「ミーシャ、あれを。」
「はい、これですね。」
後ろに控えるように立つミーシャからシャランがある物を受け取る。それは、緑色の石の周りを鉄の器具で多い、四隅に外側に向かって広がる筒状の物を取り付けてあった。
「これは風の魔導具で、音を記録するものだ。元々ミーシャが私と遊ぶ為に持ってきたものだが、偶々、あの大広間での会話を録音してしまっていた。皆には一度聞いてもらおうと思う。」
シャランはそういった後、その魔導具をひっくり返す。こうすることで、録音した音を、再生できるのだった。静まり返った会場に、魔導具が音を再生しだす。
「ふむ、まだ時間もあるし、この間に姫様の武勇伝でも聞きたいですなぁ。」
「ほう、構わんぞ。」
私は冒険者、確か名はビルドとか言ったな。にラーシャンがビックベアー討伐の依頼を受けたと教えられ魔の森に向かったんだ。まぁ、ラーシャンも私の妹だ。そう易々とやられるわけがないと思っていたが、しかし、あいつも一応貴族令嬢だ。ピンチに陥っていた。
まぁ、私が間に合い一蹴して見せたのだが、なんとそのビックベアーはまだ生きてるではないか、いやいや、相手の目を見れば明らかにおかしい。それは死んでいるものの目だったんだから。
一瞬ゾンビやリビングデットかと思ったが、ビックベアーからはそういう瘴気がなかった。そこで私は、一つの可能性に気付いた。操られているのではないか。
過去に倒した魔獣の皮を被り、奇襲を仕掛けてきた奴が居たし、操り人形の存在を私は知っていたしな。
「なら、姫様は術者を探したのですな。」
「ああ、だが何処にもいなくてな。」
巨木の上に立って見せたりしたが一切の反応がなかったのだ。何より、気配を探ったのは私だぞ。気配探知にもビックベアーのものしか反応しなかったのだから。
そこで私は、さっき言ったように、ビックベアーの中から操っているのではないかと考えたのだ。私は逃がしたラーシャンと協力して罠を張った。
まぁ、これでも熟達の冒険者でもある。材料さえあれば罠は簡単に張ることができた。その後、私が囮になってラーシャンに騎馬の要領で操ってもらい罠の所まで誘導した。その罠の衝撃で、人型の物が飛び出したんだ。
ビックベアーの肉体も脆かったせいか、背中側からな。術者だと思い近寄ってみた。だが、それをよく見ると人ではない。操り人形ではないか。
この術者は操り人形をビックベア-の体内に埋め込んでいたのだ。まぁそれも、私達で撃破したから大丈夫なのだがな。
それでも、もう少し私が早く、ビックベアーの体内に操り人形が埋め込まれていると知れば、ラーシャンを危険に晒さず済んだのだがな。
「それは、仕方ないでしょう。」
「だろうな。操り人形なんて代物を体内に埋め込むなんてな。」
「隣国には厳重に抗議しなくてはなりませんな。」
ここでメイドの呼びに来た声が入り、そして録音は終わった。
「諸君に聞いてもらった物は、唯の録音だ。改竄等は出来ないな。そして、この中におかしな会話内容があった。」
シャランのセリフに、会場中にざわめきが戻ってくる。会場中が驚きに満ちているようだ。ただ、一番驚いているのはシャランであったが。顔には出さず内心で悲鳴じみた叫びを上げる。後ろに立つミーシャから、喋るセリフを教えてもらっているから。もしそれがバレた場合、下手をするとまた魔王を討伐せよという風潮へと戻ってしまう。
「会場の皆にも判りやすいように、1つずつ解説していこうか。」
まずレーゴン伯だ。レーゴン伯の言葉の中にまるで最初から術者が側にいない様なセリフがある。この真意は判らないが、ある程度話を予測できるなら、レーゴン伯なら予測できるだろう。それで説明が付くし、もしレーゴン伯が今回の首謀者なら自身から話を振ってはこないだろう。
シャランの説明に、ホッと肩を撫で下ろすレーゴン伯が居た。
次にジャクト=ホウレンだ。まるで操り人形の扱いに造詣が深いようなことを言っている。だが、ジャクトは王城にて魔導具の研究管理官だ。操り人形について知っていてもおかしくないし、私が、散々言葉にだしているしな。
シャランの言葉が終わると同時に、会場の視線はたった一人に注がれていた。
「なっ、姫様、私の息子が今回の事件を画策したと申しますかっ!!」
「ふむ、そうだ。」
ニージン準侯爵が、その様子にシャランに抗議をしてくる。しかし、シャランは、それに一つ頷いて、また口を開いた。
内心は、シャランとて驚きに満ちていたが、それ以上にミーシャを信頼していた。
「今回の件、首謀者は貴様だっ!!エイザス=ニージン。」
ビシッと指を指しながら、堂々とシャランは犯人の名を告げた。頭脳は魔王、体は少女なミーシャの指示に従って。
「ふぅ、それで俺が犯人である証拠は何なんだ?」
「しらばっくれる気か?なら教えてやる。」
貴様は、首謀者、犯人とあの場所に居た私とラーシャンしか知りえなかったことを喋ったのだぞ。しかもだ、確かに情報は一部には流れていた。それを集めて知っていたというのなら、私達が相対したビックベアーの特徴、毛の色を言ってもらおうか。
「そんなの簡単さ。相対したビックベアーは茶色だったんだろ。」
シャランの問いに、そう答えてしまったエイジス。この時点で、エイジスがビックベアーの情報を持っていない、いや、持っていたとしても知っている事を前提で喋っている事が確定した。
「迂闊だったな。相対したビックベアーの色は、普通の青色だったぞ。」
「そんな馬鹿なっ!!隣国で見た時は確かに茶色っ……うぷっ!」
シャランの言葉に興奮したのか、思わず喋ってしまい、慌てて口を手で抑えるエイジス。だが、時既に遅かった。
「それに私が相対したビックベアーは、20メートルと言っただろう。毛の色については一回も口にしていない。」
ビックベアーと言う魔物はこの国にも生息している。毛色や、まだその巨体であると言う事すら、話していなかった時に、何故、そのビックベアーが隣国の物だと判った?シャランは更に追い打ちを掛けた。
録音機の一部分だけを、態とならしながら。
「隣国には厳重に抗議しなくてはなりませんな。」
「隣国には厳重に抗議しなくてはなりませんな。」
「隣国には厳重に抗議しなくてはなりませんな。」
…………。
エイジスの声が録音機から永遠と流れ出していた。
「毛色についてだがそれは、貴様の見間違いだろう。」
「なっ、なんだと!?」
隣国のビックベアーの生息地は、主に湿地帯が広がる。泥がこびり付き、また風で飛ばされて落ちる等して毛が汚れていたとしたら?隣国の魔獣だとするなら、海を渡ってきたはずだ。その間に海水で洗われたのだったとしたら?
「そ、そんな、馬鹿なっ!」
「これだけ、口を滑らせて、まだ観念しないか…。」
なら、確実な証拠だ。そう言ってシャランが取り出したのは薄汚れた人形。
「まっ、まさか操り人形?」
「そうだ。」
シャランは、人形を膝の上にのせ、腰から柄が特徴的なナイフを取り出した。