真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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過去編二話目です
ここから、熱い展開にできるように頑張っていきたいですね
でも、敵が多いしどこか淡泊になってるかもしれない・・・・・

楽しんでもらえたら嬉しいです!!


《過去》悠介と西方十勇士 その2

悠介の拳と長曾我部のタックルがぶつかった。瞬間、悠介は己の拳が流されることに気が付く。

 

「いッ!!」

 

長曾我部の体を滑り、悠介の拳が空を切る。あまりに予想外の事態に悠介の動きが完全に止まる。ゆえに迫る長曾我部のタックルに対応できずに吹き飛ばされる。完全に意表を突かれる形での一撃に、悠介は踏ん張ることができずに吹き飛ばされる。

 

「ガハハ。確かにやるようだが、やはり俺の敵ではなかった」

 

絶対の自信を持つ己のタックル。直撃すれば、今までどんな相手でも地に伏させてきた技。それは同じ仲間である十勇士ですら例外でもない。だからこそ、勝利を確信し、その場を後にすると目に背を向けるが……

 

「まだ終わってねぇだろッ!!」

 

「なにっ!?」

 

先ほど吹き飛ばした敵の声。驚きとともに振り向いた瞬間、視界に移りこむのは油によって滑り視界を掠る拳。

 

「チィ!!」

 

己の拳が当たらない(・・・・・)ことに舌打ちをこぼしながら、悠介は一度間合いを取るよに距離を取る。

 

――――クソッ…ただの油(・・・・)ごときに滑らされるような拳は打った覚えはねぇ。意外と厄介だな

 

「まさか俺のタックルを受けて立ち上がるとは………お前が初めてだぞ、相楽よ」

 

「はっ!生憎、そんな柔な鍛え方はしてきてねぇよ」

 

称賛の言葉に悠介は当然というように答える。

 

「だが、そのダメージは決して無視できんだろう!!お前の拳は俺には届かん!!何の策もなければ、このまま俺が押し勝たせてもらう」

 

そう宣言し、長曾我部は再びタックルの構えをとる。

 

―――――実際野郎の言う通り。油も切るキレを持った拳を俺は打てない…残る手は一つ

 

「おい…」

 

「うん?」

 

「こっからは根性勝負(・・・・)になるが、根性あるほうか?お前」

 

長曾我部の宣言に対抗するように悠介は告げる。その言葉に長曾我部は呆けたような顔をした後、大声で笑い声をあげる。突然の笑い声に疑問に思う悠介。

 

「真っ向勝負とは気に入った!!おう、四国の益荒男の根性は並ではないぞ!」

 

いつだって自分に勝つ者の大半は、油に火をつける火策を弄して自分に勝ってきた。もちろんそれが卑怯とは思わない。それを含めての強さなのだから。

だからこそ、その宣言は心が躍る。

 

「行くぞ!!」

 

「来いや!!」

 

そして再び、両者はぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの校舎のグラウンド。その場所に不似合いなほどの轟音が鳴り響く。それと同時に舞う土煙。

土煙が舞う少し先に、肩で息をする長曾我部の姿。

 

「はっはっはっ…」

 

必死に息を整えようとするが、それを行うよりも早く、敵は迫る。

 

「オラァッ!!」

 

放たれるのは、何度目かもわからない拳。それが自身の体を滑るが…

 

「ッ!」

 

わずかに触れた場所が赤く染まっている。それが意味する(・・・・)ことを理解し、長曾我部は嫌な汗をこぼす。

そして長曾我部が理解できたことは、同じく悠介にも理解できていた。だからこそ、長曾我部は勝負を着けんと、身をわずかにかがめ、拳を打ち込んで状態が伸びきったままの悠介の腕の間の安全圏に体を入れ込み、体を伸ばす勢い+前へのダッシュの勢いを乗せたタックルを放つ。

 

「ぐぅ!!」

 

ほぼゼロ距離から放たれたタックルを胸で受けた悠介の体が浮き、その勢いままに吹き飛ばされる。何度目かわからない轟音と土煙がグラウンドに響き舞う。

土煙の中、確かに佇む敵の姿に、長曾我部は無意識に後退する。

 

「漸く品切れ(・・・)みたいだな」

 

口に付いた土汚れをを払いながら、悠介は不敵な笑みを浮かべる。その言葉に長曾我部は、傍にあった樽を見る。満杯近くあったオイルは既に数滴が張り付いているだけ。

無論、持ってくる量少なめにしたわけではない。むしろ、普段よりも多く持ってきた。それを通常の倍以上に近い時間で消費させられた(・・・・・・・)

 

 

「俺もタフさには自信があったが………貴様のタフさは化け物だな」

 

純粋な称賛の声。対する悠介は、気負うことなくされど真っすぐと宣言する。

 

「おう。ただ、倒れても立ち上がるだけの小さな誇りだ」

 

その声音は確かな自信に溢れたものだった。

 

「さて、こっからはさっきまでみたいにはいかねぇぞ」

 

「フン。確かにその通りだが、既にボロボロのお前に何が出来る!!」

 

それもまたまぎれもない事実。油を使い尽くさせるために無理な突撃を繰り返し、至近距離で長曾我部のタックルを食らったのだ。悠介の体は、かなりボロボロになっており、息もかなり切れている。

故に長曾我部は、まだ自分の勝利の高さを確信していた。確かに自分も疲労しているが、悠介ほどではない。だが、長曾我部はまだ知らない(・・・・)

 

「そうでもねぇさ」

 

「なに?」

 

「お前が格闘技しか知らない(・・・・・・・・・)なら……武術を知らない(・・・・・・・)なら、決闘での勝負は俺が有利だ(・・・・・)

 

断言。その言葉を長曾我部は理解できなかった。格闘技と武術。確かに名前も違うが、同じ戦う力。それが長曾我部の認識。

だから………

 

「ふん。まあ、次の一撃で終わらせるぞ。如何に貴様といえど、もう限界であろう」

 

「ああ、そうだな。次で終わらせようぜ」

 

「ガハハ。その心意気やよし!!これにて沈め、相楽よ」

 

腰を屈め、身体のバネを思いっきり使い、悠介の向かって地面を蹴る。その速度は、万全の時よりも落ちるが、その威力は未だに健在だと察しれる。

その巨躯が、悠介に迫る直前、長曾我部は確かに見た。その不敵な笑みを浮かべる悠介の姿を。

 

長曾我部は知らなかった。格闘技と武術との違い(・・・・・・・・・・)を。その意味を。

 

「オラァ!!」

 

「ッ!?」

 

気が付いたら、長曾我部は腕を取られ悠介に背負い投げの状態に持ち込まれている。

 

――――バカな、いつの間に!!

 

「お前に教えといてやるよ。武術ってのは基本少ない力で大きな力を崩すもんだよ」

 

迫る長曾我部の直進力を殺さずに、勢いを己に巻き込んだ。自身の動きを阻害された訳ではないので、長曾我部は気が付けなかった。

 

――――この勢いは不味い!!

 

そう思った瞬間、腹部に衝撃が走り、呼吸が一瞬止まる。悠介の足が長曾我部の腹部を蹴り上げ、その巨躯を更に上に上げる。

 

「シィッ!!」

 

ろくに受け身も取らさず、悠介は長曾我部を猛スピードで地面に叩きつける。

舞う土煙は、長曾我部のタックルに吹き飛ばされたときに匹敵する。

煙が晴れたのち、そこには地面に伏し立ち上がれない長曾我部と肩で息をしながらも二本足で立つ悠介の姿。

 

「…俺の負けだ」

 

しばしの沈黙の後、長曾我部は苦痛に満ちた声で自身の負けを告げる。その言葉を聞き、悠介はゆっくりと力を抜く。

あとは、放り投げたバックを拾い帰るだけだと思い、悠介はどこにあるのかと視線を巡らせる。それと同時、どこからか携帯音が鳴り響く。

 

「すまんが相楽よ、そこに落ちた携帯を拾ってくれ。腕が動かん」

 

「おう」

 

先ほどの投げの時に落ちたのだろう。ちょうど自分の足元に落ちているそれを拾い上げる直前、悠介の耳はその声を拾った。

 

「すまん」

 

一瞬、その意味が携帯を拾う事だと思い、気にするなと口にしようとした瞬間、悠介は長曾我部の謝罪の本当の意味(・・・・・)を知る。

 

「ぐぅ!!?」

 

直後、背後からの衝撃が悠介を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドで決闘を見守る生徒たちが小さく見える校舎の屋上。その場所に、敵はいた。

 

「ふむ。我ながら美しい狙撃だ。泥臭く戦う相楽(やつ)も、この美しい私の狙撃で倒されたのだ、悔いはあるまい。だが、まさか長曾我部が敗れるとはな……私が保険として待機して正解だったか…流石は十勇士(わたしたち)の知将だ」

 

そう、初めから二段構えだったのだ。悠介が勝とうが負けようが、どちらにせよ彼が積むように配置された戦略。

対象が沈んだ事を確認した彼は、ゆっくりとその場を後にする。その中で、携帯を取り出し、戦い抜いた仲間に連絡を入れる。

 

「長曾我部か?ご苦労だったな」

 

いつも通りの声が返ってくると考えていたし、それが当然だと考えていた。

だから

 

『おう、テメェが次の相手でいいんだな?』

 

「ッ!??」

 

その声を聞いた瞬間、あり得ないその思いが過ったが、本能的に彼はグラウンドを見る。そこには、確かに両足で立つ敵の姿があった。

 

 

 

 

 

 

その狙撃を受け、倒れた悠介の姿を見て長曾我部はどこか納得できない想いが湧き上がる。策を弄したわけでもない、ただ真正面からぶつかり、己を下した敵。本来ならば、心の底から称賛を上げ、勝ったという満足感とともに帰ってほしかった。それが個人の感情で、今の状況の利点もすべて理解できる。それでもやはり、個人の感情として納得できなかった。

 

――――すまぬ、相楽よ

 

ただその想いだけが彼にはあった。だからこそ、周りに意識を向けることをしなかった。

 

「おい、長曾我部。悪いが、電話代わりに出させてもらうぜ」

 

「相楽っ!お前…」

 

声に驚きそこを見れば、息を切らせながらも瞳に映る闘志の炎は全く衰えていない悠介の姿。いや、むしろその炎はより荒ぶるように燃えている。

答えを聞くよりも早く、悠介は携帯の通話ボタンを押す。

 

「おう、テメェが次の相手でいいんだな?」

 

電話越しに相手が息をのむ音が聞こえる。精神的に優位に立つため、悠介は更に畳みかける様に言葉を発する。

 

「今の狙撃で大体の位置は分かった。だから、逃がさねぇぞ」

 

『…まさかこの私の美しい狙撃を受けて立つとはな。だが、もはや虫の息の貴様に、この美しき十勇士の一人である毛利元親(もうりもとちか)が負けるはずなどない』

 

予想外の声に一瞬委縮された毛利だが、即座に自身の有利を思い出し、冷静さを保つ。

 

『今までの健闘称えよう。だが、既に結果は見えている。ここは美しく負けを認めることこそが、美しく賢い選択だと思うが』

 

「……そうか」

 

小さくつぶやかれた言葉に毛利は満足げに笑みをこぼすが…

 

「潔く負けを認めることが美しいってなら、俺は醜くて構わねぇ」

 

『なに?』

 

「だから、俺は醜く汚く足掻いて勝たせてもらうわ(・・・・・・・・)

 

『美しくないな。むしろ醜悪だ』

 

悠介の言葉に毛利は嘲笑う笑みを浮べる。

 

「ああ、そうかもな。それでも俺は足掻くぜ、一生な(・・・・・・・・)

 

『そうか。ならば、せめて美しい私の手によって、美しく敗れろ』

 

それだけ言って互いに携帯を切る。

 

「あんがとな、長曾我部」

 

「相楽…お前…」

 

礼を言って長曾我部に携帯を返した悠介は、静かに校舎の屋上をにらみつける。その動作が先ほどの言葉が真実であると長曾我部は理解しする。

 

「くる…」

 

踏み出そうとした直前、耳に着く空を裂く音。反応すると同時、悠介は加速しその場を離れる。進みだすと同時に聞こえる地面に突き刺さる音。それを耳にしながら悠介はさらに加速する。

 

――――弓の弱点は、一発()ってから、次まで少し間がいる。校舎に入れば、あいつは攻撃が来ない。そして校舎に入りさいすれば、俺はあいつを逃がさない。だから、勝負は俺が校舎にたどり着くまでのおよそ数百メートル。

 

聴覚に集中し、来る空を裂く音に最大の警戒を張りながら、悠介は校舎の入り口を見据える。

 

――――今の俺なら、大体二十秒弱。そしてさっきから飛んでくる矢の間を考えれば、大体の本数は……およそ九発

 

敵の力量を見極め、悠介はより強く地面を蹴る。

 

―――残り八

 

脳天を目掛け放たれた一撃を首を大きく逸らし回避する。一度足が止まりかけるが、無理やる前に突き動かす。

 

――――残り七

 

足を狙って放たれ一撃を、軽く跳躍することで躱す。

 

――――チィ、掠った。でも、残り六

 

肩を射突く様に放たれた一撃は、正確さより速度を優先したのか、狙いが荒く完全によけきれず、。僅かに速度が落ちるが、即座無理やりに加速する。

 

――――この威力…だが、残り五

 

眉間に向かって放たれる一撃を、今度は拳で撃ち落とす。その一撃を身体で拳で受けて悠介は、その威力を改めて痛感する。

 

――――残り四。よし、あと半分

 

脇腹を目掛けて放たれたそれを、身体を回転させ上手く軌道から逃れる。残す道のりは、わずか。今までの攻防から、大体の敵の呼吸を理解し来ている。

このまま順調にいけば、たどり着けるだろう…そう、そのまま変化がなければ(・・・・・・・)

 

 

 

悠介の猛進を毛利は、どこか見下す様に眺めている。

 

「息を切らせ、泥まみれになりながら前に進む。何とも醜いな」

 

冷静に矢をつがえる。今までの行動で確信を得たであろう敵に向かって、冷淡に告げる。

 

「せめて、散り際は美しく、沈め」

 

今、魔弾が放たれる。

 

 

意識を張り巡らせた聴覚が、空を裂く音を聞き取る。しかし、その音は今まで聞いていたものと全く違う。

 

――――なんだ…?

 

回避行動をとりながら悠介はその疑問の答えを得ようとするが、その答えを悠介は最悪の形で知る。

 

「がッ!!?」

 

脇腹目掛けて放たれたであろう一撃を先ほど同様に、身体を回転させ回避しようとしたが、右肩と左足首に同時に矢の攻撃を受ける。

 

――――あいつ、初めから三発同時に()てるのかよ

 

即座にその答えにたどり着く悠介。だが、その同時攻撃ゆえに悠介の足が完全に止まる。

 

――――まずい!!

 

考えるよりも早く、悠介は前に転がり込むように倒れこむが、放たれる三発の魔弾の内、一発が悠介に直撃する。

苦痛の声をこぼしながらも、悠介は無理やり立ち上がり前へと歩を進める。

 

――――クソッ!!あと、何発来る?

 

既に聴覚が次なる迫る脅威を拾っている。だが、受けたダメージのためか上手く動かない。迫る脅威に対して、悠介は即座に決断する。

 

「オラァ!!」

 

球体の様に体を転がし、その勢いと速度をもって脅威から遠ざかり、受け身のやり方を使い、勢いを殺さないままに立ち上がり走り出す。

 

――――あと、五メートル

 

聴覚が捉える音。しかし、自分ではすべて躱し切るのは不可能。ならば、自分に取れる手段は一つしかないだろう。

決断すれば、あとは実行するのみ。

 

「うっ!?」

 

迫った三発の魔弾。その全てが急所に迫っている。躱すことが出来るのは一発のみ。ゆえに残す二発は、急所にあたることを避ける。それだけ為だけに集中することによって、ダメージを減らす。

そしてそのまま校舎に転がり込む。

 

 

 

敵が校舎に転がりこんだのを確認したのち、驚愕した表情と共に毛利は弓を下す。

 

「バカな…………いや、あそこまで泥まみれになるなど、全く持って美しくない!!」

 

迷いを振るうように頭を振った毛利は、再び携帯に連絡を入れる。

 

「私だ。相楽(てき)が学校に侵入した。」

 

『おいおいマジか!?手を抜いたわけじゃないだろうな、毛利』

 

「いや、あまりに泥臭く足掻くのでな……だが、もはや虫の息だ」

 

『了解した。あとは、俺に任せろ』

 

その言葉を聞き、毛利は通話を切る、あとは、敵を倒したという報告が来るまで待てばいい。

しかし、毛利の脳裏には悠介の獰猛な瞳が張り付いていた。

 

 

毛利が次の手を打っている最中、悠介は屋上に続く階段を駆け上がっている。四階建ての校舎のうち、既に二階と三階の間に差し差かかっていた。

三階へ続く階段に踏み込もうとした刹那…

 

「ッ!!」

 

足元にバラが突き刺さる。

 

「新手か…」

 

「ご名答。ここから先は、十勇士が一人にしてアイドルの龍造寺隆正(りゅうぞうじたかまさ)が相手だ」

 

上を見上げれば、バラを片手に持った龍造寺が不敵な笑みと共に立ちはだかっている。

 

「さて、毛利も言っただろうが、ここいらで諦めても誰も責めないと思うが?」

 

どうするという問いに悠介は手のひらに拳を打ち付け獰猛に告げる。

 

「上等ッ!!」

 

諦めるではなく、挑戦を悠介は行動で示した。

 




如何でしたでしょうか?
二転三転する敵とのバトルを考えたのですが、難しい
いい感じになっていたら、いいなと思います

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