真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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お待たせしました!!
二か月以上ほったらかしにして、本当に申し訳ありませんでした!!
初めてスランプ+家庭が少々ごたつきまして、更新できませんでした・・・・クソ!!

とりあえず、楽しんでくれたら嬉しいです


悠介と天衣

自分達のチーム名を告げた後、二人は燕の家に帰った。玄関を開けた瞬間、悠介を探しに行こうとした燕とぶつかったり、帰りが遅いと説教を受けたが、天衣の存在に気がつくと途端に燕も嬉しそうに天衣を家に招き入れた。

その後、居間に集まった松永家のメンバーは、悠介の口から天衣が今に至るまでの経緯を話す。話を聞き終えた久信は涙を流しながら天衣の手を取り「気のすむまで此処にいて良いよ」と断言し、燕も「またよろしくお願いします」と礼儀正しく天衣を受け入れる。

その日、本当に久しく天衣は温かな時間と食事を食べて過ごした。

 

「うんじゃあ、俺はそろそろ寝るな。それと天衣、明日朝一から修行するつもりだけど、お前も来るか?」

 

「ああ、私も悠介の足手まといにはなりたくないから、残りは少ないがしっかりと鍛え直そうと思う。だから、此方こそだ」

 

「助かるぜ。今まで組み手する相手がいなかったしな」

 

それだけ告げると悠介は「そんじゃあな」とさっさと自分の部屋に戻っていく。天衣は無理もないと思う。自分と会うまでにも相当厳しい修行をしていたのだ、その後にあんな事があったのだ、平気そうにしているが相当に疲労がたまっているのだろう。

 

「あ!そう言えば、天衣ちゃんの部屋ってどうする?まだ使える部屋はあるけど、ほこりとか大分溜まってるし、今は使えないよ」

 

「いえ、居間で寝かせて貰えれば十分ですし」

 

困ったなと頭を抱える久信に天衣は気にしないでほしいと告げる。

 

「それだったら、私の部屋で一緒に寝ようよ、天衣さん。女子トークしながら一緒に寝るって、なんだか青春してるみたいでいいね」

 

「お!いいんじゃないかな。明日は僕フリーだから部屋を使える様にしておくしね」

 

「いや、でも迷惑なんじゃ…」

 

「何言ってるよ、天衣ちゃん!!僕たち家族みたいなもんなんだから、遠慮なんていらないよ!!」

 

「そうだよ。悠介君もそういうと思うしね。遠慮はいらないよ」

 

燕と久信の言葉に感謝を覚えながら天衣はありがとうと告げる。

 

 

 

「それじゃあ、服は此処に置いておくね」

 

「ああ、頼む」

 

部屋の問題が終わり、次に燕は天衣を浴槽に案内する。今まで野宿ばかりで録にシャワーも浴びてないだろうと考えた燕の提案だ。実際にその通りだった天衣は、その提案にとても喜ぶ。そういった面は、やはり女の子なのだろう。

細いながらもしっかりと鍛えられた裸体に温かい湯を洗いながら、天衣は心の内から温まるあの場所の温かさを思い出し、天衣に笑みがこぼれる。

ゆっくりと湯に身を沈めながら、つい先ほどのの出来事を思い出す。

 

「‥‥‥‥悠介」

 

ほぼ無意識に零れる名前。かつて自分を救ってくれた恩人に再び救われた。本人はきっとくだらないと一蹴し、そんな事言うなよと口を荒げるだろうが、天衣からすればそうとしか言えなかった。最初は誰だって同情で助けてくれるが、次々に襲い来る不幸に巻き込まれて離れていった。それが悪いとは思わない。誰だって自分の身が可愛いのだから当然だろう。だからこそ一人でどうにかしようと決めた。

 

「でも…‥お前に出会った」

 

自分がまきまれる事も構わず、泥まみれになりながら深い沼に落ちていた自分を引き上げてくれた。それも二回も。

 

「‥‥‥‥‥‥‥」

 

その時を思い出し、天衣はゆっくりと鼻付近まで湯に潜る。単純にかっこよかった。まるで昔話に出て来る白馬の王子さまみたいだと思った。

 

―――――いや、黒い馬に乗った盗賊かな?

 

失礼だが悠介に王子など似合わない。むしろ戦場に生きる傭兵や盗賊などの方がしっくりくる。支配を拒み、己が正義を掲げるその姿は、羨望を覚える。

そしてなにより、まっすぐとした瞳で告げられた言葉が…‥

 

「~~~~~~~~~ッ!!」

 

ああダメだ。今、思い出すだけでも身体が熱くなり、心が幸せで包まれる。まるで震える身体を押さえつける様に天衣は身体を抱きしめる。

何時からこの感情を抱いたかはわからない。それでも一年という時間を彼の後ろで、その背を見ていたら不思議と羨望がそれに変わった。

 

「拙いぞ‥‥」

 

湧き上がる感情のそれ(・・)が、彼を前にして抑えれる自信がない。むしろ湧き上がってしまうだろう。

 

「どうすればいいんだ…‥‥」

 

顔を朱色に染めながら天衣は湯に身体を沈める。しばしの間、天衣は湯に潜り続けた。

 

 

 

 

 

風呂から上がった天衣は燕と、自分の話や燕の学校生活などを話し合っている。辛い事だったそれを話せるのは、彼女が、前を向いてる証拠だろう。

 

「へ~そんな事もあったんだね」

 

「ああ、不幸な事も多かったがそれだけでは無かったさ」

 

そんな事を話しながら机に置いてあるコップを取ろうとするが、手が滑り机の上から落下するが

 

「おっと」

 

「お見事」

 

持ち前のスピードで落下する前にお茶をコップに入れ込みキャッチする天衣。その動きは、悠介の行動が確かに天衣を変えている証拠だろう。

そして話は当然のように、悠介の話題に変わる。

 

「あの黛の娘と引き分けたのか!!」

 

「うん。まあ、本人は不本意だろうけどね」

 

「相変わらずだな」

 

自身を容易に倒した存在と引き分けたという事実と、それに納得していないという事が悠介らしく笑みがこぼれる。天衣は気がついていないだろう。今、自分がしている笑みは、明らかに別の感情を抱いている顔だ。

 

「ねぇ、天衣さん」

 

不意に燕が声質を変えて名前を呼ぶ。その変化に天衣を自然に真剣な表情をする。

 

「天衣さんは、やっぱり悠介君が好きかな」

 

真剣な瞳で真っ直ぐな声で問う。質問というよりは、確認に近い声。

一瞬、燕の言葉に身を強張らせる天衣だが、その言葉に秘められたモノを感じ

 

「ああ、やっぱり私は悠介が好きだ」

 

真っ直ぐに告げる。その言葉を燕に告げるのは二度目だが、その時よりも思いは強い。

天衣の言葉を聞いた燕は、そっかと淡白に声を発する。

 

「だったらお願いがあるんだけどね」

 

「お願い?」

 

一度言葉を切り、お茶を一口飲みんでから燕は告げる。

 

「少なくともタッグマッチトーナメントが終わるまで、その思いに蓋をして欲しいの。今、悠介の夢のために少しの迷いもしてほしくないんだ。悠介は優しいからきっと、考えちゃうから。そんな事すら今は考えちゃいけないと思うから」

 

誰よりも悠介の夢に掛ける思いを知る自分達がその邪魔をする訳にはいかない。例え、自分達の欠がえの無い感情を、そんなもの(・・・・・)と切り捨てても。

燕の言葉を聞いた天衣も、一度お茶を飲み、真剣な顔で告げる。

 

「ああ、わかってるよ」

 

「え?」

 

天衣の言葉に燕は呆けた声をこぼす。てっきり感情に蓋を出来ないと、先程の顔をみて思っていた分一瞬思考が止まる。燕のその顔をみて天衣は笑みを浮かべる。大人びているがやはりまだ子供で、その大人びた雰囲気も悠介に及ばないなと思う。

 

「わかってるから困ってるんだ。どうやって悠介に気づかれない様にするかなってな。悠介の邪魔だけは、私だってしたくないよ」

 

その天衣の言葉は、清々しくそれでいてとても綺麗なモノだ。同姓でもある燕ですら引き込まれる年上の魅力を秘めている。

 

「相変わらずの強敵だな~」

 

「ふふ。余り私を甘く見て貰っては困るな」

 

互いに笑い合いながら、二人は新たな悠介の話で盛り上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天衣が松永家が来てから、悠介の修行の効率は格段に上がっている。どんなものでも一人でやるのには限界がある。それに悠介は余り情報を見せたく無かった。燕にすら肝心な部分は教えていない。だからこそ、天衣の存在はありがたかった。

そして今日も悠介と天衣の二人は、川神山で修行を行っていた。

 

「オラァ!!」

 

「ハアッ!」

 

ぶつかり合う拳と拳。一瞬の接触の後、天衣の鋭き蹴りが悠介の顔面を狙い打つ様に放たれる。高速のムチと化した一撃が迫るなかで、悠介は

 

「ラァッ!!」

 

敢えて額で受け止め、行動を止めることなく拳を放つ。しかし天衣は、頭突きによって攻撃が受け止められた時点で、回避行動を起こしていたので、その拳は空を切る。やや大振りだったため、悠介の体勢がぐらつく。

 

「やっ」

 

ヤバイ。そう思った刹那に悠介の顔に蹴りが直撃する。その威力に悠介の上半身が後方に起き上がるが、その場で踏ん張り後退を許さない。立ち止まれど、悠介は行動を攻撃を止めない。

 

「だらぁ!!」

 

重心を片足にのせ、地を削る足払いからの蹴りを放つが

 

「甘いぞ」

 

「い゛、マジかッ!!」

 

悠介の動きを読んでいた様に天衣は、繰り出された足を土台に跳び上がり、その身を回転させ踵落としを繰り出す。

 

「舐めんな!!」

――――奥義の防 刃止め

 

攻撃が当たる瞬間、自分の手の甲を交差させ受け止める。全身を駆け抜ける鈍い衝撃を堪えるように歯を食い縛る。

僅かな硬直後、悠介は放たれた天衣の足を掴み取り、自分の方に引き寄せる。

 

「シィ」

 

空を裂く様に放たれた一撃を前に天衣は

 

「ふぅ」

 

「ッ!?」

 

迫る手をつかみ、そこを起点に攻撃を止め。顎に膝蹴りを叩き込む。

人体でも鍛える事がほぼ出来ない、その場所への一撃。激痛と共に悠介の意識が堕ち掛けるが

 

「ッ……がぁぁぁああああ!!」

 

意識が堕ちる直前で、敢えて自分を殴り意識を覚醒。更に、吠えることで身体が硬直するのを無理矢理に解く。その行動を見ていた天衣は流石だなと小さく言葉をこぼす。

本来ならば更に追撃を仕掛けるのがセオリーなのだが、天衣は悠介の脇腹に蹴りを入れ、その勢いで間合いをとる。知っているし、確かに見た。獰猛な獣の様でありながら、凍てつくほど冷静に勝利を狙う瞳を。それを見て天衣は即座に離脱を決断した。ああいう瞳をした時の悠介の怖さを知っているから。

 

「ちぇ、やっぱ踏み込んでこねえか」

 

「やはり何かを狙ってたのか」

 

「さあな」

 

小休止の様に軽く言葉を交わす二人。しかしその纏う雰囲気は闘気は全く衰えていない。

 

―――――空中であそこまで複雑に動かれると狙いがつけずらいな。ただでさえ、天衣の速さは俺の知る限りでも最速に部類されるんだが‥‥‥‥つか、あの剣士にちょっと似てるな、動きというか攻撃の動作が

 

冷静に今までの戦いから天衣の情報を確立させる悠介。空中という限られた状況に置いて複雑ながらも拘束に打ち込まれる攻撃は何処かあの剣士に似ていると悠介は思う。そしてそれが今の天衣の強さ。

 

「やっぱ強えな」

 

「お前にそう言われると、自信になるよ」

 

純粋な賞賛。自分が羨望する相手からの言葉に天衣顔に自然と笑みが浮かぶ。

そしてそこまでが小休止。

 

「んじゃ、まだまだ付き合って貰うぜ!!」

 

「ああ、勿論だ!!」

 

直後、再び二人は激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夕暮れ時。悠介は一人で川神山にいた。天衣は既に帰宅している。理由など無い、ただここからは誰にも見せたくないのだ。

 

「さてっと」

 

一つの岩に前に立つ悠介。その表情は先ほどとは違い切羽詰まっている事を隠しもしない。無理もないのかもしれない。既に祭りまで日がないにもかかわらず、未だに片手打ちへの切っ掛けすら完全につかめていないのだ。

 

「落ち着け‥‥‥落ち着け…‥」

 

意味のない焦りからは何も生まれない。むしろ悪化しかない。必死になって心を鎮める悠介。

 

「ふぅ‥‥‥‥‥‥‥‥よし、いくか」

 

そこから先の悠介は、修羅と化した。その形相は、命を掛けていると評しても間違いはないだろう。負の感情すらも力へ…‥悠介自身が望む場所の為に費やす。

それでも…‥

 

「はあはあ…‥‥クソッ!!」

 

その場所は遥かに高く。

 

「何が足りない…‥‥考えろ、思考を止めるな」

 

焦りだけが募る。額を岩にぶつけても尚、その焦りは止まらない。

だからこそ

 

「何をしている、悠介」

 

「あ?」

 

その声にその存在に気がつかなかった。振り返った先には、帰ったはずの天衣の姿。気がつけばすでに空には星が散らばっている。天衣が一度帰ってから相当な時間な時間が経過していたようだ。

 

「これ以上すれば、明日に響く。今日はもう終わりにすべきだぞ」

 

天衣の指摘は正しい。しかし焦りが胸の内を占める悠介には届かない。大切な切っ掛けを貰った(・・・・・・・・)のだ。それを掴めませんでしたでは、情けななすぎる。久しく自分の才能の無さに怒りが込み上げて来る。

 

「クソッ」

 

再び拳を構える悠介‥‥だが

 

「全く、人の話を聞け」

 

襟元を引っ張られ天衣の胸に後ろから倒れ込む。何時もの悠介なら耐えれるだろう、それに耐えきれなくなっている事こそが、既に限界だという証拠だ。

 

「悠介‥‥‥」

 

見上げる表情は色々とひどいモノだ。もしかしたらこんな表情を見たのは、初めてかもしれない。だからこそ伝えたい。

 

「お前が何に迷っているのか私にはわからない、そして燕にも。私達は選ばれてお前は選ばれなかったからな」

 

悠介の雰囲気が変わる。それに気がついておきながら、無視しながら天衣が話す。

 

「でもお前の夢は、その技を会得するなんていう‥‥‥小さなモノ(・・・・・)じゃないだろ?お前の背に描かれたその文字(・・・・)こそが、お前の夢だろ?なら大丈夫だ。お前なら百代も越えれるよ…‥‥少なくとも私と燕はそう確信している」

 

だから、落ち着け。そう告げながら天衣は悠介を強く抱きしめる。しばし悠介はその温かさに包まれる。不思議と暗き焦りが小さくなっていく。

そして時を同じくして一本のメールが届く。差出人は燕で内容は簡潔に一文『これ以上やったら、モモちゃんとの戦いに響くよ』だった。

少しして天衣から離れ、そのメールを見た悠介は、大きく息を吐き、小さく「情けねえ」と呟く。

そして

 

「助かった‥‥ありがとう」

 

「気にするな。それよりも早く帰ろう。みんなお前を待ってご飯も食べてないからな」

 

「ああ」

 

そう言って二人は帰路につく。そんな中悠介は、燕に『ありがとう』とメールを返す。

それを見た燕は、安心した様で嬉しそうな顔をしたそうだ。

 

『夢』を再確認した悠介。残す日は、既にない。それでも‥‥

 

「やってやる‥‥‥モモに勝って、絶対に!!」

 

そう、あの男は強大な力にひるまなかった。あの技を覚える前から、絶望的な時でも立ち向かって勝ってきた。それに追い付こうというのだ、一つの勝機とも言える技が会得できなくとも、迷う事など無いはずだ。

改めて決意を固めよう。

 

「勝つ‥‥‥追いつくために」

 

その決意は誰の耳に届く事無く。空へと消えた。

 

 

―――――祭りの開催まで、後二日




いかがでしたでしょうか?
久々の更新などで、違和感とかあったら教えて下さい

次は早めに更新できるように頑張ります
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最後に、今回の話を作る上で、アドバイスを下さった、セキホウタイさんありがとうございます

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