キルアが斬る!   作:コウモリ

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第1話 ①

「ほう…中々に興味深い話だな」

 

眼帯の女はそう言うと煙草に火を点けて咥え、義手の上に手を置いた。その義手はまるで工業用の機械であるかのように大きく、ただ腕の代わりをするだけのものにしては武骨過ぎていた。

 

「ボス。私はこの目で見たんだ。タツミよりも小さい子供が屈強な男…それも三人掛かりだったのを一瞬で殺ったのをさ」

 

豊満な胸を持った金髪の女が今も信じられないという表情で言った。

ボスと呼ばれた眼帯の女はふうっと紫煙を吐き出す。

 

「…だが、レオーネ。年端もいかぬような子供が自身よりも圧倒的に体格で勝るような相手を殺したところで、それ自体は別に珍しいことじゃないだろ?」

「私が驚いたのは、そのスピードだよ。あれは人間業じゃなかった」

「レオーネ程の実力者にそう言わせるとはな」

 

眼帯の女は半ば感心したように言った。

 

「…まさか、帝具使いか?」

「そういう風には見えなかった…けど、そうじゃないと辻褄が合わないレベルだったね。寧ろ、今はそうであって欲しいとさえ思い始めてるくらいだ」

 

レオーネと呼ばれた金髪の女がそう言うと眼帯の女は苦笑する。

 

「…で、お前はその子をどうしたいんだ?」

「出来ることならウチらの仲間にしたい」

「そうか。だが、果たして、その子は我々の仲間になってくれるのかな?」

「仲間になってくれたら凄く心強いんだけどな」

「私もそう思う。が、私は話を聞いただけだからな。この目で見るまではこれ以上何も言えないな」

 

眼帯の女は再び煙草の煙を吐くと、より真剣な表情に変わった。

 

「…話は変わるが、例の話、今夜決行するぞ」

「お!遂に裏が取れたんですか?」

「ああ。間違いない。証拠も上がった」

「よっしゃ!そんなら是非とも私に行かせて下さいよ!」

 

レオーネの主張に対して、眼帯の女は首を降った。

 

「いや、今回はアカメとタツミに行かせるつもりだ」

「あの二人に?」

「ああ。タツミはもっと経験を積ませないとな。それにアイツとアカメはいいコンビになりそうだと思わないか?」

「確かに…」

「だろ?」

 

二人は顔を見合わせ、そして破顔した。

 

 

キルアとアルカが大通りまで戻る頃には、外はすっかり暗闇に支配されていた。キルアよりも幼いアルカは眠気眼をしきりに擦っている。

 

「大丈夫か、アルカ?」

「うん…zzz」

「こりゃ、早く宿取んねーとな」

 

うつらうつらとしているアルカの肩を抱きながらキルアは宿を探す。と、少し先にそれっぽい看板を発見した。安っぽそうな所ではあったが、アルカがこんな状態なので十分に宿の吟味をする時間もなく、キルアは仕方なくそこへ入ることに決めた。

 

「いらっしゃい」

 

扉を開けると、嗄れた声の老人がキルアたちを迎えた。老人は子供だけで入ってきたことに気がつくと、目に見えて怪訝な表情になる。

 

「坊やたち、両親はどうした?まさか子供だけで宿泊か?」

「ああ。取り敢えずこれで部屋用意してくれよ」

 

そう言ってキルアは大きな袋を老人に手渡した。中には大量のお金が入っている。既に持ち金をこの国の通過へ換金していたのであった。

 

「ほっ!?こ、これは…?」

「まさか足りないなんて言わないよな?」

「ひ、ひまふぐ用意ひまふ!」

 

余りの額に老人は入れ歯を外しながら部屋の用意へ走った。待つこと数分、老人が戻ってくる。

 

「さ、ささ!こちらへ坊っちゃん殿!」

「ん、ご苦労」

 

キルアたちは老人に案内され奥の部屋へ通される。部屋の中はベッドが二つあるだけで、他に何もない質素なものであった。外観からあまり期待はしていなかったが、実際に部屋に入れられると、少なからず後悔が生まれてくる。

 

「お兄ちゃん…zzz」

 

アルカがもう限界みたいなので、キルアは仕方なくベッドに寝かせることにした。着の身着のままで寝間着にも変えていないが、気持ち良さそうに寝ているアルカを見ると無理矢理起こす気にはならない。たまに甘やかし過ぎだと反省する時もあるが、それだけアルカのことが可愛いのだ。とある事情で長い間記憶から消された最愛の“妹”のことをキルアは特に大事にしたいと思っていた。

 

「ハハ、もう寝てら。一日中歩いたから疲れたんだろーな」

 

キルアはアルカの頭を撫でながら独り言ちる。この幸せそうな顔を何時までも守り抜く。その為ならキルアは鬼にも悪魔にでもなる覚悟が出来ていた。

 

「アルカ…、お兄ちゃんがずっと守ってやるからな」

「zzz…えへへ、お兄ちゃん大好き…」

「…ああ、俺もだ」

 

キルアはそう言ってフッと笑った。

 

 

 

「チッ、ガキ二人か」

 

野太い声が残念そうに言う。

 

「し、しかしすんごく金持ってたぞ…?」

 

嗄れた声が答えた。

 

「どっかの金持ちのご子息…ってところか。まあ、いい。ガキはガキで需要があるからなあ」

「へへへ…旦那あ、分け前はいつもの通りくれるんですよねえ?」

「こんだけ貰っておいて分け前まで貰うつもりか。この強欲ジジイが」

「へっへっへ…」

「しっかし、アレだな。てめえの宿に泊まった客を人買いに売る店主がいるかね?」

「へっへっへ、ここにおりますぜ旦那あ」

「救いようのねえクズだな、てめえは!」

「ひっひっひ、旦那ほどじゃないですよ」

「言うねえ、ガッハッハッハ」

 

下品な笑い声が闇に響く。時刻は間もなく深夜を迎えようとしていた。


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