらでもあった。だろ?」
そう言ってラバックは手にした糸の帝具、千変万化「クローステール」を見る。この糸は超級危険種の体毛から作られており、丈夫で伸縮性も高い。並みの相手であれば、絞め殺したり時には切断することも可能である。また、これを張り巡らせることで、侵入者を察知するセンサーとして使うことも出来るのだ。名前の通り、様々な用途に応用出来る汎用性の非常に高い帝具であった。
「…確かに、殺気を全くと言っていい程感じないのも事実だな」
アカメもその一点には同調した。無論、警戒は一切解いていないが。
「って、ことは、敵は竜船の方か?…タツミは大丈夫かね?」
ラバックはふと同世代の仲間のことを気にかけた。レオーネやらシェーレやら、自身が敬愛するナジェンダにさえも気に入られてるということで最初は何処となく気に入ってなかったが、同じメンバーとして過ごす内にそれなりに親近感や友情のようなものを感じてもいた。ラバックの目から見てもタツミには確かな素質はある。だが、それでもまだ実力的にはナイトレイドの中では下だし、帝具も持ってはいない。ナイトレイドを騙る偽者は複数人の帝具使いであると見られているので、もし敵が全員竜船にいるのであれば、ブラートがいても無事でいられるかどうか。
(それと、あのキルアってガキ…)
ラバックはついこの間ナイトレイド入りした銀髪の少年のことを思い出す。
(…得体が知れないってのは、ああいうのを言うんだろうな。子供に化けた物の怪って言われても納得だぜ)
あの年齢では有り得ぬ程の所作の一つ一つ。普段から足音を全く立てずに歩いたり、いくらでも対応可能な素人ならひょいと騙されそうなわざとらしい隙を常に作っていたり、尋常ではない。ラバックもナイトレイドに身を置いてそれなりに時間は経っているので、その凄さが嫌でも理解出来てしまう。
(…妹の方は普通みたいだけどな)
ラバックは次にキルアが連れて来たアルカという“妹”について思い浮かべる。
(兄妹の割にあのキルアってのにあまり似てなくて、礼儀正しいし可愛いし黒髪だし…………お、俺は別にロリコンってわけじゃねーぞ!って、誰に言い訳してんだ俺は?)
ラバックはわしゃわしゃと緑色の髪を掻きむしる。
「どうした?」
「な、何でもねえ!」
(…と、とにかくだ!タツミ、死ぬなよ!)
「おい、ニャウ!どうした!?」
エスデス直属の部下、三獣士が一人、ダイダラ。ニャウの吹く笛の音が突然途絶えたことを不審に思い、様子を見に彼の待機場所であった船床までやって来たのであった。
「ニャウ!返事しろ!」
ダイダラは声を張り上げるも、当のニャウからの返答は無い。
「まさか…やられちまったのか!?」
ニャウは何処か軽い人物ではあったが、任務をサボるような人間ではない。こんな中途半端なところで帝具による演奏を止めるなど只事ではないとダイダラは直感する。エスデス将軍の元、共に任務をこなしてきたのでニャウの実力はよく分かっているつもりであった。自身のように常に真正面から戦うタイプでは無かったが、決して肉弾戦に弱いわけではなく、そこいらの連中相手に簡単に殺られるようなタマではない。だからこそ、この事態は異常であると言えるのだ。ダイダラは緊張し、周囲を警戒する。誰かがいるような気配は今のところ感じられない。
暫く明かりの無い船床を歩いていると、足の先に何かがぶつかる感触があった。ダイダラは目を凝らして足元をじっと見つめる。すると、見覚えのある服が目に飛び込んできた。
「ニャウ!!」
ダイダラは急いで床へ仰向けに倒れていたニャウの体を起こそうとする。が、その重量に僅かな違和感を覚えた。
「…お前、こんなに軽かったか?」
そう言ってニャウの頭部へ目を向けたダイダラは思わず目を見開いた。そこにある筈のものが無かったのだ。
「にゃ、ニャウ!?」
「…てめーもすぐにアイツのところへ送ってやるよ」
「!?」
背後から突如聞こえてきた声。振り向くと、銀色の髪の少年が笑っていた。
「笛の音が…止んだ?」
ブラートは今まで不快に感じていた音色が急に聞こえなくなったことを不思議がる。笛の音が止んでも、萎えた戦意はあまり戻っていないようで、まだ完全に力を出せる状態ではない。透明化も何時の間にか解けてしまっていた。今、敵に襲われると苦戦は必至であろう。ブラートでさえこの状態なのだから、タツミはもっと辛い筈である。現にタツミは船の手すりに掴まって立っているのがやっとという感じであった。
「大丈夫か、タツ…」
ブラートはタツミへ声を掛けようとする。と、その時視線の向こうに信じられないものを見た。それは、こんなところには決していないであろうと思っていた人物。
「…!?あ、貴方は!?」
「久し振りだな、ブラート…」
そう口を開き、こちらへ向かってゆっくりと歩を進めてくる壮年の男。それは、かつてブラートが帝国兵時代の上司であったリヴァであった。