望んでないのに救世主(メシア)!?   作:カラカラ

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第10話:条約調印

――西暦2000年3月4日――

――この日非公式ながら、帝都城にて地球人類史上初の異星起源種との調印式典が行われようとしている。この調印式を当初日本帝国政府は内閣総理大臣榊を代表者として秘密裏に執り行うつもりであった。しかし、調印の格と今後の対日関係を考慮したアトロポスの交渉により将軍が主催で帝都城にて実施されることとなった。カイエン達はドーリーで帝都城に到着し、出迎えた城に仕える女官に案内され、控え室で寛いでいた。そこに赤服を着たメガネ美女がやってきた。

 

「ダグラス・カイエン様とアトロポス・ライム様ですか?」

「そうだが、あなたは?」

「お初にお目にかかります。小官は日本帝国政威大将軍、煌武院 悠陽殿下の付人をしております日本帝国斯衛軍所属、月詠 真耶中尉です」

 

 この人は知的な雰囲気の美人さんだな。主な仕事は将軍の身近な相談役だろうが、立ち居振る舞いを見る限りでは武官の方もできるようだ。実務的には秘書兼護衛といったところか。

 

「月詠中尉、マスターにどのようなご用件でしょうか?」

「調印式の準備が整いました、会場までご案内にと参上いたしました」

「了解した。案内をお願いするよ」

 

――こうしてカイエン達は月詠中尉に先導され、会場に向かった。会場には榊大臣や移住院大臣といった初交渉事からのメンバーと上座と思われる席に見知らぬ少女が座っていた。

 

 状況的に上座の少女が将軍か? 見た感じ17~18歳といったか、あんな子に一国の責任を押し付けるとは、個人的には日本帝国の風習は異常とも感じるが、その点を突きつけても価値観の違いとしか言い様がないな。

 

「初めましてお嬢さん、私はダグラス・カイエンという。本日は、お招きいただき光栄です」

 

――カイエンの砕けた挨拶を聞いて月詠中尉は顔を顰めたが、声を掛けられた少女、煌武院 悠陽は穏やかな笑みを浮かべて返答をした。

 

「相模湾に停泊されている航宙艦WILLの総司令殿ですね。私は皇帝陛下より将軍の役職を任ぜられている煌武院 悠陽と申します。今後共よしなにお願いします」

 

 “よしなに”ねぇ。それは誰にあるいは何に対してなのかは、深く追求するべきではないんだろうな。

 

「それにしても私よりもお若そうなのに、お嬢さんはいささか誤用ではありませんか?」

「ん? いやいや私のほうが年齢でいえば年上になるはずですよ。私とアトロポスはこんなナリですが、発生より地球時間で50年程経過しています」

「え?」

 

 他の奴らも目を丸くして驚いているな、まぁ隠す必要もない事実だ。このあたりで驚かすにはもってこいの話題だな。

 

「我々は地球の方々と比較して長寿なのですよ。そう言う意味ではあなたたちとは違う種族と言えるのでしょうね」

「なんと……、地球出身ではないと伺ってはいましたがそのような違いがあるのですね」

「こちらの調査で交配可能であることもわかっていますよ。これは私達がこの惑星に来て最も良かったと思える点ですよ」

「ということはこの地球へ来た真の目的は……」

「隠す必要も無いので明かしてしまいますが、嫁を探しに来た。とでも申しましょう。愛する妻達に囲まれての生活が理想ですね」

 

――煌武院 悠陽はカイエンの旅の理由が宇宙を股にかけた壮大な嫁探しと判り、可笑しくなった。

 

「そういう理由ですか。ですが、我が臣民の身柄はそう易々と拉致するような事叶うと思わないでいただきたいですね。」

「肝に命じておきましょう。騎士の矜持にかけて拉致などという真似は致しません。本人の自由意思に任せますよ。私にとっての騎士とは君主と美しき婦人の為に戦うものですから」

 

――こうしてカイエンと煌武院 悠陽の顔合わせが終わり、無事調印式が終了した。余談であるが、この調印式後の晩餐において出された天然素材製の食事を食べたカイエンがほぼ同等レベルの食料をドーリーに積んでおり、試食会と称して翌日の朝食・昼食として提供し日本帝国の上層部に質の高さを文字通り味あわせた。

 




今回で交渉編は終了です。

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