真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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お待たせしました!!
少し遅くなりましたが、どうにか今年中に更新できました!!今回が今年最後の更新となります、ご了承よろしくお願います。

今回の話はある意味で賛否両論かもしれませんが、自分的には悠介らしくてこれが良いかと思います。

燕との最終戦!!
果たして、結末は?
そしてついに…‥


悠介と若獅子タッグマッチトーナメント 決勝戦VS知性チーム 惡と智 その2

雰囲気が変わる。今までも鬼気迫るものがあったが、今発せられるそれは比べるにもおこがましい程に別格だとわかる。

一瞬呑まれかけた燕だが、即座に気を持ち直して悠介を見据える。

 

――――今の状態の悠介君に先手を譲るのは下策。今、引き込まれた流れをもう一度私の元に持ってくる。その為にも…「先手―――必勝!!」

 

迷いは刹那。即座に燕は考えをまとめ、行動を起こす。鋭く地面を蹴り、一気に悠介との距離を詰める。

 

――――悠介君ならあえて(・・・)一撃は必ず受けてカウンターを仕掛けてくる。なら、電撃の一撃でより毒を回すよん。

 

加速した勢いをのせて放つ掌打を打ち込まんとした瞬間…

 

『え?』

 

『何?』

 

そう零したのは一体だれか。燕だったかもしれないし、大和か天衣だっかもしれない。それ程までにその行動(・・・・)は周りを仰天させた。

 

「あの悠介が攻撃を避けた(・・・)――――っ!!」

 

燕が放ちしその一撃を悠介は攻めるために躱すではなく、ただ身を護る(・・・・・・)ために上半身を逸らすことで回避する。

それは今までの悠介を知る者たちだからこその驚愕。どんな時でもいかなる状況下でも身を引かずに回避すらも攻めの起点としていた悠介が、逃げるように回避する。

その事実に会場が驚愕に包まれる。

だがその中において―――――

 

「いや――――」

 

「これは―――」

 

「————違うネ」

 

「逃げてねぇ」

 

悠介(あやつ)の――――」

 

――――(こころ)』は一切退いてない

 

悠介の師たちである四人は、その行動の意味を理解する。一瞬自身の想定を大きく外れた行動に燕の思考が動きが止まる。その停滞の合間に悠介は、ひねった上半身を戻し、状態を元に戻すと同時に腰を落とし、拳を握る。

 

「しまっ――――」――――でも悠介君の体力は限界のはず…威力は

 

川神流(・・・)————」

 

「えっ―――」

 

――――蠍撃(さそりう)

 

放たれたのは研鑽し生み出した相楽悠介の拳ではなく、長い歴史が生み出した川神流の拳。再び突かれた意表の前に、燕は回避が出来ずに直撃を受けてしまう。

内臓から響く一撃に燕の表情が、大きくゆがむ。

 

「リ『リカバリー』」

 

即座に自身の体の状態を判断した燕が平蜘蛛を使い(ダメージ)を癒す。が…

 

「へぇ。傷も癒せるのかい。あの武器よく考えられてやがるが…判断を間違えたな、嬢ちゃん。そこからのあいつは――――」

 

離れた場で戦況を見ていた釈迦堂は、燕の判断の速さに感心するも、悪人と呼ばれる彼からは信じられないほど優し気な笑みを浮かべる。

 

「休む間もなく攻めてくるぜ」

 

釈迦堂は次の未来を断言しながらも、かつての映像を思い起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平蜘蛛の機能の一つである回復機能である『リカバリー』。万全でないが回数制限はあれど傷のダメージを回復させることが出来るのは、戦場においてどれだけ有利であるかは、瞬間回復という技をもって武神に上り詰めた川神百代が証明している。

だからこそ久信は、その力を平蜘蛛に取り付けた。

数ある手札の中から最善手を選び抜く判断力を持つ燕。その燕の選択は、悠介を知るからこその判断。後方に下がりながら傷を癒し、対処する。

しかし今の悠介は―――

 

「川神流――――蛇屠(へびほふ)り」

 

燕の知る悠介とは違う。蠍撃ちを放つと同時に腰を落としてからの加速。一拍開けることで燕との拍子(タイミング)を外したうえで加速する。放たれるのは、飛び上がり地面に着地せんとする軸足へと打つ足払いに近い一撃。

 

「ッ――――!!??」

 

出鼻を大きく崩された燕の体勢は隙だらけのモノと化す。

 

――――拙いッ!!明らかに悠介君の動きの戦略(パターン)が変化してる。一度体勢を立て直さないと押し切られる…!!

 

――――隠れた才能が目覚めるとか、殻を戦いの中で破るとか、そんな都合のいい幻想(ゆめ)なんて持つなッ!!そんな才能(モノ)が無いことは、あの時に教えられた(・・・・・)だろうがっ!!

川神(ここ)に来る前に、誓っただろう!!俺みたいな才能ねぇ奴は、今あるもの(・・・・)で挑まねぇと行かねぇんだ!!

 

「川神流————()(けん)

 

「くぅ―――っ!!」

 

その隙を活用し力をためて繰り出された回し蹴りを燕は平蜘蛛を盾にすることで防ぐが、勢いに負けて数メートル後退する。

 

「燕先輩!!」

 

――――落ち着けっ私!!今の悠介君の動きは、明らかに川神流の動き。その川神流(うごき)ならモモちゃんとの組手で手の内は知れてる。落ち着いて対応すれば…

 

後退し生まれた距離を前に悠介は、膝を曲げて宙へと前へと跳ぶ。

 

「川神流――――」

 

『そういえば相楽の奴もまた、川神流の門下生であったな』

 

『ああ。意外かもしれないが、当初のあいつは今からでは想像もできないほどに、基礎に忠実で手堅い奴だったよ』

 

――――私の見てない(知らない)悠介の武術(悠介君)

 

その光景に石田は驚きを、百代はどこか懐かしむ声音で告げる。そしてその悠介の武術を誰よりも実戦で知る男は…

 

「たっくよぉ…何年経とうが何度も言ってた癖が抜けてねぇな。それに構えから、何を出すかバレバレだ。チャンスだと思えば攻め気が先行しすぎるのも変わらしねぇ…‥…全く―――――行け、何度弾かれ様が、挑むのを辞めない。それがお前の川神流だろうが――――」

 

(てん)(つち)ッ!!」

 

――――負けたら、承知しねぇぞ

 

その言葉を釈迦堂が飲み込むと同時、落下の勢いをのせた踵落としが燕に直撃する。

その一撃の重さに再び燕は後方に跳ぶことで勢いとダメージを減らす。

 

「チィ。決めきれなかったか」

 

「あはは…これはちょっとまずいかも」

 

間合いが開き、互いに敵を見つめる中、二人は次の手を高速で思考し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一息の休息。駆けだしたのは、ほぼ同時。速度でいえば、ダメージ量が僅かに軽い燕が速い。

 

――――悠介君の動きが川神流の動きなら、そうと前提で動けばいい

 

燕が新たに戦略を立て行動を起こそうとした刹那、ダン!と重力落下の勢いを加速する勢いに変えて、僅かな間合いの開きと速度の差を埋め下から一気に燕の顔面目掛けて上がってくる。

 

「っ――――」

 

バゴン!と悠介のヘットバットが燕の額に直撃し、燕の上半身が大きく崩れる。

 

――――これは……相楽悠介の武術(悠介君の動き)

 

額に襲い来る衝撃に顔を歪ませながらも、今の動きが川神流の動きでないことを理解する燕。故に

 

――――これは…やばい(・・・)!!

 

燕がそう判断した瞬間、悠介の拳が握られる。そして悠介から放たれる拳は、川神流のモノではなく悠介が研鑽して得た一撃。

 

「オラぁ!!」

 

「ぐうぅぅ――――っ!!」

 

襲い来る拳の衝撃に燕は改めて悠介の拳の危険を悟る。迷いはなく、即座に『リカバリー』を起動させて、ダメージを癒す。それと同時に地面に『ポイズン』を仕掛ける。が…

 

「てめぇが触れた地面の上を走るほど、間抜けじゃねぇよっ!!」

 

軋む身体に鞭を打ちながら悠介は燕を追撃せんと駆ける。だがそれは燕の策略。罠をあえて見切らせることで、最短距離を一つへと絞り込ませた。

 

――――まあ、悠介君の事だから「わかったうえで来てるよね…」

 

 

「たりめぇだ――――っ!!」

 

燕の小さく呟かれた発言に反応した悠介が吠える。その僅か数秒後、悠介と燕の二人の間合いが重なり合う。

 

「はあぁぁぁぁぁあああああああああっ―――――!!」

 

「おらぁぁぁぁぁああああああああああ―――――っ!!」

 

互いに繰り出される拳がぶつかり合ったり、相手を貫く。ダメージは確実に身体を蝕む。それでも二人は攻撃の手を緩めない。緩めたが最後、押し込まれるのは目に見えているからだ。

 

『打ち合いが互角となっている。これは――――』

 

『ああ、悠介の奴が燕の対応を視てから(・・・・)型を変えているんだ。先ほどまでの燕の動きは対悠介様の動き。悠介の動きに対しては隙は無いが…裏を返せば、悠介以外の動き(・・・・・・・)からすれば隙があるんだ』

 

『その隙を川神流の動きで突いているわけか。だが、だとすれば末恐ろしいな。何気なく繰り広げられている打ち合いは、今の話が前提で繰り広げられているのだからな』

 

闘技場で繰り広げられている拳の打ち合いを解説する二人の言葉に観客たちは、ただただ驚愕を隠せない。その中で石田と百代は悠介の体力の無尽蔵さにひたすら感嘆する。

 

――――かなりの数を打ち込んで、もう身体は限界のはずなのに…‥どうして倒れないの。タフさは破ったはずなのに…

 

目の前の相手から視線を思考を逸らすことがどれだけ危険な事か分かっているが、どうしてもその考えが頭をよぎる。

襲い来る拳への対処を間違えば、それが隙となり叩き込まれ押し込まれてしまう。だからこそ、悠介の動きを最大限に見極めて攻撃を仕掛けねばいかないのだが、悠介はそんな事お構いなしに拳を放ってくるが、自暴自棄で攻撃しているのではなく、しっかりと二つの戦術を組み合わせたうえで、規則性なく打ち込んでくる。

そうなるとやはり、彼の拍子(タイミング)を見抜く能力には感嘆しか上がらない。

 

――――でも負けられないんだ!!私の為にっ!!

 

「はぁぁぁああああッ!!」

 

「チィ」

 

今まで打ち込まれてきた電撃の痺れとダメージの重なり合い、悠介の動きを停止させる。その隙に叩き込まれる連撃に悠介はこらえることが出来ずに吹き飛ばされる。

 

――――意識を保てッ!!痛みから逃げるな!!逃げたら、終わる終わるぞ(まけるぞ)ッ!!

 

吹き飛ばされた体勢を整えながら、悠介は歯を食いしばりながら内心で吠える。いくら歴史の中で最適化されてきた川神流の動きで体力の消費を抑え、鍋島との修行の成果があろうとも、度重なる連戦とダメージは最早ごまかしが効かない程に悠介の体力を蝕んでいた。

だがそれはある種で燕も同じ。気づいているかはわからないが、現状では肉体的ダメージよりも精神的なダメージ(・・・・・・・・)の方からくる疲労により、燕も限界に近い。

 

――――これ以上、長引くのは不利すぎる。ならもう、切り札(・・・)を切るしかない

 

――――打てて後一発…‥‥もうあれ(・・)しかねぇな。

 

二人の決意が同時にまとまる。悠介はスゥーと深く息を吸い、意識を整える。そして燕は‥

 

「いくよん…『フィニッシュ』」

 

「あ?」

 

それを発動した瞬間、轟音と土煙が燕を覆いつくす。

 

「ちょっ!!つ、燕ちゃん!!」

 

「何をッ!!??」

 

「これはこれは…」

 

「あの赤子め」

 

それを知る面々は、驚愕を表情と声を見せる。それほどまでの事態。土煙が晴れた先の姿を悠介は、ただ見つめる。

 

「それが平蜘蛛の真の姿か」

 

「うん。そうだよ…これが――――」

 

――――決戦兵器・平蜘蛛(けっせんへいき・ひらぐも)

 

それは文字が指し示すように八本の機械の足を持ち、平べったくそして燕の持つ籠手と完全に一体化している。まさに異形としか言えない武器。

その姿と圧は、並のモノではない。

 

『これは――――』

 

『下手をしたら、私以上の……燕の奴、あんなものを隠していたのか』

 

その姿に開設の二人を含め会場が驚愕で包まれる。

その中で燕は…

 

――――まあそうなるよね。でも後悔はないよん。きっと使わないと勝てないから…

 

会場のごく一部から向けられる気配に対して、燕は真っ直ぐな瞳をもって返す。交差は一瞬の事、その気配は納得を見せたのか収まりを見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燕の行動に最も驚愕を露わにした九鬼家のメンバー。その中で紋白は驚愕以上の表情を見せていたが…

 

 

「ふん、赤子風情が一人前のようなことを…」

 

「青春ですね~。ですが松永様ならば、何かまだ隠している手(・・・・・・)があるのでしょう。それこそ武神にすら通ずる手(・・・・・・・・・)が。だから、黙って見届けましょうか。紋白様、ヒューム」

 

「ふん」

 

「そうだな。あの冷静な松永の事だ。…‥‥………今はクラウディオの言葉と、我が知る松永を信じるとしようぞ」

 

クラウディオの言葉に動揺が収まり、僅かに余裕が出来てくる。

 

「はい」――――しかし相楽様がここまでやるとはいささか……いえ、かなり想定外ですね

 

クラウディオは主が落ち着いたことを確認すると内心で悠介の評価を改める。そして横目で無言となっている同僚を見る。

肝心のヒュームは視線に気が付きながらも、ただじっと闘技場を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その圧は紛れもなく悠介の身体を硬直させ、思考を一瞬空白とした。そしてその一瞬の空白を意突く様に、平蜘蛛の起動音が会場を大きく包み込む。

 

「行っくよ―――――――――んっ!!!」

 

「――――――――っ!!!??」

 

間は一瞬、自分の身体を考えれば回避は不可能。されど、生半可な一撃などあの一撃の前では無に等しい。とれる選択肢は一つ。問題は初めて実戦での状況下という事のみ。

 

――――乗り越えろッ!!それしかねぇだろっ!!「天衣—————っ!!」

 

「悠介っ!!」

 

その声に意図を察した天衣が動く。一瞬燕は、横やりが頭を過るがそれはないと切り捨てる。瞬間、闘技場を覆いつくすほどの白い白煙があらわれる。

 

――――煙幕…

 

視界不良。しかし、それぐらいでは意味をなさない。そしてその人影を見つけ出す。

 

――――もらった

 

絶対の一撃がぶつかる直前、燕は確かに聞いた。

 

「——————」

 

その言葉を。そして白が爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは外からの方が顕著であった。白く覆われた闘技場。誰もが試合を観戦できないと事驚きで声を上げる中で

 

――――なぜ?ここで目を覆った(・・・・・)?あの赤子の性格を鑑みても、それをなすような性格ではあるまい。であるなら、隠したい理由(・・・・・)があるのか…「……なにっ!!??」

 

「これは――――!!??」

 

冷静に意図を察しようとしていたヒュームとクラウディオの口から、本日初めて驚愕の声音がこぼれる。

それは明らかに異様で異常な光景だった。煙であるはずの白煙そのもの(・・・・)が、文字通り爆ぜた(・・・)のだ。吹き飛ばす(・・・・・)でもなく爆ぜた(・・・)。その事に気が付いた実力者たちの顔色が変わる。その爆ぜた音と共にその身に、振動と甲高い音が襲い来る。遠く離れた自分のところにまで届いたその二つは、明らかに戦場で浴びてきたそれとは違う。

 

――――何が起きたのだ…

 

明らかに自身の経験にない事態。猛者たちが闘技場へと視線を向ける。そこには…

 

「はぁ…はぁ…」

 

「——————」

 

左手を右手首に添えた(・・・・・・・・・・)状態で拳を突き出す悠介の姿と着想していたはずの平蜘蛛の大部分が消失した(・・・・)状態で、呆気にとられたような表情をしている燕の姿。そしてその燕の足元には、黒と銀の粉(・・・・・)が散乱している。

余りにも異質な状態に誰も声を発せない。空白の沈黙が数秒と続いたなか

 

「あははは……参った。私の負けだよ、悠介君」

 

沈黙を破るように燕が、堪えきれなくなったようにドサ!と腰を地面に落とす。その言葉を合図に時間が動き出す。

 

『しょ、勝負あり―――――ッ!!若獅子タッグマッチトーナメント優勝は、赤報隊だ―――――――ッ!!』

 

燕の言葉を受け、大佐が勝者を優勝者を告げる。その言葉に会場が熱狂に包まれる。一部の者たちは、今の現象に考察を入れる。

そして当事者たちは…

 

「った~。悠介君、おめで―――」

 

燕は平蜘蛛をつけていた腕をプラプラと振りながら、彼に言葉を告げようとして止めた。

 

『あれは…まさか。武神よ、あれをどう考える?…武神?』

 

同じく石田は解説の仕事と己の考えを百代と討論しようとしたが、何の反応もないことに疑問を持ち、百代のほうを向いて沈黙する。

 

「—————————————」

 

「—————————————」

 

両者とも他の事など二の次に、互いに視線をぶつけあっている。今の二人には、何を言っても反応しないだろう。

二人は完全に自分たちの世界を作っている。

 

――――ああ…頑張ってね、悠介君

 

自分の言葉が通じないと悟ると、胸の内から声のないエールを送る。

そして百代は…

 

――――ははっ!!待っていたぞ、悠介!!

 

その瞬間が来たことを察して歓喜する。だからこそ告げねばならない言葉がある。愚直なまでに自分の元へと歩んできた者に褒美をあげねばならない。

 

『ジジイッ!!今すぐ、悠介の傷とダメージを癒せッ。全ては、その後だ!!約束を果たすぞ、悠介!!

 

現象に対する疑問もある。だが、それ以上の歓喜が疑問(それ)を凌駕する。傷だらけの悠介と戦う気はない。そんな状態の悠介を倒せても、それは意味がなく(・・・・・)価値もない(・・・・・)

百代の言葉に鉄心は「祖父使いが荒いの~」とボヤキながらも、その言葉に頷く。彼自身が、その状態での戦いをみたいと思っているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大和と離れ、燕は一人通路を歩いている。その顔は下を見ており、表情は伺えない。トボトボと歩く燕の後ろから…

 

「燕」

 

「っ!」

 

自分を呼ぶ声に驚き、慌てて声のした方を振り向く。そこには天衣が、普段とは違い優し気な表情で立っている。

 

「ど、どうしたの天衣さん。悠介君のところにいなくていいの?」

 

「悠介は今、鉄心殿の治療を受けている。エキシビション(悠介VS百代)は、その治療が終わった後だ。開始までは、しばらく時間が出来たんだ」

 

「そういえば、そうだったね」

 

あはは。と笑う燕だったが、その表情に一瞬天衣が顔をしかめると…

 

「燕…」

 

「わあっ!?」

 

ボフっ。と燕を自身の胸へと引き寄せ、抱きしめる。突然の事態に燕は慌て、ジタバタと暴れるが外れる気配がない。

 

「えっと天衣さん、離して「燕、無理はしなくていいんだぞ」っ!!」

 

ほしい。と告げるよりも早く天衣の言葉に、燕は言葉を詰まらせる。

 

「な何言ってるのかな?わ私、、む無理なんてしてないよん?」

 

天衣の言葉を否定する燕だが、その声音は乱れており、動揺しているのが隠しきれていない。普段から冷静沈黙な燕らしくない。

 

「今お前の前には、涙を見せたくない思い人(あいて)百代(ライバル)もいないぞ。まあ、私がいるが…今はお前の()として此処にいるつもりだ」

 

動揺する燕の頭を天衣は、優しく撫でながら言葉をつむぐ。

 

「だから、無理はするな。それ(・・)は堪えるよりは、吐き出すべきだ。私が壁になってやる。誰かに見られることはないぞ」

 

「あはは…‥…それはちょっとズルいよ、天衣さん」

 

「まあ、お前たちより年上だからな。たまには年上らしい事をしたいしな。私が彼にされたように」

 

「———————ぅ」

 

優しく抱擁され、紡がれた言葉に我慢に限界がきたのか、燕のの口から小さく声がこぼれ

 

「わわぁぁぁあ”あ”あ”あ"あ"あ"あ"あ"あ"ん"ん"んん」

 

普段の彼女から想像もつかないほどの泣き声と共に大粒の涙を流す。

 

「勝ちたかったよ~~~~~…天衣さ~~~~~ん」

 

「ああ、そうだな」

 

燕の言葉に頷きながら天衣は優しく頭を撫で続ける。

 

「勝って……勝って…悠介君に見て欲しかったよ(・・・・・・・・・・・・)~~~~

 

そうだ。今回受けた依頼には、確かに家名を広げ名をあげる目的があったが、松永燕自身(・・)にも目的があったのだ。

それは自分が川神百代を倒すことで、その視点の先に自分を含めて(・・・)欲しかった。そうすれば、自分も悠介の武術の世界でも自分を目標(・・)として進んでくれると思っていた。

 

「う”う”~~~~~~」

 

だが無理だった。あの時の彼の瞳を見て悟った。あの世界に自分は踏み込むことが出来ない(・・・・・・・・・・・)。今思えば、自分は戦う前(・・・)から精神的に劣っていたんだろう。彼の百代へと挑む気持ちに、必ず戦うという悠介の強い思い(かくご)に自分は敗れたのだ。だからこそ、悠介は限界を超えても倒れなかったのだ。それをなせるだけの修行の実績があっただろう、それを支えたのはまぎれなくその覚悟(おもい)。その事実が更に悔しさを倍増させる。

天衣は燕が全てを吐き出すまで、ずっと抱きしめながら頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

若き獅子たちの激突は終わり、勝者は決まった。しかし未だに若き獅子たちの頂点は決まっていない

 

頂上決戦(エキシビションマッチ):惡一文字・赤報隊(相楽悠介)VS武神・川神百代

 

約束を果たすため、夢のため、己の沸き上がる感情がために、彼と彼女はぶつかり合う。




如何でしたでしょうか?

覚醒よりは悠介らしさを醸し出せたかなと思います
覚醒もよかったんですがね…‥…なんか違う気もしたので、今回の形となりました
あとは、燕の涙も恋を経験したからこそだなと思って……キャラ違うかな~~~??

そしていよいよ来年からは、待ちに待ったVS百代です!!
今から熱い展開になるように構成を練っていきます

知らぬ間に三年目も突入していた、今作来年もよろしくお願いします。
少し早いですがそれでは皆さま、よいお年を~~~

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