―WILL浮上から30分後、鉄原及び佐渡島ハイヴ周辺のBETAが急激に活動を開始し始めたとの緊急連絡が会議室に飛び込んできた。
「バカな! 鉄原ハイヴはつい先月間引き作戦を実施したばかりだぞ! 佐渡島に至っては先週だ!」
「移住院君!! 落ち着きたまえ。カイエン殿の前だぞ」
「ああ、気にしないでいい。が、どういう状況か具体的に説明してくれ」
いきなり報告が入るなり怒鳴りだしたってことは、相当にイレギュラーな自体が起きたことはわかるんだがね。
「ああ、まずBETAというのはBeings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race(人類に敵対的な地球外起源種) の略称でハイヴとは奴らの前線基地と考えられている。」
「あの醜悪な面をしている異星起源種のことで間違いないか?」
「おそらくその認識で問題無いですな」
「このような状況で悠長に会議などしている暇はない! 俺は至急城内省に帰って対策を練らねばならん。カイエン殿、榊、悪いがこれで失礼する」
「つまりは急に攻めてきたからスクランブルがかかった訳か」
「先ほどの報告で鉄原と佐渡島にあるハイヴつまり日本に最も近いハイヴから敵が進行中といった状況です」
「じゃあ日本帝国軍はWILLを眺めている状況ではないってことにもなるな」
「状況はそうなのですが、帝都の近くで浮遊する巨大艦がいるとなると監視しないわけにもいきませんな」
「やれやれ、宮仕えも楽じゃないな。わかった、WILLには着水しておとなしくしておくように連絡する。それらの現場に至急向かうように指示を出しておくといい」
「おねがいします。こちらも戦術機甲連隊を後詰に向かわせなければならないので、戦術機……ロボットを動かさせてもらいますぞ」
「撤退する方向で動く分にはこちらからは何もする気はないし、事情は理解しているから心配しなくていい。それとあのロボットの総称は戦術機と理解した」
――そうカイエンに断ると榊は国防省に連絡をいれ、一時的にWILLの監視が緩むこととなった。
また、WILLの浮遊は約60分程度で終了した。結果的に日本帝国にWILLは空飛ぶ船であることを見せつけ、自分たちの持っている技術とは一線を画する技術を持っていることを知らしめた。また、BETAの動きは大規模侵攻の予兆が確認できたものの実際には各ハイヴより其々1個大隊(約1000体)規模程度の侵攻だったため、駐留部隊が数小隊犠牲になったが、本土から撃退することができた。
だが、鉄原及び佐渡島のようなフェイズ4規模ハイヴの間引き適正周期は3ヶ月とされており、今回はその三分の一以下の期間で侵攻をはじめた。この統計結果を大きく覆す事象はBETA研究者達にとって大きな謎として長期間頭を悩ませる事となった。この謎はとある事が原因であったのだが、この時点では誰も真因にたどり着くことができなかった。
そういえば、この会談はどうするかな、確か身体能力を測る準備をしていたが……
「こういう事態になった以上会談は次回に持越しでいいか?」
「そうですな、移住院君も行ってしまったので、これ以上は体裁が整いにくいですな」
「そうか? まあ其方がそういうのであれば、取敢えず今日のところはそれぞれの情報を持ち帰って次回の交渉材料を探っておくとしようか」
「そうですな。ああ、測定器具の準備は出来ているので測定だけはさせていただきますぞ」
「まあ、そのくらいはしておくか」
それとなく手は抜くがね。
――こうしてカイエンの身体能力(超手抜きバージョン)を測定する事となった。
「まずは握力から測定いたします。これを握りしめてください」
「ああ」
「……左右共一瞬で計測不能ですか……これ、200kgwまで測定可能なのですが」
「因に普通はどのくらい?」
「個人差がありますが、成人男性で50kgw程度ですね」
「なるほど、この記録で地球人でないって証明になりうるかな?」
「むしろサイブリットではないかの疑いがありますね」
「サイブリット?」
「簡単にいうとサイボーグでしょうか」
「俺はサイボーグなどではないぞ」
――こうして100m走約2秒、垂直跳び約30mの記録とともに「こいつは絶対地球人ではありえない」と担当した医者から内心で診断され、医学上正式に地球外生命体と認定された。因にサイブリット疑惑はレントゲン撮影で払拭された。この証明をもってカイエンは地球人の生態データ等をもってWILLに帰還することとなった。
「さて、これで今日の所は帰ってもいいかね?」
「そうですな、驚くべき数値に対しては言葉もありません。こちらとしては友好的な関係でありたいですな」
「こちらとしては敢えて敵対するメリットは今のところ無いさ。もっともこのデータ次第ではこちらの要求も変わってくるかもしれないが」
「……どういう意味ですかな?」
おっと雰囲気がかわったか。少々うかつな発言だったか。
「別にたいした事ではないさ。単に“畑”を借りるかもしれないというだけさ。そう言う意味では友好的な関係はありがたいさ」
「そういう意味ですか。それでは帰りの足を手配しますので少々お待ち願います」
「WILLから呼ぶから遠慮するわ」
「しかし、迎えに来るあいだに帰還できるのではないですかな?」
「いや、アイツなら呼べば直ぐに現れるさ。で、呼んでもいいか?」
「交戦は無いと考えて良いのですよね」
「ああ、其方が仕掛けてこない限りは此方から戦端をひらくことはしないさ」
「であれば、あまりコチラの都合を押し付けるのも良くないですな。いいでしょうそれでは次の会談は後日お渡しした通信機にこちらから連絡を入れます」
「了解した」
さて、許可も降りたことだアトロポスなら格好のパフォーマンスを披露するだろうな。
「アトロポス、今日の会談は終了した。迎えをたのむ」
『イエス。マスター』
――通信が切れた途端にカイエンの前方にある駐車場でエネルギーフィールドが発生し、甲高いイレイザー音を奏でながらMHオージェ・アルス・キュルがテレポートして現れた。
「じゃあ、データはありがたく頂いただいていく。それと、スパイ達はこちらで監禁しておくからな。追加はいらないからくれぐれも注意しておいてくれ」
「……わかった。諜報機関に連絡を取っておく。ところでこのMHはどうやって現れたのかね?」
「それは秘密さ。じゃあな。アトロポス出発だ」
――カイエンはそう言い残してWILLへ帰還した。今回カイエン達が得られたデータを確認し、食料等の生活物資等は自分たちとほぼ同じ物が使用可能であることが判明した。尤も薬品関係の耐性や身体能力が自分たちに比べて大きく劣っている事も判明した。また、日本帝国から提供された通信規格を基に改造を施したサーバーでネットワークにアクセスしたところ、会談で会った榊大臣(46)や移住院大臣(48)が年下であることに驚愕した。
※この時のカイエンの年齢は50歳です。地球人換算では14~15歳程度F.S.S.一巻より
ついでに今回のせているカイエンの身体能力は手抜きバージョンとして一般騎士クラスの能力を参考にしております。多少間違っているかもしれませんが……あと、一般ファティマは一般騎士の85%というデータを逆算して使った場所もあります。
・瞬間時速180km/h⇒50m/s=100mを2秒
・ハイジャンプ30m⇒垂直跳び30m
・握力(一般ファティマ200kg≒一般騎士236kg)⇒測定不能だが、この時は240kgw位です。本気で握ると握りつぶせました。
そういえば、榊大臣の年齢って何歳なんでしょう?メカ本にもないし、千鶴の年齢も大人の事情で18歳のはずなので28歳の時の子供として46歳としましたが……