魔王は最初の町の宿屋にいる。   作:yosshy3304

36 / 46
第三十四話 逃亡者。

 「…大丈夫か?」

 

 「あ、ああ。」

 

 エイジスの逃亡に茫然としたメイズことミーシャ。その対応に追われているシャランに近づいてきた存在があった。お見合い相手であり、シャランの幼馴染でもあるジャクトがシャランを心配し、声を掛けてきたのだ。

 

 幼馴染である彼は、シャランとエイジスの関係も知っている。幼馴染である自分と同じでエイジスもまたシャランの幼馴染だからだ。いや自分よりも少し深い関係だ。その事を知っていたので、シャランを心配する。

 

 シャランも茫然としたミーシャを部屋に運ぶようにメイドに言いつけ、ラーシャンを目付にやるのを忘れない。公爵家が持つ軍隊の一部にエイジスを追うように命じる。もしあのエイジスが今回の首謀者であり、訓練を欠かせていないとすれば精鋭である公爵家の兵でも捕えるのは無理であろうが。

 

 「お兄ちゃん…。」

 

 シャランの思いが口をついて出る。全ての後始末を終えて、部屋のベットにドレスのままダイブした後に。

 

 

 

 公爵家を出て、南門へと走る。もう月が出ている時間帯である為、通りには通行者は居ない。そんな真っ直ぐ伸びた大通りを、最高の状態で掛けた肉体強化の魔法で駆け抜けた。

 

 後方からバカラバカラと蹄の音がする。単純な身体能力では敵わないと騎馬隊が追いかけてきたのだろう。それも複数音がする。

 

 だが、逃亡者であるエイジスはそう易々と追いつかせない自身があった。戦士と言う職業は肉体強化の魔法と相性がいいとされる職業である。

 

 魔力で肉体を作っている魔族ならば問題ないデメリット。要するに肉体の方が肉体強化の魔法の強化について行けず自滅してしまう。そのデメリットが緩いと言われているのだ。

 

 戦士と言う職業は生まれついてから一切鍛えずとも、勝手に肉体が出来上がる。ましてや今まできつい肉体修練を欠かせていない自身なら、人と言う枠組みの限界を超えられるはずだ。

 

 エイジスは根拠のない自信で風となった。

 

 

 

 

 「くっ、追いつけない…。」

 

 「なんて速度だ!!」

 

 騎馬隊が乗る馬達は少し特殊な訓練を積んでいる。音に怯えず、魔物に恐縮しない。荒地、整地、沼地だろうと最高速で普通の馬の数倍は駆け抜ける。やや、魔獣化している馬達である。

 

 そんな馬に乗っている騎馬隊が最高速度で追いかけているはずなのに、一向に距離が縮まらない事に驚愕する騎士達。

 

 「だが、この時間帯だ。大門は締まっている。」

 

 魔獣を防ぐ目的である以上、人々の活動が無くなる夜は大門を閉めている。そう易々と突破されるものではないし、逆に開けるのにも手間取る。メイズに内側から破壊された西門も復興が終わっていた。

 

 エイジスは南門へと続く大通りを駆けており、騎馬隊の面々もそこが戦場になると判断していた。

 

 「総員、抜剣!!」

 

 南門が見えて来た事もあり、中央辺りに陣取っていた騎馬隊の隊長が命を下す。隊員達もその言葉を待っていたかのようにスラリと馬上剣を抜いた。

 

 馬上剣とは湾曲している剣だ。馬の首を避けて前方の敵を切ることが出来る。ただ湾曲させる為に普通の剣よりも分厚くなっている。重いのだ。それゆえ、振り回すのに技量と同時に力も必要であった。

 

 そんな馬上剣を扱える彼らは、間違いなく精鋭であり、反逆者等本来ならばすでに捕まえている。だが、相手がエイジスであるというのが不運であった。彼はシャランを超える実力者なのだ。

 

 南門が締まっている為、戦うために振り向かなければならない。勢いが付きすぎているエイジスはそろそろ速度を緩めるはずだ。騎馬隊が南門に追い詰めたと思ったが、エイジスは一向に速度を落とさない。

 

 それどころか、更に速度を上げた。騎馬隊が完全に引き離される。このままでは南門にぶつかると思われた時、南門に信じられない事が起きた。

 

 轟音と共に南門が斜め十字に切り裂かれたのだ。もうもうと立ち上る土煙の中をエイジスは駆け抜けた。エイジスに逃亡を許してしまったのだった。

 

 

 

 

 「どうだった?久しぶりの姫さんの顔は。」

 

 「美人になってたよ。」

 

 エイジスは門を切り裂いた人物の一人、自分と同じく反逆の徒についた仲間と話していた。ボイグド=ラシェット、昔よりも更に大柄になった友の言葉に、昔を思い出すように優しい顔になっているエイジス。

 

 思い出すのはお見合いパーティでのシャランだ。昔はエイジスの事をお兄ちゃんと呼び、後ろをアヒルの子みたいに着いてきていたシャランが一人前の女になっていたのを思い出す。

 

 「姫さんには悪い事したね。」

 

 「流石に巻き込むわけにはいかないだろ。」

 

 もう一人の門を切り裂いた人物。昔から変わらず縁の黒いメガネを掛けたチャラ男。ラング=ドランの後悔するような言葉に、自分達の計画に巻き込むわけにはいけないと決意を口に出す。だが、内心は揺れていた。

 

 「さーすが、『お兄ちゃん』」

 

 「誰が、『お兄ちゃん』だっ!!」

 

 ラングの昔からのからかいに、いつも通りの突っ込みを入れる。エイジスを迎えにきた昔からの親友と一緒に住み慣れた王都を離れた。全て計画の為に。




この章はこれで終わりです。
次話から最終章。
元々この話のラスボスは戦士だと決めては居ました。
魔王と勇者とお姫様が協力し、世界に喧嘩を売った戦士軍団を倒すと。
そんな話を書きたく、スジを通せるようにギャグに走って行ったという経緯がありました。
もう少しは『小説家になろう』様で書いていたストックがあるのですが、あちらでも途中なんですよね。
ストックが切れたら一日数話更新は無理になります。それどころか一話上げるのに数日掛かるかも。
ご当地ヒーローの方も書くつもりですので暖かい目で見てもらえれば幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。