望んでないのに救世主(メシア)!?   作:カラカラ

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ちょっと超展開になってるかもしれません


第17話:怨嗟の声

――2000年3月26日の夜明け頃、玄界灘に集結した帝国連合艦隊第2及び第3戦隊からの太宰府付近に集結している大隊規模の光線級を中核としたBETA群へ向けたAL弾の一斉射撃により、九州奪還作戦における最後の戦いの幕が切って落とされた。カイエン達はその様子をイール艦橋で見つつ真壁少将のいるCICの音に耳を傾けていた。

 

 「最左翼のウォルフ・オスカー両大隊(日本帝国軍)は海岸線に沿ってエリアC2へ前進、左翼中央のハイドラ・ファング両大隊(斯衛軍)はD3へ、G5に待機している国連大隊(ウォードッグ、ヴァルキリー、アルフレット)とフリッツ大隊にはハイドラ大隊が接敵予定のF3に居るBETA群へ側面から打撃をさせろ。一匹たりとも包囲網の外に出すことは認めん!!支援車両は重金属雲が規定濃度に達した段階で一斉射三連し薙ぎ払え、その後は順次序列毎に弾薬を再装填しつつ支援射撃を継続せよ!!」

 

『『『『了解』』』』

 

 まぁたしかに土地の奪還が目的だからBETAを一匹でも残すと戦闘終了後の残党狩りに手間を取るだろうからローラー作戦で行くしかないわな。

それに海岸側を進軍して連合艦隊から支援砲撃を得ているウォルフ・オスカー両大隊はまだしも1大隊分しかいない戦車大隊の支援砲撃でハイドラとA01の2大隊を支援しきれるのか? いくら戦術機が様々な仕様の携行火器を運用できるといえど携行効率は車両と比較して大きく劣るのは明白だ、補給コンテナを広範囲にばらまくとはいえBETAを一匹一匹気泡緩衝材(通称プチプチ)を潰すように進軍しなければならない本作戦では、速度は非常に遅いだろう。果たして補給と消費のバランスは取れるのか? そもそも戦術機が本当の意味で活躍する場面とは有効的な支援が難しい電撃戦、三次元移動が必要なハイヴ内戦であり、平原戦などは戦車等の戦闘車両と戦闘ヘリで戦い、ヘリを守るためにさっさと光線級を始末するか高濃度の重金属雲を用いれば良いと思うんだがねぇ~。戦闘車両に至ってはどうせ近接戦をするわけではないのだから装甲をとっぱらったジャングート(民生用トラックに対物ライフル等を乗せた車両)のような車両を用いたほうが機動力・燃費・生産性でかなり優位に働くと思う。

アトロポスの調べによると本来日本の国土は平野部が少ない地形をしていたみたいだから、そういう地形ならたしかに陸戦兵器として人型の走破性面で優位性もあるのだろうけどBETA支配地域は殆ど平だから同規模でぶつかると的の大きさ、装甲の厚さ、コストパフォーマンス面で確実に戦闘車両が優勢だろう。逆に空を飛ぶなら、今度は速度面で戦闘機や攻撃機等の軍用機に的にされるだけだ。

対BETA戦においても光線級がいるので航空機の使用は困難だが、まっすぐ突っ込んでくるだけの相手には戦闘車両を中心とした面制圧が可能な陸戦兵器の戦力がBETAの数を上回っていれば侵攻自体は封殺できるはずだ。

 

結局のところ“戦いは数”だよな少将

 

◇――――――――――――――――――――◇

 

――06:00 大規模なAL弾と光線級及び重光線級BETAのレーザーによる重金属雲が光線級の照射圏内を覆った頃を見計らって佐賀側から進軍したハイドラ大隊が大隊規模BETA群と旧吉野ヶ里遺跡付近(ポイントE3)で接敵した。

 

 「ハイドラ1よりハイドラ大隊へ陣形鶴翼複伍陣(ウイング・ダブル・ファイブ)にて敵集団を包囲殲滅する。続け!!」

「「了解」」

 

――綱を引き絞る様に徐々に戦線を圧縮し、戦況を優勢にしている人類側であったが、戦闘開始数分で戦闘部隊の1~2割の損耗が発生していた。もともと新人衛士の初陣における平均生存時間が約8分という事実もあり、作戦司令部としてはある程度想定した被害だったため作戦は継続できていたが、徐々に実戦経験が豊富な衛士たちの部隊にも被害がではじめ、組織的戦闘行動が不可能となり後方で再編成をする部隊が全体の2割にまで拡大した。

 カイエンはイールのブリッジで各地の戦場の様子を身動きせずに歯を食いしばってじっと眺めていた。半数は優勢な映像群の中で補給車に戻ろうと飛行したところに光線級のレーザーが直撃し蒸発する場面や突撃級の体当たりで転倒したところに群がる戦車級などの映像も映し出され、断末魔の悲鳴が響き渡っていた。

 

 

 

『嫌だーーー助けてくれぇーーーー……』『か、柿崎ぃーー』『構わん!! 俺ごと撃てぇ!!』『大尉ィーー』『両さーーん』『あ……あ……』『暗い、怖い、狭い、怖い、ひ、ひ、ひぃーーー』『死にたくない。死にたくない。死にたくない』『救援を!! 見捨てないでくれ!!』『よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもぉーー!!』『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!』『ギィヤァーー!!』『食べないで、食べないで、食べないで、食べないで……イヤァーー』……

 

 

 

――戦闘開始から約1時間の間に次々と凄惨な情報に晒されたカイエンは顔面蒼白になりながら震えていた。その様子は魂の奥底から流れる恐怖を体内に必死に押し止めようとしているかのようであった。

 

 「…………」

 

 ……なんだこの感覚は、感情がコントロールできない。震えが止まらない……

 

 「マスター?」

 

 ……アトロポスが何か言っている……

 

 「マスター? いかがいいたしましたか?」

 

 ……アトロポスが心配そうな顔をしている……

 

 「マスター!! しっかりしてください!!」

 

 アトロポスが力強く抱きしめてきた。ああ……心臓の鼓動が聞こえる……どうやら自身のコントロールが帰ってきたようだ……

 

 「ア……アトロポス、これが戦場か……」

 

――カイエンの言葉を聞き初めてアトロポスはカイエンの不調の真因に到達することができた。 “カイエンはこの作戦で初めて人死を見ているのだ”ということ即ち恐怖である。また、アトロポスをもってしても到達できなかった答のひとつとして、彼のルーツは滅びと死を前にした断末魔の叫びを上げた者たちの集合体であるということがある。まさに今BETAに生きたまま喰われ、死んでいく者達の叫びと同種であったため引きずられて混乱していたのである。

 本来この手の恐怖に対しては同一のルーツをもつアトロポスも囚われるはずであった。しかし、アトロポスはカイエンの誕生時に自身が存在するための力をカイエンから分離させて現界をはたした。このアトロポスは、とある星団を見守るゲートキーパーのファティマ時代を投影したモノであり、更に全てのパワーゲージが一段階強化され、精神安定性も4Aという高いストレス耐性を獲得したことでアトロポス自身は混乱に至ることはなかった。

 

「マスター…… このような状況がこのまま続くとマスターの精神に多大なダメージが蓄積してしまうと判断します」

「……アトロポス?」

「日本帝国との契約では積極的に戦闘には参加しないことになってはいますが、このままではマスターの精神を蝕む結果となってしまいます」

 

 アトロポスは何が言いたいんだ?

 

「……どうするつもりだ?」

「マスターのファティマとして提案します。提案内容は2件、どちらかを選択するか或いは両案を却下するかはマスターに委ねます」

 

 

「……わかった」

「案1として、現時点をもって運搬作戦をバスクチュアルに委任しWILLに帰還。いかがでしょうか」

「ちょっと待て、契約を破棄するのか?」

「いいえ。契約内容としての運搬任務の分は実質終了していますので、後は本陣としての機能を提供することが我々と帝国との契約業務です。マスターが戦況を見続ける義務はありません。また、私の試算ではこのまま致命的なトラブルなく進行した場合あと12時間程でBETAは殲滅されます」

「勝てるのか……」

「はい、人類側の損害は戦闘開始前と比較して全体戦力の4割強、戦術機部隊は約半数消耗しますが現在確認されているBETAは殲滅します」

 

「……約半数消耗だと?」

「はい、戦術機部隊の新人衛士5割、戦力にして実質1割は既に消耗しています。残りの4割は練度及び指揮官の戦場選択傾向等を考慮した結果国連部隊の7割と斯衛と帝国軍で各1大隊程度と思われます」

「殆ど積んできた人員と同数が死ぬのか……」

「そうです。そのような怨嗟の声に態々マスターが苦しめられる必要は無いと提案いたします」

「……確かに必要はないが……いや、その提案を却下する」

「……理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「確かに怨嗟の声を聞きたくない。だが、戦場に彼らを連れてきた者として、或いは今後人を死地に追いやる命令を下す可能性を持つものとして苦しんで死んでいく状況からは逃げてはいけない。そう決断した」

 

――カイエンはキッパリと言い切り、続けて苦笑いしながら「もちろん俺個人の戦闘の場合は自分より強いものとは戦わないがな」とのたまった。

 

――アトロポスはカイエンの決断を聞き、保護者としての行動は終了間近であることを満足げに実感していた。

 

「……次案ですが、契約自体はバスクチュアルが全権を担当できますので外の空気を吸いに出かけませんか?」

「……外?」

 

――怪訝な表情になっているカイエンを見つめながらアトロポスはやわらかさ笑みを浮かべる

 

「そうです、本来私たちは商人・傍観者の立場を取るべきです。しかし、いつかはこのような情景で戦闘をしなければならない場面が訪れる可能性が否定できません。その時マスターが自失状態になるわけにはまいりません。このリスクを考慮した場合、この勝ち戦で戦場を克服していただくのがベストと考えます」

「……コレを……克服できるのか?」

 

――カイエンの弱音を聞いた途端にアトロポスの笑みのやわらかさが消え獰猛な肉食獣が獲物を見つけた時のような笑みに変化した

 

「マスター、克服“できる”・“できない”ではありません克服“する”のです。そのためにここでリスクをとるのです。新兵の平均生存時間は8分だそうです。マスターと私、それにオージェも今回が本当の意味で初陣です。しかし、恐れることはありません近づくものは片端から打ち抜き・斬り捨てれば良いのです、そのための技術は既にマスターのモノです。さぁ、BETAの屍山血河を築いて恐怖を克服しましょう!! 甘えは許しません、マスターは騎士(ヘッドライナー)なのですから!!」

 


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