向日葵の咲く頃に   作:『向日葵』

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またまた新作がどんどん浮かび上がってくる......その中でも、かなり書きたい新作が。まぁ、出すかどうかはわかりませんが。

いつものとおり、この小説を読んでいる間は、向日葵畑を連想していただけると、より一層感情移入できますので。


向日葵の咲く頃に―六輪―

「ほら、幽香ちゃん。ここにも向日葵にくっついてる害虫がいるわよ。取ってあげないと」

 

「あ、ホントだ。こら、ダメでしょうが。こんなに綺麗な向日葵の茎を食べちゃうなんて。ありがとう、エリー。私だけじゃ気付かなかったわ」

 

 

「......」

 

 

―――最近、エリーがよく向日葵畑にやって来る。

 

いやまぁ、普通に考えればどこもおかしいところはないのだが、エリーのことを色々と知っている僕からしては、エリーがこの向日葵畑に顔を見せるのは案外珍しいことなのだ。

基本エリーは、夏以外の季節に僕の家へとやって来ることが多い。本人曰く、夏は暑いとのこと。そりゃ夏は暑いよ。......なんで暑いのかまではわからないけど。

 

そしてもう一つの理由が、僕の状態だ。

 

状態、というのは、正確に言えば僕の体調のこと。

僕は向日葵妖怪。向日葵の咲き乱れる季節、夏にだけ自分の力を出し切ることができる他とはちょっと違う特殊な妖怪なのだ。逆に言ってしまえば、僕は夏以外の季節には貧弱になってしまうということ。

 

......まぁ、要はだね。そんな、夏にだけ大妖怪の力を持つことができる僕なのだが、夏以外の季節には下級妖怪並の力しか持つことができない、そんな僕を介護するために夏以外の季節にやって来てくれるのがエリーなのだ。

だから、夏は暑いという理由と、夏だけ力を取り戻している僕を介護する必要はないと思ってるため、エリーはこの季節に来ることがほとんどない。だからこそ珍しいのだ。今もこうやってこの向日葵畑に顔を出しているのが。

 

 

「ねぇ幽香ちゃん。ここの向日葵たちの世話が終わったら、私とまたお話する?」

 

「あ、そうするわ。日向のことを色々と教えて欲しいの。夏以外にはここに来れないから、夏以外の季節の日向を教えてよ」

 

 

「......いやぁ、仲がよくなったなぁ、あの二人も」

 

―――まぁ、そんなエリーがここに最近顔をよく出すのも、幽香ちゃんが大半の理由だろうけどね。

 

向日葵畑でキャッキャと話している幽香ちゃんとエリーを、自分の家の縁側に座って見ながら、そんなことを思う。本当に、仲良くなったものだ。......しかし、なぜエリーが幽香ちゃんと言っても幽香ちゃんは怒らないのだろうか。僕が言うと怒るのに。終いには傘で叩いてくるのにね。差別はダメだと僕は思うんだ。

 

「あの子がやっているのは差別ではなく、区別なのではなくて?」

 

「......帰れ、スキマ」

 

誰もいないはずの隣から突然声をかけられたにも関わらず、特に驚く様子などを見せないでそう冷たく言い放つ僕。

 

......まぁ、初見だと確かに驚きふためくだろうが、僕としてはもう慣れてしまったので全然驚かない。せいぜいドキっとするくらいだ。それもこれも、僕の隣にいつの間にかペットボトルの水を飲みながら優雅に座っているスキマ妖怪のせいだね。

 

「むぅ。つれないわねぇ。こーんなにいいお姉さんが隣に座っているというのに、その反応......やっぱりあなた、巷で噂のロリコン?」

 

「今すぐ帰れスキマ」

 

冗談よ、冗談。などと笑いながらいつのまにやら手に持っていた扇子を一度振って開き、口元にやる隣の女性。―――名を、『八雲(やくも) 紫(ゆかり)』という。

紫色が大体のワンピースみたいなドレスに、高貴な雰囲気を漂わせるナイトキャップ。体型も女性としてはこれ以上はないというほどまでに完璧で、その上顔も整っているのだから、その容姿は絶世の美女と言われてもおかしくないレベルのものである。......しかし、普段から胡散臭い雰囲気を醸し出しているせいで、その美貌も台無しになっているのだが。

『嫌い』、とまではいかないが、間違いなく『苦手』とは思われるほどの性格だ。かくいう僕も苦手意識持ってるし。

 

ちなみに八雲紫、といえば、知らない者がいないというほどの知名度を誇る大妖怪だ。

 

なぜなら彼女はここ、忘れ去られた妖怪や神などの行き着く楽園、『幻想郷』の創設者。つまりは、幻想郷の母と言っても過言ではないほどの存在である。幻想郷の外の世界から来た人間ならいざ知らず、幻想郷に住んでいる者で八雲紫を知らない奴なんてそりゃいないだろうね。

 

「......で、そんな有名な妖怪の賢者さんが、何の用でこんな辺境の地へと?」

 

「いやねぇ、そんなに敵意を剥き出しにしないでもいいじゃない。私達友達でしょ?ね?」

 

いつ友達になったのかな僕達は。いやまぁ、この前幽香ちゃんにぼっちって言われたくがないために仕方なくこのスキマ妖怪を数に入れたけどさ。まぁ、それはそれ、これはこれってやつだよ。うん。

 

「......まぁ、本当のことを言っちゃうとね。私は見に来たのよ、『この光景』を」

 

「......わからないこともないけどね」

 

でしょ?と同意を求めながらスキマ妖怪が見つめているのは、向日葵畑で未だにキャッキャと話す幽香ちゃんとエリー。その様子はまるで、妖怪と人間などという種族関係を忘れさせるようなものだ。

 

「あなたも知っているでしょう、日向。私の夢を」

 

「うん、知ってるよ。幻想郷。妖怪と人間の共存、でしょ?」

 

そう。このスキマ妖怪......紫には、とても感慨深いものなのだろう。幽香ちゃんとエリー、人間と妖怪がこうやって何隔てなく、仲むつまじく話している光景が。だって目の前のあの光景こそが、紫の長年の夢だったんだから。

 

......紫は今、どんな気持ちであの二人を見つめているのだろうか?

 

「ねぇ、紫。どう?自分の長年の夢が、目の前に広がっている感想は」

 

「そうねぇ......一言で表すとするならば、喜び、かしら。ただ嬉しいわ。あの娘も、あなた以外の妖怪と話すようになったし」

 

あぁ、なるほど。やっと合点がいったよ。つまり紫がこの向日葵畑にたまに顔を見せるのは、僕と幽香ちゃんを見るためだったからか。妖怪と人間の共存。それは、妖怪である僕と、人間である幽香ちゃんにも言えることだしね。僕たちが話し合ったりじゃれあったりしてるところを見て、夢が叶ったんだって、そう強く思えるから、紫は来るんだ。この向日葵畑に。

 

......うーん。今まで嫌いって言うか苦手っていうか、とにかくなんかいけ好かないスキマ妖怪だったけれど、認識を改めなくちゃいけないようだね。

 

「それで?あの高飛車な娘を落とすために今度は何をやるのかしら?このまま行くと、あの死神もどきの妖怪に取られちゃうわよ?」

 

「誰がロリコンだこら」

 

訂正。やっぱりこいつはいけ好かない。今すぐ帰れちくせう。

 

そうやって隣のいけ好かないスキマ妖怪に対して心の中で舌打ちをしていると、向日葵畑の方から幽香ちゃんがこちらに走ってくるのが見えた。

 

 

「日向ー!ちょっといいかしらー!?」

 

 

幽香ちゃんがそう叫んでこっちに来るとわかったやいなや、自身の能力、『境界を操る程度の能力』の応用で作り出した瞬間移動もどきのスキマの中に逃げ込む紫。誰もいないはずの僕の隣に現れられたのも、このスキマのおかげだ。

そうして僕の隣には、最初っからそこには誰もいないかのようになる。......というかなんで紫は、幽香ちゃんの前には出たがらないんだろうか。

 

『だって子供苦手なんだもん。純真すぎて何考えてるかよくわかんないんだもん』

 

誰もいないはずの空間から、紫の声が聞こえる。ちょっと驚いた。なるほど、スキマの中にいても声を発することができるのか。初めて知った。......あと、いい歳した大妖怪がだもんとか使わない方がいいと思うよ、僕的には。色々とおかしく思うから。

 

「日向ー!......あ、そんなところにいたのね。何のんびりしてるのよ。向日葵が大変なのよ」

 

『じゃあ、私はこの辺でお暇させてもらいますわ。また会いましょう、日向』

 

「あいよ。今度来るときはちゃんと玄関からね。客人として来たなら、茶ぐらいは出すからさ」

 

「?あなた、何独り言言ってるのよ」

 

わかりましたわ、と僕にしか聞こえない音量で言って、紫の気配が完全になくなる。スキマでとこかへにでも行ったのだろう。あいも変わらず便利な能力だよね、本当に。僕や幽香ちゃんの能力とは大違いだ。

 

......なんでそんな哀れな目を向けてくるのさ、幽香ちゃん。

 

「日向。あなた疲れてるのよ。あなたの隣には誰もいないのにそこに向かって話しかけるなんて、そんなの疲れてるとしか......いや、憑かれてるとしか言いようがないわ」

 

「何ちょっと上手いこと言ってんのさ。僕は可哀想な人とかじゃないから。だからその目はやめて」

 

しまった。またもや変な誤解をまねいてしまったようだ。これはまずい。このままでは僕は、ロリコンで誰もいない空間に話しかけるとても痛い妖怪になってしまう。......話を逸らそう。

 

「それよりもさ、幽香ちゃん。さっき向日葵が大変って言ってたけど、何があったの?」

 

「―――ッ!そう、そうなのよ!今すぐ来なさい日向!向日葵が一本枯れそうなのよ!」

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

「......で、これがその向日葵だね」

 

「えぇ、そうよ。幽香ちゃんが見つけてくれたの」

 

「ど、どうなのよ?このまま枯れちゃうの?こんなに綺麗な向日葵なのに......?」

 

大丈夫だよ、と今にも泣き出しそうな幽香ちゃんを宥めながら、枯れかけている向日葵を見る。......茎の腐敗が進み始めているね。これはもう手遅れだ。この向日葵には、もう咲き誇れるだけの力がない。取り戻せない。

 

―――普通の方法なら、ね。

 

「教えてくれてありがとう幽香ちゃん。流石、『花と話す程度の能力』だよ。お礼に、僕の能力を見せてあげる」

 

「日向の、能力......?」

 

幽香ちゃんの能力は、こういった時には本当に使えるよ。......まぁ、幽香ちゃん自身、話せる時と話せない時があるみたいだけれどね。これは花が幽香ちゃんに心を開いてない時に起こるらしい。

 

『花と話す程度の能力』。

 

それが幽香ちゃんの持っている能力の名前。その名の通り、花達と話すことができる能力。しかし先程も言った通り、幽香ちゃん自身その能力を全部扱いきることができないのだ。その証拠に、冒頭で幽香ちゃんは向日葵の茎にくっついている害虫に気付けなかった。向日葵は助けてーって言ってたけどね。

本人曰く、何故か僕の育てた向日葵だけは、特に声が聞こえる時と聞こえない時があるらしい。心を開いているにも関わらず、だ。多分、僕という妖怪が育てたからだと思う。

 

ちなみに僕は向日葵妖怪なので、向日葵の声しか聞こえない。幽香ちゃんのように花の声をすべて聞けるわけではない。

だからこそ、幽香ちゃんが大変だって言ってくるのも大体予想ができていたのだ。向日葵の一本がこんな惨状になっていたのにも気が付いていた。紫が帰ったあとに行動しようかと思ってたしね。......ごめん。やっぱり幽香ちゃんの能力、案外使えない。本人には言わないけどね。

 

......そんなことを思っていると、声が聞こえた。エリーでも幽香ちゃんでもない声。そう、枯れかけた向日葵の声だ。

 

『私、死んじゃうの......?やだ。まだ死にたくないよぉ......』

 

「ねぇ、日向......」

 

「ううん。死なないよ。いや、死なせない。この僕が、絶対にね。だからそんな顔をしないでよ、幽香ちゃん」

 

僕は、今にも死んでしまいそうな向日葵の声を聞いた幽香ちゃんを安心させるかのように微笑むと、腐敗が進み始めている茎に触れる。

 

君はまだ、咲き誇るべきだ。

 

こんなところで朽ちるだなんて、神が許しても僕が許さない。

 

向日葵は、夏の間中咲くからこそ美しい。夏の間中だけ咲き乱れるからこそ、儚いんだ。

 

だから僕は、君という向日葵のために使おう。僕の能力を。

 

 

 

 

―――『譲渡する程度の能力』。

 

 

 

 

『......っ!あ、れ?力が漲ってくるよ?やった!私、まだ死なないんだね!』

 

「向日葵が、元気になって......腐りかけてた茎の部分も、萎れていた花弁も、全部元通りに......?な、何したのよ日向!」

 

「......別に?僕はただ、譲り渡しただけさ。僕のほんの少しの生命力を」

 

そう、ほんの少しだ。雀の涙ほど。その雀の涙ほどの生命力を、僕は向日葵に譲渡、つまりは譲り渡しただけ。でもそれだけで向日葵一本が咲き誇るには十分な量。それに僕は妖怪。あいにくと、人間よりははるかに生命力があるんだ。これくらいあと何万回かはやれるね。

 

「と、とにかく、向日葵は元通りになったんだし、よかったぁ......。なによ日向!やればできるじゃない!」

 

「そうね。やればできるのに普段はやらないから、ロリコンクソ妖怪だなんて言われるのよ」

 

『ご主人は、ロリコンクソ妖怪なの......?』

 

遂には自分の向日葵にまで言われる始末。僕の尊厳はボロボロだ。もう修復不可能なレベルに近い。

 

 

......だけど、まぁ。

 

 

「ありがとう、日向!」

 

「私は関係ないけれど......まぁ、お疲れ様」

 

『助けてくれてありがとう、ご主人!』

 

 

こんな日々も、まぁ悪くはないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 




幽香ちゃんの能力は、僕が考えた、いわゆる人間の時の幽香ちゃんの能力です。つまりオリジナルです。エリーにつきましては、そもそも種族、能力共にわかりません。.....恐らく種族は妖怪であっているはず。

この小説に対する感想がくると、執筆速度が三倍になります。......恐らく。

感想等、心待ちにしております。

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