FAIRY TAIL転生記~炎の魔王の冒険譚~ 作:えんとつそうじ
今回からとりあえず、主人公の現在の状況の説明となります。
緋色の髪を持つあの原作キャラも登場しますので、暇つぶしにでもお読みください。
第一話 ローズマリー村
―――フィオーレ王国。
人口1700万の永世中立国。
そこは魔法の世界。魔法は普通に売り買いされ、人々の生活に根付いていた。
そしてその魔法を駆使して生業とする者たちがいる。人々は彼らを『魔導師』と呼んだ。
魔導師たちは、様々なギルドに属し、依頼に応じて仕事をする。
そのギルド、国内に多数。そしてとある街にもとある魔導師ギルドがある。
かつて、いや後々に至るまで数々の伝説を残したギルド。
―――その名は『
アニメ『フェアリーテイル』一話冒頭ナレーションより抜粋。
(CV:柴田○勝)
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フィオーレ王国の辺境にローズマリー村という村がある。
村の名前どおり春になると村中にローズマリーの花が咲き誇ることで有名な田舎町なのだが、そんな村の入り口に一人の少年の姿が見える。
さらさらと流れるような黒髪に、宝石のように赤く輝く瞳と、今から将来が楽しみな品のある美少年なのだが、彼が「背負っている荷物」がそんな彼の雰囲気を全て台無しにしていた。
その荷物とは前兆二メートルはあろうかという大きな猪。まだ十歳程度にしか見えないこの少年は、そんな巨大な荷物を軽々と背負いながらも悠々と村の中を歩いていた。
普通に考えればかなり異様なはずの光景なのだが、この村ではよく見る光景なのか、偶然彼を見かけたとある村人は、そんな彼の様子に特に動じた様子を見せずに、笑みを浮かべながら少年に話しかける。
「おお、ユーリ!今、帰ってきたのか?ていうか今日の獲物はまた大物だな?」
「まあね。今回は我ながら運がよかったよ。後で村の皆にも配るからな」
「おっ!それはありがたいな」
村人の言葉に、これまた少年も笑みを浮かべて返す。
どうやら信じ難いことだが、村人の言葉から察するに、この猪はこの少年が狩ってきたということらしい。それどころか、どうやらこの少年は、まだ子供の身でありながら日常的に狩りを行ってもいるらしい。
この少年は三ヶ月前にこの村の村長が森で拾ってきたのだが、それから身寄りがないということで、この村に住むようになったのだ。
初めはどこから来たかもわからない子供を村に入れるのに村人たちは難色を示したのだが、彼の明るい性格と、子供らしからぬ気配りの高さ。そして時々こうして狩りで大物を仕留めたら、気前よく獲物を分けてくれるので、瞬く間に彼は村の皆に受け入れられていった。
そんな彼の名は『ユーリ・クレナイ』。
しかしこの名前はあくまで「この世界」風に直した名前であって、彼の本当の名前は別にあった。
彼の本当の名は紅勇里。
別の世界にある日本という国で死に、いつの間にかこの世界に生まれ変わった男。
もし彼が住んでいた世界の、俗に「オタク」と呼ばれる人種の人間が彼のことをしれば、驚愕と羨望とともに、彼のことをこう評するだろう。
―――『転生者』と。
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「ふう。今日も無事に獲物が狩れて本当によかった……」
俺の名前は紅勇里。今ではとある理由でユーリ・クレナイと名乗っている。
なぜこういう形で自分の名乗りを変えているのかというと、単純に「この世界」ではアメリカなどの外国と同じように、姓が後で名前が先にくるのが普通なため、このように俺も名前を先に、そして姓を後に名乗っているのだ。
……そう、もう「この世界」といっていることからわかるだろうが、実は俺は転生というものを経験したらしいのだ。
「(まさか本当に転生するなんてなあ)」
転生とは、本来は仏教用語で「生まれ変わり」を意味するのだが、俺が一時期ハマっていたネット小説ではこの転生というものをした主人公が活躍するというものが、実は結構多かった。
その中でも特に俺が好きだったのは、所謂剣と魔法のファンタジーな世界が舞台の小説だったのだが、実は過労で死んでしまう直前、冗談半分でもし本当に転生というものがあるというのなら、「今度は剣と魔法のファンタジーな世界に産まれて、冒険の日々を送りたい!」というようなことを願ったのだが、まさか本当にそれが実現してしまうとは。
「(『事実は小説より奇なり』ってよくいうが、本当だなー)」
俺は生前高校に入学したころ、両親を亡くし、当時五歳の妹を育てるために自分のことは放ったらかしにして、ずっと働き詰めの日々を送っていた。
そのせいか、我ながらろくな青春を送ってこなかったのだが、もしかしたらどこかにいる神様が同情して、俺をこの世界に生まれ変わらせてくれたのかもしれない。
「(……いや、どちらかというと神隠しとか、トリップとかいった方が正しいのかな?)」
なにせ、俺がこの村にいるのは、小説のようにこの村の誰かが俺を産んだとかではなく、森で倒れていた俺をこの村の村長が拾ってくれたからだというのだから。
なぜか、この世界に来た影響なのか、俺の肉体は10歳程度にまで戻っていたが、それ以外は記憶も何もそのままだったために、最初は何が起こったのかわからず軽いパニックに陥ったものだ。
まあ、これは我ながら仕方ないと思う。なにせ、死んだと思ったら、いつの間にか自宅でも病院でもない、まったく知らない部屋にいたのだから。様子を身に来てくれた村長のことも、最初は誘拐犯かなにかだと思って大分失礼な態度をとってしまったし。
まあ、それで村長に俺の身元を聞かれたのだが、最初なんと説明していいかわからなかったが正直に話すことにした。
転生やトリップ物でのお決まりのように、記憶喪失でも装おうと思ったが、そんなことしても既に今さらだったし、それで村長に不信感でも持たれたら困る。なにせ、その時は村長がこの世界での唯一の情報源だったのだから。
そして全てを話したのだが、村長はいうほど驚いておらず、しかし別に俺のいうことを全く信じていないというわけでもなさそうだった。
それを不思議に思い、村長に聞いてみたのだが、実はこの世界、「アースランド」では俺のように突如この世界に現れるということは珍しいことではあるが、ないこともないらしく、その者たちは一様に「エドラス」という別の世界から来たといっているらしく、村長は以前その話を耳にしたことがあるのだという。
そのことを聞いた俺はかなり驚いた。俺のような転生者が以前にもこの世界にやってきていたのかと思ったからだ。
しかし話を聞いて行くうちにそれは違うと判断した。実は俺が死ぬ間際に「剣と魔法のファンタジーな世界」と願ったからかどうかわからないが、この世界には本当に魔法があり、そのエドラスとかいうところから来た者の中にも魔法の存在を知っていた者がいたという。
同じくこの世界に突然現れた俺が、初めは魔法の存在を知らなかったというのに(ちなみに俺は村長に聞いて初めて魔法の存在を知った)彼らは最初から知っていたということは、彼らの世界もこの世界のように魔法が存在するということ。つまり俺がいた世界とは、完全に別の存在だということになる。
だがまあ、そんなことは知らない村長は、俺のことを彼らと同じような存在だと思い込み、あまり不審に思っていなかったようなので、ここは結果オーライということにしておこう。
まあそんなわけで、村長への説明はそのまま無事に終わったのだが、そこで俺はある問題があることに気づく。……そう、住む場所がないのだ。
文字通り、着の身着のままこの世界に放り出された俺には家などあるわけがなく、お金は多少持ってきてはいるが、この世界と元の世界では通貨が違うので役に立つわけがない。
その事実に直面した俺は、そのままこれからどうするかと、うんうんと唸っていたのだが、そんな俺を哀れに思ったのか、村長は俺に助け舟を出してくれた。
なんでも、この村には一軒だけ居酒屋があるらしいのだが、その食事処を経営していた夫婦が、先日子供もつれて、親子連れで大きな街に出かけた帰り道、事故に遭い娘一人残してそのまま死んでしまったんだそうな。
それで、今はその娘が一人でその居酒屋に住み着いているらしいのだが、流石に居酒屋を子供一人で経営できるわけがなく、店はずっと閉まったままなのだとか。
幸い、この村の人たちは人がよく、また村長自身もこの居酒屋の夫婦のことを気に入ってたみたいで、村の有力者が集う集会などの会場をこの居酒屋にし、その賃貸料などを払ったり、他にもいろいろ理由をつけて援助したりと皆でその子を助けているため、今のところは特に生活に困っているとかそういうのはないようなのだが、俺が生前それなりに長い期間食品会社に勤め、また妹にちゃんと栄養をとらせないとと、その経験を生かして自己流で料理をしていたことを聞き、必要なら手伝いを出すからその居酒屋を再建してくれないかと頼まれたのだ。
俺はこの提案に少し悩んだが、この世界での俺は(まあ前の世界でも同じようなもんだったが)生活を助けてくれるような後ろ盾が全くないということと、俺と同じような境遇、いや俺以上の境遇であるというその娘に、僅かばかり同情してくれたということもある。
俺の時には、助けてくれる身内はいなかったが、血の繋がっている妹がいたし。毎日の生活はきつかったが、あいつの存在は俺の励むになった。あいつがいなければ、俺は途中で挫けていただろう。
まあ、そんな理由もあり、俺は村長のその話を、ありがたく受けることにした。
そして俺はその後、一応実力を見るというのと、他の有力者の面々を納得させるために自分の料理を披露し、そして彼らに合格を貰ってから、その残された居酒屋の娘という子と話し合い、これまた料理を作って実力を証明しながら説得し、俺はそうしておそらく10歳ほどまでに下がった肉体で、居酒屋を経営しておくことになったのだが、俺は正直店を経営してすぐにこのことを後悔することとなる。居酒屋の経営が想像していた以上にハードだったのだ。
料理ができるのは俺一人で、給仕も会計も少女一人。村長の好意で、村で暇をしていた未亡人という中年の女性を二人ほど手伝いとして回してもらったが、それでも彼女たちもプロというわけではないため、しばらくは要領がわからず、大分苦戦していた。
それにどうやら俺の料理が気に入った人がかなりいたようで、初日以降仕事帰りのおっさん連中どころか、食事をここで済まそうとする奥様連中なんかも押しかけ、もう生前でもこれ以上は忙しくなかっただろうというくらいの客入りだった。
だが人間とは慣れるもので、今ではさすがに鼻歌を歌いながらというわけにはいかないが、皆それぞれ立派に仕事をこなせるようになり、今では立派に店を経営できるようになるまで成長した。……まあ、流石にお客さんの数が落ち着いてきたっていうのもあるんだけどな。
しかし、お金のためにしょうがなくやっていた仕事だけど、真面目にやっておくもんだな。まさか、妹に栄養ある食事を作るくらいしか使い道がないと思っていた料理の知識が、こんなところで役に立つとは。
まあ、でも正直、なぜかこの世界にも普通にあった醤油や味噌なんかの定番調味料がなければ、ここまで成功しなかったと思う。いくらなんでも醤油や味噌なんかの正確な作り方なんて覚えてないし、それを作ることができる資金も無い。
それになぜかこの世界に来てからの俺は、尋常ならない……は流石にいいすぎだが、子供の肉体ではありえないほどの力を手に入れたみたいで、成人男性でも苦労するほどの重量の荷物でも、軽々と持ちあがるようになってしまった。
そのおかげで、本来なら子供の筋力では不可能であろう力のいる調理(中華鍋を振ったり、猪なんかを解体したり)も普通にこなすことができて大助かりだ。
まあそんなわけで、僅か10歳(見た目)で居酒屋の料理人兼店主(オーナー居酒屋の娘)に就職することになった俺なのだが、実は今では結構余裕ができてきたために、最近では居酒屋の仕事の他に時々森に狩りにいってたりする。
村の皆には、表向きの理由としては食材費を抑えるためだとか、新鮮な食材を提供するためだとか説明しているが、本当の理由はいたって単純。体を鍛え上げるためだ。
なにせ、どんな理由で俺がこの世界に来たのかは結局わからなかったが、それでも夢にまで見たファンタジー世界。
あいにく魔法はこの村では手に入れることはできないらしいし、そんなお金もないが、それでも村長に聞いたところ、この世界には魔法を使わないで、魔獣なんかの化け物や、強力な魔法を持つ魔導師たちを圧倒する者たちもいるらしいので、今から体を鍛えれば、例え俺が魔法を使えない体質とかだったとしても、決して無駄になることはないだろう。
それほど、俺にとってファンタジー世界での大冒険というのは、憧れの生活だったりする。
ちなみになんで体を鍛えるのに狩りを行っているのかというと、どこかで子供の頃に無理な筋力トレーニングをすると、将来身長が伸びなくなるとどこかで聞いたので、筋力トレーニングは最低限にし、体力をつけるためのランニングやダッシュを中心にトレーニングを行い、体の動かし方を学び、森でのサバイバル知識を身につけるために、村の狩人の一人であるとあるおっさんに習い、こうして訓練がてら森に狩りに出かけているというわけである。
「(……でも正直、最近ではこのままの生活でもいいやとか感じ始めてるんだけどね)」
忙しいのは生前とあまり変わらないが、それでもこの仕事は誰に強要されたわけでもなく、無理やり朝から深夜まで働かされているわけでもない。
自分の料理を美味い美味いと笑顔で食べてくれる人たちがいて、近所の人たちも俺の境遇を村長から聞いたのか、かなり優しくしてくれる。
やっていることは居酒屋の店主と、生前の日本でもありふれた職業だが、それでも前世とは違いかなり充実した日々を送れていた。
「(それに「あの娘」のことも気なるしな)」
そう、俺が将来冒険するためにこの村を出て行ったら、彼女はこの村でまた一人になってしまう。
村の人たちはそんな彼女を助けてくれるだろうが、それでももはや二人目の妹として彼女を見始めた俺には、もう彼女のことを知らんぷりして放っておくことはできない。
「(……本当に、どうすっかなあ)」
と、俺がそんなことを考えていると、俺の視界に一軒の大きめの木造家屋の姿が入る。
なぜか鳥の形をした看板を出しているこの家こそが、現在の俺の居候先であり、勤務先でもある居酒屋、「はと屋」。そしてその家の前では、一人の少女がこちらに向かって大きく手を振っているのが見える。
「……あいつ」
この少女こそが、実はこの居酒屋の元店主たちが残した一人娘だったりするのだが、俺はその少女がこちらを信頼しきった笑みで、こちらに駆け寄ってくるのを見て、なんだか先ほどまであれほど悩んでいたのが、なんだかバカらしくなってきた。
「(まあ、いいか。どうせ、出ていくとしても体が十分に出来上がってからにしようと思ってたし。それにいざとなったらあいつも一緒に連れて行けばいいしな)」
そんなことを考えている間に、少女は無事に俺の元に辿りつき、息を少し切らしながらも、上気した顔でこちらを見上げてきた。
「おかえり、ユーリ!」
「ああ、ただいま。なんだ?待っていてくれたのか?」
俺がそういうと、その少女は少し恥ずかしそうに顔を伏せる。
「う、うん。今日は何時もより少し遅かったから、なんだか少し心配になっちゃって。そ、その迷惑だったかな?」
「そんなことないさ」
なぜか不安そうにする少女を安心させるように、俺は少女の頭を何回かぽんぽんと軽く撫でつけると、今日の成果を少女に見せつけるために、先ほどまで背負っていた猪を地面へと落とす。
「今日は久しぶりに大物が捕れたからな。それで若干手こずったんだ」
「わあ!?本当だ、大きい!!」
「(……今まで気づかなかったのか?)」
思いっきりこいつの視界に入っていたと思うんだが。
まあ一緒に住みはずめて、こいつが若干天然が入っているのはわかっているので、ここは俺を心配しすぎて俺しか視界に入ってなかったと考えておくことにしよう。
「ま、まあいいや。それで今日はこいつを村の皆と一緒に食べようと思うんだが、悪いんだけど仕込みを手伝ってくれるか?さすがにこの大きさを一人で捌くのは骨だからな」
「うん、わかった。それじゃあ早く朝ごはんを食べて仕込みにしよう?今日は自身作なんだ!」
「あ、おい!?」
俺は少女に手を引かれて、引きずられるように家の中へと入っていく。
「(やれやれ。こちらに遠慮しなくなったのはいいが、少しおてんばになりすぎたかな?)」
実は初めはこいつは、引っ込み思案なのか、それとも男が苦手なのか。それとも近所の大人に面倒を見られ続けたために、他人から好意を素直に受け取れなくなってしまったのかはわからないが、なにかにつけて人に遠慮する様が見られたため、その姿に俺が不甲斐ないせいで、幼いころにいろいろ寂しい思いをさせた妹の姿を思い出した俺は、せめて俺だけには遠慮しないようにいろいろ工作したのだが、少々やりすぎたかもしれん。
「(……まあいいか。子供は何よりも元気が一番だっていうし)」
少しくらいおてんばでも、あいつは基本的にいい子だから問題ないだろう。
そう考えた俺は、今も俺の腕を引っぱっている少女に向かって口を開く。
「おいおい、少し待ってくれ。そんなに急がなくても大丈夫だって」
あ、そうそう。そういえばこの娘の紹介をするのを忘れていたな。
彼女の名前は『エルザ』。
この村唯一の居酒屋の店主だった男の一人娘であり、今の俺の雇い主でもある。
………あれ?いったい誰にいってるんだ、俺は?
今作は、前作と違い、ローズマリー村編から始めます。ちなみにもちろんメインヒロインはエルザ押しで(笑)
それでは、感想や誤字脱字の報告、そしてアドバイスなどがありましたら、どうかよろしくお願いします。