魔王は最初の町の宿屋にいる。   作:yosshy3304

30 / 46
第二十八話 魔族と魔獣。

 魔族と魔獣の違いとは何なのだろうか。それは、魔力が形を成したと言われるのが魔族であり、魔獣とは元々住んでいた生物が高密度の魔力にあてられて狂暴化や、極端な進化をしたものを言う。

 

 例えば、魔王達は、高密度の魔力で存在を維持している。その存在を維持できなくなった時に、光となって消えた。一般的な魔族は霧のように、またある時は灰となって消えていく。

 

 だが、魔獣は、普通の生物の様に死体が残る。その毛皮や、骨と言った部位は高密度の魔力の結晶でもある為、武具としても優秀である事が多い。

 

 冒険者が狩るのはこの魔獣が主体であり、何か都市レベルの問題に魔族が関与した場合のみ、冒険者は魔族と戦う。まぁ、冒険者にとって生活が掛かっている以上、部位が残らないうえ、強敵である場合が多い魔族と積極的に戦おうとはしないだろう。

 

 例外が勇者と言う事にはなるのだが、今回の事には関係ないので割愛しておく。

 

 

 

 屋敷に帰ってきた、シャランは一度、汚れを落とすのと同時に頭を冷やしてきた。そしてシャランの部屋で、ラーシャンに先の説明をする。

 

 「でも、それならあのビックベアーは、魔族と言う事になりますわ。」

 

 「いや、あれは魔獣だ。元々が熊だからな。…ただ、何事にも例外がある。」

 

 体内から飛び出してきた人形を、ラーシャンに見せた。あの後、慌てつつも、物的証拠であるこの人形をしっかり手に持ってきていた。

 

 「この人形は操り人形という魔導具だ。」

 

 主に、マリオネッターの魔法が込められている事が多い。この場合、術者が近くに居る必要もないし、マリオネッターの魔法を使えなくてもいいのだ。ただ、単純な幾つかの命令しかこめられない。

 

 その他は、マリオネッターの魔法を効率よく運用する為に用いられる。こちらはマリオネッターを使えなければならず、近くに術者も必要だ。今回は前者の能力だろう。

 

 だから、あの側に術者は見受けらず、人の様に考えて動いているようで、実は割かし単調な攻撃ばかりだったという訳だ。

 

 そして、ビックベアーが魔力となって霧散していった件だが、この操り人形を体内に埋め込まれたのが原因だろう。体内に埋め込まれた操り人形は、被寄生者の魔力でもって術を発動する。

 

 今回の場合、ビックベアーの生命反応が無くなってから、飽和した魔力でもって発動した。そして、被寄生者の肉体が余りにも損傷が激しくなり、魔力への変換が進んでいたのが原因で操り人形によって肉体が魔力に変換されたのだ。

 

 問題は、誰が何時、何処でビックベアーの体内に操り人形を仕込んだかと言う事だ。あのビックベアーは、この地から、たいして離れていない別大陸にある原生林を故郷とするものだろうということは、シャランにはすぐに予想がついた。

 

 この魔の森の種にしては大き過ぎる故に、隣国との間の海を渡ってきたと思われる。人ですら、小舟で渡れる距離であり、しかも波が穏やかどころか地形が波を消してしまい無いという状況だ。渡ってきたとしてもおかしくはない。

 

 そして、隣国が、この国にちょっかいを掛けてきただけなら問題はないとは言い切れないが、問題ない。しかし、もしそれが自国の人間が仕組んだことなら、それは隣国と戦争を画策している事になる。

 

 何せ、あの巨体で、あのパワーを持つビックベアーを町に向かって走らせるだけでどれだけの被害が出るかは判らないのだ。確実に被害が酷いとだけは言えるが。

 

 しかも、それが隣国の仕業と言う事にして、仕掛けた人間が煽れば、風潮は隣国滅ぼすべしとやや過激に表現したが、それでもそうならざるを得ない。

 

 ただ、本当に隣国がちょっかいを掛けてきた場合なら、貴族共が隣国から搾り取る為に風潮を操作するだろう。

 

 「ふむ、さてどうするか。」

 

 今回の件は慎重に捜査するべきだろう。もし、自国の人間だとしたら怪しいのは高位貴族なのだから。操り人形は、魔道具の中でも、結構な値段がするのだから。

 

 どうするかと悩むシャラン。ふと顔を上げると机の上に山と積まれたお見合い写真が目に入った。

 

 「ふむ、利用するか。」

 

 「お姉様っ!」

 

 ラーシャンにもシャランのやろうとしている事が判ったのだろう。このお見合い写真は、貴族同士の物だ。それも、家の存続に注視する高位貴族らしいものであり、家柄や、収入、付き合っている商家まで事細かに書かれている。それを利用して犯人捜しをしようと言うのだシャランは。

 

 だが、この調査情報については悪用しないという暗黙の了解みたいなのがある。何せ、此処まで調べるのは格上の家が行うのだ。それを、悪用して気に入らない貴族家を潰してしまう事になったら大変だからだ。曲がりなりにも、貴族家は王家が任命している。それを覆してしまう事になるのだ。

 

 「我が家は公爵家、そんな由緒正しい家柄の人間がその様な事を許されるとお思いでっ!」

 

 「だがな、犯人を早めに捕えないと大変な事になるのだぞ。」

 

 「だからと言って、お見合い用の物を利用するのはどうなんですかっ!」

 

 「元々、見栄だけの物だろう。なら有効活用しても大丈夫だ。」

 

 だんだん、声が荒げていく二人は、終いには手が出始めた。どちらが先だったかは忘れたが、室内の騒がしさに当然メイド長が注意しに来た。

 

 「クッ、クロスカウンター……。」

 

 扉を開けて室内を覗き込んだメイド長の呟きが、室内で何が起きたのか雄弁に語っていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。