望んでないのに救世主(メシア)!?   作:カラカラ

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第12話:WILL内ブリーフィング

――カイエンはアトロポス、バスクチュアル、そして留守中のWILLの防衛システムを管理するヴィッターシャッセと共に日本帝国から提供されたBETAの個体情報と友軍となる戦術機・戦闘車両のデータを確認していた。

 

「マスター、率直に申し上げますが、今回の作戦における実質的対価が反物200本では安すぎます」

 

 ゲ! アトロポスの表情はスッゲー可愛い笑顔なんだけど、目が笑ってないし後ろに修羅がゴゴゴゴゴゴって見える気がする……。

 

「いや、バスクチュアル達の肌着も不足していたから補充にちょうどいいかなと……」

「それについては、既に私が購入の手配を予定していました。調印式典で配給した食料パックにも尾北提督を通じて横須賀海軍基地から注文がありましたし、食材単身での注文も数件受注しているので、当面資金は不自由していません」

「じゃ、じゃあ問題ないんだよな~」

「そう言う問題ではありません!!」

「いやいや。金に困っていないんなら少々下手を打っても大丈夫だろ~。現金取引では無いとは言え120万フェザー(6億円)分は収入になるのだから、120日以上かけなければ、1日あたり1万フェザー(500万円)以上の稼ぎにはなっているハズ」

 

 あ、アトロポスの口元が引きつってきた……

 

「ムァースチャー。反物1本が6千フェザー(300万円)って、WILLでの価値ですよね?」

「そ、そうだけど……」

 

 そのべらんめぇ調ひっじょうに怖いです。ガクブルガクブル

 

「日本の物価では高級な反物1本が400フェザー(20万円)位なんですよ」

「げ、それじゃあ……総額8万フェザー(4千万円)?」

「ええ、その通りです」

 

 な、なんてこった!15分の1じゃねーか。どおりで『それだけで良いのかね?』なんて心配そうな口調だったんだな。ガックリorz

 

「今回の依頼は戦闘の可能性を含んだ初の依頼です。いくら初回でサービス価格と念を押していても価格の基準になってしまいました。榊大臣あたりはその辺を今後しっかり突いてくる政治家です。もう、マスターは価格交渉には出ないでくださいね」

「はい。わかりましたもう、今後の取引関係はアトロポスにお任せします」

 

 流石に今回のポカは尾を引きそうだなぁ。今後の対価交渉についてはアトロポスに頼むとするか……条約交渉の時に榊大臣を真剣泣きさせていたのを脇からこっそり見ていたが、アレは俺には不可能だ……。

 

「コホン、話がそれてしまったな。今回の依頼内容は、要約するとお客さんの輸送と護衛だ」

「本当に要約しましたね……」

 

 アトロポス、そんなに呆れた顔で言わないでくれ。……わかったから、説明するから。

 

「えー、今回の輸送に関して必要条件として①お客さんを目的地に届ける。②護衛対象を九州奪還まで守りきる。③お客さんを現地展開部隊“ハイドラ”合流まで守る。の3点がありまーす」

 

 自分で言っておいてなんだが、守ってばっかだな。

 

「マスター、守ル・際ノ・規約ハ・何ガ・有ルノ・デスカ?」

「おお、バスクチュアルいいところに気がついたね。基本的には2つ有る。①土地を重度に汚染しない。②友軍に物理的ダメージを与えない。の2点だ。他にも占領するな。とかもあるんだが……ま、元々占領する気が更々ないので気にするな」

「私たちの保有している兵器は元々可能な限り土地を汚染しないように開発されていますが、重度の汚染とはどの程度を指すのでしょうね」

 

確かにその辺は曖昧なんだよな。一般的な作戦データを見る限りでは重金属汚染はOKと読み取れるし、銃弾は劣化とはいえ放射性物質(ウラン)だ。これが許容された汚染範囲とすると、残留放射線が異常に高い等を指すのかな。あるいは……

 

「横浜基地の重力異常を引き起こした爆弾(G弾)のような物を指す、のかもしれませんね」

 

 流石、アトロポスだ。その答えが直ぐに出るところをみると、横浜の重力異常は解析済みか。

 

「今回の作戦概要を説明すると、①現在建設中の横浜基地軍港でお客さんをイールのコンテナにご案内。②鹿児島の大隅半島辺にいるBETAを対地砲撃で制圧。③制圧が完了次第、“ハイドラ”部隊に連絡をいれ、上陸部隊との合流を支援。④“ハイドラ”部隊のCPをイールのコンテナに乗艦している後方部隊と合流。⑤補給基地とCPを兼ねた移動基地として九州奪還戦を観戦。といった感じだな」

「では、フェイズ②の大隅半島制圧が肝になりますね」

「そうだな。最初の一手で可能な限り殲滅すると後の護衛期間に楽ができそうだ」

「その方針ですと、制圧射撃の範囲は友軍に影響の無い範囲のBETAを粉砕する。で、よろしいでしょうか」

「ああ、バスクチュアルにイールに搭載した対地砲撃の適時使用を許可する。ビョンドシーカーで友軍との距離やBETAの配置に注意してくれ。くれぐれも衝撃波で彼らが傷がつくような事が無いようにね。直援のE-75は不意に接近してきた奴らの掃討を任せる」

「イエス・マスター」

 

 これで、とりあえずは大丈夫そうだな。

 

「俺とアトロポスはオージェで予備戦力として待機だ。無いとは思うが追加ミッションが来たら対応する」

「はい、既に地形データや照準調整等は完了しています。メインウエポンとして、実剣・光剣を準備しておきました」

「ありがとう」

 

 流石に仕事が速すぎないか?(汗)まあ、困ることはないのだけれど……

 

「ヴィッターシャッセ、君はWILLでお留守番だ。恐らく我々が抜けた事を幸いに如何わしい奴らがまたやってくると思う。こいつらはいつもより若干キツ目にお仕置きしておいてくれ」

「了解いたしましたわ。フフフ、彼らの扉を開いて差し上げます」

 

――カイエンは、ヴィッターシャッセの発言を受けて冷汗を流していた。因に、このWILLでのヴィッターシャッセの主任務が工作員の洗脳(調教)役だったりするのは全く関係のないお話である。

 

「あ、あー、程ほどにな?」

「もちろんです」

 

 本当に恐ろしい……ヴィッターシャッセを真の意味で娶れるのはかなりマニアックな(性癖の)人物だけだろうな。WILLにおける真の最恐は彼女だろう……。

 

「乗艦予定のお客さんは日本帝国軍・日本帝国斯衛軍・国連統合軍の3つの組織から其々いらっしゃるから、イールのコンテナも7つ用意しておいてくれ、内訳は戦術機や戦闘車両を組織毎に積み込むコンテナ3個と各組織の居住区3個とCP用コンテナの計7つだ。此方サイドのオージェやE-75、オプションの重砲あたりは通常格納庫で問題ないだろ?」

「収容量は問題ありません。しかし何故態々バラバラの所属でくるのでしょう」

「国連軍は急遽増えたらしいぞ、依頼された当初は日本帝国軍と斯衛軍で2:1になる予定だったんだ。何か特殊な事情でもあるんだろうな」

 

真相は不明だが、国連軍の派遣には何か事情があることだけは確かだ。しかも日本帝国軍の作戦に割り込めるだけの権力を持った人物の事情か。どんな人物か気になるな、警戒すべきか、放置すべきか、或いはお友達が良いのか。作戦が終わってからアトロポスに調べさせた方がいいな。

 

――こうして巡洋輸送艦イールの出撃準備が整い、西暦2000年3月22日の早朝、横浜基地へカイエン達は向かうのであった。




ヴィッターシャッセはこんなキャラにするつもりはなかったのですが……。因に彼女が言っている“扉”の意味や“洗脳方法”等は読者の方々で各自脳内補完してください。(本筋と全く関係ないので描写シーンは当然今後もありません!)

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