真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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え……大変遅くなって申し訳ありません!!実習やらなんやらで忙しすぎて、意欲の消失&全く執筆する事が出来ませんでしたが、どうにか戻ってこれました。
やっぱり、他の作者さんの作品を読むだけでも、元気もらえますね!!
そんでやっぱり文章を書くの下手になってる気がする……ヤバイ
一応、どれだけ遅くなっても完結まで書こうという意欲はあります

色々と大変な状況ですが、皆さんも気をつけてください












見事。そう評するほかありませんね。―――――クラウディオ・ネエロ


当たり前の現実

息つく暇もない悠介の攻撃。徐々に己の意識が霞んでいくのが分かる。今までの人生でここまで追い込まれたことは一度もない。

故に湧き上がるのは…

 

――――――――ああ、今のお前になら…

 

己を負かさんとする相楽悠介という男に対する賞賛の言葉を口にしようとした瞬間

 

『…戦えただけで、本当に満足か?』

 

何処からともなくそんな声が聞こえた。

 

――――誰だお前は

 

『私が誰かなんでどうでもいいだろ。それより本当に満足なのか』

 

――――ああ、満足だよ。ここまで戦えたんだ(・・・・・)。これ以上に望む事なんてないだろ…

 

『―――――――――――』

 

――――それに私を倒したことで悠介が脚光を浴びるんだぞ。これで終わりじゃない。まだこれからも戦える。なら、今はこれ以上ないだろ

 

湧き上がる賞賛を口にする。そうだこれで終わりではない。まだ次はある(・・・・)のだ。ならば、悔しくとも次に生かせばいい。

今あるのは、普通の敗北からでは得られないであろう爽快感すらある。

だから眠らせろ。そんな思いと共に、告げていった言葉に声は沈黙する。

その思いを全て聞いた上で声の主は…

 

『嘘だな』

 

その賞賛をくだらないとあざ笑うように切り捨てる。余りの言葉に百代は吠える。何がおかしいのだと。常人ならば聞くだけで恐怖に気絶するほど憤怒の籠もった言葉だが声の主は全く動じない。

 

『いい加減に思い出せよ、川神百代。お前が求めていたのは、そんな高尚な物(・・・・)じゃないだろう』

 

――――何を…!!

 

むしろ百代を煽るような言葉を紡ぐ。まるで己の神経を逆なでするような言葉に苛つきを覚えてしまう。

 

――――悠介は私に勝ったんぞ!!そんなあいつと、これからも戦える!!これ以上ないだろう!!

 

これからもあの勝負をいつでも行う事が出来る。悠介は今までの相手と違って柵がない。あの性格なら獰猛な笑みと共に応えてくれるだろう。

これからを考えれば楽しみで仕方がない。

その筈なのに…

 

『だから?』

 

声の主はそれさえもあざ笑う。百代が思い浮かべる楽しい未来を意味のないものだと声音が告げている。何処までも自分を馬鹿にしたかの様な言葉に百代の我慢の限界を迎える。

 

――――いい加減に…っ!!

 

しろ!!と怒鳴ろうとした瞬間、ビシっ!と何かが胸に突きつけられた感覚を覚え、声を止めてしまう。

その反応に声の主は満足げな雰囲気を感じさせながら言葉を続ける。

 

『はあ。長らくぬるま湯に浸かっていたせいか、本能まで曇ったか』

 

――――何を…

 

『思い出せよ、川神百代。お前は何で武術をやっているんだ?』

 

――――それは、私が戦うのが好き(・・・・・・)だから…

 

何処か哀れみながらの問いに、川神で暮らす者ならば誰もが知るであろう事を告げるが…

 

『違う』

 

――――ッ!!??

 

今までのあざ笑う声音とは違い、明確な憤怒の籠もった言葉に気圧される。

 

『全然違うぞ!!川神百代。何度も言うぞ、思い出せ。お前の原典を』

 

――――原典だと…

 

『そうだ。思い出せ。お前が初めて武術にのめり込んだ、あの日(・・・)を!!』

 

謎の声がそう告げた瞬間、暗黒の景色が変わる。そこは自分が知る川神院より少し新しいが、それ以外に何も代わり映えはしていない。

 

『違う。よく見ろ』

 

――――ッ!!あれは、私!!??

 

声がした方を向けば、そこには幼い自分がいる。余りに異常な状況に動転するが…

 

『これを見ても思い出さないなら、お前はもう終わりだ』

 

それを上回るほどの衝撃の言葉を告げられる。どういう意味だと問い詰めようとするが、意識が幼い自分からそらすことが出来ない。

 

『よし!!今日こそ勝つぞ』

 

幼い自分は、今では信じられないほどに汗にまみれ泥を被りながら、ある場所に向かって走っている。

場所は訓練場。今も多くの修行僧達が修行に明け暮れている。その中にいる一人の元に幼い私は迷うことなく近づき…

 

『■■■さん!!勝負だ!!勝負!!今日こそ私が勝つ!!』

 

血気盛んに勝負を持ちかける。勝負を持ちかけられた人物は、またかという表情を見せながらも幼い私の勝負を受けている。

そこまで来て幼い自分が挑みかかっている人物の正体を思い出す。

 

――――あの人は…

 

『そうだ。お前にとって初めて壁と成って立ちはだかった男だ』

 

そうだ。幼い頃から才があり強かったと言っても、昔は一定数勝てない相手は居たのだ。今戦っているのは、自分がジジイの差し金で初めて身内以外に負けた相手だ。

確か初めて負けた日は、悔しくて悔しくて眠れなくて、我武者羅に修行して眠るように気絶した筈だ。

 

――――いや、どうして今、そんなことを!!そもそもあの人は随分と前に川神院を卒院したはずだ!!私には何の関係もないはずだ!!

 

意味のない事だと脇散らすが…

 

『見ろ、お前が勝ったぞ』

 

その言葉に再び意識が釘付けになってしまう。そこには気絶し地に伏す修行僧と、疲労困憊ながらも瞳だけは歓喜に染まっている幼い自分の姿。

 

ドクッ!

 

その姿を見ているだけで、何かが湧き上がってくる。だが、その正体が分からない。もどかしい気持ちとイライラが混在していると…

 

『何時からだ…敵の攻撃を待つ様になったのは』

 

――――それは…私が先に攻撃したら直ぐに終わってしまうからで…

 

『何時からだ…敵の攻撃を受けるようになったのは』

 

――――そっちの方が少しでもリスクになったからで…

 

まるでたどり着けない壁を少しずつ崩していくように、声が問いかけてくる。その問いに答えているようで答えていない。全ては言い訳だ。だが、それを一つ口にするたびに、何かが見えてくる。

 

『何時からだ…勝利に何も感じなくなったのは』

 

――――だってそれは、私が強すぎるから…

 

『何時からだ…勝負中に別のことを考えるようになったのは』

 

――――集中できるほどの敵が居なかったじゃないか!!

 

口からこぼれるのは最早答えでなくただの不満だ。しかしその不満を聞くたびに謎の声の主は嬉しそうな雰囲気を見せる。

そして…

 

『何時からだ…戦えただけ(・・・・・)で満足し始めたのは』

 

――――っ

 

決定的な問いが投げかけられる。答えられない。だってそれは、今し方まで自分が本心から望んでいた(・・・・・)もので…

全てがこんがらがる。

そうだ。何時からだろう、戦えた。その事実だけで満足し始めたのは…違う!!

私が欲したモノはもっと別のモノで。そう丁度、今目の前で幼い私が勝ち取ったモノで…

 

――――――………

 

『そろそろもう一度聞こうか。なあ、川神百代(わたし)。本当に戦えただけで満足か?』

 

そんなモノ決まっている!!

 

◆◇◆◇

 

観客達が沸き立つ。今まで誰にも破られる事のなかった武神・川神百代の不敗神話が崩れる瞬間が訪れるかも知れない。興奮が、驚愕が、怒りが、祈りが渦巻く中心にいる悠介は…

 

――――いける!!

 

確かな手応えを感じていた。拳から感じるのは、敵である川神百代の体から力が抜けていく感覚。

だからこそ…

 

――――決める!!

 

油断も慢心もなく、勝負を決める事を決める。勝負を決めるのに焦っているのではない。川神百代という存在を最大限に警戒しているからこそ、流れが自分に最大限向いている今倒すのだ。

その決意と共に一歩深く踏み込んだ瞬間

 

ドガっ!!

 

「っ――――!!」

 

激しく脳を揺らすヘッドバットが直撃する。そんの一瞬の油断もなく警戒していたはずなのに、それをいとも容易く括り抜けて一撃をたたき込まれた。

その事実に悠介は驚愕、否、歓喜を覚える。

前を向けばそこには…

 

―――――そうだ…私が欲しかったのそれは…悠介お前のような真の(つわもの)からの勝利!!「おらぁあ!!」

 

外聞も関係ないと吠える百代の姿。川神百代を知る誰もが驚愕する。それほどまでの変化。その中で鉄心を含む一部の実力者達は…

 

―――殻を破りおったか

 

今武神と呼ばれもてはやされた少女が進化した事を静かに悟る。そしてそれは敵として立っている悠介も感じる。

顔は泥や血で汚れているが、その瞳はギラギラと輝き獰猛な笑みを見せてる。それは今まで見せてきた川神百代の表情とどれも違う。しかし肌に突き刺す威圧感は今までと文字通り桁が違う。

ああ全てが沸き立つ。だからこそ…

 

――――そうだ。弱いお前に勝っても意味がねぇ。俺は強いお前に勝ちに来た!!「上等!!」

 

全てを糧に挑みかかる様に吠える。それだけで最早二人に言葉は不要。同時、二人は地面を蹴り肉薄する。互いに繰り出す必殺の拳が、ドン!と鈍い衝撃が体を貫く。

ゴフっと口から吐血するが、そんな事関係ないとばかりに両者は、全く同じタイミングで拳を打ち込む。

そこから繰り返されるのは、互いの拳が肉体を貫き続ける鈍い音と…

 

お"お"お"おおおおおぉぉぉぉおぉぉぉっぉぉぉぉおおおおおお

 

両者の叫びのみが会場に響く。まるで命を燃やす様に戦う二人の姿に観客はただ言葉もなく、闘技場で戦う二人を見つめる。ただ誰もが魅了される。

しかしそんなことは二人には関係ない。ただ己が欲する勝利が為だけに二人は拳を振るう。

勝利を求め戦う中、微かに両者の中に湧き上がるのは、純粋な歓喜。

 

悠介は、ただ嬉しかった。今まで何処か手を抜かれていた相手に全力を出させている。その事実がただ嬉しいと思う。そしてその強さが、改めて実感したからこそ、越えたいと願う。

 

百代は、誇らしかった。幼いときから知る存在。実力はありながらも、決して日の目を見る事がなかった存在が、自分を追い詰めることで賞賛を受ける。その事実が何処か誇らしく思う。そしてその強さを肌で感じたからこそ、勝ちたいと願う。

 

両者に湧き上がった歓喜は、直ぐに闘志の波に呑まれる。一撃を繰り出せば、それに返す様に繰り出される一撃。勝つという殺気の最中に刹那的に湧き上がるのは、永久にこの時間を味わいたいという欲求、こんな強敵と戦っているという誉れ、未だに敵が存在しているという事実に対する憤りなど数多の感情が、殺意を燃焼させる燃料となる。

それはその場にいる全ての人間が永劫と思える時間の勝負だと体感するが、実際の時間では僅か数分の出来事。

そして終わりは、何の前触れもなく突然訪れた。

 

「ぁ――――」

 

全身の力が抜ける。目の前に迫る拳が見えているのに反応することが出来ない。隙だらけの体に渾身の一撃がたたき込まれる。最早、苦悶の声すら上げることすら出来ない。

黛との勝負の時のように、不屈の叫びすら湧き上がらない。

文字通り、相楽悠介の肉体は精神は限界を迎えた。

川神百代と相楽悠介の勝負は、互いに互いの限界を呼び起こす勝負だ。一撃を食らうたびに、その重さに触発されるようにそれ以上の一撃で返す。

故にこの状況は何ら不思議ではない。ただ先に悠介が応える事が出来なくなっただけの話。

それは些細な不幸が生んだ悲劇ではない。そうこれは、武神(かみ)凡人(ひと)は勝つことは出来ない。そんな武術家(かれら)の当たり前の現実。

そうして相楽悠介は、静かに闘技場へと倒れた。




フン。此処までか、赤子。――――ヒューム・ヘルシング

決着まであと僅かです
最後までお付き合いの程よろしくお願いします
次の更新についても、長い目で見ていただければ助かります…はい

――――――次回【相楽悠介の原典】

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