向日葵の咲く頃に   作:『向日葵』

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はい、本当に久しぶりです!最終回でこんなに遅くなってすいません!……いつも謝ってる気がしますが!

とにかく、向日葵の咲く頃に、最終回です。どうぞ、ご覧下さい!


向日葵の咲く頃にー十九輪ー

 

 

 

 

 

 

 

「今年もここで、綺麗な向日葵が咲いたわね、幽香」

 

 

 

「いやー、ほんと毎年凄い光景だぜ。一人で管理も大変だろ?」

 

 

 

ーー夏。それは、私の可愛い可愛い向日葵達が元気よく咲く季節。

数ある花の中でも、特に向日葵に思い入れがある私こと『風見(かざみ) 幽香(ゆうか)』にとって夏とは、特別な季節だ。

 

そして今年も……正確に言ってしまえば『今日から』、去年や一昨年と何ら変わりない夏がやってきた。いつものように、『今日咲いたばかり』の向日葵達は賑やかに話をしている。

その様子を、自分の家の縁側で微笑みながら眺めていると、ふと、上空から話しかけられた。

 

視線を空に向けてみるとそこにいたのは、よく見覚えのある巫女服を着た少女。その後ろに、白と黒を基調とした魔法使いもいた。

 

「あら、いらっしゃい霊夢。それに、魔理沙も」

 

その者達の名を口に出し、ニコリと微笑む。毎年夏になると一度は必ず訪れるものだから、顔も名前も覚えてしまった。

 

「あなた達、暇してるの?」

 

「おいおい幽香。こう見えて私達は忙しいんだぜ?」

 

どういう風に?と聞くと、ここの立派な向日葵達を愛でるのに忙しいんだぜ、と笑顔で返されてしまい、やれやれと肩をすくめる。……まぁ、悪い気はしないし、別にいいのだけれど。

 

「それで霊夢は、いつも通り魔理沙に連れ回されてる、ってわけね?」

 

「えぇ、そうなのよ。全くいい迷惑だわ」

 

言って、心底面倒くさそうにため息をつく霊夢。……だが、私は知っている。面倒くさいのは本当の事だろうが、魔理沙に連れ回されるのが嫌ではないことに。

これが紫の言ってたツンデレというやつだろうか。素直になれない子ね、本当に。

 

……あぁ、そう言えば遠い過去、私もこんなふうに素直になれなかったものね。『あいつ』に対して。

 

「ーーふふっ」

 

「?何よ、急に笑い出したりして……もしかして、暑さにやられた?」

 

霊夢に指摘されて、ハッとする。昔を思い出して無意識に笑いがこみ上げてしまったようだ。少し恥ずかしい。……だけど、それほどまでに楽しく、そして有意義な日常だった。

 

……あれからもう十年以上も経つのかと思うと、時の流れの速さを実感してしまうものだ。

 

「いえ、ね。所謂、思い出し笑いというやつよ」

 

「ほほぉ、それは気になるぜ!あの大妖怪風見幽香が、思い出して笑えるくらいのことなんてよ!是非とも聞かせてくれ!」

 

まさに興味津々と言った様子でこちらへ詰め寄る魔理沙。対する霊夢はあまり興味なさげにしているが、目線だけはこちらへ寄越している。……それほど気になるのだろうか?

 

「そうね。あれは、私がまだ子供だった時の頃だったわ……一人の大妖怪に出会ったの。それが全ての始まり」

 

「大妖怪?この幻想郷に居たのか?」

 

「いえ、魔理沙。それなら阿求の幻想郷縁起に書かれてるはずだわ。多分外の世界に幽香が居た頃の話じゃないかしら」

 

「……ふふ、想像に任せるわ」

 

なんだよそれー、と不満げな魔理沙に、私は笑みを漏らす。

 

……そも、私が元々『人間』だったことを、幻想郷にいる殆どの者は紫の手によって知らない。しかもそれから十数年も経ってれば、目の前にいる二十歳にも満たない少女が知るわけもなく。

 

ーーなにより、あいつと言う大妖怪がこの幻想郷に居たという事実さえも、無かったことになっている。他でもない、妖怪としての生を自分に渡してきたあいつのその力によって。

 

知っているのは精々幻想郷でも重鎮を担う者か、私やあいつと仲の親しかった人くらい。……親しい人と言っても私にとっては、例えばエリーとかしかいないが。後から私と仲良くなったくるみは、この事を知らないのよね。今度話してあげようかしら。

 

「……まぁなんやかんやあって、私は彼とお別れしたわ。あれなら、私より昔の彼を知ってるなら妹紅に話を聞きなさい?」

 

「なんで妹紅なのよってかはしょりすぎじゃない!?」

 

私のあまりの言い方と投げやり感に、今まで無表情だった霊夢の顔に驚いた表情が出る。ふふ、貴重なシーンだわ。いやまぁ、これ見たさに意地悪で言ってみたということもあるのだが。

 

とりあえず妹紅、あとは任せたわ。

 

「でも、結果としてお別れしたんなら、思い出し笑いをする程なのか?むしろ悲しくないのか?」

 

「結果はどうだっていいのよ、魔理沙。その彼と私が共に過ごした過程が、私にとっては何よりも大切で、何より心から笑えた日々だったんだから」

 

そうね、悲しくないと言えば嘘になる。でも、楽しくなかったかと言われれば、私は間違いなく楽しかった思い出と言える。えぇ、本当に楽しかった。あんな終わり方をしたけれど、私にとっては、掛け替えのない大切な思い出。

 

「わからないわ……私もお母さんが死んで、悲しかった。お母さんとの思い出を思い出す度、また悲しくなる。……その思い出が悲しくなくて、むしろ笑えるものなんて、どうかしてる」

 

霊夢にしては珍しく、口がよく動いている。まぁ、私の言葉に見逃せないものがあったからでしょうけど。

 

えぇ、霊夢の批難もわかるわ。一昨年ーー先代の巫女が亡くなって、この子が跡を継いで、今まで隣にいた人が、急にいなくなって……心にぽっかり穴が空いて。

 

けれど、だからこそ。

 

「ーー楽しい思い出にしなきゃ……乗り越えなきゃ、その人に失礼でしょ?」

 

「……」

 

霊夢は黙ったまま、地面に顔を向けて俯く。

 

確かに悲しくはなる。彼がいなくなり、今までの生活も一変し、それでも隣にあの人がいない。それはとても悲しかった。最初は本当にキツかった。

 

……けど、そのままでいたら、きっとあいつに笑われちゃう。

 

私に『太陽の畑(ここ)』を託してくれたあいつに、顔向けできないのは、嫌だ。胸を張って言ってやりたい、どうだ、この一面に広がる向日葵畑は、って。

 

「アンタにそこまで言わせる奴なら……私も会ってみたかったかもね」

 

「それは私もだぜ!めっちゃ気になるなぁ、そいつのこと!!」

 

「……そんなに気になるものかしら?」

 

私の問いかけに、当たり前だと言わんばかりに首を縦に振る二人。その様子にまた笑いがこみ上げてくる。本当に、仲がいいこと。あの頃の私とあいつみたい。

 

『ユウカ、ソロソロアノコガクルコロダヨ!』

 

近くの向日葵の声に、ふと我に返る。そうだ、今日は『あの子』が来る日だったわ。ついつい話し込んじゃったみたい。あいつの話が出たのが原因ね、きっと。

 

「……二人とも。悪いけれど、今日はここまでみたいね。これから私、用事があるの」

 

「えぇ、用事ぃ?おいおいゆーかさん、そりゃないぜ!話はこっからなのに!」

 

「そうね、私も気になるから聞きたい……って、思ってたんだけど。まぁ、また今度にするわ。その時はお茶でも用意しといてね?」

 

勘が鋭い故に何かを察したのか、霊夢はまだまだ話し足りないと鼻息を荒くする魔理沙の首根っこを掴むと、じゃあねと言ってそのまま何処かへと飛んでいった。……方角からして迷いの竹林だったので、恐らく妹紅の所へ話を聞きに行ったのだろう。南無三。

 

 

「……さて、と」

 

 

二人が行くのを見送って、私は家の中へと向かう。なにぶん話し込んでたせいで、客人を迎え入れる準備なんて何一つ終わってない。

……と、言うわけで。ちゃちゃっと準備を済ませましょうか。ふふ、なんたって今日は、一年で一番大切な季節。

 

 

 

 

 

 

ーー『あの子』の来る季節なのだから。

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 

向日葵の咲く頃に、彼はいつも現れる。

 

「ーーあ、あの!こんにちは、幽香さん!去年の夏から一年ぶりです!」

 

私が妖怪になってから、数年経った頃に、ひょこっと顔を出してきて。そこから毎年の常連さんになって、仲良くなって。……今年でこの子、何歳になるのかしら。

 

向日葵の咲く頃に、彼はいつも現れる。

 

「今年も大変綺麗に向日葵達が咲きましたね、僕もなんだかとても嬉しいです!」

 

小さな彼の背丈を優に超えているであろう向日葵達を見て、彼はそうはしゃぐ。その様子に、私も、そして向日葵達も苦笑する。……全く、人間と言う生き物はこれだから。微笑ましいが、もう少し落ち着きを持ってほしいものだ。

 

向日葵の咲く頃に、彼はいつも現れる。

 

「今日はですね、寺子屋で妹紅お姉ちゃんに会って、これを幽香さんと一緒に食べなって、饅頭をくれたんですよ!」

 

妹紅も放っておけないのでしょうね、この子のことを。気持ちはわかるが、しかし霖之助さんと言い妹紅と言いエリーと言い、この子に甘すぎる部分もあると思うのだ。挙句紫に至っては、甘ちゃんも甘ちゃんで、それを了承したあの閻魔も閻魔だ。……本当に、彼にも、そして『私』にも甘すぎるのよ、あいつらは。こっちが感謝してもし切れないくらいに。

 

向日葵の咲く頃に、彼はいつも現れる。

 

「ーー幽香さん、どうしました?僕の顔に何かついてます?」

 

私がじっと見ているのが気になったのか、しきりに自分の顔を触って何処かおかしくないかと聞いてくる彼。その姿に笑いがこみ上げてくるが、我慢我慢。

 

「いいえ、何もついてないわよ。それよりも、ほら、早く家に上がりなさいな。一緒に饅頭でも食べましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

向日葵の咲く頃に、彼はいつも現れる。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーねぇ、『日向』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー輪廻転生。

 

それは、生を始め、死を迎えた魂が、次の生を授かり生き返ること。それではあの時、妖怪としての生を始め、あのような形で死を迎えた彼の魂は、一体どうなったのだろうか。

 

向日葵の咲く頃に、太陽の畑へと毎年訪れるその人間の子供が、彼の生まれ変わりであるかどうか……それは、知る人のみぞが知ることである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向日葵の咲く頃に~完~

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、これにて向日葵の咲く頃には終わりでございます。作者も最後の終わり方すごく悩んだのですが……何事もやってみること。ハッピーエンド、とまではいきませんが、バッドエンドでもない終わらせ方にしました!

このような設定も文章もガバガバな作品を……四年?以上も続けさせて頂き、本当に感謝です。ひとえに、この作品を見てくれる皆さんのお陰と言えます!本当に、ありがとうございました!!

これからも色々と力不足の作者である私を応援していただけると本当に嬉しいです。

花妖怪シリーズたる、最高の日々と、恋をする、そしてお嫁さんの方も頑張って更新しますので、最後までお付き合いしてくださると、とても嬉しいです!!


余談ですがこの作品の完結記念と言うことで、またもやかる夏さんに素敵な絵を頂きました!!最高の日々の主人公と言いタイトルと言い、大変お世話になってます!本当に感謝感激です!!

かる夏さんの絵は↓こちらです!


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