望んでないのに救世主(メシア)!?   作:カラカラ

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第15話:フェイズ1終了、そして終了していたフェイズ2

――2000年3月24日――

 

――戦闘と呼べないような一方的な殲滅戦を目撃した神宮寺、安岡両少佐は呆然自失という状態であったが、自身の精神力を振り絞りなんとか戦闘終了後30分程で我に返ることができた。二人が正気に戻った事に気づいたカイエン達は二人を含めて以後の行動について協議を開始した。

 

「あー、大丈夫か?」

「は、はい。ご迷惑をお掛け致しました」

「醜態をお見せして申し訳ない。しかしあのE-75という空中戦車は凄まじいですね! あの空中戦車が前線に配備されたならBETAなど簡単に粉砕できるでしょうね!!」

 

――安岡少佐の鼻息を荒くした感想を聞いたカイエンは苦笑しながらも、今後、技術提供等を求められてきた時の為に、警告をする必要性を感じた。

 

 どうやらE-75の砲撃はよっぽど印象的だったんだなぁ。説明したりはしないが、あの砲撃は通常秒間1発発射できる砲撃を15倍の時間をかけてチャージしたものだからかなり特殊な打ち方なんだよな。通常出力である砲口径88mm、砲身内圧力71倍だと恐らく10km以内でなければ重光線級に有効なレベルの破壊力は出せないだろう。

 今回の結果は偏にバスクチュアルの並列操作やビョンドシーカーでの精密索敵、30台という数そしてなによりも重要な事は、近寄ることができないアウトレンジであったからだ。

実際有効射程が10kmでは確実に光線級の射程圏内であり、大気で減衰されないレベルのレーザー照射を受けた場合、バリアのある正面は多少持つが、バリアのない後方に当たると確実に撃墜されるだろう。1対1ではないので数的な問題があり、連射性で勝てても数で押されるから、インターバルは無いと考えたほうがいいな。

 そういえば、地球人の対BETA戦におけるセオリーに重金属雲を作る事があるが、あれをやられると主砲の威力が更に減衰される。アトロポスの試算だと有効弾の射程は実質3kmくらいらしい。尤もオーロラビームを使えば戦車兵が乗り込んだ場合の彼我距離3~4kmの初弾命中率は20%を切るレベルだろう。【注:騎士とファティマの組み合わせの場合は強力な妨害フィールドの影響下でもファティマの補正計算と騎士の照準能力で命中率は100%になる】

さて、どうやって鎮火するか……いや、いっそ提供はしないとハッキリ釘を刺しておくか。

 

「変な期待を持たれても困るので先にハッキリ言っておくが、E-75をはじめとした我々の兵器についての技術情報等を公表も販売もするつもりは全くないからな」

「な、あの戦車があと1個連隊分(60台)でも用意できたならば戦場での光線級の脅威を取り除けるではないですか!」

「そう言われても俺は外に流す気にはなれんな。それと今回の戦闘では此方が有効射程距離で上回ったからの結果だが、今回は非常に特殊な砲撃方法を用いているからで、実際の命中が期待できる射程距離は10km程度であるし、AL弾等で減衰されていたとしたら破壊力が大幅に減じてしまい、有効な砲撃距離はせいぜい3kmってところじゃないか? なあアトロポス」

「はい、その通りです。金属雲濃度にもよりますが、実戦濃度で発生された金属雲を有効な威力を保持して貫通することはE-75の先ほどのチャージ出力でも不可能でしょう。地球人がE-75を用いて光線級と砲撃戦を実施するシュチュエーションですと金属雲無しで命中可能な距離である10km付近で事実上の正面からの撃ち合いしかありません。照準能力と数の差から高確率で七面鳥撃ちのように撃ち落とされるでしょう」

「そ、そんな……」

 

 E-75にはバリアがあるから正面は大丈夫だが、側面の薄い部分から後方の無防備部分を狙われたら確実に撃墜されるだろうな。もちろんそんな情報は教えないが……

 

 

「水を差すようで悪いが、今回はこちらに非常に都合の良い条件が重なっただけだ、賞賛してもらえるのは嬉しいが、毎回同じことができるというわけじゃない。状況次第ではこちらの惨敗も十分ありえる」

「そ、そうなのでしょうか?」

「マスター」

「わかっているさ、アトロポス。まあ、そんなわけでE-75の話はここまでとして、次の話題に移行しようか」

 

――そう言うと安岡少佐が遠慮がちに手を上げた

 

「えーっと次の話題とはなんでしょうか?」

「今後の進路と撃破したBETAの残骸処理だ。地球の流儀ではBETAの残骸は可及的速やかに焼却処理ってなっているが間違いないか?」

「その通りですね。土壌の汚染等があり、早期に処理する必要があります。九州奪還作戦が終了後に作戦参加残存部隊が火炎放射器やナパーム弾等を用いて焼却の予定です」

「なるほど、では先程の戦域は勝手にこちらで焼却処理しても差し支えないか?」

「スケジュールに遅延が発生しなければ問題ないと小官は判断します」

 

――まりもはカイエン達の動向を探る意味でも彼らにアクションを起こしてもらった方が良い為、今回の行動を支持することにした。一方、現地部隊との合流を優先したい安岡少佐は非常に渋い表情であった。

 

「確かに、BETAとの戦闘突入を連絡して合流日時が半日後ろ倒しになっているので時間的余裕はあります。しかし……」

 

――そう言うと安岡少佐は表情を消して続きを発言した。

 

「いえ、本作戦の合流までの行動権限は貴方達が持たれています。小官の希望は1秒でも早く合流していただく事だけです」

「了解した。何、そう時間はかからないよな?」

「おおよそですが総作業時間は3時間程です。当初の合流予定時刻前には確実に合流ポイントに到着いたします。」

 

――そうまとめたアトロポスは、バスクチュアルと共に一旦艦体を空中に浮遊させ、焼却処理用コンテナと偽った回収コンテナと資源回収用ロボットを用いてBETAの死骸全種を7割程回収し、残りはデミフレアナパーム(瞬間溶解焼夷弾)で戦域を土壌ごと焼却処理した。デミフレアナパームによる約8,000Kの火炎は土壌を瞬間的に超々高温で焼却し、BETAの死骸が散乱していた表層を深さ凡そ3mまで焼き尽くす事で、死骸回収とE-75の砲撃の痕跡を地上より完全に消し去った。鎮火後の該当区域を九州奪還後に訪れた日本帝国兵は「まるで一面が溶岩に溢れ、冷え固まった原初の地球みたいな光景だった」と報告書に記録を残している。

 

 これで作戦目標の一つである『BETAサンプルの回収』が達成できたな。そんな内容を日本帝国に知られると面倒だから、この遭遇戦は本当にラッキーだった。アトロポスがBETAの生体サンプルの回収を出撃前に進言して来たから、恐らく弱点等を分析するのに使用するとは思うが其れは報告を待つとしよう。

 

 

 

――2000年3月25日――

 

――佐賀関港ではイール到着を示す信号弾に管制官を始めとした皆が増援の無事に喜ぶ中、司令の真壁 零慈郎少将は1時間前に宮崎方面で観測された業火の原因と思われるイールの兵装と巡航速度に警戒感をかきたてられた。

 

「増援の到着か……通常であれば喜ばしいだけで済むのだがな。途中の連絡では軍団規模のBETA群と遭遇戦を行ったと連絡があったが、遭遇の時刻と戦闘終了の間隔が異様に短い事や、彼らが地球外からやってきた事など、到底信じられない事ばかりでまるで狐か狸にでも騙されている気分だ」

 

――得体のしれないカイエン達を一人警戒する真壁 零慈郎に参謀が声をかけた。

 

「しかし司令、ここから僅か100kmの宮崎付近に軍団規模BETAが集結していたとは危なかったですな」

「ああ…… しかし、なぜ軍団規模の大集団に気づく事ができなかったか甚だ疑問ではあるがな」

「確かに、本件に関しては検証チームを召集して再発防止に努めなければなりません。もし何らかの干渉があったとすれば由々しき問題です」

「その件は後ほど再発防止をするとして、九州奪還部隊の補給物資集積所となっているこの佐賀関が守られたことは非常に大きい」

「ええ、BETA発見の報を受けて退避準備を進めていましたが、彼らがBETAと戦わなかった場合、凡そ1時間程度でこの佐賀関まで到達していました。そうなった場合はこちらの退避が間に合わず、佐賀関は壊滅でした」

「この佐賀関の壊滅は、奪還部隊の壊滅に等しい。その場合、日本帝国が保有する陸上戦力の5割強を喪失することになり、九州どころか西日本を放棄せねばならない事態になりかねなかった」

「そういう意味では正しく天の采配ですな」

 

――明るい話題として話す参謀に、真壁 零慈郎は苦々しい表情のまま忠告を行なった。

 

「だが、彼らは日本人ではない。真の意味で日本のためになってくれるわけではないだろう。決して油断はするな」

「司令……」

「だが、上層部からの指示には従わねばならん。……総員! 本時刻をもって現作業を放棄、基地の解体と先ほど来た輸送艦へ乗艦準備にかかれ!!」

 

――零慈郎はそう零しながら補給基地の総員に移動の指示を出すのであった。

 

――紆余曲折あったものの、ほぼ当初の日本帝国軍が予定していた時刻に電撃侵攻部隊のCPと補給物資を回収することができ、作戦の第一フェイズが終了した。

 

さて、これから第二フェイズへ移行って事なんだが……、宮崎~熊本南部より南のBETA既に平らげたあとなんだよな、まずは布陣している部隊を回収しつつ熊本市以北の制圧に乗り出すか。

 

 

――2000年3月25日の戦況――

 

【人類側奪還地域】

熊本南部、鹿児島全域、宮崎全域、大分全域

【配備戦力】

由布院:2個戦術機大隊

阿蘇:2個戦術機大隊(ハイドラ大隊と中央評価試験大隊《ファング大隊》)

八代:1個戦術機大隊(霧島高原から前進)

下関(本州陽動部隊):1個戦術機大隊(紅蓮大隊)と2個戦車大隊

佐賀関(イール乗艦済み):戦術機 1個連隊(国連軍・斯衛軍・帝国軍各1個大隊)、1個戦車大隊、CP部隊、イール(E-75:30台、重砲:20台、M.H.:1騎(オージェ・アルス・キュル))

 

 

【人類側が確認出来ているBETA九州内残存勢力】

福岡:約3万5千体(軍団規模)

北熊本:約3千体(連隊規模)

 




原作マブラヴでは人類側は連隊の単位を使っているのですが、BETAの規模を測る時は旅団の単位を用いていますね。一応参考までに戦力規模を記載しておきます。

1個軍団規模≒6個旅団規模(連隊規模)≒18個大隊規模≒51個中隊規模
※旅団規模BETA(3000~5000)、連隊規模BETA(2000~5000)現実の軍隊でも軍団>師団>旅団>連隊>大隊>中隊>小隊となりますが、旅団~大隊の間は中抜きになることもあるそうです。

 因にBETAの戦力は人類側の戦力とほぼ互角の部隊規模を当てはめたものなので、旅団規模のBETA群を殲滅するのに必要な人類側の戦力も旅団規模が相当になります。

 本編では人類側の総戦力(カイエン達を除く)は3個戦術機連隊、1個戦車連隊の地上戦力(約1個師団に相当)に海上戦力(第2戦隊&第3戦隊)VS1個軍団+1個旅団規模のBETAが相対している事になっています。
 …………海上戦力を1個師団相当とすればほぼ互角といったところです。

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