東方聖酒杯 〜The Lost Dreams of Her Ideals.   作:ハシブトガラス

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五日目、放課後――Unknown Child.

 腐れた檻から、汚水が滴り落ちる。

 どろどろ、どろどろ、床に沁み込んで、やがては柱を腐らせる。

 重量に耐え切れず屋根が落ちて、内にいる人を潰して殺す。

 その咎は、誰に有る?

 屋根に咎を負わせるのか、倒れた柱に負わせるのか。それとも檻の中、孤独に死して腐れた屍にか。

 博麗霊夢ならば、自ら檻に入って死した屍こそ、悪であると断じるだろう。

 けれど――

 

「アリス、行くぞ」

 

「待って……待って、アーチャー!」

 

 ――私には、決められない。

 

 重圧を齎すばかりだった屋根だって、悪いだろう。

 屋根の重さを支えるという、己の仕事を全う出来なかった柱だって悪い筈だ。

 檻を家の中に放置した者も居るだろうし、誰かが檻を開けて、閉じこもる彼女を救いだしていれば――

 

「待たん!」

 

 そんな事は全て、後の祭りの結果論だと、アーチャーは言うだろう。

 彼女の手から放たれるのは、眩いばかりの光弾。

 無詠唱から放たれる牽制の矢は、威力こそ低いだろうが――相手がアサシンならば、それで良い。

 対魔力スキルを持たないアサシンと、高威力の魔術を主武器に用いるアーチャーは、極めて相性が良いらしい。防御の為に折り畳まれた蜘蛛脚へ、幾つもの矢が突き刺さった。

 

「ぉう!? ……ったぁ、そうか、そういう事をする子だったっけねぇ!」

 

「覚えてくれてたとは重畳。前みたいにあっさり負けてくれよ」

 

「生憎と今度は〝弾幕ごっこ〟じゃないのさぁ!」

 

 セイバーに一撃を受けていたが為か、暗殺者(アサシン)の名に似合わず、動きは遅い。

 ……いいや、違う。元々、そうだ。

 宝具の真名解放に伴って、私には彼女の名が分かった。それと同時にステータスもはっきりと見える。

 敏捷性はDランク。能力の中で高いと言えるのは、筋力と魔力のBランクくらいのもので――それも、恐れるには値しないのだろう。

 このアサシンの脅威は全て、宝具にある。

 

 黒谷ヤマメ――〝何とも分からぬ〟妖怪の一人。

 彼女の伝承を、真剣に探ろうとすればするほど、彼女の姿は分からなくなる。

 とある文献には、心優しき少女として描かれている。

 また異なる文献には、巨大な蜘蛛であるとも描写される。

 人と蜘蛛を掛けあわせた怪物――アラクネーとしての姿を持つという伝承も有る。

 病そのものであると綴った文献さえ、私が読んだ雑多な本のどれかには、記載が有った。

 共通項は二つ。少女の姿で現れるという事と――病毒を意のままに操るという事。

 それ以外は、何が正しいのかも分からない。

 邪悪な毒蜘蛛であるのか。

 遠く昔の英雄に討伐された、巨大な土蜘蛛であるのか。

 或いは土蜘蛛という伝承それ自体が、迫害された民族の喩であるのか。

 地底に住まい、地上の人と触れ合おうとしなかった彼女の、根幹までを知る者はきっといなかったのだろう。

 

 だが、彼女の宝具は、名前だけは知っている。

 〝フィルドミアズマ〟――人間が恐怖する、病を撒き散らす呪い。

 変貌し、死を張り巡らす結界として具現したのは、〝彼女は蜘蛛である〟という説が主流になっているからだろうか。

 本来は〝弾幕ごっこ〟の中で披露される、華やかな技であったとも言う。

 書き記したのは霧雨魔理沙――生前のアーチャー。

 幻想郷の、自分が見たあらゆる弾幕を記録しようという試みは、寿命の為に潰えたとも言うが、その試みの過程で記された一つだ。

 

 過去の、それ本来の姿はさておき、この時代に顕現してしまった『瘴気満つ大窯の底(ゲエンナ・フィルドミアズマ)』は、正に蜘蛛の巣の如き罠。

 アーチャーが解読した情報を纏めれば、〝範囲内の魔力が弱い生物を、内臓を融解させて殺す〟というものだ。

 単純に魂を喰らうのではなく、物理的に損壊して、啜る。

 悍ましいやり方を選ぶのも、効率的な魔力の補給の為なのだろうか。

 効果範囲は――少なくともこの学校全体を覆っている。全校生徒、教員の、一人に至るまでを、古明地さとりは殺させるつもりでいる。

 

「……アーチャー! この結界で、人が死ぬまでの時間は!?」

 

 猶予は? どれだけの猶予が、私達には有る?

 

「分からん! 前に見た時は、一週間で半死人だと思ったが――今回は分からん!」

 

 アサシンへと、光弾を機関銃の如く打ち出しながら、アーチャーはそれだけ言う。

 計算外は、令呪。

 サーヴァントへの絶対命令権にして、サーヴァントの行動を支援する魔力塊としても用いる事が出来る。古明地さとりは、アサシンの宝具使用を強制し、後押しした。

 積み重なる人間――あれが無傷とは思えない。放置すれば一週間どころか、一日と待たずに死んでしまいそうにも思える。

 

 ――考えても意味は無い。

 

 けれど、考える以外に何も出来ない。

 アーチャーとアサシンの、二度目の戦いは、やはり人知を超えていた。

 アーチャーが放つ光弾、その一つ一つが、既に破壊的だった。

 牽制の為に、数発単位で乱射する弾丸が、校舎の壁を抉り取って行く。

 それはまるで、決して堰き止められない濁流のようだった。

 単発の単純な物理的破壊力だけでも、鋼板を貫くだけの力があるだろう。そんなものが、息つく暇もなく、延々と叩き付けられる。

 

「悪いが、今日は無粋で結構! 急ぎで片を付けさせてもらうぜ!」

 

「はっ、ご大層な口上だねぇ!」

 

 言い返すアサシンは、蜘蛛足と両腕で体を庇い、前へ、前へと出て行く。

 その速度も、常人でしかない私にしてみれば相当なもの。人間大の物体が、自動車並みのスピードで突っ込んで来る。

 

「アリス、飛ぶぜっ!」

 

「飛――待っ、此処、校舎……!?」

 

 然し速度も、アーチャーが上。

 アーチャーは私の腰を左腕で抱き寄せると、正面を向いたまま、後方に飛んだ。

 

「危なっ、後ろ見て、後ろっ!!」

 

 廊下を真っ直ぐに突っ切って急カーブ――階段の手前!

 このまま飛べば、段差に背中を思いっきりぶつける事になる。

 

「見てる、安心しろ――〝星は赤に変われ、浮かべ、留まれ、燃えろ!〟」

 

 間一髪、アーチャーの体は浮かび上がり、階段の傾斜に沿って、屋上へと飛び出して行く。

 追って走ってくるアサシン目掛けて、アーチャーは詠唱し、赤く燃える球体を射出した。

 速度は――私でも、見切る事は出来るだろう。

 アサシンは軽く体を横へ動かし、火球を回避し、私達を追い続けて来る。

 

「逃すかい……いいや、逃げられると思うな! まだ毒が回ってるのは分かってるのさぁ!」

 

 階段を、段差を踏むのでなく、壁を手足で走り、アサシンは更に加速した。

 元よりアーチャーに、逃げ切ろうというつもりは無いのだろう。それどころか迅速に、アサシンを仕留める必要を感じている筈だ。

 今は、逃げている。

 けれども、逃げるばかりでは無いだろう。

 戦う場所を選ぶとしたら、アーチャーが有利になるのは、広く開けた空間。

 対してアサシンは、校舎の中、壁と天井が近い空間を望む筈。

 

「〝星は雲に交われ、浮かべ、煌めき、鳴らせ!〟」

 

 雷鳴――アーチャーの手から放たれた光弾が、アサシンに着弾した瞬間、雷鳴が轟いた。

 小規模の雷と呼んでも良いだろう属性弾――光と熱が、アサシンを焼く。

 倒れない。

 然し、追いつけない。

 アーチャーは距離を保ち、飽く迄も離れた場所から、アサシンを撃ち続ける。

 冷気。

 暴風。

 岩塊。

 多種多様の弾丸を、止め処無く、矢継ぎ早に。

 それでも前へ――前へ、前へ、前へ。

 

「――ぉおおおおおおっ!」

 

 前へ。

 アサシンは、止まらない。

 正面から戦えば、勝ち目は無いと知っている筈だろうに。

 隠れ潜むという己の戦い方を捨て、愚直に突き進んでくる。

 何故?

 隠れ潜み、力を蓄えて、戦うのはそれからで良い筈だ。

 その為に学校に巣を張り、生徒の命まで奪って――

 

 ――違う。

 

 考え方の、順番が違う。

 結果から無理に過程を導き出そうとしても、きっとこの場合、上手くいかない。

 結果としてアサシンは、アーチャーの陽動に乗っている。

 過程がどうであろうと――今は、それは、無駄な事だ。

 

「アーチャー!」

 

「なんだ!?」

 

 私達が叫んでいるのは、耳の横を流れて行く暴風と、それ以上の音を鳴らす、アーチャーの砲撃の為。

 粉塵ではなく、校舎屋上のコンクリートを削って巻き上げながら、多種多様の弾丸が飛んで行く。

 赤、青、黄、緑――あれらの一つ一つがきっと、高度な属性魔術なのだろう。

 鮮やかで、華々しい。

 魔術を知る者ならば、見惚れずには居られない筈だ。

 単純にして明快な、一つ一つではただの光でしかない弾丸が、その数によって美を生む。

 これが、調和なのか。

 いいや――〝弾幕〟だ。

 私は今、〝それ〟が組み上がるのを見ている。

 アサシンが耐え、弾き、躱した筈の無数の弾丸は、いつしかアサシンの後方で、四つの光弾へと集束している。

 地。

 水。

 火。

 風。

 以前に見た〝賢者の石〟の五行とは異なる理――四大元素に基づく魔術。

 熱と冷。

 湿と乾。

 四つの属性の多寡によって振り分けられた性質の――

 

「……〝統合〟」

 

 熱は冷と交わり、ゼロに。

 湿は乾と交わり、ゼロに。

 

「〝大鍋を掻き混ぜて、零れた雫が空に残った。朝の内に涙を失くして、夜になったら星になった〟」

 

 火が水を殺し、水は火を殺し、地と風が相互いに己を飲み、力は無軌道に混然一体となる。

 性質を剥ぎ取られた純粋な力だけが、光として、其処に残っている。

 

「〝寄り合わせても一つにならず、近付けたって溶け合わず、また一つ星が燃えた、燃えた端から落ちて行った〟」

 

 詠唱。

 一小節や一行程で発動する、簡易的な魔術ではない。

 大魔法使い霧雨魔理沙が、数小説を以てして放つ――神秘の消えた現代に於いては、想像だに追いつかぬ奇跡。

 並行し、魔弾の乱射は止まらない。

 アサシンの脚を止めたままで、大魔術は組み上げられていく。

 

「〝燃えろ(burn,)燃えろ(and burn,)はぐれ星(stray bird)〟」

 

「――ぉ……っは、こりゃまた……!」

 

 その力は全て、破壊の為に。然してその様は、単一の目的が為に

 研ぎ澄まされた形は、刃の持つ美のように。

 一歩、また一歩、アサシンがアーチャーへと迫るも――遂に手は届かぬまま。

 

「〝星の行く末は恋に似て――(like THE star, My life burnt――) 〟」

 

 極光――夕闇が蒼に染まる。

 きぃい。

 アーチャーを取り巻く大気が、軋んだ。

 

「――〝無指向性の光(ノンディレクショナルレーザー)〟」

 

 詠唱が完了すると同時、私とアーチャーの周囲に魔力障壁が――並行して詠唱を終えていたものか――張り巡らされる。

 次の瞬間、青い光が、校舎屋上に乱れ飛んだ。

 アサシンの背後、収束した四つの光弾が、相互に溶けて混じり合い――熱も冷も湿も乾も無い、ただ大きさだけを持つ、無軌道な奔流と化している。そこから、幾条もの光が、無差別に屋上を薙ぎ払っているのだ。

 

「ぅ、お――――――っ!?」

 

 此処へ及んで、アサシンの一切の防御は、悉く無意味だった。

 防ぐ腕を、防ぐ脚を、光の柱が削り取る。

 善悪の区別無く、敵味方の区別さえ無く――無秩序の具現として吹き荒れる光。そんなものを、誰が止められる?

 出来はしない。ただ、耐える事を許されるだけだ。

 対魔力のスキルを持つ、例えばセイバーやアーチャーならば、この光を防ぐか、或いは無効化する事も叶ったかも知れない。

 けれどアサシンは、その類の技能を、何も持ち合わせていないのだろう。

 

「ぐ、あ、ぁあああっ、っがあああああっ……!」

 

 削れ飛ぶ――腕。

 千切れ飛ぶ――蜘蛛脚。

 背後からの光に焼かれながら、それでもアサシンは、前へ出た。

 最後の、本当に最後の一歩までを、諦めようとせずに。

 手を伸ばそうとする。

 手が無い。

 構うものかと、顔を突き出し、牙をアーチャーに突き立てようとする。

 

「……お前のしぶとさには恐れ入るが――」

 

 その顔を、アーチャーの手が抑えた。

 アーチャーの手は、四つの光球同様の、蒼い光を纏って――

 

「ば――馬鹿げてやがっ……!?」

 

「――残念だ。〝幻想の光(イリュージョンレーザー)〟」

 

 三重詠唱。

 擬似声帯よりの同時高速詠唱により、攻勢魔術二つと防御障壁を、同時に構築し運用する。

 無茶、無謀の果て、生まれた光は強く大きく、アサシンを呑み込んで、尚も広がって――

 眩いばかりの輝きが夜を照らして、ほんの一時だけ消し去った。

 

 しん。

 

 と、静まり返った。

 

「…………ふぅ」

 

 魔術障壁が解除されて、私達に夜の風が吹き付けられる。

 アーチャーは、たった一度だけ溜め息を吐いて、

 

「アリス、飛ぶぞ」

 

「えっ? ……ぅわ、あっ!」

 

 すぐにまた、私を箒に引っ張り上げて上昇を始めた。

 

「ちょ……ちょっと、せめて止めさしたかの確認くらい――」

 

「逃げられたよ! 焼き尽くす寸前で階下に逃げた! 壁抜け出来る奴は厄介だな!」

 

「だったら尚更!」

 

 前回もアサシンは、戦闘途中で離脱した。

 奇襲と、それ以上に撤退に長けたサーヴァントという事だろうが、ならばこそ今、追撃するべきじゃないのだろうか?

 放置して体勢を立て直されたら、次もまた――

 

「ありゃもう無理だ、治せるもんじゃない。……そのうち消えるよ、あいつは」

 

 そう言って、市街地へと飛んで行く私達の後方では、校舎を包んでいた魔力が霧散し、消えていくのが感じられた。

 結界宝具フィルドミアズマが破られた――確かにこの短時間ならば、喰らった数も少ないだろう。

 人知を超えた、本来なら使い魔に収まる筈も無い存在を使役する奇跡には、相応の代償――魔力が必要となる。

 サーヴァントが現界を続ける為に、また傷を癒す為に必要とする魔力を、何処から供出する?

 

「古明地さとりも、遠からず――死ぬ」

 

 アーチャーは、ぞっとする程冷たく、氷像のように顔を凍り付かせて言った。

 

「……何故?」

 

「ちらとでも見たろ。霊夢の巫術で腕を飛ばされて、目も……あれを、治す考えも、もう無いだろうよ。

 大体にしてあいつは、〝あの毒の渦の中に、魔力障壁も無しに立ってた〟んだぜ?」

 

「え――――」

 

 魔術師である私だとか、技術体系は違うが博麗の巫女である霊夢は、所謂〝劣悪な環境〟に対応する為の策を持つ。

 その最も汎用的なものが、身体に魔力を流し、体表に薄い障壁として張り巡らす方法だ。

 物理的な衝撃も、魔力的な干渉にも等しく対抗出来る手段で、防御力は薄くとも、例えば空気に毒ガスが混ざった程度なら防ぎ得る。

 

「――アサシンの毒は、自分のマスターにも」

 

「だから嫌われるんだ、地底の奴らは」

 

 ――なんてこった。

 

 殺すの、殺さないのと、迷ったのが馬鹿馬鹿しくなる。相手は最初から、自分を殺す算段だったんだから。

 傷から染み入った毒が、古明地さとりを侵し、殺すまでにどれだけの時間があるか――

 ああ、なんてこった。あんまり無残な終わりじゃないか。

 何処までも報われず、忌み嫌われたまま、仲間同士で傷つけ合う、滑稽極まりない悲劇だ。

 

 でも。

 

「……そうなんだ」

 

 自分の口から溢れる音は、あんまりにも軽かった。

 自分で殺さずに済んで良かった? 下手な良心の呵責が無くて?

 目の前で狂う姿を見た時には、人並み以上の同情心を抱いたというのに――

 

 いいや、哀れとは思う。

 彼女が生んだ惨劇に、怒りも無論、抱いてはいる。

 けれど私が、一番、本心から思ったのは、そういう事じゃない。

 

「……何故?」

 

 好奇心。

 そうまでして、彼女は何を求めたのか?

 己の命に釣り合うだけの願いだったのか――それとも狂気が故に?

 彼女の行動原理を支配するのは、己の狂気か、目的か、何れか?

 

「彼女の望みは、何だったのかしら。アーチャー……ああなってまで望むものが、自分の命以外に有るの?

 誰かの命なのか、それとも物質的欲――執着? 何に?」

 

 私は、そんな事を〝知りたくなった〟のだ。

 その思いがいつの間にか、情を塗り潰して、何処かへ隠してしまっていた。

 

「……だから、戦うんだろ」

 

 飛んで行く――夜空に星の尾を引いて。

 私達は真っ直ぐに、雲を突き抜けて飛んで行く。

 

「じゃあ、アーチャー。貴女は?」

 

 分からない。

 望みとはそんなにも、人を狂わせるに足る程、大きなものなのか。

 

「さあな」

 

 答えを知ってそうなアーチャーは、はぐらかすように、そう言った。

 

 嗚呼。

 

 気になる。

 

 

 

 

 

 風が吹いている。

 ひょう。

 ひゅおう、と鳴って、都市の夜景を見下ろし、窓から零れる灯りの間を抜けて行く。

 ビル風。

 近代的都市は、如何なる山野よりも複雑な、人工の迷宮である。

 風は高層建築にぶつかり、上下に別れ、左右に切り離され――或いは重なり、或いはぶつかり合い、複雑な流れを産む。

 ビル壁面を撫で下ろし、地上へ打ち付ける風。

 窓の間を、強く、一方向へ流れて行く風。

 気圧によっても、大気の温度によっても――或いは埃、塵によってさえ、その流れは形を変えるのだ。

 その全てがライダーの――射命丸文の〝道〟であった。

 

 ――ひょ、おう。

 

 高層ビルの壁面に、無数の傷が奔る。

 射命丸の翼が起こす風が、刃の如く、壁面を斬り付けたのである。

 黒翼で風の道を掴み、ただの一時と減速せず、射命丸は飛翔し――

 

「……私が本気を出すってのはね、よっぽどの大事だって意味なのよ。分かる!?」

 

 突撃する。

 形容するに、槍――いや、実態に速度が劣る。

 弾丸――質量に不足が有る。

 砲弾――良い例えだが、まだ物足りない。

 それは、此度の聖杯戦争に参加する全サーヴァントに勝る速度と、人間一個分の重量を持ち、己の意思によって軌道を変化させる兵器である。

 辛うじて似たものを探すのなら――無人制御の戦闘機であった。

 もはや一個の生物と比較すべきではない。

 地上からの放火を幾ら束ねても、上空の翼には届かない。

 それが、彼女の武器であった。

 

 ぞうっ、と風が抉られた。

 射命丸がセイバーの頭上へ迫り――次の瞬間には、遥か遠方より〝向かって来る〟。

 接近し、抜ける瞬間、激流とさえ錯覚せんばかりの暴風が、セイバーに突き刺さる。

 

「くっ……!」

 

 セイバーの纏う防具は、戦いの為というよりも――己の素性を隠す為、という色合いが強い。

 それでも、神秘に属する者が纏う防具である。強風、砂塵などで傷付く代物では無い。

 然し、〝射命丸文が起こした風〟となれば、また話は別だ。

 それはまるで、四方八方から止め処無く投げつけられる剃刀のようなもの。

 刃の一つ一つは、殺傷力は薄いが――どれだけを叩き落としても、次、またその次が、延々と身に降りかかる。

 そして、受け続ければ何れは――

 

「がああぁっ!」

 

 セイバーが吠え、刀を振り回す。

 接近の瞬間、自分から迎え、体ごと激突しながらの斬を狙った筈が――刃は空を切り、そして刃が描いた軌道に、射命丸は後から割り込んできた。

 

「ほいさぁっ!」

 

 セイバーの顔面へ迫る、下駄と、足の甲。

 

「らあぁっ!」

 

 左腕で払いのけながら、セイバーは眼前を、狙いも付けずに薙ぎ払う。

 手応えは無い。

 何処か、と迷うより先に、後方から、背を斜めに蹴上げる衝撃。

 背後に回り込んだ射命丸は、セイバーを蹴りで、更に高く打ち上げ――翼の形を、変える。

 

「さーあさお立合いお立合い、つまらぬ世をば面白く! 新報でも無い、号外でも無い、一面を飾る写真も無いが――」

 

 左右へ広げた、雄大な飛翔の形を捨て――ともすれば、小さく纏まってしまったような姿。

 然し、このシルエットを、現代の人間は知っている。

 先端は槍の如く、後方へ行くにつれて広がって行く、三角錐の影。

 射命丸は、翼を後方へ流し、羽ばたく事をさえ止め、風を〝斬る〟為だけの動かぬ刃と変えた。

 幻想の空を飛ぶのには、翼も、魔女の箒も、何も必要は無い。

 そうでありながら、〝最速〟たる彼女が、重量物である翼を備える所以とは――偏に、より迅きが為。

 奇しくも射命丸文が、幻想に属する〝最速〟が作った影は、近代技術の粋たる超音速戦闘機と酷似していた。

 

「――あら懐かしの難行スペル、ご覧遊ばせ『幻想風靡』!」

 

 ぎぃ。

 軋みが、鳴った。

 セイバーでは無い。射命丸自身でも無い。周囲に立ち並ぶビルである。

 人間大の飛翔物が生む衝撃波が、瞬時に地上近くで膨れ上がり――

 

 ビル群の窓ガラスを悉く、破砕し、地上に雨と降らせた。

 

 

 

 

 

 その戦いに、二人のマスターは、介入する余地さえなかった。

 周辺の異常――破砕音、爆発とも紛う激突音が高速で移動し続ける――は、察知している。

 然し、目を横へは向けられない。

 そればかりか、たった一度の瞬きをさえ、行うのが恐ろしいと思える程の対峙。

 博麗霊夢は、令呪を晒した左手の手首を、犬走椛に掴まれていた。

 

「…………っ」

 

 二人は、無言で対峙していた。

 何れから、何れが動くか。

 動きがあれば即ち、戦わねばならないのだ。

 椛が、己の令呪を霊夢に見せてから、此処まで、一分程も経ってはいないだろう。

 だが、その短い時間だけで、周辺の環境が変わって行くのは分かった。

 地上からの悲鳴――窓ガラスの雨に打たれる者達の声か。

 或いは、ガラスの無くなった窓から吹き込む暴風に翻弄され、反対側の窓から屋外へ叩き出された者達のか。

 目にも映らぬ高速の戦いを、ほんの一瞬でも速度が緩んだ瞬間、目の端に映した者だろうか。

 日常が、崩れてゆく。

 

「……椛、あんたは何が望みなの」

 

「言う必要があるか」

 

「あるわよ、また仲良くやれるかもしれないし」

 

 椛は、短刀を左手に、逆手に構えている。

 剣の腕は――剣道をさせたのなら、相当なものであると、霊夢は知っている。然しそれ以上に、ただ剣を振らせる方が、型に嵌った技より余程手ごわい奴だ、という事も。

 この距離は、瞬き一つの間に、喉を抉る事が出来る距離。

 霊夢は、何か、手を探していた。

 

「私はね、勝たなきゃ無いってだけなのよ。聖杯は私の目の届く所で動作しなければならないの」

 

「そりゃ大した自信過剰だ」

 

「ありがと。……けど、私の目が届く範囲なら、あんたが聖杯を使ってもいいのよ」

 

 霊夢は、まるで日常の雑談のような声の軽さで、椛に言った。

 椛の二つの耳は、本人の顔より数段も分かり易く感情を表す。

 今は――ぴん、と二つとも立ち上がって、霊夢の発した音が、自分が捉えた通りの意味であったかを疑っていた。

 

「……本気で言ってるのか、博麗の」

 

「本気も本気。私はね、私の知らない所で、私の世界を勝手に作り替えられるのが嫌なの。あんたが私に断りを入れて、こういう変化をさせたいって言うんだったら、その程度を譲歩してやらないでもないわ」

 

 手首を掴まれたまま、然し霊夢は、椛に対し〝譲歩する〟という表現を用いた。

 その意味する所を知らぬ筈は無い。自分が折れ、相手に譲るという表現を、敢えて選んだのだ。

 

「お前に譲ってもらわなくても、私がお前から奪うとは思わないのか」

 

「まだ持ってないものを、無理に奪い取れる訳が無いでしょ。それにあんたは、私を敵にしておくのと味方にするのと、どっちが得なのかは分かってる筈よ。

 私を味方にするって事は、人間一人を味方にするって事じゃないの。サーヴァント二騎、魔術師一人、それから博麗の巫女を、自分の味方につけられるって事なのよ」

 

 その通りであると心から信じているかのように、堂々と、霊夢は言った。

 互いがどういう存在であるか――この二人は、良く理解している。

 博麗霊夢という人間が、どれだけ力の自認に満ちて、実際にやってのける生き物か。

 犬走椛という妖怪が、どれだけ難物に見えて、実際に人が良い生き物か。

 霊夢が、自分にはこれだけの力があると主張した場合、それは嘘では無く――これだけの事が出来ると言ったのなら、それは実際に行われるのだと、椛は良く知っていた。

 椛が、なんだかんだと愚痴を吐いたとて、結局は他人の為に動くのが性に合う奴だと、霊夢は良く知っていた。

 

「あんたが、私を殺せる筈、無い。私と手を組みなさい」

 

「……侮ると痛い目を見るぞ、博麗の」

 

 手首を掴まれながら、優位にあるのは、霊夢であった。

 それはほんの僅かの事――時間にすれば、二秒か三秒か、それくらいの事。

 あまりに、友人の自信に満ちた姿がおかしくて、犬走椛は思わず、視線を右手に反らしながら、軽く噴き出すように笑っていた。

 たった、二秒か、三秒。

 見逃す博麗霊夢では無かった。

 

 ――じゃっ、

 

 と、音が鳴った。

 霊夢の左手は自由となり、引き戻され、懐の札を探していた。

 何が起こったか、知るまでに、さしたる労力も要らない。

 霊夢は、飛び切りの符術を用いたのだ。

 発動は、無言で良い。

 だが用意には、何日も、何週間も掛かる。

 聖杯戦争とはサーヴァント同士の戦い〝だけ〟で決まるものではない。そう知った時から霊夢は、己の力を符に閉じ込めていた。

 瞬間的に力を込めるのではなく、長期に渡って蓄積させた力は、サーヴァントにはまるで効果が無くとも、マスター相手には有効であろうと。

 その一つが――椛の右腕を、肘の先から、斬り落としていた。

 

「なっ――――ぁあがああああぁあぁっっ!?」

 

 驚愕は長くは続かず、痛みに狂う絶叫が、夜の空に響く。

 『妖縛陣・斬鬼《ざんき》』――たった三枚、完成が間に合った、戦闘用の切り符(きりふだ)

 然し、それだけでは止まらなかった。

 片腕を失い、痛みに吠え狂いながら――

 

「っが、はあっ、あああああぁっ!!」

 

 左手に逆手持ちした短刀で、椛は霊夢の喉を、横薙ぎにせんと迫った。

 

「……あんたが飼い慣らせない事くらい、知ってんのよ」

 

 小さく、ぽつりと落とすように。

 或いは――寂しげに、霊夢は言った。

 右肘。

 椛の左手首を打ち、刃を取り落とさせる。

 左掌。

 椛の顎を、斜め下から打ち上げる。

 そうしてふらついた椛の体へ、横へ足を突き出すような、重い蹴りを打ち込んだ。

 三挙動の打撃は、ほぼ一呼吸で放たれた――相手を打つ事に躊躇いの無い技であった。

 

 そうして、建物の屋上に倒れ込む椛を余所に、霊夢は、己の左手に意識を向ける。

 

「令呪を以て我が眷属に命ず――」

 

 僅か三画の絶対命令権――その力が、命が、告げられる。

 

「――その身に残る傷を癒せ」

 

 

 

 

 

 高速の戦闘は、誰も見る者が無いままに佳境を迎えていた。

 翼の形を変え、超音速の粋に踏み込んだライダーは、数十mの距離を往復しながら、繰り返し、セイバーを上空へと蹴り上げていた。

 『幻想風靡』――宝具ではなく、これは技巧である。

 絶対無比の速度を以て突撃し、擦れ違うように打を放って相手を浮かせ、落下するより先に再び追いついてもう一撃――これを延々と繰り返す。

 並みの妖怪であるなら、初撃で既に、肉片と化している。

 セイバーは、もはや怪物的とも言える動体視力で、かろうじて防御を行っていたが、無益であった。

 防ぐ以外に、何も出来ない。

 防御を緩める猶予さえ無い。

 肉体の頑強さに任せてぶつかって行けるような、温い攻撃では無いのだ。

 

 ――危ない。

 

 自覚は有った。

 このままの戦術を取り続けるなら、遠からず、自分は敗北し、消滅する。

 然し、打開する策が無かった。

 魔術スキルは持ち合わせているが、高レベルでは無い。射命丸にはそもそも、傷をつける事さえ出来まい。

 近接戦闘であれば勝ち目は有るが、『幻想風靡』はヒットアンドアウェイを繰り返す技。近接戦闘に、持ち込ませぬ為の技であるのだ。

 逃げるにも、戦場を変えるにも、圧倒的な速度の差――何処へも行けはしない。

 このまま打たれ続け、じわじわと、削り殺される。

 元より体温も薄かった指先が、更に、冬の夜空と同じ温度に冷えていく。

 それが自分の、もう一度の、終わりだと思った。

 

 ――その身に残る傷を癒せ。

 

「っ!?」

 

 それは、本当に、何の予兆も無く、突如起こった言であった。

 セイバーの手に、力が戻る。

 体に残る痛みが、消える。

 この戦いにおける痛みだけではない――完治していなかった、魂魄妖夢の宝具による傷さえが、消えていた。

 魔力も――満ちている。

 力を、速度を、十全に生む為の魔力が、まるでこの地上に現界した瞬間か、それ以上に満ちている。

 まるで、生きているようだった。

 

「はぁっ!」

 

 セイバーは、刀二振りを、思い切り振り回した。

 何に当てようというのではないが――敢えて言うならば、射命丸が一度抜けて行き、もう一度戻ってくる筈の方向へ、渾身の力を込めて振るったのだ。

 その振りは、紙一重の所で回避されて――ぞうっ、と空に怪音を轟かせた。

 

「ぅぉおっ……!」

 

 呻き声を上げて、射命丸が急停止する。

 直撃していれば、あれで終わっていた――そういう予感が有ったのだ。

 もしかしたら、たった一度、呼吸と力が完全に噛み合った、偶然の一閃であったのかも知れない。

 けれどもあの剣閃を、仮に己が防ごうとしていたのなら、どうなっていたか。

 死んでいたと、信じられる。

 実際にはそうならないだろう。これと狙わずの闇雲な斬撃は、射命丸文の速度を以てするなら、十分に避けられるものであった。

 にも関わらず、射命丸の心に宿ったのは、恐怖であった。

 

「……あんた、なんなの」

 

 そう、恐れていた。

 〝最速〟たる自分に、反応しているだけでも驚愕に値するのに――まだ、潰れていない、死んでいない。

 数百か、或いは数千の打を与えて、反撃するだけの力を残していた。

 それが、令呪の助けを得て傷を癒し、万全の姿に戻ったのだ。

 

「あんた、なんだってのよ!」

 

「………………」

 

 だが、恐怖を覚えていたのは、射命丸ばかりではなかった。

 誰何に答えず、セイバーは、じっと己の手を見ていた。

 恐ろしい、手。

 力、速度、そんなものではなく――もっと、もっと、恐ろしい手。

 〝良い〟とされる事は、何も出来ない手だった。

 然し今、セイバーは、そんな手がある事を嬉しく思った。

 

「――承知したわ、マスター」

 

 叶うならば真名は、例え霊夢にであろうと、聖杯戦争の最後まで隠し通したかった。

 だがもはや、己の意地などは無益。

 ならばせめて――この手を取り戻した霊夢の意に、最大に適う形で名乗りを上げるのだ。

 勝ってやる。

 己の力を、最大限に解き放つ事を恐れながら――セイバーは、刀を鞘に納めた。

 

「私に名を問うたわね、烏天狗」

 

「……っ、だから?」

 

 そして、セイバーは、防具の一切も捨てる。

 兜も胸当ても、身を守る為でなく、他の目を欺く為がだけの枷を捨て――己の姿へと、戻って行く。

 月が照らす空は、真の暗闇では無い。青の混ざる、暗くも深い、光の舞台。

 その中にたった一人、セイバーは君臨した。

 

「平伏して乞うがいい、そうすれば慈悲はくれてやろう。瞬間の死じゃあなく、遺言を残せる緩慢な死をやろう」

 

 彼我の強弱、有利不利、或いは生前の立ち位置、今の関係性――全てを踏みにじるような、絶対的支配者の言葉。

 彼女〝達〟は、総べる為に生まれたのだ。

 他ならぬ非支配者がそう望んだが為に、彼女達の形は、そのように作られた。

 優れた者に額づく幸福を。見下される快楽を。求められる陶酔を。

 傲慢に満ちた舌から、一方的な支配を告げて、人を焦がれさせるのが彼女達であった。

 

「……否が顔に出ているよ」

 

 翼が開く。

 夜を駆けるのはお前だけではないのだと、布告のように開く、一対の翼。

 それが、一つ煌めきを増す度に、セイバーの身に宿る魔力は、加速度的に膨れ上がって行く。

 緑。

 黄。

 橙。

 赤。

 紫。

 藍。

 青。

 並びこそ異なっているが、それは、虹であった。

 セイバーの翼には、虹を象った宝石の如き光が宿っていた。

 神々しくも、禍々しく――だが何より、美しい。

 夜空に月よりも眩しく、我こそは一つの星座であると謳うかのように、彼女はたった一人、君臨した。

 翳す手にたった一降り、黒の剣を持ちながら。

 

 そう、〝彼女達〟こそは、生まれながらの王。

 畏れを集めて立ち、憧れを従えて去る。

 世界が幻想(ユメ)を忘れても、ヒトが〝彼女達〟に抱いた憧憬は、決して薄れる事は無く――

 

 

『――〝紅く禍為す禁忌の剣(レーヴァテイン)〟!!!』

 

 

 ――かくして王命は告げられた。

 紅の光が夜天を裂き、空へと立ち上る。

 昏く、悍ましくも猛き、破壊的な力の具現たる光である。

 たった一条の光――さりとて最も根源的な感情、恐怖を、それは呼び覚ますのだ。

 

「――――――ぁ」

 

 射命丸は、己の持てる全速力を、ただ回避する事に注いだ。

 真っ直ぐ空を駆け、何処までも遠く、セイバーから逃れる為に。そして実際に、紅の光に呑まれぬまま、飛んで行く筈であった。

 大気が、捩じれ狂っていた。

 紅の光は、遥か遠い空までに、一条の空虚を刻んでいたのである。

 その空虚には、何も無かった。

 完全な真空――気体も、物体も、そこには何一つ存在しない。

 故に大気は、その虚ろを埋めようと、暴力的なまでの衝撃を伴って流入した。

 いいや――その一瞬は、空間さえが歪み、流れていた。〝破壊された〟という概念は、有形無形を問わず、紅光の進路上に撒き散らされたのだ。

 空間ごと射命丸は、光の中に呑まれた。そして光の中で、万物との差別無く〝破壊〟され、消えて行った。

 

 やがて、紅の光は消える。

 夜の王は、自らの剣を掲げ、夜の空に立っていた。

 彼女の頭上の空だけは、暗雲を消し飛ばされ、地上へ月の光を届ける。

 白く眩い光は、紅の王家を称える冠の如く、フランドール・スカーレットに降り注いでいた。




【ステータス情報が更新されました】

【クラス】セイバー
【真名】フランドール・スカーレット
【マスター】博麗霊夢
【属性】混沌・中立
【身長】166cm
【体重】51kg

【パラメータ】
 筋力A  耐久B  敏捷A
 魔力B  幸運D  宝具A++

【クラス別能力】
 対魔力:B
 発動における詠唱が三節以下の魔術を無効化する。大魔術・儀礼呪法を用いても傷つけることは難しい。

 騎乗:D
 クラス固有のスキルとして所有はしているが、生前に乗り物を利用しようとした事が無かった為、申し訳程度にしか機能していない。

【保有スキル】
 戦闘続行:B
 生還能力。瀕死の傷でも戦闘を続け、決定的な致命傷を負わない限り生き延びる。
 彼女の場合は、種族固有の再生能力。高い耐久力と引き換えに、本来よりワンランクダウンしている。

 魔術:C
 特定分野に特化する事なく、幾つかの術を取得している。

 精神汚染:-(A)
 現在は機能していないバッドパッシブ。本来ならば同ランク以下の精神干渉を無効化する。
 代わりに同ランク以上の精神汚染を持つ者とでなければ会話が成立しない。

【所有アイテム】
 博麗の御神刀:セイバーがこっそり博麗神社から拝借していた刀。
 本来の主武器が特徴的な形状をしている為、正体秘匿の目的で用いる。
 そもそもが神社の刀であるという、弱くとも神秘に属する武器である上に、セイバーはそれに強化魔術を施している。
 
 守矢の霊刀:東風谷早苗が気紛れのように、博麗霊夢に与えた刀。
 腰に差すには長すぎる長刀であり、また古風な反りの浅さから、抜刀術には適さない。
 刀自体が現代の宝具と呼べるような代物であり、特殊な力は無いが、サーヴァント同士の闘争で十分に用いる事が出来る。


【宝具】
『紅く禍為す禁忌の剣(レーヴァテイン)』:ランクA++ 対城宝具
 〝ありとあらゆる物を破壊する能力〟が具現化した、黒く歪な剣。
 単体では何を斬る事も出来ぬ、ただのねじ曲がった鈍器でしかない。
 然しフランドールの手の中で真名を解放する事により、万物へ不可避の破壊を齎す。

 黒剣を振るった軌道をなぞる様に、紅い光が直線的に出現。光が進む範囲で通過したありとあらゆるものを、無条件に〝破壊〟する。
 結果、大気さえが瞬間的に消滅、数十~数百mに渡って円筒状の真空を作り、次の瞬間にはそこへ、周囲の大気が流れ込む。
 真空を埋める為に発生する暴風は、初撃で光に飲まれる事の無かった物をさえ、破壊の柱の中へ引きずり込む。
 この宝具を防ぐ方法は無く、魔術的な障壁なら障壁ごと、物理的な防御ならば幾層もの城壁さえが無為。
 仮に発動されたのならば、そして光に飲まれたならば、如何なサーヴァントと言えど、破壊を免れる事は出来ない。

 数ある宝具の中でも最大級の火力を誇る半面、優れたマスターの下で無ければ、一度発動する事さえ難しい程の魔力消費を誇る。
 フランドール本人が魔力効率の良い存在では無い為、本来ならば一度の聖杯戦争で、三度も撃てれば良い方。
 破壊力だけに完全特化した、正しく〝悪魔の妹〟の伝承が形為した剣である。

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