FAIRY TAIL転生記~炎の魔王の冒険譚~   作:えんとつそうじ

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どうも、えんとつそうじです。


今回は、主にエルザ視点の話になります。といっても、ほぼ前作と同じなので、前作を読んでくださっている方には退屈かもしれませんが、どうか、暇つぶしにでもいいので、お読みいただけると幸いです。


第十一話 緋色の悲劇

 ここは、楽園の塔第三セクター地下。通称『ゴミ処理場』。

 

 

 この楽園の塔で発生するあらゆるゴミは、ここに集められ、定期的に島の外の海へと捨てられている。

 

 

 逃走の恐れがあるため、本来ならここに立ち入ることができるのは、教団の神官たちくらいしかいないのだが、そんなこの場所で、本来いるはずのないその少年は目を覚ます。

 

 

「……んあ。ここは?」

 

 

 そう、この少年の名はユーリ・クレナイ。この物語の主人公である。

 

 

 なぜ彼がこのような場所にいるのか?それは彼が一度死んでしまったことに理由があった。

 

 

 本来、このゴミ処理場には、この楽園の塔の神官たちや奴隷たちの生活から出るゴミや、楽園の塔建設の際に出る土砂や岩の破片などが捨てられているのだが、中には教団に反抗的な態度をとったために、神官たちの責めを受け、そのあまりの激しさに死んでしまった奴隷たちや、塔建設の際に時々起きる落盤事故などに巻き込まれてしまった奴隷たちの死体も、ここにゴミとして廃棄されている。

 

 

 つまり、彼は神官たちの折檻を受け、肉体的に死んでしまったために、他の奴隷たちと同じく、ここに捨てられてしまったというわけである。

 

 

 ユーリも辺りを見渡し、状況を理解したのか、一つため息をついてその場から立ち上がると、体の調子を確認する。

 

 

「(すげえ……。神官どもにやられた傷どころか、古傷まで全て治っている。それに体中から力が溢れてくるようだ。―――これが悪魔の力か)」

 

 

 感嘆の溜息をつきながらも、心の中でそんなことを呟いていたユーリであったが、ふと、自分の頭の中に、全く聞いたことも見たことない情報が流れ込んでくることに気づいた。

 

 

「(これは!?……そうか、これがサーゼクスが俺に与えるといっていた彼の力。その使い方か!!)」

 

 

 他にも続々とユーリの中に流れ込んでくる様々な情報。それは、サーゼクスが悪魔として持っていた、彼特有の能力。『呪法』についての知識だった。

 

 

 呪法。サーゼクスから能力と共に貰った情報によれば、それはゼレフ書の悪魔たちが魔法の代わりに使用する力のことで、なんでも、魔法を超える戦法なのだとか。

 

 

 それを受けてユーリは納得する。なるほど、これが彼が俺に与えてくれた力かと。

 

 

「(これは助かる。これなら問題なく、サーゼクスの力を扱うことができる)」

 

 

 まあ、この知識通りなら、今の俺じゃあそれほどの力を発揮することはできないだろうが、それでもこの教団の主戦力である魔法兵程度だったら、問題なく対処できるだろう。

 

 

 その結論に達したユーリは、「よし!」と一つ自分に気合を入れると走り出す。

 

 

 思いがけず手に入れたその力で、今も窮地に陥っているであろう大切な仲間たちを助けるために。

 

 

「待っていてくれよ、エルザ。皆!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ここは第八セクター深部。ここはこの楽園の塔において支配階級である教団の神官たちに反抗的な態度をとる者や、この楽園の塔からの脱走を企てた者など、教団に対しての反逆者が収容されている場所であり、奴隷たちの中心人物の一人である少年、ジェラール・フェルナンデスも現在ここに収監されていた。

 

 

 そんな彼を助けるために単身ここへて乗り込んだ少女がいる。―――そう、緋色の少女、エルザ・スカーレットだ。

 

 

 この楽園の塔で自分たちの面倒を見てくれていたロブ老人の犠牲によって魔法に目覚めたこの少女は、自分たちの反逆に対しての最大の壁である魔法兵たちの殆どを討ち取ると、自らのために神官たちの虜囚となったジェラールを助けるために他の仲間たちと別れてここまでやってきたのだ。

 

 

 しかしそんな彼女は現在、絶体絶命の危機に陥っていた。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

 突如自分に襲い掛かってきた魔法の衝撃にエルザは叫び声をあげながら吹き飛ばされる。

 

 

「ぐッ!」

 

 

 そのまま地面に倒れこんだエルザは、よろめきながら自分を吹き飛ばしたであろう相手へと視線を向けた。

 

 

「う…ぐ…。なんで、なんでこんなことするの―――

 

 

 ―――ジェラール!!」

 

 

 そう、エルザを吹き飛ばしたのは彼女が助けに来たはずの少年、ジェラールだった。

 

 

 無事に第八セクター深部の神官たちを全滅させエルザはジェラールを救出することはできたのだが、突然ジェラールの様子が豹変し、この楽園の塔を完成させゼレフを復活させるといいだしたのだ。

 

 

 ジェラールはエルザにも協力を要請したが、自由を手にしてこの塔から脱出するために今まで戦ってきた彼女がそのようなことを承諾するはずもなくそれを断ると、ジェラールはならば用済みだといわんばかりに魔法の力を使い襲い掛かってきたのだ。

 

 

 大地に横たわるエルザを冷たく見下しながらジェラールは口を開く。

 

 

「―――そんなにこの塔から出て行きたければ勝手に出て行けばいい。ただし一人でな」

「一人?」

「他の奴等は俺が貰う。楽園の塔の建設には人手が必要だからな」

 

 

 薄く笑みを浮かべるジェラールのその瞳にはいつもの輝きはなく、夜空よりも暗い、禍々しいものが宿っていた。

 

 

 困惑するエルザをよそにジェラールは言葉を続ける。

 

 

「心配しなくていい、オレは奴等とは違う。皆に服を与え食事を与え休みを与える。恐怖と力での支配は作業効率が悪すぎるからな」

 

 

 淡々とジェラールの口から紡がれる彼の言葉に驚愕しながらも、エルザは必死で答える。

 

 

「何をいってるの?みんなは今頃船の上!私たちを待っているはずよ。今更こんな場所に戻って働こうなんてするハズない!!」

 

 

 彼女の心からの叫びに、しかしジェラールは嘲笑う。

 

 

「それは働く意味を与えなかった教団やつらのミスだ。オレは意味を与える。―――”ゼレフ”という偉大な魔道師の為に働けとな」

 

 

 歪んだ笑みを浮かべてそういうジェラールの様子にエルザは自分の瞳から自然と涙が溢れ出てくるのを感じた。憧れの一人であったジェラールのあまりの変貌に絶望したからだ。

 

 

「(なんで?あなたになにがあったのジェラール!?)」

 

 

 しかしエルザは口を開く。自分の言葉で彼が元の彼に戻ってくれることを信じて。

 

 

「ジェラール、お願い目を覚まして……」

 

 

 だが彼女の言葉も空しく、ジェラールは酷薄な笑みを浮かべながら片手を中に掲げる。

 

 

 すると空中から突如霧状の紫色の魔力の塊が出現し、エルザの首を締め上げた。

 

 

「あう!?く、苦しい……ッ」

 

 

 魔力で構成された腕により思わず苦悶の声を上げるエルザ。仲間であるはずの少女が苦しんでいるその光景に、しかしジェラールが表情を崩すことはない。それどころか彼の顔はどこか楽しげに見えた。

 

 

「おまえはもういらない。だけど殺しはしないよ。……邪魔な奴等を殺してくれたことには感謝してるんだ。―――島から出してやろう。かりそめの自由を堪能してくるがいい」

「ジェ…ラール……」

「わかってると思うけどこの事は誰にもいうな。楽園の塔の存在が政府に知られるのは困るからな。バレた暁には、証拠隠滅で、この塔及びここにいる奴等を消さなければならない。お前達が近づくのも禁止だ。目撃情報があった時点でまず一人殺す。そうだな、まずはショウあたりを消してやろうか?」

「ジェラ……ル」

 

 

 ジェラールのその言葉にエルザの大きな瞳から、ボロボロと大量の涙が零れ落ちる。―――悟ってしまったのだ。もう自分の言葉では彼は元に戻らないということを。

 

 

  絶望と哀しみに顔を歪めるそんな彼女の様子に、しかしジェラールはただただ笑みを浮かべる。それはまさに”狂喜”と呼ぶにふさわしい笑みだった。

 

 

 

「それがお前の自由だ!仲間の命を背負って生きろエルザァァァァ!!!!

 

 

 

 

 ―――アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 そして部屋いっぱいに響き渡るジェラールの声を聞きながらとうとうエルザは自分の意識が擦れていくのを感じる。

 

 

 そんな彼女が最後に思うのは、今はもう死んでしまった、自身の家族であり、想い人であるユーリのことだった。

 

 

「(……あーあ。せめて最後に一目、ユーリに会いたかったなあ)」

 

 

 そして彼女の意識は闇に飲まれる。

 

 

 

 

 

 

「―――エルザ!!?」

 

 ―――もう死んでしまったはずの、想い人の声を最後に聞きながら。




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