東方聖酒杯 〜The Lost Dreams of Her Ideals.   作:ハシブトガラス

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五日目、朝から昼へ

 早朝、日が昇り始めた頃には、既にアリスは居間のソファに座っていた。

 時間としては、決して早くは無い。何せ冬であるから、空が明るくなる頃には、新聞は郵便受けに収まっている。

 普段より幾らか事故の記事が多い朝刊――それを読みながら、アリスはパックの紅茶を啜っていた。

 既に教科書類は鞄に詰め終わり、制服には袖を通し、コートは暖炉の直ぐ傍に吊るしてある。登校の用意は完全に整っていた。

 

「おはよー……あんた寝てないの?」

 

「二時間前まで横で寝てたわよ。おはよう霊夢、寝顔は険が無いわね」

 

「気持ち悪い事言うな」

 

 欠伸を噛み殺しながらも、霊夢は借りていたパジャマをアリスに投げつけた。

 こちらも既に着替えは済んでいるが、まだ体温が上がっていないためか、両手を互い違いに袖に押し込んでいる。

 

「寝不足は心配なさそうね、直ぐに出る?」

 

「ごはんくらい食べさせなさいよ、私が作ってもいいから」

 

 厚かましい事を言いながら、霊夢は西洋風のキッチンに入って行く。暫くガサガサと何かを探す物音が続いて――

 

「……あんた、何を食べて生きてんのよ」

 

「霞と雨露と隅っこの埃。右手の下の棚にクッキーの残りが有るわよ」

 

 めぼしい食糧を見つけられず、霊夢は溜息を零した。

 雪が多くなった場合、アリスは、食糧の買い出しを怠ける事が多くなる。どうせ食べずとも問題は無いのだから、面倒ならば買いに行かずとも良いのだ。

 アーチャーが同居人になってからも、サーヴァントに食事の必然性は無い為、結局食生活は変わらずじまいだったのだが――

 

「あんた、随分貧しい暮らししてるのね。住居費用に注ぎ込み過ぎなんじゃないの?」

 

「クッキー貪りながら人の家計を心配しないでもいいのよ、霊夢。早めに出て購買でパンでも買って頂戴」

 

 優雅に足を組み紅茶を楽しむアリスと対照的に、フローリングに胡坐を掻いてクッキーを貪る霊夢。

 境遇の格差を感じて、霊夢は湯気の立つ紅茶のカップを――自然、アリスの口元を眺めた。

 

 人形の様な、という感想は、きっとありきたりで陳腐だろう。だが霊夢には、その言葉が何よりもしっくり来るものだった。

 誰が作ったのかと最初に思ってしまう程――つまり、自然に構成されたとは思えない程、計算されつくした顎のライン。

 口を閉じている時、開いている時、動作している時、三様に異なって見えて、何れも美しく映える。

 紅茶を喉へ注ぐ為、くくと喉を反らした時など、肌の白さも相まって、大理石の彫像にさえ見えた。

 新聞記事を追う目は翡翠。長い睫毛に守られて、大きな瞳が左右へ――

 

「――――……ん? アリス、あんた……?」

 

 唐突に湧き出た違和感。霊夢は空になったクッキー缶を放り出し、ソファまで近づいて、アリスの顔を覗き込んだ。

 

「ん? 何か付いてたかしら、目鼻以外で」

 

「付いてる目が気になったのよ」

 

 霊夢は、ここ数日の記憶を手繰った。アリスとの接触が増えたのは、ここ数日の事だから断言は出来ないのだが――目の色が、違う気がする。

 比喩的な意味では無く、言葉通りの意味。霊夢の記憶が正しければ、アリスは青い目をしていた筈なのだ。

 それを意識させられた機会は二度。一度は彼女が指に包帯を巻き、自分も参戦すると宣言した時。そしてもう一度は、彼女が黒衣の影に叩き潰され〝壊された〟時――

 

「……あー、嫌な事思い出した」

 

 なまじ原型を保っているだけに、誰であるかがはっきりと分かる死体――いや、死体未満の肉体。早朝に思いだして、気分が良いものでは全くない。

 辟易した表情を隠しもしない霊夢に対して、アリスは新聞から視線を上げ、きょとんとした顔をしてみせた。

 

「橋姫にトラウマでも? だったら色は変えておくわ、〝夜王の紅(スカーレッツ・スカーレット)〟で良いかしら」

 

「変えるって、やっぱりカラコンなの?」

 

「いいえ、戯れ。『Assemble.』」

 

 単言、己のみに強く意味を持つワードの詠唱。静かな発光の後、アリスの両目は、ルビーの様な赤色に変わっていた。

 

「え……何これ、凄い。どういうタネの手品……いや、魔術?」

 

 目の前で起こった不思議な出来事に、霊夢は思わず身を乗り出す。元々、瞳の色を観察しようとしていた所でそうした訳だから、危うく額がぶつかりそうだった。

 

「簡単なものよ。眼球の一部分だけ、反射させる光を限定するの。全部限定すれば墨になるし、強めに絞っただけなら貴女みたいな鳶色ね。

 博麗の術とは形式が違うだろうけれど、多分貴女だったら、数十分も有れば覚えちゃうんじゃないかしら?」

 

「はえー、魔術師って便利ねぇ……こりゃ変装とか楽だわ」

 

 翡翠から紅玉へ、色を変えた瞳を、霊夢はまじまじと眺めていた。本物の宝石の様にカットは施されていないが、然し窓に差し込む日光を跳ね返し、輝く緋色はまさにルビー。

 普段の青は理知的で、今朝の翡翠色は穏やかに優しかった。然し今の緋色は、人格を主張するのではなく、只管に外見を誇る傲慢さが有る。

 己の美しさを知り、それを魅せつけているかの様に、存在の強い赤色。事実彼女は――否定出来ぬ程、美しかった。

 鼻の先にアリスの体温を感じる程の至近距離、霊夢は止むを得ず認める。この顔を眺めていると飽きが来ない、と。

 アリス・マーガトロイドの居る光景は、完成された一枚の絵の様だ。彼女が表情に乏しい事が、その錯覚に拍車を掛ける。

 知らず霊夢は、アリスの目を――絵の主役をもっと良く見ようと、腰を軽く曲げて、頭を更に彼女へ近づけた。

 もはや、瞬きの際に睫毛が僅かに濡れる、その様子さえ見てとれるというのに、霊夢はまるで満足しようとせず――

 

「おや、朝から仲良しで良い事だな。夜にやってくれればもっと良いんだが」

 

「個人の嗜好をとやかく言う趣味は無いけど、無防備なのは頂けませんわ。……なにやってんのよもう」

 

 背後からのサーヴァントの声二つで、弾かれた様に背筋を伸ばした。

 

「セイバー、動いて大丈夫なの?」

 

 昨夜、瀕死の重症を負った筈のセイバーは、今はすっかり血色の良い顔をしていた。

 無論、万全ではない。マスターである霊夢には、セイバーがまだ、多量の魔力を、負傷の治癒に注いでいる事が感じ取れる。

 

「お陰さまで、お腹ぺこぺこだけど痛みは無いわ――お腹一杯ではありますけれど」

 

「人の恋路にとやかくは言わんが、非生産的だぞ同性愛は」

 

 アサシンの毒にやられているアーチャー共々、このサーヴァント達は、霊夢を冷やかして楽しもうと企んでいる。

 無事に安堵するやら気恥ずかしいやらで、霊夢は拳骨をこさえながら答えた。

 

「恋愛は第三次産業だし、私はそういう主義じゃないの。それよりも、あんた達はもう戦えるの?」

 

「一から育む所は第一次産業ではないかしら。正直まだまだ腕が重いわね」

 

「いやいや加工も必要だろう、関係性とは刻一刻変化して行くもんで――あ、私はあと二日欲しい」

 

 サーヴァントの恋愛談議も珍しいが、霊夢が聞きたいのはそこではない。重要な情報だけ意識に入れ、どうしたものかと考え込む。

 折良く今日は金曜日。放課後から明日、明後日と、束縛されることなく活動出来る日だ。

 可能で有るならば、二日の間に一つの陣営だけでも捕捉し――あわよくば、潰してしまいたい。

 当初の予想を超えて厄介な敵ばかりのこの戦争を、霊夢は一刻も早く終わらせたがっているのだ。

 

「アーチャーの説に賛成ね。あるがままの感情を加工するのだから、恋愛は第二次産業よ」

 

 が――何故か、アリスもまた、がっしりと話題に食いついてきた。

 

「へー、ほー、ふーん。仏頂面してあんた、そーいうのも興味有るんだ?」

 

 これ幸いと霊夢は、被害者役をアリスに押し付ける。

 面倒な役目は他人に任せ、自分は思考に専念しようという打算が半分。残り半分はやはり好奇心が原因である。

 

「あんたが恋愛語るとか予想外ね。何よ何、どんなのが好みなのよ?」

 

「あらん、霊夢ったら野暮ね。いたいけな少女に異性の好みを聞くなんて……で、どうなのかしら?」

 

 セイバーまで、一度止める振りはしつつも便乗する。

 色恋沙汰は何時の世も、女子の話題の最たる物であるのだ。

 

「好み……? うーん、そうねぇ」

 

 然して、アリス・マーガトロイドは――

 

「一に内面、二に外見。性別はどうでもいいかしら」

 

「……はい?」

 

 ――生半な相手ではなかったのである。

 

「内面が優れている事は最大の前提として、外見と内面の調和は重要よ。顔と精神にギャップは求めないわ。

 期待されている方向に、期待以上の美を。それさえ達成できているなら、性器の形質の差異なんてどうでも良くないかしら?」

 

 新聞を折りたたみ、紅茶のカップをテーブルに置き、アリスは立ち上がって背伸びをする。

 自分が発した言葉に、きっと彼女は、一片たりと違和を見出していないだろう。自分の思考は正常なものだと確信しているだろう。

 実際のところ、恋愛感情が他社の人格に対して抱くものであるとするならば、確かに性別は恋愛に関係無いのかも知れない。

 そういう言い訳は出来るにせよ、アリスが当然のように口にした言葉は、霊夢とセイバーの思考を暫しフリーズさせた。

 

「……あんたって、本当にアレよね。え、なに、本気?」

 

「本気になる程、恋愛に価値は見出さないけれど。ところで朝食はいいの?」

 

 コートを羽織り、紅茶のカップを洗い場に運ぶアリス。早くも登校の用意は整っているらしい。

 その背にどう声を掛けていいか分からず硬直する霊夢に、アーチャーが苦笑しつつ肩を叩いた。

 

「まあ、アレだな、うん。だから私はとやかく言わん。お前もとやかく言わないでやってくれよ」

 

「言わないけど、言わないけれど、少し先行きが不安になった」

 

 朝から何とも言えぬ疲労を感じ――代わりに、空腹は忘れた霊夢。

 結局はクッキーをいくらか頬張った程度で、雪道を掻き分け通学するのであった。

 

 

 

 金曜日の校舎は、明日への希望に満ち満ちて、中々に明るい雰囲気を保っていた。

 体調不良などを起こしている生徒もあまり見受けられず、外から覗き込んでいるだけならば、この校舎が戦場に成り得るなどとは思えない。

 それ程に平和な空気の中、ちょうど頃合いは昼休みである。

 

「それで、何処から調べる算段にする?」

 

「どーしようかしらねぇ。直感で行く?」

 

 霊夢とアリスは、教室の隅に余っている机を挟み、昼食を取りながら相談していた。

 どうせ昼休み、あまり聞く耳立てる者もいないが、その上で重要な語句は暈しての会話。聞かれても然程困る事は無い。

 霊体化したセイバーは常に傍に控えているし、アーチャーは校舎を歩き回っているが、いざとなれば直ぐに戻ってくるだろう。

 寧ろ人目が多いだけ、襲撃を受ける危険も低く――少なくとも、霊夢はそう考えている。

 

「まず古明地よね、怪しいの」

 

「そうね、一年生の古明地さとり。そう多い苗字でも無いし……少なくともこの学校には、彼女しか居ないわ」

 

 そして二人が何を相談しているかと言うと、残りのマスターを炙り出す算段である。

 自分達を差し引いた5の陣営の内、確認出来ているサーヴァントは四体――だが、マスターは一人だけ。

 その一人も顔と名前が分かっているだけだし、一陣営に至っては影も形も見ていない。

 

「……やっぱり、私達も別行動した方がいいのかしら」

 

 アリスは、指を組み合わせた上に顎を乗せ、ほうと溜息を吐きながら言った。

 逆に考えると、霊夢とアリスの二人は、少なくとも既に四陣営に存在を知られている。

 彼我になぜこうも情報の格差が有るのか――やはり行動の指針が原因だろう。

 日常生活は崩すまいという霊夢の指針は、必然、外出をせざるを得なくなる。

 外出時、サーヴァントを連れ歩かない方策はない。さもなくば二人は忽ちに、骸を路上に晒すだろう。サーヴァントからの奇襲に霊夢とアリスだけでは、瞬き一つの間も持ちこたえられない。

 その上に霊夢達は、自分から相手陣営を探して歩き回るのだから、どうしても自分がマスターだと喧伝する事になる。サーヴァントを引き連れ歩く人間を見て、誰がマスターでないと考えるだろうか。

 

「そりゃ無いわね。引き籠りはごめんよ、私はアウトドア派なの」

 

 アリスの提案を、霊夢はあっさりと蹴り飛ばした。

 サーヴァントと行動を別にするならば、確かにマスターは何処かへ隠れ潜む必要がある。が――その場所を、霊夢達は確保出来ていない。

 

「結局さぁ、今まで通りしかないんじゃない? 夜にうろついて、偶然見つけたら仕留めて。非効率的だけど、その内向こうも動くでしょ」

 

「危険ばかり嵩む案だと思うわ、賛同しづらいわね。それだったらまだ、何処かに隠れて待つ方が――」

 

「その場所が無い、ってのが問題なのよ」

 

 方針は、未だに纏まりそうも無かった。

 一時休憩として、昼食の接種に専念する。朝食が限りなく質素だった為、霊夢はやや多めにパンを買い込んでいた。

 ごってりと餡子にマーガリンを混ぜ込んだ『あんバタ』や、油たっぷりの『揚げドーナツ』、そして口の周りを汚す事確実な『シュガーバタートースト』。

 コンビニで買うよりは余程安いのだから、多少の贅沢も目を瞑って良いだろうと、霊夢はそんな風に考えていた。

 

「……バターとマーガリンで油が被ってない?」

 

「良いのよ、油を入れなきゃ車は走らないの」

 

 だから、味の偏りにも目を瞑る。

 今はとにかく腹を満たして、一秒でも長く歩き回れる様にしておきたい。美食よりカロリーの、これもまた合理的思考であった。

 

「お前はガソリンよりもシャフトグリスが必要だろ、博麗の。だからガソリンは私にくれないか」

 

 そんな思考を妨げる様に、鼻をひくつかせながら寄ってきたのは、犬走椛である。

 

「私はせいぜい二輪車って事?」

 

「カクカクしすぎだから滑らかになれって事。夜更かしと悪巧みの相談か?」

 

「盗み聞きは関心しないわよ」

 

 実際の所、声量が少し大きすぎたきらいは有る。指摘されて初めて気づき、霊夢はつんとした口調で答えた。

 鼻だけでなく耳まで良く出来ているのか、結構な距離は有った筈だが、会話の大半は聞かれていたらしい。

 

「夜遊びの相談も関心しないな。なんだなんだ、何処へ行くつもりなんだ? 夜の街に繰り出すのか?」

 

「発想がおかしいわよ、あんた。もうちょっと健康的な発想しなさいよ」

 

「これ以上無い程に健全だと思うが。学生の夜遊びなんて、せいぜいが市街地で屯するくらいのものだろう」

 

 近くの空席の椅子を引き、椛はちゃっかりと会話の輪に紛れ込んで来る。何時もの事ではあるので、霊夢は飽きれながらも、邪見に扱う事はしなかった。

 

「で、古明地がどうしたって? あいつもあれで、色々と噂を聞く奴だけど」

 

「どうもしないっての、本当にあんたは何時も――ん?」

 

 他愛ない噂話は、休憩時間の花である。今日も所詮、その程度の話題だと霊夢は思っていた。

 だが、椛が持ち込んだ話題が、よりにもよって自分達が一番知りたい相手の話題(かもしれない)と聞けば、黙っては居られない。

 

「……聞いてあげるわよ、喋りたいんでしょ?」

 

「横柄な奴め、噛みついてやるぞ」

 

 ギザギザの牙を剥き出しにして、がちんと打ち合わせ――それから椅子に深く腰掛け、椛は声も潜めず語り始めた。

 古明地さとりは、交友関係の狭い後輩である。つるむ相手と言えば河城にとり程度のもので、同級生に殆ど友人が居ない――と言うよりも、自ら人を避けているきらいが有る。

 例えば、クラスメイトに遊びに誘われたとしても、彼女はまず応と答えない。学校が終了すれば家に直帰するし、その家が何処にあるかさえ、知っている者は少ないのだ。

 

「良く夜に出歩いてる奴らから聞いたらしいんだけど、古明地がこっそりと夜歩きしてるのを見たらしいんだな。

 あんまり楽しげに歩いてたもんだから、声を掛けようか迷ってる間に行ってしまった……って事らしいけど。

 だから本当の所、本人かどうかは確認出来てないらしいんだが――」

 

「らしい、が多すぎるわよ」

 

「仕方ないだろう、又聞きなんだから。で、そこからがちょっと怖い話だ。

 古明地は薄暗い路地から出てきたそうなんだけど、屯してた連中、ちょっとその路地を覗き込んだらしいんだな。

 ……別に、何かが居た訳じゃない。居た訳じゃないんだが――そいつら、次の日から揃って三日寝込んだ」

 

 霊夢は露骨に訝しむ顔をし、アリスは片方の眉をぴくりと動かすだけに留める。何れにせよ、興味深い話ではあった。

 

「種を明かすと、酷い風邪だったらしいけどな。気怠さが凄くて体が重くて、熱は低いのにろくに動けない。

 医者に診せたら、喉とか鼻の中とか、かなり爛れてたっていう風に聞いてるよ」

 

「……ぞっとしない話ね」

 

 だろう? と同意を求める椛は、耳も尻尾も垂れ下がっていた。怖いもの無しの椛ではあるが、形の無い存在は苦手らしい。

 怪談話を楽しむ女学生、そんな形容が相応しい表情に、霊夢は何時の間にか笑いを零していた。

 

「そんな訳だから、あの古明地には近づかない方が良いかも知れないぞ? だってほら、その、祟られたりしたら嫌だろう。

 君子危うきに近寄らず、そっとしとくのが賢い賢い……ってな」

 

 小さく身震いしてから、椛は椅子を足で押しのけるように立ち上がる。

 

「どっか行くの?」

 

「お前を見てたら私も腹が減った、パン買ってくる」

 

「あ、ちょっと」

 

 懐に手を入れ財布を探す椛。その肩を霊夢が叩いて呼び止めた。

 

「行くならその前に、その話を誰に聞いたか言って行きなさいよ」

 

「一年のリグル・ナイトバグだよ。今日は珍しく一人で登校しててな、途中からちょっと付き合ったら聞いた。

 良く走りこんでるよな、お前もたまには陸部に顔出してやれ」

 

 答えは簡略に。椛はそれだけ告げると、やや速足で歩き始める。購買のパンは無限では無いのだ。

 取り残された霊夢とアリスは、顔を見合わせて暫く押し黙り、

 

「……あんたはどうする?」

 

「今回は見、貴女に任せるわ」

 

 リスクの分散で、意見の一致を見た。

 有体に言えば――どうにも、胡散臭かったのだ。


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