真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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悠介と武術

悠介が川神院に入門した日から約一週間後。

 

「おらぁ。そんな防御じゃ意味ねえって、言ってんだろ!!」

 

川神師範代の一人釈迦堂刑部の怒声が、釈迦堂の拳により、地に伏した悠介に投げかけられる。

その言葉を聞いて、悠介は必死に立ち上がろうとするが、受けたダメージが大きすぎて立ち上がれない。

 

「ぐう...」

 

結局立ち上がる事が出来ず、うめき声を上げながら悠介は、気を失った。

 

「たっく簡単に、気を失いやがって」

 

頭をゴシゴシと掻きながら、悠介を見下ろす釈迦堂。しかし、その言葉と裏腹に釈迦堂の表情は、子を見守る父親の様な物だ。

初め、鉄心から悠介の修行の相手をしてくれと、頼まれた時は、珍しくルーと意見が一致し止めさせようと躍起になった。それでも、鉄心の意思は変わらず、結局請け負う事になった。

始めは、何でこんな事を俺がと思いながらも、修行をさぼれるとポジティブに考えていた。

しかし、何度か修行をやっている内にその感情が大きく変化する。

ハッキリ言って悠介に才能はない。その事を釈迦堂は、初日に悠介に告げてやった。これで、ガキの子守は終わると、釈迦堂は考えていた。しかし、悠介はそれでも釈迦堂に挑んで来る。それには、流石の釈迦堂も驚いた。そして同時に何処か懐かしい気持ちになった。

その懐かしさに気が付いたのは、三日目だった。まだ自分が川神院に来て間もない頃と似ている。

勝てないとわかっていながらも、鉄心に挑み続けた自分に何処か似ていた。だからだろうか、自分が悠介に気を掛けるのは...

 

「はっ。俺もよ、随分と甘くなったもんだぜ」

 

そう言いながら釈迦堂は、悠介を背負い木陰に歩き出す。

 

◆◇◆◇

 

「いいかイ、悠介。こう言った状況では、こういう風に構えるンダ」

 

釈迦堂と同じ川神師範代であるルー・イーは、悠介に武の構えを指導している。

 

「そうだヨ。もう少し、腰を落としてネ」

 

釈迦堂に殴られたダメージに、顔をしかめながら悠介は、言われた通りの構えを取っていく。

その姿を見ながらルーは、表面には出さないが、自分の力の無力さを感じている。

始め悠介を、釈迦堂と共に面倒を見ろと言われた時、ルーは猛反対した。釈迦堂の厳しさは、大の大人でも根を、上げるレベルである。

そんな釈迦堂に、まだ未来のある子供を任せる事にルーは、珍しく鉄心の考えを否定した。

しかし、結局釈迦堂が、力加減を覚えるためと、言う理由に渋々納得した。

それが間違いだと直ぐに感じたのは、初日の修行で釈迦堂の修行を終えた悠介を見た時だ。ボロボロで、顔も大きく腫れている。その姿を見た瞬間ルーは、釈迦堂に掴みかかったが、それを止めたのは、意外にも悠介だった。

悠介は、ルーに向かって、修行を願い出る。その言葉にルーは驚く。同時に、なぜそこまでするのかを、悠介に聞いた。悠介はただ一言「強くなりたい」と、まっすぐにルーを見据えて答えた。

その答えを聞いたルーは、若き頃川神院の門を叩いた自分に、そっくりだと感じた。

だからこそ、何を言っても、無駄だと悟った。自分がそうであったのだ。同じ瞳をしている目の前の少年が、折れるとは思えない。

故にルーは、悠介にひたすら基礎を丁寧に教える事にする。それが、彼の助けになる事を願って...

 

「難しいものダ。何かを伝えるというのワ」

 

ルーは、悠介を強くしてやれない自分の無力さと教える事の難しさを実感しながら、悠介に修行をつける。

 

◆◇◆◇

 

そうやって悠介が、川神院で修行していくなか...

 

「良いか悠介よ。武と言うモノは」

 

その日は、鉄心から武についての話を聞かされていた。

悠介は、眠たくなることを抑えて鉄心の言葉に耳を傾けていく.

そんな時、襖がドンと音を立て開けられた。襖を開けたのは一人の少女の姿。

 

「おいジジイ。私は戦いたいぞ」

 

「これモモ!!今は、話の最中だぞ」

 

「そんな事よりも、私は戦いたいぞ」

 

「いい加減にせんか!!」

 

そう言って、鉄心とモモと呼ばれた少女は、口喧嘩から喧嘩をし始める。

正直に言って今の鉄心の行為は、さっきまで悠介に話していた武の話を、真っ向から否定している行為だ。

しかし、悠介は鉄心と戦う少女に、全てを奪われた。

武を知ってる自分だから分かる。彼女は強いと。

気が付けば悠介は、鉄心に向かって叫んでいた。

 

「爺さん。俺この子と戦ってみたい」

 

その言葉を聞いた瞬間、二人の動きが止まる。

一人は驚愕ゆえに止まり、もう一人は面白い者を見つけた喜びから止まる。

瞬間、釈迦堂によって鍛えられた本能が、警告を鳴らす。その警告に、従い畳に転がる悠介。

さっきまで自分がいた所に、少女の正拳突きが放たれていた。

 

「へえ」

 

それを見た少女川神百代は、面白いと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「これモモ!」

 

それを見た鉄心が当身を食らわし、百代を気絶させる。

 

「やれやれ」

 

ため息を吐きながら百代を背負った鉄心は、悠介に視線を向ける。

 

「モモの強さは感じたはずじゃ。それなのになぜ挑む?」

 

鉄心は、悠介の言った言葉の真意を確かめたかった。もしそれが、思い上がりから来るならば危険だ。

そんな危うさをどうにかしなければならないと鉄心は考えていた。

しかし鉄心の考えは、いい意味で裏切られる。

 

「試してみたい。この拳がどこまで通ずるのかを。憧れるだけなら永遠に超える事なんて出来ない。だから、確かめてみたい。今の自分の力を」

 

自分の右拳を見つめながら悠介は、ハッキリと口にしる。その言葉を聞いた鉄心は、一瞬呆けそして笑い出す。それは今自分が、気絶させた少女と似て非なるモノだったからだ。

百代の戦い理由はあくまで、自分を満たす為。

しかし、悠介が戦いたいと言った理由は、自分を試す為。

慢心と貪欲、180度全く異なる武の性質が同じ場所に揃った事が、鉄心を笑わせる。

そして思う。悠介を見てからと言うもの釈迦堂は、まるで巣立ちを見守る親鳥の様な表情をし始めた。

一度失態を犯し、その罰として悠介の修行から外そうとした時、らしくもなく釈迦堂は誠意を見せて謝罪をしてみせた。その理由を聞いた鉄心に、釈迦堂は「あいつを育ててみたい」と言った。

あの飽き性な釈迦堂の言った言葉と認識するのに鉄心はしばし時間を要した。

さらにルーもまた、悠介と関わる事で変化した。

今まで以上に武を知ろうとしたりするなど、武に対する成長が見て取れた。

ならば、この危うさを持つ孫娘を、変える事が出来るかもしれない。

それに、鉄心は見てみたくなった。

この二人が、出会う事で起こりうる武の未来を

だからこそ、鉄心は...

 

「モモと戦ってみるか」

 

悠介に問う。その問いに悠介は...

 

「うん!!」

 

力強く頷いた。

 

後に武神とうたわれる少女川神百代との出会い。それは、相楽悠介の武を形作る運命の出会い。


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