真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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お持たせしました!!リアルが忙しくて、なかなか更新できないのが、凄く口惜しいです
最後の閑話の為に、そこそこ長いです
そしていよいよ、次回から始まります。全体の流れ自体は決まっているので、残すは文にしていくだけ!!・・・・・時間が欲しい

違和感とかあったら教えて下さい



悠介と前日

昼間の川神山。温かな日差しが木々の葉を照らす中、二つの影がぶつかっている。片方は、『惡』の一文字を刻んだ羽織を身に纏う、強面な悠介。対するは、動きやすいジャージを身に纏う、灰色の髪の美女天衣。

 

「オラッ!!」

 

「ハアッ!!」

 

互いに気迫を込めた声と共に、拳が放たれる。天衣は、拳の圧を感じ攻撃をキャンセルし回避する。よって、悠介の拳は空を切る。

 

「チィ」

 

舌打ち。自身が不利で、明らかに誘われたことを察する。と同時に、視界の端に鞭のようにしなり、迫る脚を写す。瞬間、防御が頭をのぎる中で、悠介は…

 

「てぇ」

 

「ッ!?」

 

あえて頭で受け止める。たしかな手ごたえを感じた天衣。されど、その一撃が悠介にダメージになるとは思っていない。天衣が何に驚いたかといえば…

 

「捕まえた」

 

自信の蹴りが悠介の頭に直撃したと同時、その脚を掴んだのだ。如何にダメージを耐えれるとはいえ攻撃の衝撃までは防げない。自惚れるつもりはないがましてや、自分の蹴りなのだ。身体が衝撃で大きくぶれても不思議ではない。

 

――――その中で、接触時間がコンマの世界を的確に掴むとは…

 

感嘆の感情が湧き上がる中、天衣はその中で追撃を仕掛ける様に、残った脚を悠介に振りかざすが、今度は悠介の方が速い。

 

「オラよッ!!」

 

掴んだ足を引き寄せ、自身の拳の間合いに入れ込む。引っ張られた事で天衣の体勢が大きくグラつく。その隙を悠介は見逃さずに、鋭く拳を打ち込む。

回避は不可の一撃を前に、天衣は防御姿勢を取りながら、躱そうと行動する。

 

「ぐぅ‥」

 

「!!。流石…」

 

無理やり、上半身をねじり悠介の拳の軌道から躱して見せる。しかし無理やり体を捻りこんだため、身体に痛みが襲う。

 

―――だが、悠介の拳ほどの痛みじゃない。

 

即座に自分の身体の状態を確認した天衣は、悠介の拘束から脱して間合いを取る。

 

「やるねぇ、流石だな」

 

「いや、それはこっちのセリフだよ」

 

笑みを互いに交わしながら、二人は同時に地面蹴る。二人の距離がぶつかる直前、天衣は小さく鋭く跳躍し、悠介はその体勢のまま一歩後退する。間合いに変化をうまない中、二人の動きが一瞬空で止まる。最初に動きたのは天衣。重心を腰に固定した状態から、鋭く蹴りを打ち込む。対する悠介は、一歩下がった刹那に、その場で上へと跳び上がる。

 

「それは悪手だよ!!悠介」

 

空中戦に自信の在る天衣だからこそ、上へと逃げる悠介の行動を悪手だと断言する。確かに、高さでは負けているが、即座に跳べば全く問題がない。が‥‥

 

「そうかい」

 

悠介は不敵に笑う。その笑みの意味は分からない。それでもここまで悠介の想定内だとは、理解した天衣は、考えるまでもなく回避しようとする。が、未だに空中では取れる手段は少ない。僅かな時間の中での選択肢の選択。その時間を悠介は動いた。空中で自身の足の裏をつま先で蹴り、空中で加速する。高さの差はさほどない。

故に

 

「捕まえたぜ!!」

 

「くッ!!」

 

悠介の手が天衣の肩をしっかりと掴む。そのまま悠介は、天衣の背後に着地する。そして肩を掴まれている天衣は、一本背負いの様に頭から地面に落下する直前んで、悠介が掴んでいた手を離す。直後、映りこんだ風景を見て、天衣はマズイとこぼす。既に悠介は構えている。空中で逆から落ちている今では、回避行動は出来ない。完全にツミに近い。出来るのは、防御のみ。

 

「オラアッ!」

 

「ぐぅうッ!!」

 

放たれた一撃をどうにか防御するが、鈍い音と共に内部に伝わる衝撃。苦悶の声と共に天衣は、堪える事も出来ずに吹き飛ばされる。と、同時にタイマーの電子音が鳴り響く。それを聞いた悠介は、闘志をしまい吹き飛ばした天衣の方に近づく。

 

「おい、大丈夫か天衣?結構強めに打っちまったが…」

 

「ああ、問題ない。受け身もちゃんと取った。ダメージも今から休めば、明日には回復するだろう」

 

差し出された手を掴みながら、天衣は心配するなと告げる。祭りの前日となった本日、悠介と天衣は最終調整を兼ねて組み手をしていた。午前の内に最後の挑戦をしていた悠介。結果はよくなかったが、既に迷いはない。

 

「成程。なら、出来るだけ休んでもらわねえとな」

 

「??。まあ、確かにそうだが少し休めば、問題ないぞ」

 

「そうなんだが、家の方が何かといいだろうし…‥おぶって帰るか?それだと、俺の修行にもなるし」

 

「へ?」

 

突然の提案に天衣の思考が止まる。しかし即座に復活し、色々と考える。年下に背負われる恥ずかしさ等々。しかしあらゆる社会的な考えは、一つの欲望に容易く敗北する。

 

「でも、確かにしっかり休んでからの方がいいか‥‥」

 

「…‥‥頼む」

 

「うん?」

 

「その‥‥おぶって‥‥‥帰ってくれ」

 

頬を朱色に染めながら小さく蚊の泣く様な声で呟く。懇願を聞いた悠介は腰を下ろし、背を向ける。向けられた背に、天衣はゆっくりともたれかかる。

 

――――温かいな。それに安心する。

 

不安定な場所の筈なのに、この世のどんな場所よりも安息を感じているあたり、自分も染まっているなと考えるが、そんな考えもすぐに破棄し、その温かさに身をゆだねる。

悠介の背から寝息が聞こえ出したのは、山を下り出してそこまで時間がかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

松永家の玄関を開けた悠介は、覚えのない靴が玄関に置かれている事に気がつく。

 

「客?九鬼が来るとは聞いてねえし‥‥誰だ?」

 

そんな事を考えながら、器用に手を使い天衣の靴を脱がし、自信も靴を脱ぐ悠介。そこへ見知った声が届く。

 

「あれ?悠介君かえって来たん…‥だ」

 

「おう、燕。ただいま」

 

燕は、帰宅した悠介の姿を見て僅かに硬直する。しかしそんな燕の変化に気がつかない悠介は、そのまま自身の疑問を問う。

 

「なあ、おい。今、誰か来てんのか?」

 

悠介の問い。しかし燕は答えずに、ただ一点を見つめている。

 

「ねえ、悠介君?」

 

「うん?なんだ」

 

「どうして悠介君が天衣さんをおんぶしてるのかな?」

 

「は?」

 

悠介にとって余りに突拍子の無い言葉に、意味が分かんねえという表情を見せる。しかし燕は、悠介の戸惑いなど関係なしに「どうしてかな?」と問う。気まずい沈黙。と言っても、悠介はめんどくせえと呟き、天衣は心地よさそうに寝ている。ほぼ燕のせいといえる。

そんな中で、その空気をぶち壊したのは、第三者の存在。しかし、それは更なる厄介事の発端でもある。

 

「燕――。どうしたんだ~~」

 

「うん?この声は…」

 

えらく聞き覚えのある声に悠介は、この声のする方に視線を向ける。向けた先から現れたのは…‥

 

「燕~~って、なんだ悠介も帰って来たの‥‥か」

 

「どうしたの姉さん」

 

「やっぱ、モモかよ。と、直江も来てたのか」

 

自身のクラスメイトと悪友の姿。当初は同妻という誤った勘違いをしていたが、燕の説得もあり、納得をしてくれた。その後、何時か家に招待すると言っていたから、今日がその日になったのだろうと納得を付ける。そして大和がいる事については、恐らく明日へ向けての作戦会議を午前中にしていたのだろう。その中で百代と出会い、燕が約束を果たすついでに大和も招待したと言ったところと悠介は推測する。そしてその考えは、ほぼ正解だ。

しかし、そんな事よりも悠介が気になったのは、百代の目線が天衣に向けられている所。天衣の存在は、百代にも鉄心を通じて伝えており、驚く事はないと思うのだがと疑問に感じていると…

 

「悠介!!どうして橘さんがおんぶされてるんだ!!」

 

「ってお前もかよ!!」

 

「そうだよ、悠介君!!」

 

「直江、助けろ!!」

 

「ごめん無理」

 

「マジか!!」

 

「「悠介(君)!!」」

 

その後悠介は、一時間以上かけて二人をどうにか説得した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の説得を終え、面々は居間に揃っていた。天衣も悠介の説得中に起き、今は居間に居る。最初はギスギスしていたが、頭を切り替えた燕と場を持とうとした天衣のお蔭で、今は和気あいあいとしている。

 

「そう言えば、お前ら今日はウチで飯食うのか?」

 

会話が進む中で、ふと悠介が問う。問われた二人は、迷惑になるのではと思い断りを入れようとしたが

 

「そうだね。折角だから、食べて帰りなよ。用事があるんなら、仕方ないけど」

 

燕が気にしないでと口にする。その言葉は、本心だろうと悠介は感じる。だからこそ、悠介も助け船を出す。

 

「まあ、ここで料理を作るのはお前だからな。そのお前が良いなら、俺は何も言わねえよ。と言う訳で、変な遠慮はいらねえぞ。普段腹黒な燕が、珍しく純粋に善意で言ってんだ。のるが吉だぞ」

 

「ちょっと!!それはどう意味かな、悠介君?」

 

「そのまんまの意味だっってよ…‥まさかお前、自分が純粋ですよとか言うつもりかよ」

 

「悠介君…‥やっぱり、女心を知るべきだと思うよ」

 

「否定しないで、怒る辺り…自覚あるんじゃねえか」

 

辛口な言葉とは裏腹に、二人の顔は清々しいものがある。だからだろうか、いい気分のしない二人の内の一人百代が動く。

 

「そうだな、それならお言葉に甘えよう。っていうか、悠介!!客である私を無視するなよ~~」

 

「だぁ―――いきなり抱き付くな!!」

 

野生の猫のように百代が素早く悠介の背に抱き付く。衝撃を堪えながら悠介が文句を言うが、全く聞いていない。

 

「クソッ!!。燕、手伝え!!」

 

「さてっと、晩御飯何にしようかな?‥‥あっ、天衣さん。今日は手伝って貰っていい?流石に人数多いし」

 

「ああ、それぐらいなら、喜んで」

 

「っておい!!お前、根に持ってるだろ!!」

 

「べっつに~~、根なんて持ってないよ~~~だ」

 

「天衣!!」

 

「すまない。今回は、燕の味方をさせて貰う。燕の言う通り、悠介は女心を学ぶべきだな」

 

そう言って二人は居間から姿を消す。それを見た悠介は、即座に残る一人に声を掛ける。

 

「直江!!舎弟なら、姉貴分の暴走止めるの手伝え!!」

 

付き合いで言えば、自分よりも深く百代を知る大和に助けを求める。

 

「…‥‥‥」

 

しかし大和は答えずに、上の空だ。それを見た悠介は一瞬どうしたものかと思考する。先ほどから、百代の巻き付けてきた腕に込められている力が上がっている。気分は、肉食獣とじゃれている気分。修行の帰りとあって、無断に疲れたくない悠介は

 

――――すまん、直江。

 

心の内で詫びを入れる。

 

「おい、お前の弟分が寂しがってんぞ!!姉貴分ならキッチリ面倒見やがれ!!」

 

「!!なあっ!!、相楽、俺を売って…」

 

上の空だった大和だが、悠介の言葉を聞いた瞬間、即座に意識を戻す。そしてある意味で悠介と同じく鍛えられた危機管理能力が本能が警告を発する。己の本能に従い、即座にその場から離れようとするが、それよりも早く

 

「なんだ~~大和~~~。お姉ちゃんが、構わなくて淋しかったか~~」

 

「ごふっ」

 

百代の腕が大和の首に回される。それと同時に背中に何とも言えない柔らかな物が当たる。しかしそれを堪能する余裕は大和にはない。普段は力加減が出来ている百代だが、悠介とじゃれた後はその限りではない。前に、悠介とじゃれた後の百代に、ガクトが自分もとせがんだ。そして誰もが想像した倍以上の速度と高さで吹き飛んだ。その後悠介とじゃれた後では上手く加減が出来なくなることが判明。そんな状態の百代にしがみつかれたら、どうなるかなど考えるまでもない。

 

―――ヤバイ‥‥意識が…

 

「おい、モモ!!テメェ加減してじゃれつけや!!」

 

意識が飛びかけた大和を救ったのは、悠介だった。意識が完全に落ちる直前に百代の襟を引っ張り引きはがす。

 

「直江大丈夫か?」

 

「ああ、なんとか…」

 

僅かに咳き込む大和の背を悠介がさする。しかし悠介とじゃれれて気分が良いのか、百代本人は自身の力加減が誤っている事に気がつかない。その為、再び百代は自分に構えよ~と二人に向けて襲いくる。

 

「クソッ!燕のヤツ、めんどくせえもん押し付けやがって。直江、お前も手伝え!!」

 

「お、おう」

 

悪態つきながら二人は、燕たちがご飯を作り終えるまで、必死にじゃれ合った。

 

 

 

 

ホカホカと立ち上る湯気と腹の虫を刺激する匂い。ほぼ死闘とも言えるじゃれ合いを終え、面々は燕たちの手料理を食べている。

 

「本当に美味いな」

 

「ありがとね、モモちゃん。でも、天衣さんが手伝ってくれたおかげだよ」

 

「橘さん!!料理できるんですか!!」

 

「出来なくもないが‥‥燕の指示に従ってやっただけだよ」

 

女性陣が会話に華を咲かせる中、ある種の死闘を終え疲れ切った男子二人は、ひたすらに腹の中に流し込む。その姿を端に捕らえた燕は悪い笑みを一瞬浮かべ、天衣は苦笑いをこぼす。

 

――――少しは仲良くなってくれたかな?

 

誰と誰がとは言わない。それでも燕は願った。そしてそれはきっと、二人も同じ気持ちだろう。確かに理解できてなくても、きっとどこかで気がついている。

そんな中、玄関の扉が開く音と共に

 

「へへ~~~、たっだいら~~~」

 

酔っぱらった久信が帰宅して来た。その顔は赤く染まっており、誰が見ても酔っていると判断できる。その姿を見た悠介は頭を抱え、天衣は頬を引きつらせ、燕は僅かに瞳が鋭くなる。

 

「あれ~~、お客さん??」

 

「あ、はい。本日は燕に呼ばれて、招待されました川神百代です。燕とは仲良くさせて貰っています」

 

「同じく直江大和です」

 

二人の存在に気がついた久信。視線を感じた二人は、自己紹介を告げる。二人の言葉を聞き、しばし考える素振りを見せる久信。その姿を悠介たち三人は、心配そうに見ている。

 

「ああ~~~!!君が有名な武神様か~~~。いや~~~噂はかねがね聞いているよ」

 

「ありがとうございます」

 

「それと君大和君だね~~~。話は燕ちゃんから聞いてるよ~~~」

 

「どうも」

 

手を取り挨拶を交わす久信達。一瞬、百代の身体を見て鼻を伸ばしたように見えたのは、きっと気のせいだそう言い聞かせる悠介だが、明らかに冷ややかな視線が一つと何とも言えない視線が一つ感じる。‥‥気のせいではないようだ。

 

「それにしても、燕ちゃんが悠介君以外の男の子を家に上げるなんてね~~~…‥‥燕ちゃん、凄く可愛いでしょ?」

 

「え、はい」

 

「そうでしょ~~~。僕には勿体無い位にできた子だからね~~~」

 

久信の言葉に燕は僅かに頬を緩める。その言葉に場の雰囲気が明るくなる。本来ならば、ここで止めておけばよかったのだが…

 

「でもね!!燕ちゃんを狙っても無駄だよ。何たって燕ちゃんは、悠介君のお…」

 

久信が言葉を発せたのはそこまでだった。悠介が感じたのは、風。気がつけば、燕の蹴りが久信を蹴り飛ばしていた。そして燕は冷めた目で淡々と告げる。

 

「おとん‥‥少し顔洗おうか?」

 

直後、久信の悲鳴が響いた。

 

 

それから暫らくして、何処か震えた久信と燕が帰って来て、改めて自己紹介を交わし、六人はワイワイと会話を盛り上がる。

その中で、百代と大和が久信の技術の腕を褒める。先ほどまでの家庭環境の話から、逸らす意味を込めた為、それ程深く考えていなかったが、自身の腕を褒められご満悦だ。

 

「いや~~それ程でもあるかな~~~~。それにだいぶ、家庭も安定して来たし、ここはもう一度株にチャレンジ…」

 

「したら、今度は娘も出ていくけど?」

 

「今度株をしたら、全力で止めろと母さんと父さんに言われてるんで、割とガチで殴りますよ?」

 

「…‥出来ないんだなこれが…」

 

そんな話をしている内に、そろそろ帰宅せねばならない時間となる。

 

「さて、そろそろ帰ろうか、姉さん」

 

「そうだな」

 

「なら送っていくわ」

 

立ち上がり、玄関前まで来た二人に悠介が告げる。

 

「なんだ?お姉さんと夜道のデートでもしたくなったか?」

 

「誰がお前を送るって言ったよ。直江の方だよ、直江の」

 

「なっ!!こんな美少女が夜道を一人で歩くんだぞ!!心配しろよ!!」

 

「お前に対しては、心配する要素がねえし…‥疼きそうだし、止めとく」

 

「ッ!!‥‥そうかなら、仕方ないな」

 

悠介の言葉に不満を持つ百代だが、拳を開けたり閉じたりしながら告げる言葉を聞き納得する。

 

「じゃあ、モモちゃんは私が送るね。送り終わったら、多馬大橋で合流しようか」

 

「それでいいぜ。天衣は、悪いけど久信さん頼むわ」

 

「ああ任せてくれ」

 

寝た久信を肩に担いだ天衣に見送られながら四人は出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い夜道の中、悠介と大和は会話もせずに歩いて行く。沈黙が支配する中、ふと悠介が口を開く。

 

「そういえば、何で直江はモモの舎弟になったんだ?」

 

本当に疑問だったのだろう。告げられた質問に、僅かに戸惑いながらも大和は、その経緯を説明する。

 

「あ~~相変わらず暴君だな、あいつ。理不尽にもほどがあるだろ」

 

大和の説明を聞いた悠介は、ある種の同情の視線を向ける。その視線はある意味似たような経験を持つ悠介だらこその視線だ。片方は悪友でもう片方は姉貴分。異なる関係ながらも同じ存在と付き合っているからこそ、ある意味愚痴を言い合う形で二人の会話は進む。

だからこそ、大和は意を決してその質問を口にする。

 

「なあ、悠介は姉さんのこと‥‥‥好きなのか?」

 

問われた言葉。再び沈黙が広がる。真っ直ぐ悠介を見つめる大和。対する悠介は、一瞬、悠介は呆けた顔をする。そしてその質問の意味を理解すると、ゆっくりと話始める。

 

「まあ、そうだな‥‥‥あいつ可愛いしな」

 

「ッ!!」

 

悠介の呟きに大和の身体が震える。しかしそれに悠介は気がつかない。

 

「昔からの付き合いだし、なかったと言えば嘘になるかもな…‥それでもそういう好き(・・・・・・)は、もう通り越してる(・・・・・・)気がするわ」

 

「え?」

 

「てか、あの猛獣を好きになる奴がいるとしたら、逆に尊敬できるな」

 

悠介の言葉を聞いた大和は…‥

 

―――――俺は、姉さんが好きなんだ。だから…‥‥‥‥‥お前から

 

その言葉を言えなかった。告げるのは、卑怯な気がして‥‥。

暫らく話し合っている内に、島津寮に辿り着く。門をくぐろうとする大和に悠介は告げる。

 

「なあ、直江。これからもよろしく頼むわ」

 

「は?」

 

「いや、なんか俺らって、似てる(・・・)気がしな。存外にさっきも話があったしな。だから…‥これからもよろしくだ」

 

そういって悠介は拳を突き出す。自分でも上手く言葉に出来たとは思っていない。むしろ失礼な事を言ったかもしれない。それでも真剣にそう思ったのだ。

突き出された拳を前に、大和は少し戸惑いながらも自身の拳をぶつける。

 

「んじゃ、また明日な」

 

「ああ、また明日」

 

そういって悠介と大和は、それぞれ自分の道を征く。その光景は、ナニカに似ている様に思える。

 

 

 

 

 

多馬大橋に向かう中で、悠介は先ほど大和が問いかけた言葉を思い出す。

 

――――なあ、悠介は姉さんのこと‥‥好きなのか?

 

あの時大和に告げた言葉は、紛れもない真実だ。そこに嘘偽りはない。悠介は、星が輝く夜空を見上げる。あのままでは眠れなかっただろう、だからこそ軽く散歩したかった。そういう意味で送ったのだが、まさかそんな事を聞かれるとは予想外だった。

僅かに目を閉じる。百代との付き合いはそこまで長いわけでは無い。それに百代といわれて思い出すのは、常に戦い続けてきたという印象が強い。

だからこそだろうか、それ以外の記憶が鮮明なのは。思い出すのは、珍しく休憩時間が重なって二人で縁側でおやつを食べる記憶。その時見せた笑みに自分は、ドキッとした。もしかしたら、初恋はあの時だったのかもしれない。直ぐに濃密な修行の中で埋もれたが、冷静に思い出せば、そうなるかもしれない。

 

「まあ、今は関係ねえけどな…‥‥明日、まずは明日だ」

 

再び瞳を開けたとき、僅かに心の内にあったそれがなくなる。夜風を浴びながら、悠介はゆっくりと集合場所に向かう。

 

焦ろうが、闘志に満ちようが、後数十時間後には、祭りが始まるのだ。

相楽悠介の最大のチャンスが…‥手にできるかどうかは、彼自身の実力かかっている。

 

緊張、高揚、不安、期待、あらゆる感情が悠介の中に渦巻く。しかしそれらの感情は、悠介の闘志を燃やす燃料にする為に、今はそっと蓋をする。それらの感情を起爆剤に闘志を燃え上らせるのは、今ではないのだから。

だからこそ悠介は、明日を思い浮かべ

 

「楽しみだ」

 

不敵に笑う。

 

 

 

――――――――祭りの開催まで、後十時間




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次を書いて行くうえで、原動力になっていくので

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