遊戯王GX~Ritual Story   作:ゼクスユイ

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第13話 部長、襲来

 冬休みが終わり、実家に戻って年越しを過ごした者がアカデミアに戻り、新学期が始まった。冬晴れの青空のもと、ラーイエローとオベリスクブルー男子は授業の一環としてテニスをしていた。

「甘いぞ、夜光! そのコースを狙ってくることはすでに計算済みだ」

 三沢はこれまで打ってきたサーブやリターン、癖から夜光が狙いやすいコースや決め球を把握し、次に何を打つかを予測しボールをライン際に勢いよく返す。夜光はボールに追いつこうと懸命に走るが、届かず三沢の勝利が決まった。

「三沢、強いよなぁ」

「プロリーグでは産休があるくらいデュエルには体力が必要。だからこそ俺は日々のトレーニングは欠かさずにやっている」

「そういや誰かの本で『デュエルの強さは肉体で決まる』って書いていたなぁ。デッキ構築の方が重要じゃねと思ったから、途中で読むのやめたけど」

「いや、その本が書かれていることは正しいかもしれない。最近、筋力の口上がドロー力の強化につながるという論文が発表されたからな」

「…………まじで?」

 夜光は三沢の思わぬ反論に唖然としていた。いくらデッキ構築が良くてもドロー力が無ければ、ここぞというときに欲しいカードもひけないし、逆転のカードもひけない。そのため、デュエルにおいてドロー力は重要な要素の一つといえる。

 もし、筋力の強化がドロー力をあげるというのであれば、プロリーグは忽ちガチムキ系の男で埋め尽くされるだろう。それは本当にカードゲームの光景なのだろうか? プロレスやレスリングと言われたほうが違和感がないのではないか。そのような想像をしてしまった夜光はその光景を振り払うかのように頭を振り、話を変えようとする。

「三沢は冬休みの間、何をしていたんだ? 俺はアカデミアに残って十代たちと年越しデュエルしていたけど」

「俺は地元の近くで開催されたデュエルの研究会に参加していた。テーマは『デュエリストの心理状態がデュエルに与える影響』だ。このテーマの意義は……」

「ああ、わかった。あとで聞いてやるから、今は話さなくても良い。それにしても神楽坂は変わったよな。前は少しオドオドしていたのに」

 三沢が研究会のことについて語り始めようとしたので、夜光は必死でやめさせようと話題を再度変えようとする。三沢の話は下手すれば数時間にも及ぶことがあるからだ。

 今、夜光たちの前でテニスをしている神楽坂は冬休み前と違って強気に前に出たり、ライン際ギリギリを狙うようになっていた。今までであれば、極端にリスクを背負うことを嫌い、その結果じり貧になることが多かった。

「神楽坂から聞いた話によれば、地元で開かれた小さな大会に優勝したらしい」

「それが自信となって神楽坂自身を変えたわけか」

 自信と自身。三沢は夜光がギャグを言っているのか少し考えた。だが、夜光の性格上ギャグを言うとは思えないし、顔を見てもボケたからツッコめよという感じではない。いたって真顔だ。そのため、三沢は夜光のギャグ(?)を無視するのであった。

「君が夜光君だね」

 そんなとき誰かが後ろから夜光の名を呼んでいたため、振り返ると2年のテニス部部長の綾小路ミツルが居た。2年生にしてカイザーと同等の実力を持つと言われる学園屈指のデュエリストでもある。

「亮を追い詰めたという君の実力を知りたくってね。無理してクロノス教諭に1年生の授業のコーチ役として参加させてもらったんだよ」

「良いぜ、先輩。さっそくデュエルだ」

 互いにカバンの中からデュエルディスクを取り出し、腕に装着する。

「「デュエル!」」

 

綾小路LP4000

夜光LP4000

 

-綾小路のターン-

「先行は僕からだよ。僕のターン、ドロー!

僕はモンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 綾小路はセットモンスターと伏せカードを出しただけで自分のターンを終える。良く言えば慎重、悪く言えば消極的とも言える一手に面喰らう。

「亮みたいにいきなり手札を湯水のように使うわけじゃないさ。仮に今展開しても意味はほとんどないだろう?」

「それもそうか。先行でいくら展開しても攻撃できないもんな」

 綾小路の意見に夜光は納得し、自分のターンへと進ませる。

 

手札:4枚

場:裏守備モンスター

魔法・罠:伏せ1枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はガーゴイル・パワードを召喚」

 夜光の序盤の主力モンスター、ガーゴイル・パワードがフィールドに降り立つ。未知の裏守備モンスターに攻撃するかどうか迷ったが、攻撃力1600あれば大抵のモンスターは破壊でき、仮に戦闘破壊できなくても綾小路のモンスター次第ではデッキ内容が推測できると判断し攻撃を仕掛ける。

「先輩がどういうデッキか見させてもらうぜ。ガーゴイル・パワードで裏守備モンスターに攻撃!パワード・ビーム!」

「僕の裏守備モンスターはラヴァルの炎車回し。ラヴァルの炎車回しは戦闘破壊されたとき、デッキからラヴァルモンスターを2体墓地に送ることができる。僕はラヴァルのマグマ砲兵とラヴァル・ランスロッドを墓地に送るよ」

「【ラヴァル】か!」

 ラヴァルは守備力が低い代わりに攻撃力が高く、墓地が肥えれば肥えるほどその攻撃力は爆発的に増えるモンスター群だ。その低守備力もとある魔法カードを使えるというメリットでしかない。

 夜光は初動の墓地肥しさえ成功すれば、カイザーに匹敵する爆発力を得ることは可能だろうと分かると同時に悪手を打ってしまったことも分かった。なぜなら夜光のデッキにはDDクロウのような相手の墓地を除外するカードは入っておらず、綾小路の墓地肥しを止める手段がないからだ。

「カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:4枚

場:ガーゴイルパワード(ATK1600)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-綾小路のターン-

「僕のターン、ドロー!

僕はフレムベル・ヘルドックを召喚」

 体が溶岩できている猟犬が綾小路の場に現れる。厄介なモンスターの召喚に夜光は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「フレムベル・ヘルドッグ(ATK1900)でガーゴイル・パワード(ATK1600)に攻撃!熱血ファング!」

 ガーゴイル・パワードがフレムベル・ヘルドッグの炎の牙に噛みつかれ破壊される。

 

夜光LP4000→3700

 

「さらにフレムベル・ヘルドッグが戦闘破壊に成功したとき、デッキから守備力200以下の炎属性モンスターを特殊召喚できる。僕はラヴァル・ランスロッドを特殊召喚するよ。そしてバトル中に特殊召喚したため、ラヴァル・ランスロッドは攻撃することができる」

 フレムベル・ヘルドッグが遠吠えをあげると、岩のようにガチガチとした筋肉をもつ大男が綾小路の場に現れる。

 フレムベル・ヘルドッグは攻撃力1900と下級アタッカーとして優秀な攻撃力と戦闘破壊する必要性はあるもののカード消費なしで上級モンスターを召喚することが可能であり、しかも特殊召喚したモンスターは追撃が可能という優秀を通り越して常識外れななモンスターだ。

「ラヴァル・ランスロッドでダイレクトアタック!」

「速攻魔法、スケープゴート!このカードの効果で羊トークンを4体特殊召喚するぜ」

 ラヴァル・ランスロッドの槍は羊トークン1体を貫くが、夜光に大ダメージを与えることはできなかった。カイザーに渡り合えた相手に単純な手は通用しないことが分かり、綾小路は気を取り直し次の一手を打つことにした。

「攻撃を防がれたか、やるね。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:3枚

場:ヘルドッグ(ATK1900)

  ランスロッド(ATK2100)

魔法・罠:伏せ2枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン、ドロー!

奈落との契約を発動。手札のレベル7デビルゾアを生贄にガーランドルフを儀式召喚!

守備力200以下を採用することが多い【ラヴァル】なら効果てき面だ!」

「それは御免蒙るよ。速攻魔法、月の書を発動。ガーランドルフを裏側守備表示に変更する。これで君のガーランドルフの効果は不発に終わる」

 ガーランドルフがその力を生かす前に裏守備状態となってしまう。ガーランドルフの効果は儀式召喚に成功したタイミングのみであり、次のターンに反転召喚しても効果を使うことができない。

「俺の手はまだ尽きていない。思い出のブランコを発動。墓地のデビルゾアを復活させる」

(もし僕が最初のターンに月の書を伏せていなかったら負けていた……!?)

 夜光のとった行動に綾小路は冷や汗を流す。油断して月の書を伏せていなければ、ガーランドルフの効果で綾小路の場は一掃され、2体のモンスターのダイレクトアタックにより敗北していた。だが、現実は夜光の計算を狂わせ、デュエルの流れは綾小路が持っている。

「デビルゾア(ATK2600)でフレムベル・ヘルドッグ(ATK1900)に攻撃!デビル・エックス・シザース」

「僕は永続罠、バックファイアを発動。炎属性モンスターが破壊され墓地に送られたとき、相手に500ポイントのダメージを与える」

 デビルゾアの額からX字の光線がはなたれ、フレムベル・ヘルドッグを粉砕する。だが、フレムベル・ヘルドッグの残骸から炎が湧きでて夜光を襲う。

 

綾小路LP4000→3300

夜光LP3700→3200

 

 夜光は互いのライフを横並びに成功するもその表情はかたい。夜光の場には5体のモンスターがいるとはいえ、壁モンスターに過ぎない。しかもエースモンスターであるガーランドルフは守備表示となっている。次の綾小路のターンで戦闘破壊をされるのは目に見えている。

「デビルゾアを生贄にタン・ツイスターを守備表示で召喚する。ターンエンド」

 

手札:0枚

場:タン・ツイスター

  ガーランドルフ(裏守備)

  羊トークン3体

魔法・罠:なし

 

-綾小路のターン-

「僕のターン、ドロー!

君がいくら守備を固めようと意味がないことを教えてあげるよ。僕は超熱血球児を守備表示で召喚。

超熱血球児の効果発動。このカード以外の炎属性モンスターを墓地に送ることで相手に500ポイントのダメージを与える。ラヴァル・ランスロッドを墓地に送って500ポイントのダメージだ」

 ラヴァル・ランスロッドが炎の球になり、超熱血球児がバットでその球を打ち夜光に向けて放つ。

 

夜光LP3200→2700

 

「真炎の爆発を発動。墓地の守備力200以下の炎属性モンスターを可能な限り特殊召喚する。僕はラヴァルのマグマ砲兵、2体のラヴァル・ランスロッド、フレムベル・ヘルドッグを特殊召喚する。ラヴァルモンスターとフレムベル・ヘルドッグでタン・ツイスター以外に攻撃だ!」

 【ラヴァル】のキーカード、真炎の爆発が発動されてしまう。1枚のカードからコストなしに最大5体のモンスターを召喚することができ、しかも攻撃が可能という恐ろしい性能を持つ。そしてランスロッドが守備表示のガーランドルフを破壊し、ヘルドッグらが羊トークンを一掃する。

「タン・ツイスター以外だと……まさか、タン・ツイスターの効果を知っていたのか!?」

「まさか、座学の成績があまりよくない僕がそんなマイナーカード知っているわけないだろう。僕の勘がなんとなくそのモンスターに攻撃するのをやめろと言っているんだ」

 ドロー効果を持っているタン・ツイスターの効果をなんとなくという根拠もない理由で回避していたことに驚く。もし、何も知らずに攻撃すれば、夜光はドローカードを含んで手札3枚まで増やすことができた。3枚もあれば、現状を打破する手段はとれていたかもしれない。しかし、綾小路はテニスで鍛えられた自分の直感を信じ、これ以上の攻撃をするつもりは全くない。

「メインフェイズ2に超熱血球児の効果発動。4体の炎属性モンスターを墓地に送って、2000ポイントのダメージだ」

 

夜光LP2700→700

 

 4発の炎の球が放たれ、この攻撃を受けた夜光は吹き飛んでしまう。

「簡易融合を発動。ライフを1000払い、融合デッキから炎の剣士を特殊召喚する。そして超熱血球児の効果により、炎の剣士を墓地に送って、500ポイントのダメージを与える」

 

綾小路LP3300→2300

夜光LP700→200

 

「これで君はセーフティラインを超えた!」

 ライフを1000失ってまで夜光にダメージを与えたかったのは、夜光のライフをバックファイア1発で仕留めることができる範囲に持っていくためだ。これにより、夜光は綾小路のモンスターを攻撃することができない。仮に超熱血球児を残してターンを終了すれば、綾小路が召喚できる炎属性モンスターをドローした瞬間敗北が決まる。まさに絶体絶命の状況だ。

「僕はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:0枚

場:超熱血球児

魔法・罠:バックファイア

     伏せ1枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はタン・ツイスターを生贄にE-HEROマリシャス・エッジを召喚!マリシャスエッジは相手フィールド上にモンスターがいるとき、1体の生贄で召喚できるぜ」

 夜光の場に全身にニードルが生えている長身の男性が現れる。もし、十代がこの場に居れば『スゲーカッコイイ、ヒーロー」と目をキラキラ輝かせてみていただろう。

「E-HERO? 聞いたことがないな。E・HEROの間違いじゃないか?」

「E-HEROはHEROが闇の誘惑に負けて闇に堕ちた姿さ。

そして生贄召喚によって召喚されたタン・ツイスターがフィールドから墓地に送られたとき、カードを2枚ドローする効果を持っている。2枚ドロー!」

 タン・ツイスターのドロー効果に賭けた夜光はデッキからカードを2枚ドローする。そしてドローしたカードを見て口元が緩む。

「サイクロンを発動。俺は先輩の伏せカードを破壊するぜ」

「僕の魔法の筒が……!?」

 万が一のために伏せていた魔法の筒が破壊され、綾小路は急にデュエルの流れが変わったことを肌で感じる。

「マリシャスエッジで超熱血球児(DEF1000)に攻撃!そしてダメージステップ時に突進を発動。マリシャスエッジの攻撃力を700ポイント上昇させる(ATK2600→3300)」

「だが、いくらモンスターの攻撃力を上げてもバックファイアの効果で君のライフは0になる。この勝負、僕の勝ちだ!」

「そいつはどうかな。マリシャス・エッジは貫通効果を持っている。ニードル・バースト!」

「なんだって!? それじゃあバックファイアの効果が発動する前に僕のライフが0になるじゃないかぁぁぁぁ!!」

 マリシャスエッジがニードルを飛ばし、熱血球児を貫き綾小路をも貫く。

 

綾小路LP2300→0

 

「参った。僕の完敗だよ」

「そんなことはないぜ。俺も最後のドロー次第じゃあ負けていたからな」

「今度と言っても、僕も大会やら就活やらで忙しいからいつになるか分からないけど、その時は僕とデュエルしてくれないかな」

「ああ、そのときを楽しみしているぜ」

 綾小路はデュエルディスクをカバンの中に入れ、テニスラケットを取り出しテニスコートへと向かっていくのであった。どうやらブルーとイエローが言い争っているのを仲裁するためのようだ。

「俺の記憶が正しければ、冬休み前はE-HEROなんて使っていなかったはずだが……」

「冬休み中にデッキ構築を少し変えたんだよ。ずっと同じデッキで勝てるほどアカデミアは甘くないからな」

「なるほどな。それなら俺が持っているデータも更新しないといけないな」

 疑問点を解消した三沢と夜光はそれぞれ別のテニスコートに入り、自分の対戦相手とテニスを始めるのであった。




久しぶりの投稿になりました。
1カ月も放置していると何を書けばいいのやら…
サイコショッカーの回は飛ばすことにしました。ごめんね、サイコ流の人たち。
爽やか部長のデッキはチューナーとシンクロがない【ラヴァル】です。
シンクロが無ければ、良いバランスと思ったけど、ヘルドッグと爆発のポテンシャルがやばかった。
……どっちも本当は【フレムベル】のカードなんだけどなぁ。

次はようやくデッキを決めることができた神楽坂回の予定です。

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