真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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お待たせしました!!
宇喜多&大友VS悠介の戦いも佳境に入る前まで書けました
いよいよ、待ちに待ったものが登場します

楽しんでもらえてら、嬉しいです!!


《過去》悠介と西方十勇士 その4

朝、燕はいつもと変わらない足取りで自分の教室に足を踏み入れる。

 

「あっ!燕」

 

「おはよ~~」

 

燕の存在に気が付いた友人が軽く手を振る。それに燕も答えながら、自分の机に腰を下ろす。すると友人たちが、慌てながら集まってくる。どこか熱を持った顔に燕は疑問を思うが、その答えはすぐに友人たちの口から語られた。

 

「ねえねえ、聞いた?今、一年生の間で決闘が起きてるんだって」

 

「それも一対十の乱戦形式らしいよ」

 

話される会話に燕はああと思い出したような声を漏らす。昨日の決闘。それが一年のだけの波紋を大きく学園全体へと広げたのだろう。先に知っていた自分からすれば、今更であるが燕は話を合わせる様に「へえ~」と軽く相づちを打つ。

 

「しかも聞いた話だと、一人で戦ってる方って結構な不良らしいよ」

 

「マジで?確か相手って、あの石田君だよね」

 

「そうだよ。なんでも教師を殴ったそいつを石田君たちがたしなめたけど、もめ合いになって、決闘になったんだって」

 

友人の発言に僅かに燕の眉が上がるが、幸運か友人たちはその反応に気が付いていない。

 

「だとしたらさ、そいつが完全に悪いじゃん」

 

「確かにね、謝ればいい(・・・・・)のに、なんでしないかね」

 

「しかも十対一って勝ち目なんだから、諦めて(・・・)頭下げればそれで終わるのにね」

 

「ホントだよね」

 

「ねぇ燕、あんたもそう思うでしょ?」

 

確かにイケメンで教師受けのよい石田が正しいと思ってしまっても不思議じゃない。

 

――――たぶん、意図的に流されてるよね

 

それでもと燕は思う。

 

「燕?」

 

何の反応も示さない燕に友人は疑問に思う。一拍開けて燕はゆっくりと口を開く。

 

「そうだね。確かにその子はバカかもしれないね」

 

でもねと燕は続ける。

 

「やっぱり男の子なんだから、愚直な真っすぐさ(・・・・・・・・)って…そういう風の方が、カッコイイと思うな」

 

そういう燕の表情は、友人たちが見た事がないほど、同性である自分たちが見惚れるほどに可愛らしかった。

 

――――一応、持ってきている(・・・・・・・)って言ってたし…出し惜しみ無しなんだね

 

友人たちと会話をしながら燕は、昨日の悠介の姿を思い出し一度だけ瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆炎が生み出した煙がグラウンドを覆っている。その光景を見た宇喜多は、構えを解く。

 

「ふぅー、これでまあいっちょあがりやな。それにしても何時みても凄い威力やな~」

 

「当然!!この大友の砲撃をそこらのちゃちなものと一緒にされては困るぞ」

 

宇喜多の声に応える様に現れたのは、大筒を背に背負った小柄な少女。状況を見るに彼女が爆炎を生み出したのだろう。先ほどの声音には絶対の自信が感じられたが、今の表情はそれとは真逆。

その表情を見た宇喜多は苦笑をこぼす。

 

「なんや、まだあの教師の依頼が気に入らんのか」

 

「む…そう言う訳ではないぞ!この依頼が私たち十勇士にとって、重要なものだと理解しているが…大友はあの教師が好かん!!」

 

大友と名乗った少女は、プイっといった効果音が付きそうなほどに首を横に背ける。その姿に宇喜多は何とも言えないといった顔をする。

事実、宇喜多自身もあの教師にいい感情は持っていない。むしろ嫌っているといった方が正しいだろう。如何に情報操作で、悠介を悪役に仕立ててもあの教師の今までの行動をかんばみれば、悠介が不良と呼ばれていなければ意味すらなさないほどだろう。

それでもその依頼を受けるのは、先ほどから挙げられている通り十勇士(じぶんたち)に対する恩恵。そして宇喜多個人としては

 

――――この依頼を達成して、あの教師からたらふくゼニを貰ったるで~~

 

「お前は本当にブレないな」

 

彼女の性分が大きいようだ。黒い笑みを浮かべる宇喜多に呆れたようにため息をこぼす大友。緊張感のない空気だが、視界の端に映った影を見て二人は武器を構える。

 

「宇喜多よ…」

 

「わあっとるわ」

 

煙の中で僅かに映る人影。そこには息を切らしながらも悠介が立っている。

 

「どうする、宇喜多よ」

 

「作戦通りにいこか」

 

「心得た!!」

 

大友のハキハキとした声を皮切りに宇喜多が悠介へと駆けだす。

 

「眠りや!!」

 

土煙で視界が見えないであろう悠介に向かって、思いっきり横からハンマーを振り撃つ。完全に死角からの強襲。躱せないであろう攻撃が、確かな手ごたえと共に悠介に直撃する。

 

――――もろたッ!!

 

渾身の一撃。されど、その人影は倒れない。

 

「なんやてっ!?」

 

「オラァ!!」

 

僅かな硬直を逃さない様に、放たれる悠介の拳。回避できない一撃の前に宇喜多は僅かに吹き飛ばされる。

 

「逃がすかっ」

 

間合いが開く。それを悠介は素早く間合いを潰す。そこからの連撃は、ダメージを感じさせないほどに苛烈である。

 

――――強烈すぎるわ!!間合いを取られへん。つか、大砲受けてるはずやのに、なんでこんな攻撃できんねん!!

 

自分に密着された状態では、後方からの砲撃が使えない。自分を巻き込んでしまう。そして悠介もそれをわかっているからこそ、間合いを離そうとしないのだろう。

現状、ハンマーを盾とし放たれる拳を防いでいるが、その勢いに押され徐々に後退している。

 

――――まずいで。このままやと、ホムホムの場所まで下がらされてしまう

 

焦りが徐々に表れ始める。数の有利を完全に殺されている。

 

「ッ!?」

 

「チャンス到来やッ!!」

 

しかし僅かな時間、悠介の足が止まる。その隙を逃さずに、宇喜多は思いっきりハンマーを振るう。

 

「チィ」

 

反撃を前に悠介は、若干遅れてハンマーに向かって拳を放つが、体勢も悪く腰の入っていない一撃ゆえに、容易に悠介を吹き飛ばす。と同時に宇喜多が大きく後方に下がる。

そして悠介も勢いを殺した直後に、その場から回避する。

刹那

 

国崩(くにくず)しッ!!どらぁぁぁあああああああああッ!!」

 

強烈な爆発が巻き起こる。

 

「ぐぅ…」

 

爆風により、更に距離を離される悠介。しかし、休む間はない。

 

「再び喰らえ、国崩しッ!!」

 

休む間もなく再び放たれる砲撃。回避できる規模ではなく、悠介は受けるダメージを最小限にとどめる。

 

――――クソッ!!どうにかして距離を詰めねえと…

 

爆炎や煙で視界が遮られる中でも悠介は、敵がいる前を見据えるが…

 

――――おい、待て……宇喜多の姿が

 

二人いるはずの敵の姿が一人足りない。そして同時に視界に映る影。考えるよりも早く、悠介は腕を影を見た方に向けるが…

 

「遅いで!!」

 

宇喜多の攻撃の方が圧倒的に速い。加速の勢いに加え、武器本来の重さ、使い手の腕力。その全てが合わさって放たれる一撃。

苦痛の声をかみ殺す悠介だが、踏ん張りがきかずに、校舎までの吹き飛ばされる。背中にくる衝撃に肺の空気が吐き出される。

そして

 

(くに)――――」

 

「やべ…」

 

(くず)しッ!!」

 

 

追い打ちとなる砲撃が直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃れられない連撃。勝ったと宇喜多と大友の二人は確信する。放った一撃は、どれも渾身の物。それゆえの自信が二人にある。

しかし……

 

「嘘やろ…」

 

「ッ!?」

 

その光景に、宇喜多は唖然とし、大友は息をのむ。そこには…

 

「はぁ…はぁ、はぁ」

 

全身がボロボロになり、息を切らせ文字通りの虫の息。されど、その瞳に宿す闘志は消えず、その場に二本の足でしっかりと立っている。

 

「生憎だが…諦めの悪さには自信があってな」

 

宣言と共に悠介は構えを取る。全身を火傷し、風が当たるだけで辛いだけではなく、前日のダメージものしかかっているのだろう。

しかしそれでも悠介は戦うことをやめない。その瞳と静かなる言葉に、二人は言いようのない寒気を感じる。

 

「虫の息や。このまま攻め込むでッ!!」

 

「う、うむ。その気骨には恐れ入るが、それもここまでだ!!」

 

迷いを振り払うように宇喜多は、大友の背を押す。そしてその言葉に大友もまた迷いを振り払う。

 

「ほな、行で!!」

 

宇喜多は思いっきり地面を蹴る。そして大友は宇喜多が吹き飛ばすであろう位置に大砲卯を構える。

交差は、およそ一秒後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は誰よりも、少年の戦いを見てきた。だからこそ、その考えを誰よりも知っているし(・・・・・・)理解できる(・・・・・)

 

「やっぱり、此処に置いてたん(・・・・・)だ」

 

屋上の影。その場にそれ(・・)は置かれていた。少女は、当然の様にそれを手に取る。

 

「うわ、相変わらず凄い重さだね」

 

少なくとも自分が使おうと思わない、それを手に持ち少女は、下で行われている戦闘を見る。

彼はきっと手を貸すことを望まないだろう。それでもこれぐらいなら許されるだろう。ちゃんと登録しているし、偶然(・・)戦闘の場に落としてしまって(・・・・・・・・)も、全く問題ないだろう。

 

「あー手がすべちゃったな~」

 

誰に言った訳ではなく呟く。

それは重力に従い落下していく、担い手の元へと。

 

「負けるな」

 

エールを送る。きっと、届くと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇喜多のハンマーが悠介に当たる直前でそれ(・・)は落下してきた。

 

「なんだ…それは」

 

一歩離れて場を見ていた大友はいち早くその正体に気が付く。そして僅かに遅れて、悠介が落下してきた物の正体に気が付き、薄く笑みを浮かべる。

突然の事態に、宇喜多はその場を離れる。

 

そして悠介は、落下してきたそれを手に取る。

その武器は、人を斬るための兵器ではなく、文字通りに騎乗兵の乗る馬を斬る(・・・・)ための兵器。

 

その(めい)は――――

 

「お前があるなら………勝てる」

 

相棒を背にかけ、悠介は敵を見据える。

 

――――『斬馬刀(ざんばとう)斬佐(ざんさ)

 

 




如何でしたでしょうか?
遂に登場させる事が出来ました!!
斬馬刀の形は、実写版の刀に近い形をしています

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