「結構大通りとかも変わったんだな。」
「ええ、ウオイスさんが旅立って2年ですからね。まだ2年とみるか、もう2年とみるか。」
中央広場を歩きながらウオイスが来る時に見た大通りの感想を感慨深く呟く。メイズも相槌を打ちながら、自分が関わった、町興しの成果を確認していた。メイズがウオイスを見送ったのはちょうど二年前である。
「路地等は変わっていませんので、そちらはウオイスさんの方が詳しいと思いますから、大通りを案内しますね。」
「ああ、頼む。」
この最初の町は正確には町ではない。この中央広場から真直ぐ北に進んだところにある城、ブレイブ城の城下町だ。名前の由来も、王様に任命された勇者が最初に立ち寄る町だから《最初の町》と呼ばれるようになった。そしてそれゆえに、防衛目的の名残が各所にあった。しかし現在、戦争等の争いなど無く、それどころか商業発展の妨げになっていた。それを商人達が中心となって、王城に交渉したのだ。そして、最低限の防衛施設を残して撤廃に成功させた。
「今、この町は中央広場を中心に、真直ぐ大通りが四方に伸びています。」
北は王城ブレイブに続く道で、城に近づくほど位の高い貴族が住む貴族街が広がる。南は逆に王城の正面、正門に続く道で一般家庭が広がっていた。ちなみに勇者として任命されたものが 堂々と出撃するとして、正門から出発することとしている。2年前にウオイスがこの町を出た門でもある。
そして東側には宿屋が密集していた。このブレイブ城がある国は、周辺に小さな町、村は存在するものの、それ以外の国が存在しない小さな島国であった。その為、もっとも海に近い東側に港を作ったのだ。現在でも唯一の玄関口だ。そしてその港で降りてきた人々を迎えるのが東門である。故に此処には人の流れの管理棟が、門に入っていた。我らが宿屋《魔王城》は、この東側の中央よりに存在した。
西側には中央広場から、食品店、道具店、花見街、武具店、冒険者ギルドの順番で、同じ店舗を側に配置して互いに刺激し合う関係を作ったのだ。因みに冒険者ギルドが一番、西門に近いのは、西側には魔の森と呼ばれる魔物の住処が広がっている為である。
「お腹も空いてきましたし、開いている店舗は、この時間帯だとパン屋ですね。」
「ふむ、確かに朝早かったし、腹も減ってきたが。まだ活動するには早いだろうに。開いてるのか。」
「大丈夫ですよ。さぁ行きましょう。」
メイズはそう言い先頭に立って西側に歩き出した。どこかで『手ぐらい握れよっ!!』と叫ぶ女性達を幻視したが無視する。
「ここです。」
メイズが案内したのは中央広場から西側の大通りに入って直ぐの所だった。まだ人が活動するには早い時間帯だが、すでに店舗内には美味しそうなパンが並んでいる。
「ここは、前の店舗と時間帯を分けて、早朝から夜中まで活動する冒険者の為に、一日中店を開けているんですよ。」
「なるほど、こんな時間帯でも飯が食えるのはありがたいからな。」
メイズの説明に、勇者として世界中を旅していた時、夜中に腹を鳴かせながら無理矢理、睡眠をとったのを思い出していた。
「ここ、パン工房ジャームズ推理パン屋はおすすめの一つです。」
「ちょっと待て。いろいろ可笑し過ぎるぅ!!」
メイズの言った店舗名に思わずツッコム、ウオイス。
「ここの店長ジャームズさんは元々探偵だったそうですよ。奥さんの焼いたパンが忘れられず、残ってたレシピ通りに焼いてこのパン屋を経営しているそうです。」
「そうなのか。奥さんって亡くなったのか。」
勇者がその話を聞いて悲痛な顔で空気の悪くなるような事を聞く。
「いえ、花見街でイケメンを探すんだって言って、家を飛び出したそうです。」
「いろいろアグレッシブすぎるぅ!!」
「こちらが店長です。」
メイズがジャームズを紹介する。ジャームズは壮年期の男性で細身だが身体つきが確りしており、顔も良く、年齢の為か渋さが滲み出ている。
「彼は、親しい人からジャムお…。」
「言わせないよっ!!」
メイズの説明に、危険な響きを感じたためツッコんで止める。
「くっくっ、それなら、私は目の前のライバル店の看板を、声に出して読めないな。」
「どういう意味ですか。」
「見れば早いよ。」
ジャームズは探偵をやっていた経験から、ウオイスが何故ツッコんだか分からずとも、本能的に目の前の看板を読んではいけないと理解していた。
目の前の看板には《激安、パン男爵の新しい街の顔、ヨソレ》と出ている。ウオイスの直感が囁いていた。伝説の聖剣、超裂剣(ちょうさくけん)が抜かれる日も近づいている。
メイズとウオイスは一度、中央広場まで戻ってきていた。中央広場には商店で買った物を食べられるようにベンチが設置されているからだ。二人はベンチに座って買ってきた推理パンを食べている。
推理パンとは一見メロンパンのようだけど、判らないように中身が入っており、中身を当てられると一個おまけしてくれるという物だ。ウオイスはオレンジのジャム、メイズは漉し餡クリームであった。
「北と南はよろしいですね。大通りになっただけですし、東も基本は宿屋だけですし。やはり案内するとしたら西側。ギルドは知っていると思いますので、商店中心にお教えしますね。」
「ああ、助かる。」
食べ終わり、メイズの考えも纏ったのか、そう提案してきた。二人はまた西側に歩き出す。
「結構、繁盛しているんだな。」
「はい、店舗を固めただけで売り上げが上がっている所もありますし、週に一度は在庫処分市も開きますから。」
一通り案内し終え、今、西門側から中央広場側に帰っている所だ。武具店の前を通った時、2年前までは、閑古鳥が鳴いていた武具店に人が何人か居るのが見て取れて、ウオイスは驚きながら感想をもらす。メイズが相槌を打ちながら、花見街の所まで歩いてくると。
「メイズちゃん発見。」
フタハに見つかり、二人が首を傾げていると、胸毛が見えている懐に手をやり小さな笛を吹いた。
辺り一面にピーピーピーと甲高い音がする。すると共鳴したように、近くからピーピーピーと甲高い音が返され、次の瞬間、どどどっと地鳴りがしてきた。
「ちょっ、なんだ、えっ、なんなんだ!?」
「……まさか!?」
ウオイスが狼狽え、メイズが真相に行きついたのか、目を見開く。
瞬間、土煙を上げながら、大量の人々が走ってきた。女性陣の手には、女性物の衣服とカツラ等が握られ、男性陣の手には棍棒が握られている。
「ちょっ、うえっええ!!」
「まずっ、逃げますよウオイスさん。」
メイズの予想では、男性陣の目的はウオイスをタコ殴りにする為だろう。
ウオイスと離れ、メイズは妖艶なお姉様方に囲まれていた。やはり筆頭はシャランという。
「…なんで、そんな格好させようとするんですか!?僕は男ですよ!!」
「ふっふっふ、それも問題がなくなる。このランから貰った女性化玉でな。」
囲まれたメイズが涙ながら訴えると、シャランが一つの玉を取り出した。それは魔法の道具で、その玉を割ると煙が吹き出し、その煙を浴びると一定時間、女性になってしまうという物だ。
「さぁ、覚悟しろ魔王。」
「都合のいい時だけ、魔王にしないでくださいっ!?」
ウキウキと顔に出ており、更に玉を持っていない方の手はワキワキと動いている。シャランは凄腕の冒険者としての能力を無駄に使いながら、メイズに向かって玉を投げた。
もし女性になれば何をされるか判らない恐怖で涙目のメイズは……。
「いっやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー……!!」
悲鳴を上げながら、魔法を行使。力場操作の魔法と風の魔法を組み合わせ、全力で遥か彼方に玉をやってしまった。その悲鳴が少女のものだった事は言わない。
「はぁ、はぁ、これで諦めてくださいね。」
メイズは勝ったと思った。
「いや、無理だろう。そのまま着せれば済むことだし。」
メイズの二回目の悲鳴が響き渡ったのだった。