真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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昨日を持ちまして、真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「惡一文字」~が二年目に突入です
当初は此処まで長くする気もなかったのですが、何か考え深い物があります
VS百代が書きたいという目標で始まったこの小説も、ゆっくりとそこへと進んでいっています
今後も応援よろしくお願いします

今回は少し淡泊になった気がしますが、最後の過去編となっています
楽しんでもらえたら、嬉しいです!!


《過去》悠介と西方十勇士 その11

目に見えるまでの石田の変化。それが決して見てくれだけではないのを悠介自身が感じていたが、悠介には負ける気が全くなかった。

 

「さっさと来い」

 

「ふん!その下らん軽口が、どこかで持つか楽しみだ!!」

 

悠介の言葉に顔を怒りで染めた石田が一気に距離を詰める。その速度は今までの動きよりも、明らかに速い。迫る攻撃を前に悠介は動かない。それを諦めと取った石田は笑みを浮かべつつ、上段から悠介の息の根を止めんと刀を振り下ろす。

 

「なにっ!!?」

 

「動きが大雑把だ」

 

振り下ろされる一撃に合わせるよう身体を半歩ずらし、その刃を紙一重で躱した悠介は拳を握る。その動作の意味を悟り回避行動を取ろうとするが、それよりも早く悠介の拳が石田を貫く。

 

「ガハぁ――――っ!!?」

 

まともに防御態勢を取れなかった石田は、肺の空気を吐き出しながら数メートル後退する。石田は衝撃による勢いを殺し体勢を立てなおす。僅かにダメージが芯に響くが問題はない。そう判断し、先ほどの一撃のお返しをと意を決めるが――――

 

「ぐほぉ!!」

 

顔を上げた瞬間、悠介の拳が顔面に入る。続けて大きく体勢がのけぞった石田の腹に左拳を叩き込む。

 

「―――――っ!!?」

 

完璧に入った一撃に石田の呼吸が一瞬止まる。今度は勢いを殺せずにゴロゴロと地面に転がる石田。

 

「―――――バカな!!」

 

せき込みながら立ち上がった石田の表情は驚愕で染まっている。己の絶対の自信を持つはずの状態で、先ほどの優勢が嘘の様に攻め込まれているのだから無理はないのかもしれない。そんな石田の感情を読み取った悠介だが、関係ないとばかりに――――

 

「こんなもんか?」

 

「っ!?まぐれごときでいい気になるなよ!!」

 

挑発するようにクイと指を動かす。ありふれた挑発。されど石田はその動作に怒りを露わにし、猛スピードで悠介へと迫る。間合いを詰め、連続で刀を振るう。縦横に縦横無尽に振るわれる刀。だが、その攻撃は悠介には当たらない。その事実に徐々に石田の顔に焦りが生まれ笑みが消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で繰り広げられている光景に教師は、あり得ないと大声で叫び散らす。その声に鍋島はうるせぇなとつぶやきながら、小指を耳に突っ込んでいる。

 

「単純な話なんだよ」

 

理解できないと喚く教師に鍋島は今の現状が必然である理由を話し始める。

 

「石田の光龍覚醒は、大した技だ。今のあいつの力と正面から渡り合える奴は、同年代にはそうはいねぇだろうよ」

 

それなら説明がつかないと言わんばかりに教師が噛みつこうとするが、それよりも早く鍋島は言葉を重ねる。

 

「だが、それは力を完全にコントロールできたらの話だ。今の石田は、あの状態を扱いこなせてねぇ。寿命を削るっていうのがいい証拠だ。力に振り回されている面がある。だから、動きが直線的で大雑把で動きに無駄が多いんだよ」

 

そう告げながら鍋島は闘技場に視線を落とす。今も石田の攻撃を躱した悠介の拳が石田を貫いている。

 

「対する悠介は、俺との修行で極限状態での戦いになれている。ダメージを負った状態での効率的な動きをあいつは身体に染み込ませている。そんな悠介からすれば、今の石田はいい的でしかねぇのさ」

 

――――まあ、まだ完全にその状態には持っていけねぇがな

 

遥かな格上として悠介と手を合わせてきた鍋島からすれば、これは必然の状態。しかし教師は認められないのか、あり得ないと喚き散らす。

それを視界の端に収めながら鍋島は直感的に、もうすぐ終幕だと悟る。

 

 

 

 

 

 

己を沈めんと放たれる上段からの刃。しかしその動作は余りにも大きく、大雑把。それゆえに胸が大きく隙だらけになる。そしてその隙を逃さない。あえて敵の間合いの中へと大きく一歩踏み込む。連動し重心を落とし体をねじり、その拳を打ち込む。

 

「ご―――――っ!!」

 

中心軸を抉るような一撃に石田は堪えることもできずに大きく吹き飛ばされる。今までの攻撃の中で一番の手ごたえ。その感触が正しいと証明するように、今まで即座に体勢を戻して攻めてきた石田が僅かにせき込み、ふらつきながら立ち上がり、間合いを図るように刀を構える。

 

「クソっ…」

 

「こんなはずじゃなかったってか」

 

僅かなに呟かれた言葉に悠介が畳みかける様に告げる。悠介の言葉に図星を突かれた表情を見せる石田。

 

「さっき俺に言ってたな。今度は俺が言うわ。舐めてるのは、どっちだ」

 

告げると同時、悠介は地面を蹴り石田に肉薄する。一瞬虚を突かれる形となったが、石田は冷静に頭を働かせ、刀に雷を纏わせながらカウンターの構えを取る。二人の距離が縮まっていく。そして悠介の足が石田の間合いに入った瞬間――――

 

「そこだっ!!」

 

紫電一閃の速度で横薙ぎの一振りが振るわれる。絶対のタイミング。それが躱せない一撃だと石田は確信する。事実その通り、その刃は悠介に直撃する――――が

 

「なにっ!!」

 

確かな手ごたえ。紛れもなく直撃している。それなのにそれなのに――――目の前の存在は

 

 

――――止まらない(・・・・・)っ!!

 

ギチギチと悠介の肩と己の刃の接着面が鈍い音を立てている。本気で押しているにも関わらず、悠介は前へと進むことを辞めない。

その力に負けじと石田が今以上の力を込めた瞬間――――

 

「なっ?」

 

突然、張り合っていた力が消える。力を込めていたがゆえに、石田は前方に倒れ込む形となる。慌ててて踏ん張るが大きく体勢が崩れてしまう。

なぜと見て見れば、悠介が一歩分離れた場所に立っている。自分が力を籠め、押し返そうとした瞬間を狙って一歩身を引いたのだ。まんまと嵌められたことに気が付く。急いで防御を取ろうとするが――――

 

「おせぇよ」

 

振り上げ突き上げる様に蹴りだされた蹴りが腹に入り、体が僅かに浮く。そこから更に振り上げた足を即座に地につけ深く重心を落とし、拳を打ち込む。

 

「オラぁ!!」

 

再び渾身の一撃が石田に直撃する。猛スピードで吹き飛ばされる石田。対する悠介もまた拳を打ち込んだ体勢で僅かに固まる。

 

――――チィ。虚を突くためとはいえ、真正面から受けたのはでかいか。肩が…

 

先ほどの石田の一撃を受けた肩からビリビリと痺れと痛みが発せらている。

 

――――これ以上引き延ばすのはキツイか…

 

冷静に自身の状態を判断し、次で決めると悠介は内心で決意する。

 

今の己の現状を受け入れたくない。ならばどうすればいい。決まっている倒して勝てばいい。苦痛で体が思うように動かない。それでもこれ以上無様な姿をさらすのは、プライドが許さない。

力がこもる。あるのは敵を倒すという意思のみ。

 

「いいぜ、来いよ」

 

石田の思考を場の雰囲気から察し、悠介は不敵に笑みを浮かべる。瞬間、土煙が晴れ膨大な電撃を纏った刀を持った石田が姿を現す。認識した瞬間、互いに地面を蹴り肉薄する。

丁度闘技場の中央で、二人がぶつかり合う。

 

 

その日、この戦いの発端を担った少年もまた悠介と石田の戦いを見に闘技場へと足を運んでいた。自分の代わりに悪評もすべて背負ってくれた悠介に責任を感じてもいたし、何もできない自分に憤りも感じていた。せめてと思い、結末だけでも見届けようと赴いた。

そしてその決着の時が目の前で行われている。

 

「凄い」

 

零れたのは無意識。それほどまでその表情に彼は見せられた。その動きは無意識で、あとで気が付いた。

その悠介の表情を彼は写真に収め、脳内に収めた。そしてその時少年の夢が一つ増えた。

 

 

雷電の刃が迫るよりも早く、悠介の拳が石田を貫く。力に意識を向けたがゆえに、その動作は余りにも遅かった。

ゆえに石田はなすすべく、その衝撃によって地面へと倒れる。地面に倒れた石田を見ながら悠介は――――

 

「わりぃけど、得ただけの奴に負ける気はねぇよ」

 

才あるがゆえに光龍覚醒という技を身に着け満足して、その状態での修業を怠った石田へと告げる。

 

此処に悠介と十勇士たちとの戦いは悠介の勝ちで幕を下ろす。

そして―――――

 

 

 

その光景に教師は腰を抜かし地面に座り込む。

 

「ありないありないありえないありえない…」

 

うわ言のように呟く教師。そんな彼を現実に戻したのは――――

 

「さてと…」

 

「ヒィイイ!!」

 

鍋島本人。椅子から立ち上がり、教師を見下ろす鍋島の瞳は怒りが映り込んでいる。

 

「約束は忘れてねぇよな。悠介が勝った以上、お前の罰を告げる。第一にオメェはクビだ。生徒の夢を断つ教師なんじゃ俺の学園には必要ねぇ。これがお前の退職願う生徒たちの署名だ」

 

「っ」

 

鍋島は教師の前に紙の束を投げつける。

 

ある女子生徒(・・・・・・)がお前の教師ぶりを細かくまとめてくれたぜ。言い逃れは出来ねぇと思え」

 

鍋島の言葉に教師はもはや何も答えない。しかし――――

 

「そんでもって次にオメェの親からの伝言だ。『今日からお前は鍋島さんの元に入門させる』だとさ」

 

「なっ!!?」

 

その言葉に教師は驚愕を覚える。しかし鍋島は構わずに話を進める。

 

「つまりだ。今の時点でオメェは俺の弟子って事だ」

 

「ば、バカな!!?」

 

驚きで固まる教師に鍋島は瞳はそのままに笑みを浮かべつつ告げる。

 

「こういう時は、うざったるい俺の肩書が役に立つんだよな。話は淡々とついたぜ」

 

鍋島はそう言いながら拳を握ってゆく。

 

「うんでもって、門下生であるお前を俺が殴っても何ら問題ねぇよな。武術である以上、それは仕方ねぇからな」

 

「あ、あああ…」

 

最早の言葉で何が起こるかを想像し、教師の顔は青く染まる。

 

「それじゃあ、テメェに最初で最後のお仕置きだ」

 

放たれる圧は最早教師にまともな呼吸すら許さない。そして―――

 

「オラァァァアアアアアアアアアッ!!」

 

鍋島の拳が教師の顔面に突き刺さり、はるか上空へと吹き飛ばす。はるか上空へと吹き教師を見据えながら鍋島は

 

「テメェは破門だ。オメェみたいなやつを育てる暇は俺にはないんだ。心配しなくてもオメェの親の方には許可はとってある」

 

冷たく告げた。漸くすっきりしたといった表情を見せる鍋島。その背後から――――

 

「お見事」

 

「おう、松永の嬢ちゃん。そっちも苦労かけて悪かったな」

 

「いえいえ、前々から動いてましたし。全然ですよ」

 

「そいつはおっかねぇな」

 

燕が姿を現す。今回教師の退職署名を集めたのは、燕だった。悠介が闘うと知ってから、裏から助けたいと鍋島に協力を願い出ていたのだ。

 

「それじゃあ、あとの事はお任せしますね」

 

「おう、任された」

 

燕の言葉に鍋島は笑みを浮かべ答える。そして燕は悠介の元へと向かう。一人その場に残った鍋島は、これからを想い笑みを浮かべる。

石田は完ぺきに負けた。だが、負けてそこからどうするか。それこそが武人の生き方の一つ。そして自分は教え導く側なのだ。

 

「忙しくなりそうだ」

 

己の役目を胸に刻み、鍋島は楽しそうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

これが悠介と石田達西方十勇士との出会いの記憶。別段、これを機に彼らが仲良くなったわけではなく、悠介の環境が変わった訳でもない。たまたま同じ師の元に集まり、ぶつかり否定し合いそして、いつしか目指す場所が同じになった。ただそれだけの話。

 

そして時は流れ、現代へ。




~おまけ~

幾分かの時がたち、少年は大人へと成長を遂げた。そして念願であったアニメーターの仕事に就いている。生活はハッキリ言ってギリギリだが、それでも充実感をもって生活している。
そして今日も与えられた仕事をこなしつつ、作品に命を吹き込んでゆく。

「相変わらず、お前は殴る描写が上手いな」

彼の仕事をチェックしていた先輩が何気なく呟く。そう彼のキャラの殴る描写は小さいが業界の間ではちょっとした有名話となっている。その言葉に「ありがとうございます」と答えながら作業を止めない。

「そういえば天神館出身だったよな…それのせいか?」

「…そうかもしれませんね」

ふとして呟かれた言葉に手を止めて答える。その言葉に先輩は「やっぱりそうか~」とつぶやく。

「まあ、あんまり根を詰めすぎんなよ」

そう言いながらコーヒーの缶を置いて先輩はその場から去る。その後も手を止める事無く彼は作業に没頭する。

気が付けば既に昼休みになっている。そこで一度手を止め、先輩から渡されたコーヒーで一服する。
先ほど高校の話が上がったからか、昔のあの時の光景を思い出し、彼は引き出しから一枚の写真を取り出す。

「いつかきっと描いて見たいな。君みたいなキャラを」

そこに写真からでも伝わる勝つという瞳をして拳を構える悠介の姿が映っていた。これを見るたびに思い出すのは、あの時の光景。あの時から彼の目標は決まった。この迫力をアニメの世界に作る事。その為に多くの武術大会の映像を見て勉強しているが、その目標を到達するのはまだまだ先だと実感する。
それでも諦めはしない。それを彼はその写真の光景から学んだのだから。



如何でしたでしょうか?
いよいよ次回からトーナメントに戻ります。過去最長となったシリーズですが、やっぱ戦う人物が多いとそうなりますよね
今年中には百代のところまで行きたいですね

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