真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
今回は少し燕の行動が賛否両論かもしれませんが、ある種強調したいものがあったので、この話とさせてもらいました
さて、今までとは違った勝負
楽しんでもらえたら、嬉しいです!!
ごくまれにどうしようもないIFを考える。私がもしも
そしてきっと彼と会わなかった自分は、
――――違いはたった一つなのに、此処まで大きく違うなんて…ホント、人っていうか女の子って、ある意味で男の子よりも単純だな~
客観的に自分を考えて、そんな答えを導き出した自分に燕は、内心で苦笑をこぼす。しかしそれもすぐに冷静な理性が無理やり押しつぶす。
「さてっと、行こうか大和クン」
「はい」
スイッチを切り替えた燕は普段と全く変わらない雰囲気で大和を引き連れ闘技場を目指す。コンコンと足音だけが響く中、チラリと燕は後ろを歩く大和に視線を向ける。大和自身は、緊張から全く視線に気が付いていない。恐らく決勝での策を考えているのだろう。
――――ホント、君と悠介君は
きっと自分が大和クンの事を気にするのは、直江大和をある意味でIFの彼として見ているのだ。そう思うととてつもない嫌悪感が沸きあがる。
――――嫌な女だな~私って
ある種の自己嫌悪に陥っていた燕だが、次の瞬間それが消し飛ぶ。理由は単純。目の前に彼が立っているから。それだけで意識が覚悟が決まる。
――――今日は勝たせてもらうよ、悠介君。
決意と覚悟をもって燕は闘技場へと立つ。
『片や前評判を何度も覆し、
真正面から向き合う悠介と燕の間に立つ大佐の言葉を聞き、互いに後方に待機する天衣と大和は緊張をほぐすように息を吐く。
『確かに己の手を最大限隠して勝ち進んできた、燕に対して…』
『実力の差を持てる全てをもって覆してきた相楽では、現状で晒している手札と情報量に差が大きすぎる』
『まあでも、燕の策とは根本的に違うが、悠介の奴も相手に合わせての策略を考えているみたいだし、無策という事はないだろう』
『そうだな。だからこそ、こうして口にしてみてわかるが、何もかも反対なようで、あの二人は…』
『似てるんだよな、根っこというか何か近いところで。まあ、要点とか道筋が違いすぎるが…相性とかよさそうだよな』
『そうだな。ところで武神よ』
『なんだ?』
『どうして急に機嫌が悪くなっているのだ?』
『??。何言ってるんだ?私はいつも通りだが』
『…そうか、ならばいい』
解説二人の解説により観客たちは、これから起きるであろう激闘に胸を膨らませる。それに反比例するように闘技場に立つ四人の空気は張り詰め冷めていく。
そしてその時が遂にやってくる。
『泣いても笑っても最後の勝負!!優勝という栄光を手にするのは果たしてどちらか!!若獅子タッグマッチトーナメント決勝戦!!<赤報隊>VS<知性チーム>試合開始――――!!』
「さてっと、勝ちに行きますか」
「??。えらく強気だな、燕」
大佐が開幕を告げると同時、燕が独特な構えを取る。その構えに悠介は燕らしさを感じずにその疑問を口に出す。
「当然!モモちゃんとの対決目前!!それに相手は、君だからね。…だから、出し惜しみなしで行くよん。変身!!」
「ッ――――!!??」
燕が悠介の疑問に答えると同時に、その決意を体現するかのように燕の姿が変わる。
川神学園の制服だったのが、黒いウエットスーツに変わり、腰には幾数ものプラグが付いたベルト。極め付きは右腕に付けられた巨大な籠手。その変化に視界を含めた会場にいるすべての人間が驚きをあらわにする。
例外は九鬼家の三女とヒュームとクラウディオの三人は、驚き、不満、驚嘆の感情を見せる。
その中で当事者たる悠介は表情を変えずに燕を見据える。
「それが久信さんと一緒に開発してた、
悠介の何処か挑発的な言葉に燕は少し困った顔を見せるが、その瞳は全く動じずに告げる。
「少なくとも
「そうか」
決意ある言葉に悠介は獰猛な笑みをもって答える。そしてその言葉を最後に問答が終わり、空気が再び張り詰める。誰もが息をのみ、その瞬間を待ちわびる。
いくつかの沈黙。その沈黙を破るのは、悠介。
「シィッ!!」
強襲するかのように地面を鋭く蹴り、右拳を握って打ち込まんとするが…
「開幕はほぼ100%、自分の中で流れを作るために一番自信のある右の正拳突きだよね。『スタン』」
「っ!!??」
まるで初めからそこへ来ると知っているように燕は最小限の動きで回避すると同時に悠介の脇腹に、鋭い掌底を打ち込む。その瞬間響く機会の音声と同時に悠介の身体にしびれが全身を貫く。
「ッチィ。舐めんなっ!!」
攻撃の衝撃と痺れで一瞬動きが止まるが、悠介は無理やり体を動かし、衝撃を受けたほうへと倒れこむように体を動かし、裏拳を叩き込もうとするが…
「初手が失敗した場合…ダメージを受けても無理やりに反撃して、相手のペースにさせないだよね?『ネット』」
機械音とともに射出された網が悠介の動きを拘束する。そしてその隙に燕は間合いを取る。どうにか悠介が拘束を外すころには、燕は相応の間合いを取っている。
「くそっ」
『おおっと意外な展開!!松永選手が相楽選手を翻弄しているぞ―――!!』
『これは見切るというよりも』
『悠介の動きを燕が完全に読み切っているな』
衝撃の展開に誰もが騒然とする。今まで悠介の進撃を知るが故に目の前の光景に驚きを隠せない。
当然だが物事には相性というものがる。相性が良ければ、格上すら届き得るかもしれない。それが相性だ。
そして相楽悠介と松永燕の相性は――――
打ち込む拳が悉く合わされ、それに比例するように鋭い一撃を身に受ける。今まで格上の相手とも何度も戦ってきたが、その時感じたものとは全く違う感覚。
「チィ…(マジで当たらねぇ…防がれるってより流される感じだな)」
バシィ!と放たれた鋭い蹴りをあえて受けその足を掴まんとするが、掴み動作を仕掛けんとした瞬間を狙って燕の一撃が炸裂する。
「不利になってきたらあえて攻撃を受けて、その攻撃の後を潰すでしょ?」
衝撃で体勢をが崩れ、数歩後退した悠介は、どこか驚いたような顔を見せる。
「ほとんど見せたことのない
――――最高にして最悪の一言である。
断言と確信をもって告げられた言葉は、決して誇張して告げられたものではないと信じれる。それゆえに絶対的不利。それでもいやそんな状況だからこそ悠介は…
「上等だ!!」
獰猛な笑みをもって返す。
「それでこそ」
悠介の言葉を聞いた燕は嬉しそうな顔を見せながら次の攻防を仕掛けた。
誰よりも傍でその姿を見続けたという確信と自信がある。ずっとそばで見て来たからこそ彼の強さの理由がわかると思う。
それはその身の不遇ゆえに。
それはその身の焦がすほどの努力ゆえに。
それはその目指す場所からの逆境ゆえに。
それはその魂の不屈ゆえに。
それはその苦境からの飢えゆえに。
誰が何と言おうと、君が私の武を始めるきっかけで、君がその文字に憧れているように、私にとっての憧れは誰が何と言おうとも君だった。
だからこそ、私の為に君に勝ちたい。
今までも自身の攻撃が全く通じないという事はあった。それでも…
――――これは今までのとは違いすぎる。壁を相手に挑んでるってよりは、水の流れに挑んでるみてぇだ。燕のスタイルは知ってるつもりだったが…嵌ればこうもヤバいのか
『これは意外な展開――――!!終始、松永選手が圧倒する展開だ―――!!』
「オラぁッ!!」
「ほいさっ」
燕に向かって打ち込まんとした拳だが、その動きを先読みしたように出鼻を打ち抜く燕の一撃が悠介の攻撃を打ち込ませない。
「ッ――――!!??」
「残念。それも読めてるよ!!」
燕の一撃で上半身が僅かにグラつくいた悠介は、燕の機動力を奪おうと空いた腕で拳を作り、攻撃をする動作を見せる。その動作に一瞬燕が反応を見せる。その隙を突かんと、悠介は燕の足を踏みつけようとするが、それを読んでいた燕は容易く回避する。その返礼とばかりに鋭い回し蹴りが悠介に直撃する。
だが悠介はダメージを受けながらも行動する。回し蹴りを放ったがゆえに起きる体勢の不十分。その隙を突く様に腕を鋭く振り下ろす。
――――決まる
「決まるって思ってる?」
「ッ!!??」
見えていない角度からの攻撃を燕はまるで見えているように回避すると同時に、腰をひねり鋭い一撃を悠介へと打ち込みむ。
悠介にとって燕の一撃は壁越えの中では、それド程の重さを持ってはいない。しかしその鋭さと雷撃の両撃が、着実に悠介の体内へと蓄積していく。
「っダラァッ!!」
「およっ!!」
ダメージを受けた悠介はあえて堪えることはせず、勢いに身を任せて地面から浮いた足で鋭い蹴りを打ち込む。しかし燕は驚いた声とは対照的に落ち着いて平蜘蛛で防御する。
悠介はバク転の要領で即座に体勢を戻すと、身体を縮こませて一気に距離が出来た燕に駆けだそうとするが…
「ッ!!??」
バチィ!と鋭い痛みが襲い足が一瞬止まる。
「『ポイズン』。痛覚を刺激するただそれだけの毒なんだけどね。仕掛けさせてもらったよ」
「ッ!?」
想像しているよりも明らかに近い距離からの声。ほぼ反射的に声のしたほうへと腕を出すが…
「『ジェット』。外れだよん」
暴風とでもいうべき風の加速と共に燕が逆から一撃を叩き込む。逆からの不意打ち。本来ならば成すすべなく吹き飛ばされるのであろうだ、悠介は本能的に腕で燕の腕を掴もうとするが、掴んだ直後に身体に鋭い電流が走る。
――――
己の行動を予期したうえでの罠。悔しさが胸の内に沸き上がる。悠介が燕の腕を掴んだ瞬間、燕は抗うどころかあえて地面を蹴り空へと跳ぶ。そして悠介が手を離すと同時に、今度は燕が悠介の顔を掴むと、自身の膝を勢いよく折り曲げてつつ、悠介を引っ張る。
「そおぉいッ!!」
回避不可の強引な膝蹴りが悠介の顔面を貫く。鈍い音共に悠介は後方へと吹き飛ばされる。
「悠介!!」
その無慈悲の一撃にたまらず天衣が叫ぶように悠介の名を呼ぶ。吹き飛ばされた悠介は即座に立ち上がるが、鼻からはポタポタと赤い血が流れている。
『一方的だな』
『そうだな。手合わせをしていてわかったんだが、燕は相手の動きや癖に加えて戦術を考慮したうえで敵を倒す、策士タイプのカウンタータイプだ。今までの動きを見る限り、悠介の動きは燕にとっては目をつぶっても読み解けるレベルなんだろう』
『確かに。今思えば、相楽の背を誰よりも見ていたような気がするな』
今までとは違う苦境に立つ悠介の姿を見ながら、解説の二人は冷静に状況を観客達へ伝える。
その中で燕は冷静に悠介と己を見つめる。
――――さっき腕を掴まれて時に僅かに反応が遅れたせいで、少し衝撃が腕に残ってる…もっと集中しないとだめだね。悠介君は我流の荒々しい戦い方に見えて、
駆け引きを度外視した一本勝負に持ってくるか、乱打戦に持ち込み自分の流れを作るか、あ、でも…かなり低い確率だけど、あえて攻撃を受けてからのカウンターもあるね。
冷静に自分が知る相楽悠介という敵を想定していく燕。そこには一切の余裕はない。
――――君がこういう逆境に強いのは知ってるからね。油断はしないよ。だから…先手を取る
『待ちから一転、松永選手が仕掛ける――――!!』
「チィ」
『一気に決めに来たか』
『悪くない判断だぞ、燕』
そんな燕の考えを悟ったのか悠介は舌打ちをこぼしながらも拳を構える。悠介が拳を構えたのを確認しても燕は速度を落とさない。その名があらわすように燕のように鋭く悠介の間合いに侵入していく。
互いの間合いが重なった瞬間、悠介は低く押し上げるように拳を放たんとするが、ヒョイ!と効果音が付きそうなほど軽く一歩、下がる。
「ッ―――――!!??」
たったそれだけの事でアッパーのように放たれる悠介の拳は完全に空を切り、上半身ががら空きの的となる。まずいと察してもなお、威力を取ったリスクある攻撃がゆえに大勢は不安定で回避は不可能。
「そいッ!!」
先ほどと同じように雷撃を伴い放たれる一撃が悠介へと直撃する。先ほどと威力も何も変わらない一撃されど…
「ぐぅ―――――っ」
ここにきてまるでジェンガの土台が崩れるように悠介の腰が落ち、膝をつく。
「まずい!!悠介!!」
――――悠介君の武器であるタフさ。壁越えクラスでないと、ダメージとして感じないほどの異常なタフさ。でもそれは裏を返せば、自分の身体の悲鳴に無頓着ってこと。身体の悲鳴が限界に達しない限りは、決してダメージを感じさせない。でも、効いてないと感じる攻撃も実際には確実に身体に蓄積される。特に今回のように、何度も
悠介がやり取りの中で自分の意思とは関係なく膝をつく。その意味を察して、燕は己の策略が見事は嵌っている事を理解し、勝負を決めんと動く。そして天衣は、理解できているからこそ悠介の名を叫ぶ。
そんな中で悠介の胸の内には…
――――やっぱ強ぇな、燕。俺とは違う、おっさんの言葉を借りるなら文字通り、選ばれた側の力。ああホント…
思い出すのは、燕との記憶。
『あ?お前も
『うん!だから、今日からよろしくね、悠介君!!』
はじめは何か思ったところがあるわけじゃない。母親が武術の必要な仕事をしていたのは知っていたし、理由を聞いても頑として話さなかったから、どうせ護身術レベルだろうと思っていた。
でもそれはすぐに間違いだと気づかされた。
『ねぇねぇ悠介君!どうかな、今の動き』
『ッ。悪くねぇんじゃなねぇの』
『ホント!!やった―――』
自分が数年かけたて目標としたキレを燕は数週間や半年で達する。その時点で認めざる得ない。松永燕は、川神百代と同種だと。
今までは自分よりも強い相手を目標としてきた。だからこそ思えば初めてだったかもしれない。天才という怪物に後ろから追われる恐怖を味わったのは。
そして気が付けば、自分が十数年かけた強さに燕は十年未満の時間で追いつかれた。後半は、組手をすれば接戦だった記憶しかない。しかも自分が全力だったのにも関わらず、燕は性格上なのだろうが、どこかカードを隠した気配を漂わせて。
だからこそ思う。今までの相手はある種の初見殺しや不意やルールを利用して、勝ってきた。
だが、黛との勝負と同じだ。壁越えクラスに油断なく構えられると、自分の築き上げて来た物が容易く壊される感覚。
今まで何度も味わってきた、敗北の感覚。この状況は決して不運や悲劇が生んだものではなく、武の世界においてはただ当然のありきたりな現実だと思わされる。
ああ、全く…
「ッ――――!!!」
『おおっと――――!!相楽選手の頭突きが松永選手へヒット!!反撃返しとなるか――――!!』
――――たくよう、石田といい…どいつもこいつもあっさりと追い抜こうとしてんじゃぇよっ!!認められえるか!!!そんなもん…!!!
『相楽の雰囲気が…』
『ああ変わったな』
連なるように思い出すは、初めて他者に突きつけらた挫折の記憶。
『おめぇには武の才はねぇ。諦めな、それがお前の
――――才?運命?うるせぇっ!!勝手に決めんな!!誰にも決めさせねぇ!!そんなもんは
「わっ!!」
黛由紀恵と同じように直面する二度目の危機に悠介の中に眠る
――――…いいよ。才能とか技術とか戦術とか、そういうものはまるまる、燕…お前の勝ちでいい。でもな…
思い返せばある種
『いつかお前に勝ってやる』
『ふふ。一生無理だろうが、まあ楽しみにしといてやるぞ、悠介』
今まさにそれが目の前にあるのだ。誰にも邪魔されたくない。自分がその場に立ちたい。
――――この勝負の勝ちだけは…‥………………ここに置いていけ、燕っ!!!
ボロボロな身体。それでも無理やりに動かし立ち上がる。
その姿を見つめながら、燕は…
――――ねぇ、悠介君。君はさ、私やモモちゃんたちを天才だ、怪物だっていうけどね…‥‥‥‥‥そんな
悠介の出す殺気に身を強張らせた。
如何でしたでしょうか?
なんか後半の悠介の突然!!って感じの描写や言葉が多かった気がするんですが、一応その辺は日常編とか悠介の言葉とかの中にそれとなく含ませて置いたつもりんですが……書く才能がないかも
次回も早めに更新できるようにしたいのですが、引退が近いのでまた慌しくなるので、かなり遅くなるかもです