真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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本当にお待たせしました!!過去最長で止まっていましたが、どうにか復活です
PCが壊れる事件に加え、大学部活の幹部の代替わりや、期末レポートとテストと重なり全く更新できませんでした
漸く落ち着いたので、再開できそうです

久しぶりすぎて書き方忘れたかもしれませんが、どうにか決着です
楽しんでもらえてら、うれしいです


悠介と若獅子タッグマッチトーナメント 二回戦VS桜ブロッサム その2

気を抜いたつもりは一切なかった。周りにも意識を向けつつ突進を仕掛けたはずだったが…

 

――――まさか反応しきれない速度で突進してくるとはな…

 

武術を学んでいないといった。実際、決闘をしたという話も聞かないし文科系だと言っていた。だからこそ警戒心が緩かったのは否定できないが、それでも反応できるだけの警戒心は張っていたはずだ。

更に言えば…

 

――――初戦で見せた突進とか予選でのキレを目安にしてたんだがな…あれが全力じゃなかったのかよ…

 

予選に出場した選手たちも決して弱くない。それを自称文科系の少女が全力を出さずに躱していた。

無意識かそれとも狙ってかはわからない。だからこそ…

 

やってくれるぜ(・・・・・・・)、先輩」

 

その言葉が悠介の口から無意識にこぼれた。

 

 

 

 

 

 

顔を俯かせ表情を読ませない清楚。その姿に驚きを見せたのは悠介だけではない。

 

「先輩…」

 

「………………………」

 

僅かに戸惑いながらも発せられた呼びかけに対しても清楚は答えない。そんな清楚がゆっくりと顔を上げる。

 

「えっと…大丈夫与一君」

 

「あ…ああ、大丈夫だ」————何だったんだ?相楽の奴に突進しかけた瞬間、半端じゃねぇオーラを感じたような気がしたが、気のせいか?

 

「えっと、今の私がやったのかな?」————何だろう、一瞬意識がとんだ(・・・・・・)ような気がしたけど…

 

「無意識かよ…」

 

普段の自分の知る清楚と同じ反応に与一は杞憂だったかと先ほどの疑問を頭の片隅から捨てる。

その瞬間何かが立ち上がる音が聞こえ、与一は意識がそちらに切り替える。それは清楚も同じ。

そこには息を整えて何事もなかったように立つ悠介の姿。

瞬間的に弓をたがえる与一。清楚もまた悠介に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

一度息を深く吸う。その動作だけで体がどこがどれだけ痛むかをある程度把握できる。想定外のダメージを受け悠介の顔が歪む。が、それはダメージからくる歪みではない。

 

「そうだよなぁ」

 

「あん?」

 

そのつぶやきは不思議とその場に響く。

 

闘技場(ここ)に立ってんだ。その時点で軽く見ていいわけがねぇ。あんたも覚悟があっているんだからな」

 

確信をもって問いかけるように発せられた言葉。それは最も場違いな清楚に向けられて発せられている。

その言葉の意味を理解しようと与一が頭を動かそうとした瞬間

 

「シィ」

 

「っ!!??」

 

悠介が思いっきり地面を蹴り肉薄する…

 

「わあぁつ!!??」

 

清楚に向かって。

 

『おっと、これは意外な展開!!相楽選手、葉桜選手へ猛追!!』

 

『だが、紙一重ですべて躱しているぞ。あの先輩…本当にただの文科系なのか?』

 

『まあ、清楚ちゃんは清楚ちゃんだ。気にする必要はどこにもないだろう。それにして、これは予想外だな』

 

百代の言葉通り、闘技場では与一を完全に無視して悠介が清楚のみに攻撃を仕掛けている。

 

『あれだけ密着に近い状態では与一は動けないな』

 

『ああ、至近距離であれだけ動けば、誤射の可能性が大きい。いかに達人といえど、撃てない状況だな』

 

石田たちの言葉通り、与一は弓を構えてはいるが一向に放とうとしない。いや放てない。

 

「くそっ!!」

 

その舌打ちは状況に対しては、それとも無力な己に対してか。

 

『清楚ちゃんも紙一重で避けてはいるが、いずれ限界が来るな。動きが悪くなってる』

 

『無理もないだろう。半分以上センスだけで避けているのだ。それで悠介の攻撃をかわし続けれるわけがない』

 

『それに戦い方としては一番理にかなっているな。まあ、選ぼうとは思わないが』

 

『確かに…だが、そうなってくると』

 

『ああ』

 

状況でいえば確実に悠介の有利。しかし真意を知る彼らは理解している。その行動の意味することを…

 

 

ほぼ一方的ともいえる展開。その状況に…

 

「な、なんだよ~~。あいつ!!清楚ちゃんばっかり攻撃しやがって!!」

 

「清楚ちゃんに手を上げるとかマジで許せない!!」

 

「っていうか、男が女の子に手を上げるって最悪なんじゃない?武人ならともかく、清楚先輩って武人じゃないわけだし…」

 

「なんか失望したかも。彼ってどんな時でも強敵に真正面から挑むから、好きだったんだけどな~…」

 

観客たちから不満の声がこぼれ始める。初戦での激闘を知るがゆえに観客たちがそれは仕方がないのかもしれない。

 

「ふむ…これは」

 

そんな中で京極は静かにパタンと持っていた扇子をたたむ。その瞳は静かに悠介を見据えていた。

 

 

外野の声を拾った天衣は、わずかに顔をしかめる。悠介が責められているから…

 

――――やはりこうなったか

 

ではなく、目の前の光景の真意(・・)に気づかない観客たちが浴びせる罵声に近い声に対して。

知らなければ、そういってもおかしくはない。それでも知る身として怒りを感じられずにいられない。

そしてそれは…

 

「「「「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」」」」

 

多くの武道家たちが抱く感情。

 

「…フン」

 

「おやおや…」

 

「??。どうしたのじゃ、ヒューム?クラウディオ?」

 

「いえ、なんでもございません」

 

「お気になさらずに」

 

真意を悟ったヒュームは今の状況に面白くなさそうに息を吐き、クラウディオは感心したといった表情を見せる。

 

 

 

 

何度避けただろう。ほぼ本能的に迫る拳を回避しているが、無茶な行動も多く限界が近い。

しかし…

 

――――なんだろいう、この感覚…

 

まっすぐに己を見つめる猛る瞳。ただただ純粋な感情が全身に突き刺さり、胸の内から、体の奥底からナニカがこみ上げてくるような熱い感覚。

その熱に浮かされたからだろうか、一瞬動きが鈍る。

 

――――や、やっちゃったっ…!!

 

武術をたしなむ程度の自分にもわかる決定的な隙。そして悠介がその隙を逃すはずがない。

大きく空いた横腹のスペースに吸い込まれるように…

 

「ラァっ!!!」

 

「っ―――――!!??」

 

悠介の一撃が叩き込まれる。その威力に清楚の息が一瞬止まり、そしてその光景に悲鳴が沸き上がる。

その中で…

 

『今の一撃は…』

 

『ああ、どうやら悠介は両方とも(・・・・)に決着をつけるつもりのようだな』

 

一歩引いて上から見ていた二人はその真意を察した。

 

打ち上げるような掌底によって清楚の体が地面から離れる。

 

――――与一の位置は…よし!!

 

僅かに開いた場所から与一の位置が清楚のほぼ後ろだと確認した悠介は、そのまま勝負を決めに行く。

 

「オラぁっ!!」

 

「へ…って、きゃ!!??」

 

「なにぃ――――!!?」

 

悠介は浮いた清楚をほぼ真後ろに向かって投げ飛ばす。

 

――――避けるか、それとも受け止めるか…

 

予想外の事態に与一の思考と意識が完全に悠介から離れる。

 

「与一君!!私の影に…」

 

「っ――――!!しまった!!」

 

『おっと、相楽選手。葉桜選手を壁にして那須選手に突進!!』

 

このままではまずいと察した清楚が浮いた状態で、はたきつぶすような感じで思いっきり、手を振り下ろすが…

 

「わりぃけど、もう逸らさねぇよ」

 

その一撃を悠介は手首をつかむ事で完全に止めて見せる。

 

「—————!!」

 

受け止められた瞬間、清楚の雰囲気が一瞬変わる。

 

「っ――――!!??」

 

それはまじかでいた悠介だからこそ気が付いた変化。その変化ゆえに悠介の体が強張り動きが止まる。

 

「悠介!!」

 

「———っ!!ラァっ!!」

 

瞬間、天衣の声が届く。その声を聴いた悠介は強張りを無理やり外し、掴んだ手を思いっきり引っ張る。

 

「きゃあ―――っ!!」

 

引っ張られた清楚は前のめりの形で地面に倒れる。当時に両者の視界から清楚という壁がなくなる。

交差する視線。悠介と与一の二人は…

 

「オラぁっ!!」

 

「喰らいやがれ!!」

 

同時に拳を矢を打ち出す。距離にして僅か二メートル。その距離で互いの一撃がぶつかりあう。

 

「うぐ…」

 

ぶつかり合う中で清楚に受けたダメージが元か、矢の威力に僅かに悠介の拳が下がる。その光景を見た与一は、勝利を確信するように息を吐くが…

 

「な、めんじゃねぇぇぇぇええええええええええっ!!!!!」

 

「なにぃ!!??」

 

その動作が琴に触れたのか、悠介は矢を押し戻し与一の方へと打ち返す。想定外の事態に与一は慌てて身をずらし躱す。

 

「ようやく視線をそらしたな」

 

「しまっ―――」

 

声がした瞬間、横に向いていた視野を目へと戻す。そこには至近距離にまで近づき拳を構えている悠介の姿。

 

――――こいつ、打ち返すとほぼ同時に突っ込んできやがった

 

まずいと思うが慌てての回避のため、体勢が不十分すぎる。

 

――――躱せねぇ

 

「オラぁっ!!」

 

「うご――――――っ!!??」

 

軸を貫く一撃に与一はなすすべなく吹き飛ばされる。

 

『それまで――――!!!勝者赤報隊――――!!!』

 

数秒の間ののち、与一が起き上がれないことを確認した大佐が勝者を告げる。

 

『間合いという武の基礎が勝負を分けた試合だったな』

 

『ああ、ともに得意とする間合いが違うからこそ駆け引きもあった。なかなかに見ごたえがあったぞ』

 

勝敗が付き百代と石田が戦いを振り返えり感想を告げる。しかし観客たちの中には、先ほどの清楚への攻撃の不満の声なのだがぼそぼそと広がっている。それは徐々に大きくなり悠介に向けられる。

 

「……………………」

 

「燕先輩…?」

 

「「「「「「…………………………」」」」」」

 

その状況に不満を持つ者たちの顔が僅かに歪んでいく。

 

会場に沸く声が徐々に大きくなっていく中で―――――

 

「るっせぇ―――っ!!!」

 

悠介の叫びが会場に轟く。

 

闘技場(ここ)に立ってる奴は女だろうが男だろうが関係ねぇ!!。それに俺は俺が正しいと思ったことをする。それをとやかく言われる筋合いはねぇんだよ!!」

 

我を通すような気迫ある声。その言葉に会場が沈黙する。

 

「それになぁ、あんたらが思ってるよりも葉桜清楚はつえぇよ(・・・・・・・・・)!!」

 

断言する言葉。それは誰よりも葉桜清楚という人間の覚悟を肯定する言葉。少なくとも悠介はそう感じだたのだ。ただ流れで出場したわけではない。己の決意をもって、その場所に立っているのだと。だからこそ、どこか戦う相手を度外視していた己を恥じて、真剣に向き合わないといけないと思った。

ゆえに許せない。清楚の決意も何も知ろうとも向き合おうともせずに外見だけで性格だけで可哀そうなどという声が悠介には我慢できなかった。

 

「おやおや…言いますね」

 

「ふん。赤子風情が…」

 

その言葉にクラウディオとヒュームの二人は先ほど以上に面白そうな顔をする。悠介の言葉に誰も言葉を発さない。

 

「それでも文句がある奴は降りてこい!!俺が相手してやる

 

何がとは言わない。それでも意味を察する。先ほどとは違う沈黙。それを破るように

 

『そうだな。ここは武術の祭典だ。出場する以上皆、覚悟をもって立っている』

 

『その覚悟無き者がそもそも本選に立てるわけもないな』

 

百代と石田が悠介の言葉を肯定するように言葉を発する。それでもまだ不満を持つ者がいるそのさなか

 

「ありがとう。悠介君」

 

倒れていた清楚が起き上がり、悠介の目を見ながら感謝の言葉を告げる。あまりに想定以上の言葉にまたしても会場が沈黙する。

 

「私みたいな素人にも全力で、私の思いにぶつかってくれて本当にありがとう」

 

小さい声の言葉のはずなのに不思議とその言葉は会場に響いた。それがとどめとなって、もはやだれも文句は言わない。

感謝の言葉を告げられた悠介は、ポリポリとほほを掻きながらその場を後にする。そのあとを天衣が微笑ましそうな表情で追いかける。

 

誰もが沈黙する中で京極は、悠介の背に刻まれた『惡』の一文字を見ながら…

 

「我々のように葉桜君を表面的なもので見るでなく、この場において誰よりも真剣に向き合っていたというわけか」

 

面白い。そういう表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二回戦第一戦より戦う覚悟を問う戦い。次からの試合を行う選手たちの表情も変わり、より白熱したものへと変わる。

そして観客たちの意識も変わり、よりその戦いに意識を向けている。

 

<源氏紅蓮隊>VS<ファイヤーストーム>————義経たちの勝利。ただし義経たちに風間と大友が奮戦を見せる。

 

<ミステリータッグ>VS<チャレンジャーズ>————一回戦の公約通り棄権を告げる。ただしその前に一子と揚羽が僅かにぶつかり合う。

 

<無敵童貞軍>VS<知性チーム>————鉢屋が久信を捕まえ燕を脅迫するが、燕のブラフとヨンパチの言葉により、燕たちの勝利。

 

そして次なる組み合わせは―――――

 

<赤報隊>VS<源氏紅蓮隊>    <チャレンジャーズ>VS<知性チーム>

 

頂点へはあと二つ。戦いはさらに苛烈さを増していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身の試合が終わってすぐ、燕は鉢屋に告げられた場所に駆け閉まっていた扉をこじ開ける。

そこには…

 

「燕ちゃ~ん!たすかったよ~」

 

僅かに涙目になっている久信の姿。

 

「どうして捕まっちゃったの、おとん」

 

「それが聞いてよ~。酷いんだよ。妖艶な美女が僕と火遊びしましょっていうから………」

 

快活話していた久信の声がどんどんと小さくなっていく。

 

「つ、燕さん?」

 

「ついていったの…?」

 

「うん」

 

冷たい声音の燕の言葉に久信はあまりにも小さな言葉で肯定を示す。

 

「……………………………………」

 

「つ、燕ちゃん……実の父親をそんな目で見ないでよ。もう大丈夫!!もう絶対に引っかからないから!!生まれ変わるから!!」

 

「……もう仕方ないな~」

 

「やっ…「なんていうと思った?」ヒィィ!!!」

 

「しばらくそこで反省してていいよ。そういうわけだから、あと頼むね。悠介君」

 

「え?」

 

そういいながら燕が横にずれると、そこには拳を握った悠介の姿。

 

「あ、あの~悠介君?なんで拳を構えているのでしょうか」

 

「いや、今の状態でどれだけのキレが出るか試そうと思いまして」

 

「もしかしてそれ、僕で試そうと思ってる?」

 

「それ以外に何かある、おとん」

 

久信の問いに悠介にではなく燕が答える。そして燕が言い終えると同時に…

 

「反省しろ!!」

 

「ぎゃあ~~~~!!!」

 

悠介の拳が久信に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場へと向かうなかで悠介は先ほどの制裁を思い出す。

 

――――思ったよりダメージを受けてるな。キレがだいぶ落ちてた…やっぱ、そう思い通りにはいかねぇよな

 

全快時の六割か五割といったところだろう。そして次なる相手も油断などできるものではないし、油断するような性格でもないだろう。

 

「まあ、悩んでも仕方ねぇ。行くか」

 

闘技場へと出る直前で天衣が合流する。

 

「遅かったが、何をしてたんだ?」

 

「…なんでもねぇよ。くだらねぇことだよ」

 

「そうか。それと頼まれていた物(・・・・・・・)置いておいた(・・・・・・)ぞ」

 

「助かる」

 

準備は万全。二人は闘技場へと立つ。

 

『いよいよ、準決勝第一試合開幕です!!』

 

強大な山を超えてきた悠介。されど、その道を閉ざさんと新たなる山がそびえたつ。




意見が分かれそうですが、こういう形となりました

次はできるだけ早く更新できるように頑張りたいと思います

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