「これでレポート関係は片付いたな」
イエロー寮の自室で授業で出されたレポート類を終わらせた夜行はイスの背もたれに寄り掛かり、これまでの状況を整理していた。
(まさか監視役が入試に落ちるとは想定外だったな。
これで任務は3つになって、少なくとも3年間はこの世界にいないといけないのか)
監視役として選ばれた受験者が入試でマークを1つずらして書くというミスを犯し、受験に失敗した。そのため、別件とはいえアカデミアに入学し、組織の人間である夜行に監視もするように命じられてしまったのだ。
(奴の逮捕、十代の監視、可能であれば2体の龍のカードの奪取……やることは山積みだな)
夜行は目の前にある問題の多さに大きく溜息を吐く。そんなとき、コンコンとドアをノックする音が聞こえたので、「誰が来たんだろう?」と思いながら部屋のドアを開ける。
「夜行君、この前の月一試験の写真持ってきたよ」
星奈が写真を入れた封筒を持って部屋の前にいたため、中に入れよといって部屋の中に招き入れる。そして星奈が写真を広げて、夜行が1枚1枚その写真を見ていく。切り札を召喚したとき、モンスターが破壊された瞬間やライフが尽きた瞬間などが映し出されている。
「どの写真もよく撮れているな」
「そりゃあ、ジャーナリスト志望だからね」
えっへんと胸を張って答える星奈。そんな彼女を微笑ましく思いながら、写真を見ていくと1枚の写真を見て手が止まる。それは十代がジ・アースを召喚したときの写真であった。ジ・アースは世界に1枚しか存在しない文字通りのレアカードのため、星奈が持ってきた写真の多くはジ・アースを撮影したものである。
「ジ・アースなんて今を逃したら生で見れないかも知れないからね。
一生分のフィルムを使うくらいバンバン撮ったよ!」
「どれだけ撮るつもりだったんだ。
ジ・アースの写真だけで軽く100枚は超えているだろう。
そもそも十代に頼めば、いつでもジ・アースは見れるだろうに……」
夜行は十代に頼めば、いつでもどこでもジ・アースを見せてくれるだろうと思っていた。しかし、星奈はチッチッチッと舌打ちして、夜行の考えを否定する。
「分かってないな、夜行君も。
こういうのはデュエルの中で出てくるから、モンスターたちも気合が入って輝くの。
ただ投影しているだけでじゃあ、躍動感とか感動は伝わらないんだよね」
「そういうものかねぇ」
星奈の考えを聞いて、夜行は少なくとも自分は美術方面には向いていないと思った。そんあ夜行を気遣ったのか星奈は別の話題を持ち出す。
「そういえば、万丈目君、ノース校に留学するんだって」
「三沢からそのことを聞いたときは驚いたな」
「うん、私も。急に決まったから、万丈目君と話す暇もなかったよ」
万丈目は誰にも見送られることなく島を出ており、ノース校へと向かった。。
遠くに行った万丈目の身を案じながらも、夜行らは「万丈目は何しているんだろうな」と思うのであった。
数日前、万丈目はノース校に向かう途中、船が難破したため泳いでノース校へと向かうことになってしまう。ヘトヘトになりながらも万丈目は目の前にあるノース校へと向かおうと、門の前で初老の男性がたき火をしていた。
「おい、そこで何をしている」
「見ての通り……ノース校に入ることができなかった者じゃ」
「入れなかった? どういうことだ!詳しく教えろ」
万丈目は男性が持っている情報を洗いざらい話すように言う。そんな万丈目に気圧されたのか男性はうつむきながら小さな声で話し始める。
男性が言っていることをまとめると、ノース校に入るには40枚のカードが必要であり、予想外の事故などでカードが不足している場合はクレパスなどに隠されているカードを集める必要があるそうだ。男性は39枚のカードを集めたが、気力・体力はもう残っていない。
万丈目も他人ごとではない。万丈目は泳いでノース校に来たせいでデッキが濡れてしまい、濡れないように配慮していた必須カード群を除くほとんどのカードが使用不可の状況になっている。連絡を取ることができれば、I2社に連絡してカードを取り換える手段もあるが、今の万丈目には外部と連絡を取る手段はない。
40枚にはほど遠い万丈目にはクレパスのカードを集めるしか方法はなかった。そのため、万丈目は男性のもとから去り、カード探しをし始める。
それから数日後、万丈目は再びノース校の門の前に来る。この数日間でシロクマと死闘を繰り広げ、断崖絶壁を上り、シャチに襲われたりしながらもカードを集めてきた万丈目の体には無数の切り傷が見受けられる。
しかし、数日前とは違って初老の男性の姿はなかった。もう諦めたのだろうと思った万丈目は41枚のデッキから適当なカードを1枚抜き、ポケットの中に入れた。そして40枚のデッキをデュエルディスクを起動すると門が開かれていく。
中へと入っていた万丈目はノース校が西部劇に出てくるような街並みになっていることに少し戸惑いながらも歩いていく。すると笑い声が聞こえてきたので、声がするほうへと向かうと自分と同じくらいの男性たちがジュースを片手に何かを祝っているようだ。そこで万丈目は身を隠し、こっそり話を聞いてみた。
「ヨハン、アークティック校に行っても元気に居ろよ」
(ヨハン……?
まさか、ヨハン・アンデルセンのことか?
兄さんたちから、宝玉獣に選ばれたデュエリストがアカデミアにいると聞いたことはあるが、ノース校にいたとはな)
かつてユリウス・カエサルがその覇権を知らしめるため7つの宝玉を集め石版を作ろうとしたが、輸送中のトラブルによりそれが叶うことはなかった。しかし、時を経てペガサス会長がそれらの宝玉を集め、宝玉獣を作製した経緯がある。そのため、プラネットシリーズと同じく世界に1枚しか存在しない宝玉獣の使い手に興味をもった万丈目はノース校の生徒の前に出る。
「誰だ!」
「俺の名は……
一、十、百、千!万丈目さんだぁぁぁ!!」
「千丈目か万丈目か知らねぇが、余所者は引っ込んでいな」
巨体の男が腕をぽきぽきと鳴らしながら万丈目に近寄っていく。しかし、万丈目の目にはそんな男は移っていない。万丈目の目に映っているのはたった1人だけだ。
「ふん。お前など興味はないわ。
俺が興味あるのはそこのヨハン・アンデルセンだけだ!」
「だれくぁおれほひょんひゃ?(誰か俺を読んだ?)」
口に物を入れていたので自分の方に振り返ったヨハンが何を言っているかは万丈目は分からなかった。そのため、万丈目はひとまずヨハンが食べ物を飲み込むまで待つことにした。
「宝玉獣使いヨハン・アンデルセン!この場で精霊に選ばれたデュエリストである俺とデュエルしろ」
「精霊?」
万丈目が放った言葉の中にある単語にピクリと反応するヨハンは眼の色を変える。さっきまでのおどけたような顔からデュエリストとしての顔へと変わっていく。
「そのデュエル買ったぜ」
「待てよ、ヨハン。船の時間がもうすぐ……」
「大丈夫だって。まだ時間はあるんだし。
それにデュエリストなら売られたデュエルは買うのが基本だぜ。
ましてや精霊を持つデュエリストならなおさらな」
制止しようとしたノース校の生徒の反対を押し切り、デュエルディスクを構えるヨハン。そんな彼をみたノース校の生徒はやれやれといった様子である。
「「デュエル!」」
万丈目LP4000
ヨハンLP4000
-万丈目のターン-
「俺のターン。ドロー!
俺は大熱波を発動。次の俺のドローフェイズまで互いに効果モンスターを召喚・特殊召喚することはできない」
フィールド上に効果モンスターのみを狙う熱風が吹き荒れ、効果モンスターにとっては過酷な状況になる。
「これで貴様の宝玉獣の展開は完全に封じた。
おジャマ・イエローを守備表示で召喚」
『暑いのは嫌いなのよ~ん』
「うるさい、黙れ!」
「何しているんだ、あいつ?」
傍から見れば、万丈目が何もない空間に話している。しかし、精霊をみることができるヨハンから見れば、万丈目が半透明のおジャマ・イエローに向かって口論していることが分かる。
「精霊っておジャマイエロー?」
「ああ!ここに入るために止む無くデッキに入れているカードだ」
万丈目が手始めに取りやすい場所のカードが集めたときに手に入れたカードである。撮りやすい場所にあったカードはおジャマといった単体では弱いカードが多く、戦力が乏しいことが分かった万丈目は次の日からは大物狙いで断崖絶壁を登るようになったのだ。
「カードを1枚伏せてターンエンド」
手札:3枚
場:イエロー
魔法・罠:伏せ1枚
-ヨハンのターン-
「俺のターン。ドロー!
召喚を封じられてもセットはできるぜ。俺はモンスターをセットする」
モンスターのセットは『通常召喚』ではあるが、『召喚』ではない。そのため、『召喚』を封じる大熱波が発動していてもモンスターをセットすることは可能である。大熱波の弱点を見事についたヨハンのプレイに万丈目は少なくともオシリスレッドクラスのデュエリストでないことを悟る。
「カードを1枚伏せてターンエンド」
手札:4枚
場:裏守備モンスター
魔法・罠:伏せ1枚
-万丈目のターン-
「俺のターン。ドロー!
俺はおジャマイエローを生贄に紅蓮魔闘士を召喚」
(今の俺のデッキで最も攻撃力が高いモンスターがゴブリン突撃部隊にも劣る攻撃力2100のモンスターとは……
とにかくコイツを使いこなさなければ、俺に勝機はない)
灼熱の髪に漆黒の鎧を着た魔剣士が万丈目の場に見参する。
一部の下級モンスターや並みの上級モンスターよりも劣るステータスを持つ紅蓮魔闘士では心細いところもあると言えよう。しかし、オベリスクブルーの中でも有数の腕を持つ万丈目はモンスターの質は魔法・罠でカバーすればいいと考えていた。デュエルはモンスターだけで決まるわけではない。モンスターをサポートする魔法・罠の使い方にも左右されるのだ。
「紅蓮魔闘士の効果発動。1ターンに1度、墓地のレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚することができる。俺はおジャマ・イエローを特殊召喚」
『アニキ、生贄にするなんてひどいわ~』
「黙れ!俺は馬の骨の対価を発動。おジャマ・イエローを墓地に送り、2枚ドロー!」
再び万丈目の場におジャマ・イエローが現れたが、あまりにもうるさいので万丈目はさっさと墓地に送るのであった。
「俺は紅蓮魔闘士(ATK2100)で貴様のセットモンスターに攻撃!紅蓮魔闘剣」
「俺は攻撃宣言時にラストリゾートを発動。デッキから虹の古代都市-レインボー・ルインを発動させる」
紅蓮魔闘士が剣を振りかざし、裏守備モンスターに攻撃する。その瞬間にヨハンが伏せカードを発動させ、フィールドが古代ヨーロッパのコロセウムを思い出す建物へと変わっていく。
「破壊された宝玉獣エメラルド・タートルの効果発動。エメラルド・タートルを宝玉として残す」
「ターンエンドだ」
手札:4枚
場:紅蓮魔闘士
魔法・罠:伏せ1枚
-ヨハンのターン-
「俺のターン。ドロー!
俺は宝玉獣サファイア・ペガサスを召喚。
サファイア・ペガサスが召喚に成功したとき、デッキから宝玉獣を魔法・罠ゾーンに置くことができる。
俺は宝玉獣ルビー・カーバンクルを宝玉として置く。サファイア・コーリング」
一角の角を持つ白い翼を広げたペガサスがヨハンの場に現れると同時にヨハンの場にルビーが置かれる。そしてヨハンが手札のカードをデュエルディスクに差し込むと2つの宝玉が輝きはじめる。
「宝玉の導きを発動。デッキから宝玉獣トパーズ・タイガーを特殊召喚する。
俺はトパーズ・タイガーで紅蓮魔闘士に攻撃!トパーズ・バイト」
白い虎が灼熱の髪の剣士に襲い掛かる。
「なに!? 攻撃力が低いモンスターで攻撃だと!?」
リクルーターの自爆特攻ならわかるが、サファイア・ペガサスはリクルーターではない。わざわざ自爆特攻する理由が分からなかった万丈目はヨハンの狙いを見極めるため、ヨハンの挙動をじっくりと見る。
「トパーズ・タイガーは相手モンスターに攻撃するとき、攻撃力を400ポイントアップする。
さらに手札から速攻魔法、百獣大行進を発動。
このターンの終わりまで獣族モンスターはフィールド上に存在する獣族モンスターの数×200ポイント攻撃力が上昇する。
俺のフィールド上には2体の獣族モンスターがいる。よって攻撃力は400ポイントアップだ(ATK1600→2000→2400」
トパーズ・タイガーが紅蓮魔闘士の斬撃を紙一重でかわし、喉笛に噛みつき破壊する。
万丈目LP4000→3600
「宝玉獣サファイア・ペガサス(ATK1800→2200)でダイレクトアタック!サファイア・トルネード」
サファイア・ペガサスが羽ばたき、発生した竜巻が万丈目を襲う。
万丈目LP3600→1400
サファイア・ペガサスの攻撃をもともに受けた万丈目は数メートルほど吹き飛んでしまう。ヨハンも心配したのか「大丈夫か」と声をかける。
(やはり、宝玉獣に選ばれたデュエリストというだけあって強い。
だが、こいつを倒さないと十代にはどっちみっち勝てん!)
万丈目は遠くにいるライバルを見据え、闘志を震わし起き上がる。
「そうこなくっちゃな。ターンエンド」
手札:2枚
場:サファイア・ペガサス(ATK1800)
トパーズ・タイガー(ATK1600)
魔法・罠:ルビー
エメラルド
フィールド:レインボールイン
-万丈目のターン-
「俺のターン。ドロー!
俺はリビングデッドの呼び声を発動。紅蓮魔闘士を復活させる。
紅蓮魔闘士の効果で墓地のおジャマイエローを守備表示で特殊召喚する」
『あんな強そうなやつに勝てるわけないわ~ん』
「貴様はただの壁だ!そこで引っ込んでいろ」
万丈目は初めから戦力としてほとんどカウントしていないおジャマ・イエローを無視し、手札にあるモンスターカードに手を伸ばす。
「冥界の使者を召喚」
身の丈ほどある鎌を持ち、黒いロープを身にまとった死神が万丈目の場に現れる。
「冥界の使者(ATK1600)でトパーズ・タイガー(ATK1600)に攻撃!ソウル・ハント」
トパーズタイガーに鎌を振りかざし、鎌を突き刺すことに成功するが、トパーズタイガーが最期のあがきで冥界の使者の頸動脈に牙を突き刺し互いに破壊される。
「トパーズ・タイガーを宝玉として残す」
「冥界の使者が墓地に送られたとき、デッキからレベル3以下の通常モンスターを手札に加えることができる。
俺はおジャマブラックを手札に加える」
冥界の使者は制限カードであるクリッターと同じ条件でデッキからモンスターをリクルートすることができる。ただし、クリッターとは違って冥界の使者は通常モンスターに限定されているためサーチ対象が狭いのが難点である。
「俺のデッキに通常モンスターはいない」
「念のために貴様のデッキをチェックさせてもらうぞ」
(なんだ、この紙束は!?
宝玉獣以外のモンスターが1枚も入っていないじゃないか!)
万丈目はヨハンの極端に偏ったデッキ構成を見て頭が痛くなる。その後、ヨハンにデッキを返しバトルを続行する。
「俺は紅蓮魔闘士(ATK2100)でサファイア・ペガサス(ATK1800)に攻撃!」
「レインボールイン2つめの効果でダメージを半分にする」
ヨハンLP4000→3750
ようやくヨハンにダメージを与えることができた万丈目。しかし、ライフポイントは大きく離されているせいか一呼吸を置くこともできない。
「おろかな埋葬でデッキのおジャマ・グリーンを墓地に送る。
カードを2枚伏せてターンエンド」
手札:2枚(1枚はブラック)
場:紅蓮魔闘士
イエロー
魔法・罠:伏せ2枚
-ヨハンのターン-
「俺のターン。ドロー!
レインボールイン4つ目の効果でカードを1枚ドローする。
宝玉の契約を発動。魔法・罠ゾーンの宝玉獣サファイア・ペガサスを特殊召喚する」
「俺は増殖するGを墓地に送り、その効果を発動させてもらうぞ。
このターン、貴様が特殊召喚するたびに俺は1枚ドローする」
ここが勝負の賭けどころと思った万丈目は手札のカードを発動させる。増殖するGは相手の手札を増やすため、展開の抑止力になることが多い。しかし、ヨハンはそんなことを気にしていない。
「サファイア・ペガサスの効果でデッキから宝玉獣コバルト・イーグルを宝玉として置く。
宝玉獣アンバーマンモスを召喚。
宝玉の導きを発動。デッキから宝玉獣アメジストキャットを特殊召喚する」
「貴様がモンスターを特殊召喚したことで1枚ドロー!」
(これで奴の場には7つの宝玉がすべてそろったことになる。まさか……)
手札は増えたが、ヨハンの場には7種類すべての宝玉が出そろってしまう。万丈目は背筋が寒くなる中、ヨハンのデュエルディスクが7色に輝きはじめる。
「見せてやるぜ、万丈目」
「万丈目さんだぁ!」
「7体の宝玉獣が揃った時、世界を繋ぐ光がこの地に甦る。見ろ!『宝玉獣』の奇跡!!
甦れ!究極宝玉神『レインボー・ドラゴン』」
デュエルディスクからレインボードラゴンと思わしきシルエットが投影されるが、すぐさま消えてしまう。
「レインボードラゴンは……どうしたんだ? どこにいる!?」
「まだレインボードラゴンの石版は見つかっていないんだ」
「……要はただのハッタリか」
万丈目は切り札不在の未完成な【宝玉獣】に少しがっかりし、肩を落とす。
「そのハッタリもいつかは本当のものにするさ。
2枚目の宝玉の契約を発動し、宝玉獣トパーズタイガーを特殊召喚する」
増殖するGの効果で1枚ドローする万丈目。そして場を整えたヨハンはバトルフェイズに移る。
「俺は宝玉獣トパーズ・タイガー(ATK1600→2000)で紅蓮魔闘士に攻撃!」
「さっきと同じコンバットトリック狙いか。だが、同じ手は2度も通用せん!
聖なるバリア-ミラーフォース-を発動!これで貴様のモンスターは全滅だ」
「レインボールインの3つ目の効果発動。宝玉獣を生贄にささげることで魔法・罠の効果を無効にする。
俺はアンバーマンモスを生贄にささげてミラーフォースを無効にする」
「なにぃ!?」
起死回生の手段として温存していたミラフォを防がれたことに驚く万丈目。レインボールインの詳細な効果を知っていれば、別の手段も考えれたかもしれないがそれをとるにはすでに遅かった。
「そしてダメージステップ時に禁じられた聖槍を発動。紅蓮魔闘士の攻撃力を800ポイントダウンさせる(ATK2100→1300)」
聖なる槍によって弱体化した紅蓮魔導士がトパーズタイガーに噛み砕かれ破壊される。
万丈目LP1400→700
「宝玉獣サファイア・ペガサス(ATK1800)でおジャマイエローに攻撃!サファイア・トルネード」
「ダメージステップ時に手札から牙城のガーディアンの効果発動。
おジャマイエローの守備力を1500ポイントアップする(ATK1000→2500)」
「くっ……? レインボールイン2つ目の効果でダメージを半分にする」
万丈目の予想外の反撃に驚くもレインボールインの効果で被害を最小限にする。
ヨハンLP3750→3400
「俺はアメジストキャットの効果発動。戦闘ダメージを半分にする代わりにダイレクトアタックが可能になる。
アメジストキャットでダイレクトアタック!アメジスト・ネイル」
アメジストキャットが万丈目の顔面をひっかく。あまりにも痛かったのか万丈目は顔を抑えのたうち回る。
万丈目LP700→100
「俺はカードを1枚伏せてターンを終了するぜ」
手札:0枚
場:サファイア・ペガサス
アメジストキャット
トパーズタイガー
魔法・罠:伏せ1枚
ルビー
エメラルド
コバルト
フィールド:レインボールイン
-万丈目のターン-
「俺のターン……」
(俺の手札には奴を倒すためのキーカードが揃っていない。
そしてレインボールインの魔法・罠を無効にする効果はあと3回も使える。
しかも俺の残りのライフはわずか100。
ヨハンにターンが回ればアメジストキャットのダイレクトアタックにより俺のライフは0になる。
また俺は負けるのか……)
万丈目は自分のターンが回ってきたにもその表情は暗い。自身の敗北を悟り、サレンダーしようとデッキに手を伸ばしたとき、ヨハンから怒りを含んだ声が発せられる。
「おい、逃げるのかよ!
デュエルは最後の最後まで何が起こるか分からないから楽しいんだろうが!
お前のデュエルはそんなものかよ」
(デュエルが楽しい……?
そういえば、十代も似たようなことを言っていたな……
俺のデュエル……俺が目指すべきデュエルは――)
万丈目はこれまで考えてこなかった自分のデュエルのルーツ・目的をこの時になって初めて考える。そして、万丈目は1つの解を出す。
「貴様が……貴様たちがデュエルを楽しむのはわかった。それが正しいのは認めよう。
だが、今まで俺が正しいと思ってきた『勝つ』デュエルが正しいのもまた真理!
ならば、俺は『楽しく勝つ』デュエルをしてやる!!」
それが合っているのかどうかさえ万丈目自身もわからない。しかし、それを伝えなければならないと思った。このことを考えるきっかけになった十代、そしてヨハンに対するせめてもの礼儀だからだ。
「じゃあ、見せてくれよ。万丈目、いや万丈目サンダーの楽しく勝つデュエルを」
「俺はポルターガイストを発動。この効果で貴様のレインボー・ルインを手札に戻す!」
「それならレインボー・ルインの効果で……」
「甘いぞ、ヨハン!ポルターガイストには無効されない効果を持っている。よって貴様のレインボールインは無力だ」
ドローしたばかりの魔法カードにより、レインボールインはヨハンの手札に戻り、フィールドも元に戻る。これで万丈目の行動を阻む可能性があるのは伏せカードのみとなった。
「トルネード発動。相手の魔法・罠ゾーンにカードが3枚以上あるときのみ発動でき、魔法・罠ゾーンのカードを1枚破壊する。
お前の魔法・罠は4枚のカードがある。よって発動条件は満たしている。
俺はお前の伏せカードを破壊する」
「伏せていた神の宣告が……」
強力な除去魔法・罠用に伏せていた最強のカウンター罠が破壊される。これで万丈目の行動を阻むカードはない。あとは賭けに出るのみとなった。
「リバースカード、無謀な欲張りを発動。2ターンのドローフェイズをスキップする代わりに2枚ドロー!
おジャマ・ブラックを召喚。
そして死者蘇生を発動。紅蓮魔闘士を復活させる。
紅蓮魔闘士の効果で墓地のおジャマ・グリーンを特殊召喚する。
これで準備は整った。
おジャマ・デルタハリケーン!!を発動!俺の場におジャマ・イエロー、おジャマ・グリーン、おジャマ・ブラックがいるときのみ発動できる。貴様の場のカードをすべて破壊する」
『これがおいらたち』
『兄弟の』
『絆パワーよ~ん』
おジャマたちがヨハンに向かって尻を向け、3体のおジャマが円状に回転!結構な呑気にしていたヨハンもおジャマの姿が目視できなくなるほどの回転の速さには少しビビった。その尻の間に生じる圧倒的な破壊エネルギーがヨハンのモンスターに襲い掛かり、破壊される。
「だが、紅蓮魔導士の攻撃を受けても俺のライフはまだ残るぜ」
「いや、このターンで終わりだ。
右手に盾を左手に剣を発動!フィールド上のモンスターの攻守を入れ替える」
紅蓮魔闘士ATK2100→1800
おジャマATK0→1000
「紅蓮魔闘士とおジャマたちでダイレクトアタック!」
紅蓮魔闘士とおジャマたちの攻撃を受けたヨハンのライフは0を示す。
ヨハンLP3400→0
ヨハンはデュエルに負けたにもかかわらず、悔しそうな顔をせず、むしろ気持ちのいい笑顔であった。
「万丈目、楽しいデュエルだったぜ。
でも次やるとは負けないからな」
「そのときも俺が勝つ。なぜなら、俺は――」
『一!』
『十!』
『百!』
「千!」
「「「「万丈目さんだぁぁぁぁ!!」」」」
万丈目はおジャマたちと万丈目サンダーの掛け声をする。その息がぴったしの様子にヨハンは仲が良いのだろうと思う。
その後、ヨハンは船に乗りアークティック校へと向かい万丈目はノース校の生徒たちとデュエルするのであった。
リアルの都合と万丈目の寄せ集めデッキをどうするかで悩んだため、投稿が遅れました。
結局はおジャマ軸通常モンスターデッキになりました。
多分、だれもが予想できなかったヨハン戦。
久しぶりのヨハンのデュエルだったので、再び勉強しなおすことに。
それにしてもアニメの初期設定ではヨハンはノース校出身だったのに、いつの間にかアークティック校出身になっていたんですよね。
なぜ、変えたんだ。答えろ、ルドガーもといアニメスタッフ!
次回は廃寮の話の予定です。
次はどんなサプライズをするか考えなければ……
それでは約1カ月後にお会いしましょう。