真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
たぶん、誰も予想してなかった展開に映ります
今年中にあと一回は更新したいな・・・・・・
楽しんでくれたら、嬉しいです
薄暗い道を歩きながら、悠介は胸の内から湧き上がる感情を必死に抑え込み、冷静さを保つ。高揚だけではなく、緊張、歓喜、不安など、昨日蓋をしていた感情が抑えきれずに、湧き上がり始める。
―――――ハハ、やっぱ抑えきれねえか。
無理もないかもしれない。だって、本当に初めての
彼には人望があり、多くの友人がいた。だが、自分にはそれがいない。ただひたすらにその背を追いかけ歩んできた。
ひたすら打ち込み、その中でそれ以外にかまける時間など欠片もなかった。他人が友人たちと遊ぶ時間すら、ひたすら追いつける様にと修行に打つこんだ。
気がつけば、自分に友人といえる存在はいなかった。燕はいたが、それは違うような気がした。
それを後悔したことはない。ある意味仕方ない事だと、割り切ってきた。自分には、
それは、ある種の諦めだったのだが‥‥‥
「…‥‥‥でも、気がつけば、お前らが俺の道にいた」
その時の彼らの言葉を聞き、その言葉を一生忘れないと思った。
『だから貴様もおれたちに敗けるまで誰にも敗けるな!!たとえそれが、武神であってもだ!!』
嬉しかった。その言葉は、自分達もその道を進んでいる。だから、直ぐに追いつてい見せる。そんな想いの籠った言葉。
ずっと一人でその道を進んでいるとばかり思っていた。でも違った。一人だと思っていた道には、確かに同じ志を持った奴らがいた。
そしてそれは、自分が羨望した
「はっ。ホント、俺は恵まれてるよな」
目指すべき存在を知れ、師に恵まれ、超えるべき目標を得れ、そして自信と同じ道を歩む
それがどれだけ幸運な事か、理解できるからこそ、笑みが自然とこぼれる。
「そういやぁ、お前と会ったのも、この時期だっけか?」
石田達の思い出を思い出す中で、ふと悠介は、もう一つの出会いを思い出す。
いきなり話を振られた天衣は、悠介の言葉に、何かを宝石箱の記憶を開くように優しい表情で同意の言葉を告げる。
「ああ、そうだよ」
それを聞いた悠介は、何も答えない。しかし、天衣は言葉を続ける。
「だからかな…‥‥私は、この対戦カードを
―――――そして本戦出場を賭けて、悠介と彼が戦うのも…‥きっと
そこまで考えて、天衣は一度悠介の背を見る。静かに闘気を満たしている様に見えるが、実は全く違うだろう。
思い出している。彼らとの出会いを、その闘いを。
だから、天衣は黙った。今から話そうとした言葉を胸の内にそっと蓋をして。
今思い出しても、あの出会いはお互いに最悪といっていいだろう。あの時は、まだこんな関係になるとは夢にお思っていなかった。
天衣の考えている通り、悠介は石田達西方十勇士との出会いを、戦いを思い出していた。
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天神館。かつて武神四天王に数えられ、『仁王』の名で畏れられた鍋島正が学園長を務める、西の武士学校。
強くなることを目的とする悠介が、その学校に入学したのもある意味で、彼が目的だからという面が大きい。また、それを見越して燕もそこへ入学している。
七月。梅雨も明け、眩しい太陽が照らす中悠介は、自身の与えられた教室の窓側の一番端の席で、窓の外を眺めている。入学して僅か数日目に暴力事件を起こした悠介は、既に学校一の不良というレッテルを張られており、クラスメイトは悠介を腫れもののように扱っている。
実際、その事に不満があるわけでは無い。誰だって
そんないつもと変わらない昼休み。誰もが友人たちとご飯を食べている中、突然クラスの扉が開かれる。その音に誰もが扉の方を見る。
そこにいたのは、圧倒的な自信を秘めた瞳をした石田が、右腕の島を連れて立っている。一年でも高いカリスマを持ち、学年のリーダーとも言える存在の登場にクラスがざわめく。しかし、肝心の悠介はわれ関せずで、弁当を持って屋上に向かおうとする。
「この俺を前にしても崩さぬ、その態度。館長から言われた人相と思一致する。お前が、相楽か」
石田達が来た逆から教室を出ようとした悠介の姿を見た、石田は不敵に笑みを浮かべながらその名を呼ぶ。名前を呼ばれ、漸く悠介は自分に用があるのだと察する。
「何の用だ?」
石田を見据えながら、悠介は要件を問う。
「ふん。館長から聞いた。貴様は腕が立つようだな。喜べ、貴様を西方十勇士の一員に向かえてやろう。俺の下で、共に出世街道を進もうではないか!!」
告げられた言葉に、クラスメイトが息を呑む。石田が入学して早々にクラスをまとめ上げ、その後もいくつのクラスを己の下に付け、勢力を伸ばしていた事は既に周知の事実だ。その中で石田は自分が認めた者を幹部として向かい入れたり、一部の教員と手を結び自分の戦力を強化し、上の学年をも手中に収めようとしているという噂は、今一年の中では有名な話だ。
だからこそ、その誘いは一種の栄光に近い。断るバカなどいるはずの無い。
そう、
「断る。他当たれ、誰かの下に付くつもりはねえよ」
「なにっ!?」
間髪入れずに悠介は、その申し出を断る。その返答を予想していなかった石田は、純粋に驚いた表情を見せる。それをしり目に、悠介はさっさとその場から去る。
慌て怒気を籠った石田の声が聞こえるが、悠介は自分には関係ないと無視した。
屋上に来た悠介は、適当な場所で飯を食べようとするが、ふと耳に気に入らない声が届く。位置は、扉の裏の屋上唯一の死角の場所。
「くだらねえ」
軽く拳を握りしめた悠介は、声のする方に走り出す。その場所に辿り着いた悠介の視界に映りこんだのは、一人の男子生徒を囲みカツアゲしている二人の男子生徒。服装から見て、上級生だろうか。
気に入らない奴らを認識した悠介は、駆ける勢いを殺すことなく一人の顔面を打ち抜き、そのまま身体を回転させ、もう一人を打ち抜く。拳を放たれた二人の男子生徒は、声を上げる事無く地面に倒れる。
「おい、大丈夫か」
倒れた二人から視線を切り、悠介は座り込んでいる男子生徒に視線を向け、手を差し伸べる。手を差し伸べられた生徒は、未だに震えた目で悠介を見る。
「別に獲って食おうって訳じゃねえよ。とりあえず、立ちな」
自分の噂を知っているからだろうと察した悠介は、男子生徒に出来るだけ優しく告げると、自分は散乱した男子生徒の荷物を集め始める。
自分に何もせず、倒れた男子生徒から自分の財布を見つけ、投げ渡し、散乱した自分の荷物を集めている悠介の姿に、しばし唖然になるが、彼の言うとりゆっくりと立ちあがる。
それを確認した悠介は、集めた荷物を男子生徒に手渡す。
「あ!わりぃ、まだ取り損ねがあったわ」
ふと全体を見渡し、物陰に一冊のノートを見つけそれを拾おうとする‥‥が、男子生徒が慌てて悠介を止めようとするが、それよりも早く悠介がノートを拾う。拾い上げた瞬間、数枚の紙が落ちる。
「あっやっべ」
落下を見た悠介は、慌てて拾い上げる。その中でその紙に書きこまれたモノを見る。それ自体悠介は知らないが、たぶんアニメのキャラだろう。
それを見られた男子生徒は、震える身体を押さえつける様にしている。まるでバカにされるのを堪える様だ。
「へぇ、うめぇな。アニメクリエイターでも目指してんのか?」
しかし悠介の口から発せられたのは、賞賛の声だった。問われた生徒は、一瞬唖然としたが、しり込みしながらも合意の言葉を発する。
「そっか。うんじゃ、頑張れよ」
淡白にそれだけ告げると、悠介はその場から去ろうとする。それを止めたのは、男子生徒の声。
「何だよ?」
「えっと‥‥‥笑わないの?」
「は?何でだよ」
「え…‥皆、笑うから」
辛い過去を思い出してるのか、男子生徒の声は震えている。だからこそ、悠介は発する。
「
だから挫けても敗けんなよ。それだけ告げて悠介は、今度こそ悠介はその場から去る。
別段、その件以来二人が友達になった訳でもない。同じクラスだったが、今までと何も変わらない。
事態が動いたのは、悠介が己の居場所を支配する存在と自分と似た様に夢を目指す少年の事を知った、一週間後のことだった。
その日は、その時までは何時もと変わらない日常だった。変化が起きたのは、五限目の授業。それも悠介たちのクラス。
その授業は、余り生徒達から人気がない。理由は、教師自身が上級社会のエリート様であり、何処か生徒を見下したように授業するからである。
本来ならば、鍋島が首を切るのだが、生憎と学園のスポンサーでもある為下手な事が出来ない。
授業自体は簡単な社会の授業。悠介も普段から燕の影響と親との約束もあり、授業を受けている。偶に嫌味を教師が飛ばしてくるが、悠介は軽く受け流している。
今も悠介に嫌味を言ってくるが、全く気にしない。
「そんな事より、早く授業進めて貰っていいっすか?」
「チィ」
全く動じない悠介の反応が面白くない教師は、堂々と舌打ちをかます。そして新たな生贄を探すように授業を続ける。
そこまでは普段と変わらない光景。しかし、今回に限り違いが二つ。
一つ目は、教師が前日に鍋島より釘を刺されたこと。
二つ目は、アニメーターを目指す少年が、昼休みギリギリまで練習をしたために、そのノートを隠すことが出来なかった事。
そしてそれを教師が見つけてしまった事が発端。
教師がその男子生徒のそれを見つけてしまう。男子生徒は慌てて止めようとするが、教師はそれを払う。そしてその中に書かれた物を見て下種な笑みを浮かべる。
「これは驚いた。正に君にピッタリじゃないか」
見下したような言葉に、男子生徒は拳を握り堪える。その反応が面白いのか、教師はさらに言う。
「いいかね、皆もよく聞くと良い。世の中には、勝者と敗者がいる。敗者とはその日を暮らすだけで、何もなしえない者達の事だ。そして勝者とは、世に価値あると認められた者‥‥‥この私の様にね」
一度言葉を切る教師。彼の悪評は聞いていたがここまでか、と悠介はイラつきながらも傍観に徹する。
――――――クソッ…‥さっさと首にすべきだろ、おっさん。
入学と同時に弟子入りした存在で在り、この学園の長である存在に悪態をつく。曰くもう暫らくだそうだが、それ以前に自分がヤバイ気がする。
「そもそも君の様な下手な絵で夢を叶えれると思っているのかね?」
ピクッ。その言葉に悠介が僅かに反応する。
「ハッキリ言って、
徐々に悠介の身体が震える。だが、それに教師は気がつかない。
「いい加減、無駄な夢を
臨界点。ギリギリだった。だが、男子生徒の方はそれを超えた。拳を握りしめ殴りかかろうとするが、それよりも早く教師は告げる。
「言っておくが、私のバックには十勇士がいる。私を殴れば、どうなるかは君にでもさっせるだろう」
その言葉に男子生徒は拳を解き、涙を流す。その反応を待ちわびた様に教師は歪んだ笑みを浮かべる。
そして止めを刺す言葉を発する。
「君は
限界だった。優越感に浸かる教師と涙を流す男子生徒の姿。その二つを見た瞬間、悠介の脳裏にある光景が浮かび、考える間もなく拳を握った。
「へぇ…?」
優越感に浸かっていた教師が間抜けな声と共に、吹き飛ぶ。背中から黒板に激突し、意識しだした瞬間に襲いくる顔面からの激痛と生暖かい液体。
「ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁあああああああああああッ!!」
不自然に曲がった自分の鼻。視界には打ち抜いた状態で止まっている悠介の姿。
「き貴様ッ!この私に手を出してどうなるか、わかって…‥」
「うるせぇ」
泣きわめくように告げる教師の言葉を悠介の言葉が黙らせる。
「さっきから、うるせぇんだよ。
深くは告げない。それでもその言葉は場を支配するには十分。自分が今まで見下してきた存在に畏縮されたその事実が赦せない教師は、吠える。
自分に手を出せば、一体どうなるかを。
しかし、その程度で悠介は揺るがない。
「さっきからギャアギャア他力本願…‥
「ヒィッ!!」
鋭く細められた悠介の瞳に怯えた教師は、這うようにして教室から逃げ出す。
これが火種。悠介と石田達西方十勇士の戦争の火種。
さあ、賽は投げられた。
いかがでしたでしょうか?
察していると思いますが、次回から過去編で悠介と十勇士達との戦いとなります
理由としましては、このタイミングで書かないと書くタイミングなくなるんですよね
だから、暫くおつきあいください
最後に、あの教師あんな感じで良かったかな?
川神学園にも一人いるし・・・・・大丈夫だよね?
良かったら、感想をお願いします