キルアが斬る!   作:コウモリ

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第5話 ①

「確か、この辺か…」

 

キルアはメモを見ながら呟いた。周囲は既に闇に落ちており、子供だけで徘徊するには不都合な時間帯。キルアは出来得る限り誰にも見つからぬようぬ気配を絶ちながら街中を歩いていた。元々、気配を経つことに関してはプロフェッショナルのキルアであったから造作も無いことであったが、かと言って一切の油断は無い。キルアは日常的に暗殺稼業に身を置いていたことから、それが所作の一つ一つに現れる。例えば、足音。キルアは普段から足音を立てずに歩いている。これは癖のようなもので、本人も意識せずにやってしまうことだから止めようとしても中々止めることが出来ない。逆に言えば、そんなキルアを足音から探るのはほぼ不可能なのだ。つくづく、彼はエリートの暗殺者なのだと周囲には思い知らされる。

キルアが今何処へ向かっているかというと、カガリと別れた後に彼から教わったとある場所に向かっているのである。

 

(今夜、ここにナイトレイドが現れる筈だ。彼らと接触するならチャンスだな)

 

そう言って彼から手渡されたメモは、騙されて買わされた地図に比べると道や地形まで正確であった。如何にあの地図が酷かったのかを思い出してキルアは少しムカッとする。

 

(…ま、こんなのが無くても俺は既にアイツらのアジトを知ってるんだけどね。尤も、今も拠点を変えて無けりゃ、だけど)

 

本当にプロフェッショナルな集団ならば、キルアに忍び込まれた時点で敵と繋がってる可能性を考慮してアジトの場所を移すのが定石だろう。それと同時に少人数とはいえ、あれだけの設備の整った拠点がそういくつもあるわけがないという考えもある。例のアジトは忍ぶには目立ち過ぎるくらいの施設であった。もっと質素なアジトがいくつか存在すると仮定しても、出来る限り設備の充実したあの場所からの移動は避けたいと考えてもおかしくはない。故に彼らが今もその場所にいるかは五分五分であった。で、あるならば、ほぼ確実に出会えるであろうカガリの教えてくれた場所の方が再び彼らと接触出来る可能性が高いとキルアは考えた。

 

カガリとは何かあれば連絡を取るということでそのまま別れた。彼が何処に潜伏しているかを教えては貰えなかったが、そもそも一緒に行動する理由も無いので、聞こうともしなかった。

キルアの居場所については、グリーとグラーの両方にキルアの匂いを覚えさせることで何時でも二匹を向かわせることが出来るらしい。今日のところはカガリから教えて貰った情報からナイトレイドと再度接触して、彼らと行動を共にするよう持っていくことにした方がいいだろう。

 

 

「zzzzzzzzz…」

 

時刻は深夜近く、アルカは例の如くキルアの背中で眠っている。キルアはアルカを起こさぬよう出来るだけ揺らさないように歩いていた。

アルカはよく眠る。アルカの起きている時間は、実はそれ程長くは無いのだ。

 

「ムニャムニャ…お兄ちゃん大好き…」

「…幸せそうな顔して、どんな夢見てんだ?」

 

アルカの寝顔を見て、キルアは自然と優しい顔になる。それと同時に、少し申し訳無いような気分にもなっていた。

思えば、今回の件はアルカを無視して進めてしまった感がある。それだけカガリの出した条件が魅力的であったし、間接的にアルカに関わってくることなのだが、肝心の本人の意思はどうだったのだろうか。あの後、アルカは仕事の件については「一緒に遊ぶ時間、減っちゃうね」と残念そうであったが、反対はしなかった。寧ろ「お仕事してるカッコいいお兄ちゃんが見られて嬉しい」とまで言ってはいたが、それをそのまま受け止めてもいいものか。

子供離れした身体能力と思考をするキルアもそういった部分はまだ未成熟で年相応な思春期の子供であった。尤も、彼程特殊な環境下で育ったのならば、そういった感情を持てるのもある意味では奇跡なのかも知れない。

 

(…そういや、アイツは元気にしてっかな?)

 

静かな夜道を歩いていて、ふとキルアはとある人物のことを思い出していた。それは、闇でしか無かった自分に光をもたらしてくれた存在。今でも大事な掛け替えの無い友だち。

 

(…何だろうな。アイツのことを考えると、時々何かこう切ないっつーか、胸を締め付けられそうになる)

 

その彼のことを思い浮かべながら、キルアは寂しそうな表情をしている自分に気が付く。それはキルアが他人には滅多に見せない表情の一つであった。

 

(…とと、いけね。今はアイツのことより仕事のことだ。ええと、道は間違ってねーよな?)

 

キルアは再びメモに目を落とす。道は間違ってはいないようで、そろそろナイトレイドが今夜標的にしているという相手の場所に着きそうであった。

周囲の闇は思っていたよりも深い。街中なのに灯りが少ないような気がする。闇に乗じて…とまではいかなくても、月明かりがやけに映えるような暗さであった。

 

(ん?)

 

キルアの視線の先に誰かが立っていた。ナイトレイドの誰かではない。月明かりに照らされたシルエットからするとキルアと同じくらいの子供のようである。

 

「!!」

 

その淡い光の中でキルアは見てしまった。ここにはいない筈の人物をその目でハッキリと。

 

「嘘…だろ?」

 

思わずキルアは目を見開く。そして、その者の名前を口にした。

 

 

「…………ゴン!」


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