真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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お待たせしました!!
斬馬刀を使った悠介の戦いをうまく描けるように頑張りました

色々説明文がありますが……上手くまとめれて納得してもらえるか心配です
一応、スペルの描く世界ではそういうもんだと思ってください

楽しんでもらえたら、嬉しいです!!


《過去》悠介と西方十勇士 その5

斬馬刀(ざんばとう)斬佐(ざんさ)』。悠介がその武器を得たのは、ちょうど彼が中学に上がった頃だった。

 

「俺に武器…ですか?」

 

「そうなんだよね」

 

学校帰り、悠介は幼馴染の燕に無理やり彼女の家に連れてこられたかと思えば、いきなり久信が「君のために武器を作ろうと思うんだけど、何かリクエストある?」と聞いてきた。余りに脈絡のない話に戸惑っていると…

 

「もう、おとん!ちゃんと説明しないと、悠介君もわからないよ。そりゃあ、おかんに頼まれた依頼だから張り切るのもわかるけどさ」

 

「は?」

 

「燕ちゃんも余計な事言わなていいのよ」

 

「えへへ」

 

「ごめんね、悠介君。ちょっと混乱させたよね」

 

「ええ、まあ」

 

「実はね…」

 

燕とミサゴの二人も加わり、更に悠介は混乱する。そんな中でミサゴが、困惑している悠介にを見て笑みを浮かべながら事の詳細を語る。

 

「悠介君も知っての通り、私自身家事の事で美咲さんに大変お世話になってるんだ」

 

「そうっすね」

 

「それでその恩を返したいから、何か私に出来ることはないかと聞いたらね。美咲さんはこういったよ『それなら悠介の為になる物が欲しいです。私達はあの子の力になれないけど、きっとミサゴさんなら、あの子の欲しい物をわかると思うんです』ってね」

 

ため息を吐きながらも何処かいたずら子の様な笑みを浮かべながら悠介に告げる。その言葉を聞いた悠介は、バツが悪そうに視線を逸らす。

 

「それで私なりに考えてね。ちょうど久信君が技術屋だし、君特注の武器を作ろうって事にしたのさ」

 

「なんで武器って事になったんっすか。他の候補もあったでしょう」

 

「そうだね。でも君、たまに鍛錬してるよね?明らかに、武器を持った(・・・・・・)時の動きを」

 

ミサゴの指摘に今度こそ悠介は何も答えない。その動作が面白かったのか、ミサゴは悠介の頭をグリグリと撫でる。

 

「全く少しは親孝行しなさいよ。立派な親なんだから」

 

「ぅ…」

 

ぼそりとつぶやかれた言葉に悠介は、戸惑った様に息をこぼす。その姿を見てミサゴは笑みを浮かべる。ある意味で微笑ましい光景。そしてそんな光景が、気に入らない少女が一人。

 

「もうぉ、おかん!!早く悠介君から手を放しなよ!!」

 

「あら?ごめんね、燕ちゃん」

 

燕の言葉にミサゴは面白そうに笑みを浮かべる。その笑みの意味を理解した燕は、顔を赤くして目線を逸らす。

燕の反応にミサゴは更に笑みを深める。

 

「そういう訳だから、何かリクエストはあるかな?」

 

「勿論、お金の心配はいらないわよ」

 

未だに悩む悠介の背を押す様に、久信とミサゴが優しく告げる。

 

「……………なら」

 

伊庭氏の沈黙ののち、悠介は小さいながらも己の想いを口にする。その言葉にミサゴは面白そうな顔を、久信は驚いた顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

松永家での出来事から約一週間後、今度は相楽家にミサゴと久信そして燕が集まっている。

 

「はい、これ。君の要望通りに、久信君が作ってくれたよ」

 

「いや~大変だったよ」

 

両手で差し出された巨大なそれを悠介の目の前に置くミサゴ。差し出されたそれを悠介は無表情で見ているが、その瞳は爛々と輝いている。

その姿が微笑ましいのか、ミサゴたちは笑みを浮かべる。しかし悠介はその視線にも気が付かないほどに、目の前のそれに集中してる。

その息子の姿に、美咲と誠は本当に嬉しいそうに悠介を見ている。

 

「へへん。うちのおとんはすごいでしょ、悠介君」

 

「いや~それほどでも。やっぱり僕って天才かな」

 

「途中で私に泣きついてきた時はどうなるかと思ったけどね」

 

「えっ!?それは言わない約束だよ~」

 

「おとん…嘘ついてんだ」

 

二人からの視線から逃げる様に久信は視線を慌てて逸らし、悠介の方に向き合う。

 

「それでどうかな?要望通りに作ったつもりなんだけど、やっぱり君の体に合わせて作った方がいいと思うんだけど…」

 

「いや、これで十分です」

 

久信の心配を払うように、悠介はそれを両手で持って見せる。その光景に燕や久信そして美咲と誠は驚いた表情を見せ、ミサゴはその技術(・・)に驚嘆を浮かべる。

 

「今は持つだけ(・・)だが、絶対に…」

 

その決意の籠った言葉に、燕は悠介に視線を奪われる。そして悠介の両親は、喜びと何とも言えない表情を見せる。

 

「それで(なまえ)は決めたの?」

 

「?」

 

突如放たれたミサゴの言葉に、悠介は分からないといった表情を見せる。

 

「名前ならあるじゃないですか」

 

「それは存在の名前でしょ。君専用の武器で相棒なんだから、固有銘は必要よ」

 

ミサゴの言葉になるほどといった表情を見せた悠介は、しばし思いにふける。その中で見てきた夢に彼が、何と言われているかを思い出す。名前は未だに聞こえないが、その通り名だけは、ハッキリと聞こえた。

ならば…その名を冠してもいいだろうか。いや、背負おう。その名も背負ってみたい。

だから…その銘は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、第二ラウンドだ」

 

その大太刀を片手(・・)で持ちながら、悠介は不敵に告げる。

 

「なんだ、それは…」

 

その余りの形状に大友は驚いて次の行動に移せていない。それは宇喜多も同じ。

 

「ああ、こいつは『斬馬刀・斬佐』っていう俺の武器だよ」

 

その問いに悠介は気負うことなく告げ、構えを取る。

 

「嘘をつけッ!!斬馬刀は大太刀だ!!間違ってもそうのよな、大剣と太刀を合わせた(・・・・)様なふざけたものではない!!」

 

「まあ、そうだわな。でもな……俺にとっては、こいつが斬馬刀だ(・・・・・)。さて、疑問にも答えた。じゃあ、今度こそ始めるか」

 

悠介のその言葉に大友は身を縮まらせる。

そこへ…

 

「まあ、落ち着きや」

 

「宇喜多」

 

「あんなボロボロな身体で、あんな大物を触れるわけないやろ。こけおどしに決まっとる!!気張らずにいくで!!」

 

宇喜多の言葉がかかる。その言葉を聞いて大友は僅かながら気が楽になる。

 

「うむ!!その気骨はまさしく西の武士(モノノフ)よ!!大友は、お前を尊敬する。ゆえに大友の一撃をもって沈め!!食らえ――――」

 

大友が大筒を悠介へと構える。それに連動して、悠介は斬左を大きく後ろに下げる。

 

「国崩し!!」

 

放たれる火薬の塊。迫る脅威を前に悠介は、両手をもって後方に下げていた斬左を思いっきり、前に振り出す。つまり、斬左の剣脊(けんせき)と火薬がぶつか――――

 

「オラァッ!!」

 

「なにッ!?」

 

「嘘やろ!!??」

 

その火薬を打ち返す。その光景に二人は、驚きの声を漏らし、即座に前方へと回避するが、爆風が思った以上に二人を前へと飛ばし、そしてその爆風で二人の体勢が崩れる。

そしてその隙を悠介は、見逃さない。

 

「オラよ!!」

 

「ッ!!?」

 

声がする方を向けば、斬佐を振り下ろす悠介の姿。刹那大友は、勢いに逆らい無理やり体を後方に捌く。と同時に、斬佐が地面を砕く。

 

――――なんという威力だ

 

目の前の光景に大友は冷や汗を禁じ得ない。そんな斬佐を振り下ろした悠介の後方から、宇喜多が迫る。

 

「喰らいや!!」

 

宇喜多のハンマーががら空きの悠介の背に迫る。しかし、悠介は冷静に動く。斬佐の剣先を地面に刺しつけ、長い持ち手の先で宇喜多のハンマーを受け止めて見せる。

 

「なんやてッ!!」

 

「わりぃが、お前の攻撃はある程度受けたからな。タイミングはわかってんだよ。拍子(タイミング)を取るのは、得意なんでな。わかってたら、防げるよ」

 

一瞬の硬直の中で悠介は不敵に告げる。そして持ち手を変え、身体をひねり回転する。そしてその回転に連動するように、斬佐が持ち上がり…

 

「あかん!!」

 

「くぅ!!」

 

大きな円を描き、間合いの敵を払う。宇喜多はハンマーを盾にしてどうにか防ぎ、もとより間合いギリギリにいた大友は、後方に飛びどうにか交わす。

二人の重心が後方に下がった瞬間、悠介は一歩踏み込み、宇喜多に向けて斬佐を横凪に放つ。

 

――――切り返しがはやっ!

 

迫る異様な圧力を前に自身の武器を盾に防ぐが、その衝撃に宇佐美は更に後方へと飛ばされる。そして悠介は体を動かし(・・・・・)、斬佐を振りかぶる。

その光景に二人は驚きをあらわにする。

 

――――なんで、その武器をもってその速さやねん。詐欺ちゃうんか!!

 

――――一体何をすれば、そこまでの速さに…

 

驚愕があらわになる。そして悠介のその動きは、決して武器の性能ではない。悠介が久信に頼んだのは『形状(かたち)』と『硬さ』そして異様なまでの『丈夫さ』そして丈夫さは、そのままに重さとなる。

当然、普通に持とうとすればミサゴですら持つのに手一杯となる。だからこそ、悠介は―――

 

『いや~それにしても凄いね~。まさかあれを両手で軽々持っちゃんだから』

 

『まあ、素人目にはそう見えるかな』

 

『どういうこと、おかん?』

 

『あの子は、腕力だけで持ったわけじゃないわよ。肩の力、上半身で武器を持ち、下半身でそれを支えた。普通に腕力だけで持てば、疲れや消費は大きけど、そう持てば負担は大幅に減る。でもまさか、あの年であそこまで身体を動かせる(・・・・・・・)とはね。こりゃ燕ちゃんも頑張らないと追いつけないわよ』

 

『!!。うん、頑張るから』

 

『なら、今度からもっと厳しくいくわよ』

 

『うん!!』

 

――――両手で持とうとするな肩を使え…上半身全てで使え!!揺らぐな、下半身も強く仕え。全身をもって、こいつを手になじませろ!!

 

それが悠介が斬佐を軽々と持てる理由。そしてもう一つの謎の答えは…たった一つの技術に集約される。

それは『身体操作』。それは文字通り体を動かす能力。しかし人間の体は、思った以上に自分の体を完璧に動かない。人間の関節の数は約200。そして筋肉もそれに比例した領となっているが、大概の人間はそのほとんどを使わずに大きな筋肉や関節だけで体を動かす。ゆえにそのほとんどは眠ったままである。

例えば腕を振る動作も、一つの大きな関節だけに頼るのではなく、別にある小さな関節や筋肉を動かせば迅く鋭い動きが可能。

それを悠介は、幼き頃よりルーに教わって以来、身体操作を修業してきた。そして斬佐を手に入れてからは、その修業が飛躍的に伸びあがる。

普段通りならば、振れず振り回される、その暴れ馬を扱うため、悠介は身体操作の修行時は常に斬佐を振った。…授かってから約三年。つい最近になって漸く、悠介は斬佐を振り扱う身体操作を身に着け、徒手にも応用できるようになった。

文字通り血の滲む鍛錬の果てに得た能力。ゆえに、その威力と迅さは並のものではない。

 

「オラアッ!!」

 

「うおっ!!!??」

 

上からたたきつぶす様に放たれたその一撃を宇喜多は全筋力をもってハンマーを盾にしてさせこむ。

 

――――チィ、崩れねぇか。なら、もう一回だ

 

足を腰をその全てを動かし、悠介は再び構えを取る。

 

「ちょ、逃げるが勝ちやで、これは!!」

 

迫る一撃を横っ飛びで躱す。だが、悠介はそれを追うように体を動かす。

 

「舐めるなや!!」

 

「チィ」

 

迫る一撃にハンマーをぶつけつつ、後方に飛び距離を取る。瞬間、目的を察した悠介の俄然に…

 

「国崩し!!」

 

砲弾が迫る。宇喜多の巨躯が壁となり完全に隠れており、反応が遅れている。今からでは打ち返せない。

 

「これで終いや!!」

 

宇喜多の宣言と同時に爆炎が包み込んだ。が、爆炎の晴れた先には、斬佐が佇んでいる。つまり…

 

「なっ!?」

 

「わりぃな、打ち返せなくても防げんだよ」

 

前に盾とした斬佐を再び構える悠介。

 

「言ったろ、斬佐(こいつ)がいれば勝てるってよ」

 

二度目の宣言。それが虚構でない事を、ここにきて二人は察する。先ほどまでは、明らかに自分たちが有利なはずだった。それがたった一本の刀に覆され始めている。それが二人に恐怖を与える。

 

「つかよ、いつまで突っ立てるつもりだ!!」

 

いつまでも動かない二人に向け、悠介は思いっきり斬佐を投げつける。武器を投げるという行為に、完全に意表を突かれた二人は慌てて投擲を回避する。

そして投げると同時に悠介は地面を駆ける。斬佐が地面に突き刺さると同時、斬佐を握り、回避した宇喜多に向かい振る。

 

「またかいな!!」

 

迫る圧。何度目かわからないが、宇喜多はハンマーを盾とし受け止める。ぶつかり合い、響く鈍い金属音と、何かが砕ける音。

 

「なっ!?」

 

ぶつかったと同時、宇喜多の持つハンマーが根元から砕かれ折れる。

 

「斬佐は硬てぇ。その遠心力の乗った一撃をお前は、何度武器で受け止めてきた。限界が来たみてぇだな」

 

唖然とする宇喜多にとどめを刺さんと、悠介は斬佐を構える。

 

「まっまて!!卑怯やないか、いきなり武器持ち出して、おまけにうちの武器壊れたんやで!!」

 

負ける。そう察した宇喜多は、喚く。醜いとわかってる。それでも認めたくない。そんな言葉を前にしても悠介は――――

 

「知るか」

 

揺るがない。

 

「互角の戦い。足元の小さな石ころに躓き、勝敗が決するなんてのはざらだ。だからこそ、誰もが備える。偶然とかに勝つためにな。確かに、俺が斬佐を手にしたのは第三者のおかげで、俺の実力じゃねぇ、ただの運だ。まあ、でもお前らも裏でなにかやってるみたいだけどな…」

 

告げる言葉は武術家にとっての正論。ぐうの音も出ない。同時に伝わる思い。自分がいかに向き合っていなかったかを突きつけられる。そして自分の中に流れる武術家の血が騒めく(・・・)

 

「少なくと戦闘中のアクシデントは、対応出来ねぇ奴がわりぃに決まってんだろ。そしてお前は備えてなかったそれだけだ!!」

 

「ごふぅ!!」

 

その一撃に意識を完全に持っていかれる。

 

「宇喜多!!」

 

仲間の敗北に大友の動きが止まり、精神が揺れる。そしてその隙を悠介は見逃さない。砕け落ちた、宇喜多のハンマーの塊を手に取り、思いっきり投げる。

 

「クソ!!」

 

迫るそれを回避。そして目の前に斬佐が迫る。

 

「ッ!?」

 

慌て二度目の回避。体勢は完全に崩れ、よけた間合いも短い。そこへ、投げと同時に駆けた悠介が斬左を握り、振りかぶる。

 

――――負ける

 

その答えに達した瞬間、大友の脳裏に一つの技が過る。しかし、使っていいのか?そもそも乗る気じゃなかったじゃないか。今使ったところで、何かが変わるのか。

あらゆる想いが考えが大友の動きを止める。

そんな敵の姿に、悠介が告げる。

 

「おせぇ。ただで敵に勝利をくれてやる気はねえよって面があるくせに……迷ってんじゃねぇ!!」

 

「ッ!!?」

 

宣言と共に振り下ろされる斬左が大友の意識を沈める。

 

「わりぃが、認めねぇ奴や迷う奴に負けるほど、俺は弱かねぇよ」

 

――――西方十勇士残り、五人




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