遊戯王GX~Ritual Story   作:ゼクスユイ

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第10話 廃寮での戦い

 窓が割れ、コンクリート造りの床も何かの衝撃で破壊されたのか穴が開いていている建物内で9歳くらいの小さな子供たちがデュエルモンスターズで遊んでいる。そんな中、女の子が魔法カードを床に置いて宣言する。

「この子をリリースしてガーランドルフ召喚」

「あ~、俺のガーゴイルパワードが!」

「へへ、お兄ちゃんもこのカードの前に苦戦するよね。

ガーランドルフでダイレクトアタック」

「なーに、ここから逆転すればいいんだろう。

クリボーでダメージ無効な」

 子供たちがワイワイと遊んでいると鬼のような形相した大人の男性たちがドタバタと走ってくる。息も絶え絶えになりながらも大声で子供たちに話す。

「あいつらが来たぞ!みんな逃げ――」

 その瞬間、閃光が走り、ドォーンという爆発音が鳴り響きその場にいた人間を建物ごと吹き飛ばす。何が起こっているのかは理解する暇もなく、少年は意識を手放すのであった。

 女の子と遊んでいた少年が気が付いたときには、そこには炎が燃え黒煙が立ち上っている。少年が生きている人がいないかを探すためにふらつきながらも歩くと、先ほどまで一緒に遊んでいた女の子を見つける。女の子は足をガレキに挟まれ身動きをとることができない。

「おい、大丈夫か。待ってろ、すぐに助けて……」

「お兄ちゃん、これ…………」

 女の子が握りしめていたカードを夜行の前に差し出す。そのカードを受け取った少年が確認すると、女の子が大切にしていたガーランドルフだった。

「これ、お前のカードだろう!生きるんだ!!

絶対に助けてやるから……だがら…………」

 泣きじゃくりながら、必死でガレキをどかそうとする。しかし、少年の思いとは裏腹にガレキはびくともしない。あっちこっちで爆音が聞こえる中、少女は自分の死を悟ったのか自分を助けようとする少年の身体を細い手で自分の体に残っているエネルギーを振り絞り思いっきり押す。予想外の出来事に少年はバランスを崩し後ろに倒れこんでしまう。

「わ、たしの…………」

 頭上から落ちてきた大きなガレキによって少女の上半身は押しつぶされ、真っ赤な血が流れていく。少年の絶叫が真黒な空へと響き渡る。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 夜光は飛び起き、深呼吸をして呼吸を整える。慌てて時計を見るとまだ夜中であり、目の前には書きかけの報告書と冷めているコーヒーがあった。

「うっかり寝ちまったか。それにしても嫌なことを思い出させる夢だったな」

 先まで見ていた悪夢を振り払い、夜光は報告書を書こうとするが悪夢を見た影響か気分が乗らない。気分を変えるため、外を少し散歩しようとする。そんなとき、ケースからデッキを取り出し、デッキトップのガーランドルフを見る。

「…………お前たちの運命は変えてみせる」

 決意を込めてデッキを握りしめ、ケース内に入れた。

 

 夜の島内を歩き、そろそろイエロー寮に帰ろうかと思ったとき、森の中から誰かの話し声が聞こえる。不審に思った夜行は森の中へと静かに入っていくと、そこには十代とその後ろで何かにおびえている翔・隼人の三人が居た。

「お前ら、何しているんだ?」

「出たッス!」

「お化けなんだな!」

 お化けだと思った翔と隼人は俊敏な動きで十代の後ろに隠れる。懐中電灯を持っていた十代が光を向けて声をかけた主が夜光であることが分かると、二人は安心したのかヘナヘナと座り込む。

「夜行君、驚かさないでよ」

「わりぃ。ところでお前らは何をやっているんだ?」

「これから、廃寮で肝試しに行くんだ。夜行も来るか」

 夜光は校則違反である廃寮の探索に行くかどうか迷ったかが、「面白そうだ」と言って十代と一緒に肝試しすることになった。

 

 十代たちが草木が生い茂っている中、ポツリと佇んでいる廃寮に着くと門の前で明日香と星奈が立っていた。

「明日香たちも肝試しか」

「違うわよ。私は廃寮で行方不明になった兄さんの手がかりを探しているの。

もっとも廃寮には鍵がかかっているから、その近辺しか調べられないけどね」

 明日香の話によると数年前に数名の生徒が廃寮(当時は通常の寮として機能)で行方不明になる事件が起こったそうだ。それ以来、同じ事件が起こらぬように廃寮を関係者以外の立ち入りを禁止している。なお、行方不明の生徒は今でも捜索が続けられているが、廃寮にいたこと以外の手がかりが残されておらず、捜査は暗礁に乗り上げた形となっている。その行方不明者の名前は明日香の兄である天上院吹雪、その親友である藤原優介だ。

「私は怪しいところを撮影しているんだ」

 一方星奈はビデオカメラを片手に付近を撮影していた。「後で見返せば不審なモノや人が映る可能性がある」と明日香を説得して一緒に捜索しているらしい。

「とにかく中に入ってみようぜ」

「明日香も言っていただろう。廃寮は警備員がカギをかけて……」

「ラッキー。みろよ、鍵かかっていないぜ」

 十代が廃寮のドアを押すと何の抵抗もなくドアが開いていく。夜光は不審に思ったものの、廃寮の中に入るチャンスはこの機会を逃すと二度とないと思い、十代たちとともに真っ暗な廃寮の中へと入っていく。

 

 十代・明日香の懐中電灯を頼りに廃寮の中を探索していく。壊れたソファやぼろぼろに朽ち果てた置物やガラクタ、ウジャトの眼が書かれている壁画などがあった。十代がふと近くの壁に向かって光を当てると『FUBUKI 10JOIN』とサインが描かれている男子学生の写真が額縁に入れられていた。

「これ、兄さんの写真よ。

昔から天上院を10JOINと書く癖があったから」

「どんな癖だ。この写真だけ埃かぶってなくね」

「そういえばそうだな。案外、押したら秘密扉のスイッチになっているとか」

「そんなわかりやすい仕掛け……」

 ないだろうと夜行が言う前に、十代が写真を軽く推すと壁がくるっと回転し、地下へとつながる隠し階段が現れる。

「……あったな」

 夜行はあまりにも単純な仕掛けに軽い頭痛を感じた。

 

 「兄さんがいるかもしれない」その可能性を信じ、明日香たちは階段を下っていく。そんなとき、最後尾にいた翔は急に後ろから冷たい手で肩をつかまれる。最後尾なのだから、後ろには誰もいないにも拘わらずだ。あまりの恐怖に足が震え、声が出せなくなる。

「なーに、しているんだにゃー」

「出たッス!!!」

 謎の声に反応して翔は腹の中から大声で叫ぶ。翔の叫び声を聞いた十代・明日香が懐中電灯を向けるとそこにはオシリスレッド寮長であり錬金術を担当している大徳寺先生がいた。

「先生、なんでここに?」

「十代君、この先は廃寮を改造した私のラボだにゃ。

時々、危険な実験もするから生徒は立ち入り禁止になっているんだにゃ」

「行方不明事件の影響じゃないのかよ」

「最初は事件のほとぼりが冷めたら、再びこの寮に生徒を入れようとしたこともあったけど、あの事件が起こった寮で引き続き生徒を入れるのに反対したPTAがいたから、ここを廃寮にしたんだにゃ。

でも、寮を壊すにもお金がかかるから私のラボに改造できるようにこの学園の理事長に頼んだにゃ」

 夜光はそんなむちゃくちゃな案を理事長が承認したことに驚いたが、少し常識外れが多いこの学園では普通のことだろうと無理やり納得させる。

「こうしてここで会ったのも何かの縁。せっかくだから、ラボの一部を見せるにゃ」

「せっかくだから見ていこうぜ」

 十代の言葉に全員が賛成の声を上げる。

「あと撮影は禁止だにゃ」

「ちぇ、つまんないの」

 星奈はしぶしぶ撮影器具をバッグの中へとしまうのであった。

 

 大徳寺先生のラボに着くと、デュエルできる程度に広く赤・青・紫等さまざまな色の液体が入っているフラスコがガスバーナーで加熱されていたり、『小学生でもわかる錬金術』『錬金創造』『漫画で学ぶ錬金術』といった錬金術に関する本が置かれている本棚があった。しかし、何より目を引いたのは1枚の肖像画だ。その肖像画には白いロープを着た海馬瀬人にそっくりな人物が描かれていたからだ。

「大徳寺先生、この人は?」

「この人物はクリスチャン・セト・ローゼンクロイツ。薔薇戦争のときに活躍した錬金術師にゃ」

 大徳寺先生はまるで見てきたかのように肖像画の人物のことを語りだし、十代はうつらうつら眠たそうにする。そんなとき、つまらない話を適当に聞き流し、辺りをキョロキョロ見ていた翔が実験台の上に置かれているデッキケースを見つける。

「あっ、こんなところにデッキケースが」

「それは私のデッキにゃ!?」

 大徳寺先生が慌ててデッキケースを取りに行こうとするが、年の差か翔の方が早くデッキケースをとり、十代にパスする。

「ん? 先生、確かデュエルが苦手だからデュエルしないって言っていたよな」

(まずい。あのデッキは半年後に使う予定のデッキ。しかも、隠し部屋のメモも入っているんだにゃ!?

今ここで中身を全部見られたら、戦術・戦略がもろバレなうえ計画が台無し。

しかも、デッキを力づくで取り返しても十代君のことだから生徒の前で「先生もデュエルできるんだぜ」「みんな、先生とデュエルしてみようぜ」と言うのは目に見えて分かる。

こうなったら……)

 内心慌てまくりの大徳寺先生が出した結論は十代とのデュエルは避けられないので、ある程度の戦術がばれるのを覚悟して短期決戦を挑むことであった。

「デュエルするから、そのデッキケースを返してほしいにゃ。

私が勝ったら、この部屋であったことは誰にも言わないでほしいにゃ」

「良いぜ。さっそくデュエルだ」

 デッキケースを大徳寺先生に渡した十代はデュエルディスクを展開する。 

 

大徳寺LP4000

十代LP4000

 

-大徳寺のターン-

「私のターンだにゃ。ドロー」

「大徳寺先生のデュエルは私も初めて見るわ」

「どんなデッキを使うか見ものだね。カメラ使えたら撮影するのに」

 中等部から上がってきた明日香たちも大徳寺の未知の戦術にわくわくしながら、一手挙動を見逃さないとする。

「私は異次元の生還者を召喚」

 ぼろぼろの布きれをまとった金髪の男性が大徳寺の場に現れる。攻撃力1800と下級モンスターにしては高めの攻撃力を持つモンスターを相手にした十代はうれしそうな表情をする。

「異次元の裂け目を発動して、カードを1枚伏せる。

ターンエンドにゃ」

 

手札:3枚

場:異次元の生還者(ATK1800)

魔法・罠:異次元の裂け目

     伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は融合を発動。手札のエッジマンとザ・ヒートを融合!

来い、E・HEROノヴァマスター!」

 切り込み隊長のノヴァマスターが十代の場に現れる。

「ノヴァマスター(ATK2600)で異次元の生還者(ATK1800)に攻撃!ノヴァ・ストライク」

 下級アタッカー程度の攻撃力しかない生還者ではノヴァマスターに対抗できるわけでもなく破壊され、裂け目の中に吸い込まれていく。

 

大徳寺LP4000→3200

 

「ノヴァマスターがモンスターを破壊したことで1枚ドロー!

カードを1枚伏せてターンエンド」

「除外された異次元の生還者の効果により、エンドフェイズに帰還だにゃ」

 次元の裂け目から無事に生還する異次元の生還者。裂け目がある限り何度でも甦るモンスターとなってしまう。

 

手札:3枚

場:ノヴァマスター

魔法・罠:伏せ1枚

 

-大徳寺のターン-

「私のターン。ドローにゃ。

私は異次元の生還者を生贄に風帝ライザーを召喚!」

「何すか、あのモンスター!?」

「見たことがないんだなぁ」

 翔や隼人たちは見たことがないモンスターに驚く。その一方で星奈はカメラで撮影したくてうずうずしているが、先生のいいつけを守ろうと理性で無理やり抑えている。

「あれは帝モンスターと言って一部例外はあるが、生贄召喚時に様々な効果を発揮するカード群だ」

「ライザー以外にもいるの?」

「ああ。光と闇に2体、炎・水・地・風に1体だ」

 夜光は星奈らに帝モンスターの説明をする。三沢とデュエル対談することもあり、知識量はそれなりにある。

「夜行君は詳しいんだにゃ。

ライザーの生贄召喚時に発動する効果は自分・相手問わずフィールド上のカードをデッキトップに戻す効果。

私は十代君のノヴァマスターをデッキトップに……

と言っても融合モンスターは融合デッキに戻るにゃ」

「なっ!? ノヴァマスター!」

 ライザーが召喚されると風が吹き荒れ、ノヴァマスターが吹き飛ばされる。十代も吹き飛ばされないように必死に堪える。

 そして風がやみ、十代が目を開けるとそこには2体のライザーがいた。

「どうしてライザーが2体いるんだ!」

「生贄召喚に成功したことで手札のイリュージョン・スナッチを特殊召喚したんだにゃ。

この方法で召喚したスナッチは生贄召喚したモンスターの能力をコピーする」

 イリュージョン・スナッチはカード名こそ変わらないが、同種族・同属性・同レベルになる。しかも攻撃力は帝モンスターと同じ2400であるため、ほぼ同じカードと言えよう。

「イリュージョン・スナッチとライザーで十代君にダイレクトアタック!」

「リバースカード、クリボーを呼ぶ笛。

このカードの効果でデッキからハネクリボーを守備表示で召喚するぜ」

「イリュージョン・スナッチでハネクリボーに攻撃!」

 ライザーが周りの空気を圧縮して空気の球を生み出し、ハネクリボーに投げつけ破壊する。破壊されたハネクリボーのカードは裂け目に吸い込まれていく。

「ハネクリボーは破壊されて墓地に送られないと効果は発動しない。つまり、異次元の裂け目の効果でハネクリボーが除外された場合、戦闘ダメージを0にすることはできない。

ライザーでダイレクトアタック!」

 イリュージョン・スナッチと同様に空気を圧縮した球を十代に投げつける。コピーに過ぎなかったイリュージョン・スナッチとは違い、より巨大で圧倒的な力を誇る。

 

十代LP4000→1600

 

 十代は後方に吹き飛ぶが、すぐさま起き上がる。先のターンとは一転して圧倒的に不利な状況になっているが、十代の目からは闘志が消えていない。

「カードを1枚伏せてターンエンド。

そしてエンドフェイズに異次元の生還者はフィールドに戻ってくるんだにゃ」

 

手札:1枚

場:ライザー(ATK2400)

  スナッチ(ATK2400)

  生還者(ATK1800)

魔法・罠:伏せ2枚

     異次元の裂け目

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はバブルマンを召喚。

フィールド上にカードが存在しないときにバブルマンが召喚されたことにより、2枚ドロー!」

 十代はドローしたバブルマンをすぐさま使い、反撃の狼煙を上げる。そしてキーカードを引いたのか、十代は不敵な笑みを浮かべる。

「融合を発動。手札のボルテックと場のバブルマンを融合!

現れろ、E・HERO Theシャイニング!!

除外されているE・HEROは4体。よって、シャイニングの攻撃力は3800」

 シャイニングの攻撃力が大徳寺のどのモンスターよりも圧倒的に上回る。しかし、シャイニングがどのモンスターを攻撃しても大徳寺の場にはモンスターが残る結果となる。

「シャイニング(ATK3800)で異次元の生還者(ATK1800)に攻撃!」

 

大徳寺LP3200→1200

 

「大ダメージだけど、次のターンで……」

「おっと、俺のバトルフェイズはまだ終了していないぜ。

速攻魔法、次元誘爆を発動。

シャイニングを融合デッキに戻し、互いに除外されているモンスターを2体まで召喚する。

俺はE・HEROエッジマンとE・HEROボルテックを特殊召喚する」

「エッジマンは貫通効果を持っているから、守備力の低い異次元の生還者では攻撃表示で召喚するしかないにゃ」

 もし生還者を守備表示で出せば、エッジマンの攻撃で2400ポイントのダメージを受けることになり敗北が決まる。そのため、異次元の生還者を攻撃表示で出さざるを得ない。そして、この状況こそが十代の狙いでもあった。

「さらに相手がモンスターを特殊召喚したことで速攻魔法、終焉の地を発動。

このカードの効果でデッキからフィールド魔法を発動させる。

俺が発動させるのはヒーローたちにふさわしい舞台、摩天楼-スカイスクレイパー!」

 フィールドが高層ビルが並び立つ摩天楼へと変貌する。スカイスクレイパー下では攻撃力が低いE・HEROが攻撃するとき、攻撃力を1000ポイントも上昇させる。その破格の上昇値は下級のE・HEROで並みの上級モンスターを戦闘破壊できる数値だ。

「ボルテック(ATK1000→2000)で異次元の生還者(ATK1800→)に攻撃!ボルテック・サンダー」

 ボルテックが異次元の生還者に向かって電撃を放ち破壊する。

 

大徳寺LP1200→1000

 

「ボルテックが戦闘ダメージを与えたことで除外されているE・HEROを特殊召喚することができる。

俺はE・HEROザ・ヒートを特殊召喚する。

ザ・ヒートはフィールド上に存在するE・HERO×200ポイント攻撃力が上昇する。

俺のフィールドには3体のE・HEROがいるから、攻撃力は2200!」

 仲間の力を集めさらに燃えるザ・ヒート。その攻撃力は素のフレイムウィングマンを超える。

「ザ・ヒート(ATK2200→3200)でイリュージョンスナッチ(ATK2400)に攻撃!」

 ザ・ヒートがライザーの幻影たるイリュージョン・スナッチを燃やし、裂け目へと送る。

 

大徳寺LP1000→200

 

「エッジマン(ATK2600)でライザー(ATK2400)に攻撃!」

「この攻撃が通れば十代の勝ちよ」

 明日香たちが十代の勝利を言う。そしてエッジマンがライザーを切り裂き、爆炎によって大徳寺の姿が見えなくなる。

 

大徳寺LP200→100

 

 煙が晴れると致命的なダメージを受けたと思われていた大徳寺が今なお立っていた。しかも、0ではなくわずか100ポイントではあるが、いまだにライフポイントが残っている。

「なんで先生のライフが残っているんだ?」

「私は受けるダメージを半分にするダメージダイエットを発動した。

伏せカードを忘れて負けるところだったにゃ」

(直前のターンに伏せていた罠カードを忘れるはずがない。ということは十代の本気を見るためにわざと使わなかったのか?)

 大徳寺の嘘くさい演技に夜光はこの時初めて大徳寺が一体何を考えているのかを気にした。そんな夜行を気にせずに十代たちはデュエルを続行していく。

「あともう少しだったんだけどなぁ。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

「エンドフェイズに異次元の生還者は戻ってくるにゃ」

 

手札:0枚

場:エッジマン(AT2600)

  ザ・ヒート(ATK2200)

  ボルテック(ATK1000)

魔法・罠:伏せ1枚

フィールド:摩天楼

 

-大徳寺のターン-

「私のターン。ドロー!」

 大徳寺は生徒たちの眼をごまかすため、ドローしたカードを手札シャッフルした後、1枚のカードを手札から取り出す。

「異次元の生還者を生贄に2体目の風帝ライザーを召喚。

生贄召喚に成功したライザーの効果でエッジマンをデッキトップに戻す」

 エッジマンが吹き飛ばされ十代のデッキトップに戻される。

「ライザー(ATK2400)でボルテック(ATK1000)に攻撃!」

「罠発動、聖なるバリア-ミラーフォース-!

これでライザーを破壊するぜ」

「そうはさせないんだにゃ。トラップ・スタンを発動して、ミラフォを無効だにゃ」

 ミラーフォースのカードに電撃が走り、使用不能の状態に陥る。その隙にライザーが空気の球をボルテックに向けて放ち、破壊する。

 

十代LP1600→200

 

(次の俺のターン、ザ・ヒートでライザーに攻撃すれば、ザ・ヒートの攻撃力はスカイスクレイパーの効果で2800になってライザーの攻撃力を上回る。そうすれば、残り100ポイントしかない先生のライフは0になる)

 十代はこのターンをしのぎ切ることができ、大徳寺に攻撃を防ぐ手段がなければ、次に引くカードがエッジマンであろうと勝利が確定する。そんな十代の心の内を読んだのか大徳寺は頭を横に振る。

「十代君、君のターンはもう回ってこない。

私は速攻魔法、スワローズ・ネストを発動!鳥獣族モンスターを生贄にささげることでデッキから同レベルの鳥獣族モンスターを特殊召喚できる。

風帝ライザーを生贄にささげ、デッキから3体目の風帝ライザーを特殊召喚」

 バトルフェイズ中に新たなモンスターを呼び出したことにより、3体目のライザーには攻撃の権利が残っている。そして伏せカードも手札・墓地誘発のカードもない十代には大徳寺の攻撃を防ぐ手段はない。

「ライザー(ATK2400)でザ・ヒート(ATK1800)に攻撃!」

 ライザーの無情な攻撃により、十代のライフは尽きるのであった。

 

十代LP200→0

 

「負けたけど、楽しいデュエルだったぜ。ガッチャ」

 ライザーの攻撃を受けて仰向けになった十代がむくっと起き上がり、いつもの決めポーズをする。十代からすれば、勝ち負けよりも楽しいデュエルができたかどうかが重要なのだろう。

「いや~もう少しで負けるところだったにゃ」

(デュエルが苦手という名目上、下手に圧倒せずに十代にデュエルするのは難しいものだ。

デッキの戦略はばれたが、口封じもでき、もう1体の帝モンスターを温存できたのは大きい)

 本心とは違い、大徳寺はあと一歩のところで負けた演技をしていた。

 最後の決め手となったスワローズ・ネストは先行2ターン目の時点で持っていた。つまり、1killが可能であったということだ。しかし、オベリスク・ブルーの生徒すらも倒す十代を1killしたという事実がばれたら、デュエルが苦手という設定がガラガラと崩れてしまう。

 そのため、十代に1ターンの猶予を与えそのターンで負けるのであれば、それでよし。決着がつかないのであれば、自分の手で引導を渡そうと決めていた。ギリギリの逆転劇ならば、運の要素が大きいと錯覚するからだ。

 そんなことは露ほど知らない十代は「先生は強かった」と周りにいる翔たちに話していた。そして大徳寺派咳払いし、十代に話しかける。

「1限目は私の授業にゃ。早く寮に帰って遅刻しないように。

立ち入り禁止に入ったことは私の授業の補習にしておくから、罰則は心配することないにゃ」

「ラッキー。肝試しに、デュエルもできて、そのうえ罰則なしだ」

「十代君の場合、次の試験で良い点を取らないと本当の補習が待っているんだにゃ」

「そりゃあないぜ」

 十代らしいオチで、周りがどっと笑い出す。そして、十代たちはそれぞれの寮へと帰っていくのであった。

 

 数日後、クロノスのもとに1通の手紙が届いていた。その手紙にはこう書かれていた。

『依頼の件ですが、ターゲットが単独行動する機会がなく、デュエルするタイミングを逃しました。

いただいたお金は指定の口座に全額返金させていただきます。

タイタン』

「どういうことなノーネ!?」

 クロノスは自称:闇のデュエリストに頼んで自分を1killした十代とデュエルさせ、廃寮の立ち入り+危険人物との取引で退学させようとした。しかし、十代も明日香たちも単独行動しなかったため、失敗するリスクを踏まえた結果、タイタンはデュエルしなかったようだ。

 これ以上の失敗を重ねていくと校長にばれる可能性があるクロノスは『十代退学作戦』を断念するのであった。




GX時代に最強のデッキとうたわれた【次元帝】降臨。
さすがの十代もこの時点ではアム……大徳寺には勝てません。

次の更新ですが、4月から社会人になるため、2カ月以上かかる可能性があります。
ゆっくりとお待ちください。

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