第03話:大気圏突入100時間前のWILLにて
―――俺がこの世界に新生してからWILLではおよそ50年の月日が流れていた。この間に俺に施された個人レッスン(という名のマスター養成講座)の内容はおそらく語られることはないだろう。目を瞑り思い出すだけでもあの【勝ち残ること】に特化した適切《アメ》と過酷《ムチ》は、俺の疲労とストレスが健康に及ぼさないギリギリを完全に見切り、過労死や精神疾患といった症状が出る境界線上を1mmたりとも外させないあたり、彼女の演算能力の末恐ろしさを示していた。……よそう、俺はアトロポスに対して信頼し、尊敬し、感謝しているのだから。
「マスター。あと100時間で惑星降下予定時刻です。」
「わかった、降下予定地点は予定通りかな?」
「はい。先日、月軌道上に配置したグランシーカーの情報から、最もアプローチが容易な宙域からの突入になります。現時点では対光・原粒子バリヤにて本艦の存在は隠蔽しています。尤も着水後はシールすることはできませんので、本艦の存在は降下後に捕捉されます。現地への心象悪化等が無いように、海上へは軟着水し、津波等は一切発生させないことを優先します。」
「OK。それで問題無い。後はコミュニケーション方法の確立だな。アトロポス、現地の言語データの収集具合はどうだ?」
「先行降下させたエジェクターの情報から、日常会話レベルの言語データは収集できました。翻訳機用データとしては完成度90%です。現地での直接会話は問題無いレベルと判断します。」
「ということは、警告等の誤解はしなくて済みそうだな。」
「次に通信方式は、300万MHz以下の電磁波を用いている事は判明していますが、規格が不明であるため効果的な通信ができない状態です。システムから判断するに、人工衛星を用いた通信等も行なっていると判断できますが、人工衛星にアクセスしてしまうと本艦の位置がバレてしまうので断念しました。」
「規格関係は現地住人に教えてもらうことにしよう。あちらさんもこちらに対してコミュニケーションをする気があるなら手間は惜しまないだろうしな。向こうがこちらを無視するようなら、こちらも相手をする必要もない。」
ま、ほっとかないとは思うが。
「現地の状況ですが、異星起源種と思われる非ヒューマノイドタイプの生命体が現地のヒューマノイドを侵略しています。」
「ん?どうして異星起源種と判明したんだ?」
「この惑星に来る前に通り過ぎた惑星や衛星に同様の生命体が生息しているのを確認しております。また、この惑星の分布範囲は惑星全体にまで分布していない事実より、星系外から進出してきていると考えられるからです。」
「そうか。この惑星は生存権をかけた戦争中ということか。」
「戦況は異星起源種が優勢です。詳細などは不明ですが、惑星全体に分布していたと思われる現地人が半分以下の範囲にしか生存できていないところを見ると押し負けているように考えられます。」
押し負けているってことは、戦力差としてはあまり大きくないか、異星起源種の侵略行動が緩やかであるとも考えられるな。
「異星起源種の数は少ないのか?」
「衛星画像で確認すると非常に数が多いようにみえます。大陸各地に砲口のような建造物があり、その周りに異星起源種が集っているのですが、その割合が異星起源種7に地面3といった状態です。さながら軍隊アリのようです。画像にするとこのような感じです。」
「キモ!何だか嫌悪感を抱く面をしているな。こいつらとのコミュニケーションなど取りたくない。ぶっちゃけ他の星にいかないか?」
こんなキモい奴らに集られそうになるのはヤダ!
「この星系において、ヒューマノイドタイプはこの惑星にしかいませんし、マスターの嫁探しが数十年以上伸びますがよろしいのですか?」
「う。」
むう。選択の余地がほとんどないのか。
「さらに付け加えるならば、現状のエンジン不調は看過できる状態ではなく、このままでは2~3年以内に宇宙空間でのオーバーホールとなり、数年間は小惑星等の飛来物を避けながらの作業となりますので…」
つまり、この惑星に暫く留まりなさいってことね。
「ハア、わかった、わかった。この惑星に暫く厄介になろう。」
「イエス、マスター。」
「因に、この惑星に居る美人はどのくらいのレベル?」
「……それは会ってから確認してください。」
「Ja(ヤー)」
ここまで原作要素が薄くてごめんなさい。