FAIRY TAIL転生記~炎の魔王の冒険譚~ 作:えんとつそうじ
今回は、主人公が楽園の塔で主に一緒にいるメンバーの紹介です。
前作の話とあまり変わっていませんが、どうかそこのところを踏まえて、暇つぶしにでもお読みください。
ジェラール・フェルナンデスという少年との出会いから一年後、俺たちは今でもこの楽園の塔で、奴隷として働かされているが、とりあえず、今までのことをここで軽く振り返っておこうと思う。
ジェラール・フェルナンデス。彼は俺たちが澄んでいたローズマリー村とはまた違う田舎町で生まれ、ここに連れてこられたらしく、俺たちより大分前からこの塔にいるらしいのだが、あの時、この塔での光景としては珍しく、他人を思いやる(なんか、自分でいうのは照れてしまうが)行動をとった俺に興味を持ち話しかけてきたんだそうだ。
「(まあ、確かに。ここで奴隷として働いているやつで他人を助ける余裕のあるやつなんて、普通いないわなあ)」
まあその後、このジェラールとはいろいろ話してみたのだが、彼はこの年齢にしてはかなりの博識で、またとても大人びた少年だった。
そしてこの世界に来て、大分精神が肉体に引っ張られていることを自覚しはじめたとはいえ、中身が中年の俺は、彼とは自然とうまが合い、そのまま彼は、ウォーリーとミリアーナと一緒に俺たちとつるむようになった。
ジェラールは、その生まれつきのカリスマ性っていうのかな?人を惹き付ける力であっという間に俺たちのグループに溶け込み、俺たちは力を合わせてこの楽園の塔での生活を生き抜くこととなった。
あ、そうそう。そういえば、ジェラールたちの他にも最近俺たちのグループに新しく入ることとなったやつがいるので、ここで紹介しておこうと思う。
そいつの名前は『ショウ』。ミリアーナと同じくらいの、栗のような頭が特徴的な少年だ。へまをして、神官の一人に叱責されていることを、エルザが助け、そのまま俺たちのグループに入ることとなった。そのため、エルザのことを、「姉さん」と呼び、よく慕っている。
そして、俺たち七人は、身を寄せ合って、楽園の塔での生活を送っていた、そんなある日のことだった。ショウがとんでもないことをいいだしたのは。
「脱走だとッ!?」
「うん、皆も協力してほしい」
俺の驚愕の言葉に、しかしショウは動揺を一切せず、普段の気弱な彼の姿からは想像できないほど真剣な顔で、力強くそう頷いた。
俺がショウの言葉になぜここまで驚いているのかというと、突然脱走しようなんていいだしたこともあるが、何よりも普段の彼は、年齢相応に臆病な性格で、こんな大きな提案をしてくるとは思えなかったからだ。
なぜなら、この楽園の塔で奴隷の脱走は何度も行われているが、その度に神官に捕まり成功したことはない。そして脱走に失敗した者たちは、脱走者がでる度に、神官たちに拷問紛いの懲罰を行ってきたために、今や『脱走』という言葉が奴隷たちの口から出てくることはない。
「(なのに、まさかそんな言葉がよりにもよってショウの口から出てくるとはなぁ……)」
ショウは、その瞳から大粒の涙をボロボロと流しながら口を開く。
それは、年端もいかない少年の情念が詰まった、心の底からの慟哭だった。
「ぼくはもういやなんだ。少し失敗したらすぐにどなられて、神官のやつらの気分しだいで殺されちゃうこんな生活なんか……っ!!」
「ショウ……」
ショウの気持ちは痛いほどわかる。
俺はこの世界にやって来てから、不思議と体力や力が上がって、そのおかげでここでの生活もさほど苦ではないが、それでも理不尽は感じるし、神官たちがその気になれば、あっさりと死んでしまうだろう。
そんな生活、穏便に送っていても結局は先はないだろうし、ましてや年相応の力しか持たないこいつには耐えられなかったのだろう。
「(だがそれでも危険すぎる。少なくとも今はそんなリスクを負うのはまずい……)」
そう考えた俺は、なんとかショウを止めようと、口を開きかけたが、そんな俺の言葉を遮るように発言するものがいた。ジェラールだ。
「……よし、その提案に乗ろう」
「ジェラールッ!?」
俺はジェラールのその発言に、先ほどのショウの発言以上驚きを隠せなかった。年齢にそぐわないほど思慮深く慎重な彼が、まさかこんな危険度の高い誘いに乗るとは思ってなかったのだ。
ジェラールはそんな俺の疑問に答えるためか、俺の発言をその視線で制しながら、話を続ける。
「よく考えてみろ。確かにこの話は危険が大きいが、それはここでも同じことだ。お前も見ただろう?神官の機嫌を損ねて嬲り殺しにされたやつを」
「……っ!?それは確かにそうだが!!」
「………それに俺はこの間聞いてしまったんだ。後一年もすればこの塔が完成してしまうと。―――そうなった時、あいつらが俺たちのことを生かしておくと思うか?」
「っ!?」
確かにそうだ。今は貴重な労働力としてあいつらが俺たちに手を下すのは、裏切りか年や怪我によって働けなくなった奴等に対してくらいだが、奴等の目的であるこの塔が完成すれば俺たちは用済み。
むしろ外の敵対勢力に情報が漏れる恐れがあるし、そのまま奴隷として扱うにしても内部に潜在的な敵対勢力を持つわけだ。ならばいっそのことすっぱりと俺たちを処分したほうが手っ取り早いだろう。
もしかしたら黒魔術の生贄とかにされてしまうかもしれない。
「(確かにジェラールのいうとおりだ。ここはジェラールのいうとおりこの話に乗ったほうがいいか?いや、しかし……)」
ジェラールの言葉に苦悩する俺。そんな俺をよそに、瞳に決意の光を携えながら口を開く一人の少年がいた。
「俺も乗るぜ」
「シモン!?」
「俺はこんな塔で一生を終える気はねえ。―――妹が無事かどうかも知りたいしな」
「……そういえば妹がいたんだったかお前。確かカグラっていったか?」
「ああ」
ジェラールの言葉に、そう頷いて答えるシモン。エルザはそんなシモンの様子に悲痛な顔を見せる。
「(そうか、そういえばカグラは今一人なんだっけ)」
確か村が襲撃された時に、大人の大半は殺されているはずだから、シモンたちの遠縁の親戚だという人物も一緒に殺されてしまっているだろう。
そして、シモンたちにとって、その親戚は今存在する唯一の血縁。そして兄であるシモンがいるということは、今は頼れる人は誰もいないということになる。それは心配だろう。
「(村長が生きていれば、なんとかしてくれるだろうが……)」
村長に隠れるようにいっておいた英雄の墓があるのは、森の奥。よほど村付近の地理に精通していなければ、気づくことはできないはずだが……。
「(できれば、無事でいてほしいが)」
そして、シモンの言葉に背中を押されたのか、さらに別の仲間たちが口を開く。ウォーリーとミリアーナだ。
「にゃー。私もいくー」
「ミリアーナが行くなら俺も行くぜ!」
「お前たちもか」
まあ、この二人の言葉は半ば予想できた。ミリアーナがここでの生活から抜け出したいと考えていることは(まあここの奴隷たちは大体そう思っているだろうが)知っていたし、ウォーリーはミリアーナに激甘だから、例え彼自体が反対だとしても、彼女に追従するのは目に見えていた。
なんでも、彼は兄と二人で生活していたらしいが、前々から妹が欲しかったらしく、そのことから自分より小さいミリアーナを可愛がっているらしい。だからこそ、自分がここから出たいというのもあるだろうが、彼女の将来のため、ここから助け出そうと考えても不思議ではない。
そして、そんな彼らを見ていたからなのか、先ほどから俺の隣で黙り込んでいたエルザが、ゆっくり手を挙げる。
「私も行く」
「エルザ、お前まで!?」
「一人だけのけ者はいやだから……」
俺はエルザのその言葉に思わずため息をつく。
「(おいおい、こいつら本気かよ。確かにジェラールのいうこともわかるがそれを差し引いても脱走それがどれだけ危険なことかわかってるのか?)」
俺はもう一度脱走の危険性を指摘して、やめるように説得しようと口を開こうとしたのだが、その時俺は気づいた。皆の瞳に宿るその真剣な光の輝きに。
その瞳に宿る意思の強さはちょっとやそっとでは崩れそうにない。
「(……これはもう俺がなにを言っても無駄かもしれないな)」
そう思わざるを得ないほど、彼らの意思が硬いのが、俺には感じ取れた。
そんな彼らに俺ができることはたった一つしかない。
俺はため息を一つつき、口を開いた。
「わかった、俺も協力するよ」
「本当!?」
「ああ、お前らだけじゃ少し不安だしな」
―――こうして俺たちの脱走計画が決定した。
★
★
そうしてこの三ヶ月間、俺たちは用心に用心を重ねて慎重に計画を進めていき、本日実行に移すことになったのだ。
だがいざ計画を実行に移す際、ちょっとした問題が発生した。
「姉さん、こっちだよ!!早く!!」
そう、エルザだ。
彼女は現在俺たちがやっとこさ堀進めた抜け穴の前で、体を小刻みに震わせながら立ちすくんでいた。
「エルザ、急がねえと奴等に見つかっちまう」
「う…うん……」
心配げなシモンの言葉に、エルザは震えながら頷き、なんとか体を動かそうとしたが、やはり彼女は足を一歩も動かすことができない。
彼女はなにか恐ろしいことでも思い出したようで、ただでさえ真っ青だったその顔をさらに青くさせながら口を開く。
「も…もし……もしも見つかったら。私見つかった子がどうなったか知ってる……」
「(なるほど、そういうことか……)」
エルザは決して勇敢ではないが臆病な少女でもない。だがそれにしては先ほどからエルザの怯えようが尋常じゃないように思えたのだが、なるほど。実際に失敗してしまったやつのことを知っているのであればこの怯えようも頷ける。
「(おそらく今までは俺たち仲間も一緒に脱走を行うということで、心を強く持っていたのだろうな)」
だがこのままもたもたしていたら神官どもがやってきて脱走が気づかれてしまうかもしれない。
それはまずいと結論付けた俺は、エルザを慰めるために彼女にゆっくりと近づくとその頭を乱暴に撫で回す。
「わぷっ!?」
「心配すんな、エルザ。なにも怖いことなんかありゃしねえからよ」
「ユ、ユーリ……」
おどけるようにそういうと、頭を突然撫で回されたのが恥ずかしかったのか、彼女は頬を赤く染めながら上目遣いでこちらを見上げてくる。
「(ふむ、年頃の女の子の頭に勝手に触るのはさすがにデリカシーが足りなかったかな?)」
前世ではそれで妹によく叱られたっけなぁと思いながら、話を続ける。
「三ヶ月もかけて慎重に進めてきたんだ。きっと、大丈夫だって」
「そ、そうかな……」
俺の言葉に納得しつつも、エルザはまだ不安なのか顔を俯ける。
俺はそんな彼女の様子にもう一息かなと思い、最後の一押しをやってもらおうと、ジェラールに話をふることにする。
「お前もそう思うよな、ジェラール」
「ああ、お前のいうとおりだよユーリ。恐ろしいことは何もない」
俺のいいたいことが伝わったのか、ジェラールはクールにそう返すと、俺たちをゆっくりと見渡しながら話を続ける。
「確かに脱走には危険がつきものだ。だが危険を起こさなければなにも手に入れることはできない―――俺たちは”自由”を手に入れるんだ。未来みらいと理想ゆめを……」
―――まるで当然のようにいう彼の言葉は俺たちに染み渡り、その不安を消していくのがわかる。彼の言葉に気分が高揚し、今ならできないことがないようにさえ思えてくる。
特にエルザなんかはいつの間にか体の震えが消え、その表情には笑顔さえ見える。
俺はそんな彼らの様子に思わず感心の口笛を吹く。
思えば、こいつは出会った時から不思議と他人と違う感じがした。なぜかこいつがいうと、どんな不可能な事でも自然とできちまう、自然とこいつについていこうって感じがしてくるんだ。
「(さすがジェラールってところか。さっきまでどこか浮き足立っていた皆がいつの間にか落ち着いている。―――これがカリスマってやつかね?)」
ジェラールは自らの言葉で俺たちに最早不安がないことを確認すると一つ満足げに頷くと口を開いた。
「よし、それじゃあ行こう。俺たちの自由を手に入れに!」
『おう!!』
そして俺たちは歩き出す。自分たちの明日を掴み取るために。
―――しかし、
「―――そういうわけにはいかねえよなぁ?」
『っ!?』
突然聞こえてきたその声に俺たちは驚愕し、一瞬でその場で凍りついた。
なぜならその声は、本来ならばこの場にいるはずのない、いてはいけない男の声だったからだ。
俺たちは恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはいつの間にそこにいたのか、十人以上の神官たちが、恐ろしい形相でそこに立っていた。
その先頭にいる、おそらくリーダー格であろう神官は、他の神官たちと違い満面の笑みを浮かべていたが目は全く笑っておらず、その瞳からは悪意しか感じることができなかった。
その神官は醜悪な笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開く。
「―――みいつけた♪」
―――こうして俺たちの脱走計画は失敗に終わった。
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