真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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過去編も終わり、漸く本筋です
それにしても書いてて思ったけど、石田のキャラがだいぶ変わったような・・・それだけの事があったと思ってください

楽しんでもらえたら、嬉しいです


悠介と若獅子タッグマッチトーナメント 予選最終戦 その1

悠介よりも早く石田と島は闘技場に待機し、その時を待っている。

 

「御大将」

 

島の問いかけに石田は答えない。いや、答える余裕などない。今はただ神経を統一する事のみに全力を注ぐ。

そして――――

 

『遂にチーム『赤報隊』が入場です!!』

 

待ちに待った男が現れる。瞬間、場の空気が変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その変化に誰よりも早く観客として気が付いたのは十勇士の面々と燕だった。

 

「ガハハ。まさかこんな場所でこのカードがなされるとはな。分からんものよ」

 

「ああ。だが、望むのならば本選でそれも決勝で見たかったものだ」

 

「ふむ。しかしそれもまた運命なのであろう」

 

本選出場を決めた十勇士は、静かにその戦いの始まりを待つ。ほんの僅かでもその戦いを見逃さんとするようにモニターに意識を集中させる。

 

「……………」

 

「えっと、燕先輩?」

 

「あ!どうしたの大和君」

 

「いえ本選出場者のデータを軽くまとめたんですが…」

 

「おおっ。流石大和君!!仕事が早いね」

 

差し出されたノートパソコンを見ながら大和を褒める燕。しかし即座に視線をモニターへと移す。

 

「でも一番の要注意人物の戦いが先かな」

 

「………そうですね」

 

――――悠介君。どっちが上がってきても、私は負けないよん

 

結末を見届けんと燕は集中する。結果はどうであれ、己の血肉に(・・・・・)するために。

 

「ゴホォ。いよいよ始まるな」

 

「ほんまやで~。この勝負は見逃したくはないわ」

 

「ああ」

 

「おれもどうかんだ」

 

「結末がどうであれ、美しい戦いとなるだろう」

 

観客としその戦いを見に来た十勇士たちは、先ほどまでいた奥の先から離れ、一番最前列へと赴く。

近く少しでも近くでその戦いを見たいがために。

 

「あれ?どうしたの龍ちゃん?」

 

おかしい、いつもなら間髪入れずに返事をくれる彼が無言だ。それが気になり近くによれば、携帯のテレビで話題のタッグマッチトーナメントを見ている。そういえば、今日の仕事も本来なら休みたかったと珍しく真面目な表情で告げていたのを思い出す。

 

「悪いが、少し席を外す」

 

「え?ちょっと…」

 

スタッフに二言程告げ、彼は仮設スタジオを後にする。目的の場所はわかっている。ここからなら五分ほどだろう。

 

「全く龍ちゃんも男の子なんだから」

 

こればかりは仕方がないとスタッフの面々も諦めてるし、チームメンバーも同じだ。ある時期を境に彼は変わったのだから。

進むものとして、近くで見れないのは我慢ならないの一人は会場へと赴く。

 

――――御大将…あなたは本当に

 

誰よりも近くでその変化を感じ、感動を覚える。あの時から彼は変わった。もちろんいい方へと。性格はあまり変わらないが、器が出来カリスマが増した。そしてその強さも…

 

「……………」

 

自分が忠告を入れる場所などもうほとんどない。それが嬉しく、どこか悲しみながらも彼は、己の武器を静かに握りなおす。少なくとも己の無力さで、この戦いを汚さぬようにと、心に誓って。

 

――――いいもんだ。若い芽がぶつかり合うってのは

 

師として二人の弟子の決闘に思いをはせずにはいられない。一人の弟子の高き夢を知っている。そしてもう一人の弟子の決意を知っている。どちらも贔屓することは出来ない。そもそもその場所に立てば、自分にできることなど何もない。

それでも二人の成長を知る身として、その結末が二人の糧になることを確信している。

 

――――魅せてみろ、二人とも。今のテメェらの人生(すべて)を込めた戦いをよお

 

青春を武術に捧げた二人の若き芽のぶつかり合い。これ以上に熱くなる勝負はそうそうにないだろう。たが、その場所に立ったのならば、どちらかが必ず散る。

自分にできるのは見届ける事。そう思い、最善の場所でその結末を見る。

 

――――強くなっている。少なくとも、あの時とはまるで別人だ

 

正面から相対し、一年前の自分の記憶にある彼と比べ、天衣は石田をそう評価する。全てが違う。瞳に映る決意の色も佇まいから感じる雰囲気も。彼が何をもって今日まで修業してきたかが、見ただけで感じ取れる。

だからだろか、鳥肌が立つ。その勝負を誰よりも近くで見届けれることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――奴と会うまでの俺にとっての武術とは、出世街道への道具であり、己の箔をつけるためだけの手段。それだけの価値の筈だった。今よりシンプルでわかりやすかった。だが、今の俺にとって武術とは言い表せないナニカが宿っている

 

僅かに瞼を閉じれば、思い上がる数々の記憶。あの敗北から全てが変わった。受けた屈辱と地に落ちた価値を上げるために、恥も捨て鍋島の元に十勇士全員で弟子入りしたときを……その中で味わった挫折や嫉妬をそして羨望。本当に濃密な一年だったと断言できる。色々な事を武術と奴に学んだ。信念とは何かを勝利の意味を、そして敗北の恐怖(・・・・・)を……

 

――――怖いな

 

瞼を開け手を見れば、僅かに震えている。それが武者震いを含めた恐怖での震えだと理解する。

 

――――あの時までは敗北などと耐えれたのだがな……知ってしまった敗北の意味とその恐怖を

 

真剣勝負をしてきたつもりだった。だが、それは余りにも愚かな勘違いだった。本当の真剣勝負がどういう事かもわかっていなかったのだから。それを俺はお前から学んだ。

お前は凄いよ、相楽。お前はこれを知っていたはずなのに、それでもお前はずっと真剣勝負をしてきたのだろう。

 

――――だが、真剣勝負とは本来そういうものなのだろう。俺は漸く、お前と同じ土俵に立てたのかもしれん

 

資格を得るつもりで挑んだ東西交流戦での敗北。それは今一度敗北の重みを恐怖を自身に再確認させた。

 

――――ふん。何を今更、敗北を思い出す。

 

静かに闘技場の立ち位置へと赴く。僅か一メートルの距離。それが永久に長く感じ、そして同時に震えが消え去る。そして代わりに

 

――――この鼓動の高鳴りは、緊張か?それとも……

 

ふと視線を前に向ければ、鋭い瞳を獰猛な顔を覗かせる悠介の姿。

 

――――お前に勝てた時、俺はどんな表情をする?俺は今どんな表情をしている…?

 

 

「…無意識に心を鎮めんとしておるのか、それとも今はまだ見せる時(・・・・・・)ではないと仮面を被っておるのか…あの年で大したものじゃ」

 

第三者として石田の表情を見た鉄心はそう呟く。石田の今の表情は、澄み切り静かな清流の様に穏やかだ。

 

「背負う強さは紛れもなイ大将の証に他ならないヨ。紛れもなく彼が将たる才を持つ証だろうネ」

 

「ははっ。こんな奴がまだいんのか」

 

「ほう」

 

ルーが釈迦堂がヒュームが、石田の表情に若き才の芽を見る。

 

 

 

 

相対してその顔を見て感じる圧。最早、見事としかいいようのないその雰囲気。だからこそ...

 

――――成長したのは君だけじゃない。そうだろ、悠介?

 

そんな思いを込めた瞳で天衣は悠介をみる。視線を向けた先には石田の雰囲気に呼応するように、纏う雰囲気を変えている悠介の姿。

 

――――一度勝った事なんて忘れろ。そして越えろ、この壁を....

 

決意は揺るぎなく、真正面から受けてたつ様に立ち位置に立つ。

 

「........................」

 

引き寄せられ矛と矛を合わせる将と将の激突を理解したように、観客達の熱気と歓声が、鎮まり張り詰めた空気が会場を覆う。

審判がゆっくりと腕を上にあげる。それを視界の端に写し、二人の雰囲気が更に張り詰める。

 

「試合開始!!!」

 

勝負の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

合図が響いた瞬間、一筋の雷電が駆ける。

 

「な――――っ!!!??」

 

気を抜いたつもりも、意識を逸らした訳でもない。踏み込まんとした刹那、身体に斬撃が襲い掛かった。

衝撃で身体が後退する。

 

「チィっ!!」

 

四肢を使って勢いを殺し、先ほど自分がいた場所をみる。そこには――――

 

「これがお前を倒すために編み出した、光龍覚醒を進化させた新たなる奥義...」

 

今までの光龍覚醒の様に黒髪か金髪に変わってないが、髪が雷を表す様に鋭くなり、身体を鎧を纏う様に雷電が走っている。

 

真・光龍覚醒(しん・こうりゅうかくせい)だ」

 

その姿は紛れもなく、石田三郎の魅せる覚悟と決意を体現していた。




如何でしたでしょうか?
いよいよ、次回から二度目の衝突です
熱い展開にできるように頑張ります

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