望んでないのに救世主(メシア)!?   作:カラカラ

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第09話:ファーストコンタクト(後日)

――カイエンはアトロポスの地球についてまとめた第一次報告を執務室で読みながら以降の対応をアトロポスと共に検討していた。

 

 いやービックリした。此方と地球人とはある意味違う生き物と判ってはいたが、寿命が4~5倍も違うとはな。まあ、昼間に来た駒木中尉達の毛髪と日本帝国のネットワークから得たデータを確認したところ有精生殖が可能であることは確認されたのである意味OKなんだが、俺の外見上ではほぼ同年代の年齢が15~20歳となると、年の差約30歳とかあり得る事になるな。

 アトロポスの話では俺の遺伝子は非常に凶暴で、受精中に卵子を破壊してしまう可能性が非常に高いため生殖可能な卵子を持っている個体は非常に稀な存在らしいのだが、この星の女性の卵子は非常に強いらしくほぼ100%大丈夫らしい。

 

「アトロポス、食料関係の調査結果は白だったな?」

「我々の食料は地球人類に対して一般的な天然食材及び合成食は問題ありません。が、薬物の耐性に関しては弱いようです。大麻や覚せい剤など我々には特に効果が無い物も彼らには深刻な悪影響を及ぼしてしまうことが確認できました。ブレインクラッカー等は即死or即廃人のレベルです」

「それは医療上には影響があるか?」

「現状判明している範囲では無いと思われますが、実際には臨床試験が必要です」

「そらそうだ。誰だっていきなり知らない治療法を試される事になったら嫌がるからな」

「あと1月程すればWILLで回収した細胞が試験可能なレベルに培養が完了します。臨床試験等はその細胞で実施すればどの程度まで治療可能か判断がつきますが、遺伝子を解析した私の私見では問題なく治療が可能と思われます」

「それは良いことを聞いた。じゃあうっかり怪我をさせても大丈夫だな」

「あくまでも、脳が死んでいなければ、ですよマスター。やりすぎは駄目ですからね」

 

 取敢えずは少々やりすぎてもアトロポスと設備があれば大丈夫だな。移住院大臣はスキンヘッド&グラサンの強面オヤジだが、冷静さや状況の変化に対する柔軟性など単なる軍人ではなく一流の政治家でも通用する立派な人物なのだが、この前莫逆の友として紹介された紅蓮大佐という変た……もとい大きいお友……いや、脳筋からの熱烈過ぎるラブコール(挑戦状)の対応に困っていたからな。帝国軍の実力とやらを確認するいい機会だから次回は乗ってみるか。

※因に斯衛軍筆頭衛士として前線に出撃できる最高位が斯衛軍では大佐でこれを理由に紅蓮醍三郎本人が昇進を断っている為である。もちろん指揮官としても最前線に飛び出して戦うという点に目を瞑れば一流である

 

――最初の会談から1ヶ月後の2000年3月に日本帝国とWILLの間で正式に条約が交わされることが決定した。その詳細は一般には公開されず、五摂家や政府、城内省等上層部のみが知るところであり、一般には新型食料合成プラント運用を目的としたメガフロートとして発表された。食料合成プラントは、対人類戦争では戦略目標として狙われる施設であるため、関係者以外の立入りが禁止されることに違和感を持たれにくいからである。また、昨今の食料事情より、食料合成プラントは市民の関心を持つことで、敢えて過剰な詮索を避けることも目的としている。余談だが、多方面からの工作員達に対しては【拘束⇒洗脳⇒逆スパイとして母国へ帰還⇒軽度レベルの情報流出】の四連コンボにより鉄のカーテンをさながらレースのカーテンレベルに低下させている。

 

――締結される条約の主要な内容としては下記のとおりである。

一つ 日本帝国はWILLに対して自治を保証する

一つ WILLは日本帝国に対して領海借用費として年間200万人分(2000年2月末時点の日本帝国在住の難民人口)の食料を無料で供給する

一つ、借用領海範囲は相模湾に停泊しているWILLの周囲から12海里(約22.2km)とし、日本帝国はWILLが領海借用費を支払う限りにおいて領海として認める。但し、排他的経済水域等は有しない

一つ 日本帝国とWILLは政府間を通じて貿易を可能とする。なお、本項の貿易とは軍事的な依頼も含む

一つ 日本帝国はWILLに対して食料プラント警備の名目で帝国軍及び斯衛軍より最大で中隊規模の駐留部隊を派遣できる

一つ WILLは自衛に必要な場合、軍事力を行使できる

一つ WILL内は日本帝国の法律が適用されない。※但し駐留部隊駐屯地を除く

 

――要するに年間200万人分の食料で領海を借用し、駐留部隊という監視付きではあるが、貿易相手となるという内容である。(実際監視できるかは別としてだが)対外的には新型食料合成プラントとして日本帝国の企業所有地扱いであるが、これは諸外国との交渉を封じるための日本帝国の思惑があっての事だった。尤も交渉の途中からめんどくさがりはじめたカイエンから交渉役を引継いだアトロポスが締めるところは締めたので、WILL内の自治は確保することが出来た。(食料供給量や行動の自由権、WILL内における日本帝国の法律排除など)

 

この内容だと、俺らは日本帝国に寄生する形にだな。尤も此方の根拠地であるWILLは移動可能だから日本帝国に地政的な要因で縛られる心配は皆無であるし、別に此方は良いんだが……

 

「アトロポス、貿易って言ってもこちらは売り手にしかならんが、これは商売として成立するのか?日本帝国は貿易赤字一色だぞ? まぁ此方の生産能力は増設次第で数十億人は余裕で維持するだけのキャパがあるから大丈夫だが」

「対価はBETA等の機密情報やこちらの自由行動に伴う根回し等でも双方が了解したならばOKとしました。また、此方の設備で大半の元素は合成可能ですが、製作が大変な天然素材の織物(絹や綿等の織物)を、私はともかくとして、アレルギー体質であるあの子たちの衣類用として購入を予定しております。もちろんスーツの装甲等はこちらで製作します。尤も現状では彼らも此方のカードが食料・生活物資のみと思っていますから難民対策程度の規模で想定した場合、国庫への影響は少ないと判断したのではないでしょうか」

「まあ、200万人分は無料だし、追加注文が来ても割増にはしない予定だからお互い損はないから此方は問題無いか。まあ、後方支援国との国交に影響が出る程にのめり込まれて自滅してもそこは自己責任だよな。」

「交渉を担当した榊大臣は、状況を冷静に判断して目的のために覚悟を決められる政治家の様ですので国を維持する為にもそこまでの事はないと考えます。少なくともしばらくは無料分の食料でうまく運用するでしょう」

 

――アトロポスの予想はWILLから供給した食料が天然食材と同等の美味であり、現在流通している合成食材と一線を画するレベルだったため、配給した国民や一部の上級軍人による過激な陳情という名の無視できない圧力を日本帝国の政府が受け、大きく外れることになってしまう。また、日本政府からのオーダーで衛士用合成食(消化吸収率が99%以上という極めて高い合成食)を新規に開発することにもなった。開発に関して、駐留部隊が日本帝国側の開発担当兼試食係となることで合意した。これは、軍隊における食事が与える士気への影響を考慮した移住院大臣を筆頭とする城内省と斯衛の筆頭衛士である紅蓮大佐が配慮した結果でもある。後にA-T印の衛士用合成食がベストセラーとなり、市場を席巻することとなる。衛士用合成食による収益の取分はWILL7割、日本帝国3割と定められ、後年では日本帝国の収入の2割を占める貴重な収入源となる。

 

閑話休題

 




備考
本作AL世界における2000年時点での総人口は約25億人です。

本編にでは触れませんが、本作におけるオリジナルキャラクター移住院隼人氏がなぜ城内省の大臣をしているかといいますと、隼人氏の美人妻美樹(登場予定なし)の実家が西九条(五摂家の九条家の分家)だからです。娘は母方の姓を名乗り、西九条紗羅といいます。(登場予定なし)

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