真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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知らない間に、この小説を始めて一年が経過していた(8月3日)・・・・一年も掛ける気なかったのですが‥‥よく続いてるなと思いますね

今回、天衣さんの現状に至るまでの理由が原作と違います
あと、年齢が分からなかったので勝手に決めました

楽しんで聞くれたら嬉しいです




悠介とチーム名

余りにも前触れのない突然の再会。互いに驚きの声を上げたが、先に冷静になったのは悠介の方だった。

 

「なんでって言われも‥‥川神(こっち)に引っ越してきたとしか言えねえが。そういうお前はどうして此処にいるんだよ、天衣。確か‥‥自衛隊に入隊するって言ってなかったか?」

 

しばしの時間を要したが、落ち着きを取り戻した悠介は、彼女の質問に答えつつ、自分の疑問を口にする。

何かを護りたいという信念を胸に、自分達の場所から旅立った筈。しかし、今の姿からは、その時の信念を感じられない。

悠介の質問に対して天衣は、あわわと誰が見てもわかるほどに狼狽えている。

 

「…‥‥‥」

 

「うううう…」

 

悠介は何も言わずにただ天衣を見つめる。悠介の方から話しかけてくれればどれだけ楽か、それを理由に重荷を話せるというのに、絶対に彼はそれをしない。いや、させない。

狼狽えていた感情が別の意味でも波風を立てはじめる。しかし同時に、何処か心が落ち着くのを感じる。

 

「えっと‥‥実は」

 

天衣の話をまとめると、自衛隊に入隊出来はしたのだが、その後上司の不正を目撃、その事実を上に告白しようとしたのだが、上司がいち早く察知。天衣を謂れのない罪で自衛隊を首にしたのだ。その後行く当てもなく、流浪の旅をしていた…

 

「って訳か」

 

「ああ」

 

悠介の言葉に天衣は俯きがちに同意する。しかしそれだけでは今の天衣の覇気のなさに説明がつかないが、何となく彼女を知る身としては予想がつく。

元来持つ彼女の不幸体質が目を出したのだろう。夢にまで見た場所を、余りにもくだらない悪意によって閉ざされたのだから。

 

「とりあえず、家に行くか。お前がいるって知ったら、燕も久信さんも喜びだろうしよ」

 

外よりも家で話す方が良いだろう。そう思いテントを片付けるのを手伝おうとする悠介だが。

 

「なっ!だ、ダメだ!!今の私なんかがお前たちの家に行ったら…‥隕石が落ちて来るに決まってる!!」

 

天衣が慌てた口調と動作で悠介の動きを止めようとする。どうするかと悠介は一瞬思考する。天衣とこう言った会話をするのは、初めてではない。初めて会った時も似たような会話をしている。

 

(しかし、初めて会った時並にネガティブに戻ってるとは…‥ちょっと想像してなかったな)

 

少なくとも自衛隊入隊を決意していた時とは別人と言えるほどだ。

 

(どうっすか‥‥)

 

一瞬迷いが生まれたが、悠介は即座に迷いを振り払い行動を起こす。今の天衣の言葉を真に受けていたら、全くもって事態が進展しない。ならば、無理やりにでも動くのが得策だろう。

悠介は未だに慌てている天衣の額にデコピンをかます。

 

「痛っ!」

 

「うるせえ。お前のくだらない言い訳は後で聞いてやる。だから、さっさと行くぞ」

 

額を抑える天衣に悠介はそれだけ告げると、問答無用にテントを片付け始める。

 

「ままて、ゆう…」

 

「いいから来い。お前の不幸なんか、鼻で笑ってやる(・・・・・・・)からよ」

 

「ッ!!」

 

未だにごねようとする天衣に悠介は、静かに簡潔に述べる。悠介の言葉に天衣は何かを思い出したのか、黙り込む。

天衣の姿を視界の端に納めながら、悠介はさっさとテントを片付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠介と天衣と再会してから一時間後、二人は松永家の前にいる。本来ならば、十分程度の距離だったのだが…

 

「すまない‥‥」

 

「だから、いちいち謝るなって言ってるだろ」

 

なぜか車が突撃して来たり、烏達が襲って来たり、数十回と転びそうになったり、大量の不良達に絡まれたりと、多くのアクシデントのせいで倍以上の時間がかかったのだ。

その全ての元凶が自分であると思っている天衣は、申し訳ないという表情でいる。対する悠介は、自然体でいる。今まで起きたことを全く気にしていないようだ。だが、逆にそれが天衣の心境を重くさせる。

 

「いい加減に駄々捏ねてねえで、さっさと入るぞ」

 

「う‥‥」

 

天衣の気持ちに気がついている悠介だが、あえて気がついていなフリをして、家に入ろうとするのだが、天衣の足は全く動いていない。

 

「ゆ悠介…やっぱり私は‥‥」

 

「はあ、何度も言ってるだろうが。何も起きねえし、何も起こさせねえよ」

 

怯えている天衣に悠介は、不安を恐怖を和らげるようにしようとするが全く効果がない。どうするかと思考する悠介。こういった時に気の利いた言葉で払えればいいのだが、口下手な自分には今のが精一杯。

自分の言葉が届いていないとまではいかないが、支えにもならない自分に怒りが込み上げて来る。

 

「…‥‥‥やっぱり、あれしかねえか」

 

自分にできる選択。褒められた行為でないのは判ってるが、自分にはあれしかないだろう。

 

「天衣、少し付き合え」

 

「へ…ええ!!」

 

突然の悠介の言葉に一瞬呆けた天衣だが、次の瞬間頬を赤く染める。しかし悠介は気にした様子もなく、さっさと歩を進める。慌てて天衣悠介の後を追う。

 

悠介が辿り着いたのは、川神山の一角。

 

「これは‥‥」

 

天衣の視界には、一部が砂塵と化した大岩が多く映りこむ。此処は悠介の修行場所。

 

「悠介。私の…」

 

野宿先を教えてくれたのか。と告げようとした天衣だが、直後に感じる悪寒。己の本能に従いその場所から回避する。直後、悠介の拳がその場所に放たれる。

 

「な何をするんだ!!」

 

不意打ちに対して声を荒げる天衣。しかし悠介は静かに告げる。

 

「お前に見せてやる。運命の神様に見放された俺の今をな。だから、戦え。そうすれば俺の言いてえ事がわかる」

 

構えを取る悠介。天衣は、言っている意味が分からなかった。だから構えれなかった。それが隙となる。

 

「オラァッ!!」

 

咆哮と共に放たれる拳。向けられる敵意に一瞬身を固くするが、かつてスピードクイーンの名を冠した天衣は、容易に回避して見せる。

 

「なっ!」

 

しかし、回避のさなか天衣の視界に悠介の脚が映る。

 

―――まさか今の一撃はわざと‥

 

即座に自分が罠にはまった事を悟る。即座に腕でガードするが、後方に重心が載っていた為に側面の攻撃に堪えが効かず、数メートル飛ばされる。

 

「止まるなよ」

 

体勢を整えつつ勢いを殺した天衣の耳に届く声。考えるよりも早く、天衣の身体は動く。突っ込んでくる悠介目掛け、鋭く蹴りを放つ。

 

「ッ!」

 

やや前かがみで進んで来た悠介の反応できない速度で放たれた一撃は、直撃したはずだった‥‥

 

「あぶっ‥」

 

「ッ!?」

 

回避できなはずの一撃を悠介は、頭を下げるとこで紙一重に躱している。その事実に天衣は純粋に驚く。自分の知る悠介では絶対に躱せないと知っていたから、それに先ほどの罠もまた天衣の知らない悠介だ。

 

「ちゃんと前に進んでんだよ」

 

まるで自分の成長を告げる様に悠介は呟く。その言葉に天衣は何も言えなくなる。

 

「だから、お前も見せろ」

 

宣言と共に再び拳が放たれる。迫る拳を天衣は、右方向に回避の動作を見せる。後方に下がれば、重力落下の加速での追撃を受ける恐れがある。それゆえの判断。

しかし、天衣が回避の動作を見せると同時悠介も動いていた。回避動作の最中、悠介の左拳が待っていたかの様に、天衣の目の前に迫っている。先ほど見たときには、そんな素振り一つしていなかった。

 

―――予め、重心を置いていたのか

 

悠介の速さの技術の根底にあるのは、「重力」と「重心」。今回使ったのは後者の方だと天衣は察する。

速さというのは、言い換えるならば重心の移動速度。一番重たい重心を動かすのにエネルギーを筋力を瞬発力を使う。だからこそ、動かさない(・・・・・)。予め、次の構えに必要な場所に重心を置いておく。それによって限定的で短距離であるが、悠介の速度は先ほど以上になるのだ。

それを成せるのは、悠介が鍛錬の果てに得た精密な体幹操作の技があってのことだが。それでもそれは一種の賭けだ。重心を一度置いてしまえば、次の動作のキャンセルはかなり難しい。実際悠介がこれを使っていたのは、近距離での乱戦時のみ。間違ってもこのような場所では使っていなかった筈だ。

 

躱せないと悟った天衣は、腕をクロスさせガードする。直後に身体に伝わる衝撃。わかっていたが、改めて悠介の拳の厄介さを痛感する。そして同時に悠介の成長も…

 

「やっぱり凄いな悠介は」

 

零れたのは本心からのセリフ。彼と出会ったのは、高校に入ってすぐのこと。付き合いで言えば一年ちょっとだが、彼女の中では一番幸せだったと断言できる。そしてだからこそ悠介の努力を夢を知ってる。そして今の攻防でも魅せられた明らかな成長の証。本音がこぼれてもおかしくはない。ある種の憧れなのだ、橘天衣にとって相楽悠介という存在は。

 

「でも私はお前みたいになれない…」

 

自分と彼は違う。そんな本音もまた零れる。刹那、その本音を聞いた悠介の顔が変わる。怒りでない。もっと別の感情が顔を染める。

 

「何で…何で諦めてんだよ」

 

零れたのはそんな言葉。悔しそうに悲しそうな声に天衣表情が固まる。

 

「否定するんじゃねえよ‥‥目指した自分を、積み上げてきた自分を。屈服するんじゃねえよ、お前のその不幸(うんめい)に。戦えよ、そうしてまで欲しかった物が、護りたかった物があったんじゃねえのかよ」

 

言葉の一つ一つが天衣の心に鋭い一撃となって叩き込まれる。動きの全てが止まる。

 

「頼むから諦めんなよ‥‥俺はお前の夢がすげえと思ったし、叶ってほしいとも思った。そしてお前には叶えるだけの物があった。なのに‥‥たった一回の挫折で諦めるなよ。夢を叶えるために必要な物を…俺が喉から手が出るほど欲しい物を持ってるお前が、そんな簡単に諦めるとかよ‥‥‥怒りを通り越して泣けて来るんだよ」

 

そう語る悠介の瞳には無意識だろうか涙が一滴流れている。それが決め手だった。走馬灯の様に奔り抜ける記憶の中で、天衣は確かに思い出した。自分が彼に何を誓ったかを。

 

『悠介。私はお前に会えてよかった』

『いきなりなんだよ…』

『だから手を握ってくれないか?挫けそうになった時、お前をお前の生き方を思い出せるように』

『…‥恥ずかしいけど‥‥わかった』

『誓うよ。私は絶対に諦めない。君よりも恵まれた私が君より先に諦める訳にはいかない』

『おう。俺も敗けねえよ』

『行ってくる』

『行って夢を叶えて来い』

『ああ』

 

今まで不幸によって封じられていた物が開かれて行く。そしてゆっくりとしかし確実に天衣の瞳に力が宿る。その中で思考する。どうすればいいかを。自分は誓いを破り、まして彼に涙を流させた。普通に謝るだけでは絶対に足りない。

 

―――どうすればいい…‥どうすれば

 

思考する中でふと蘇ったの数分前の記憶『だから、お前も見せろ』そう告げた悠介の言葉。答えは決まった。

決断してから行動に移すまで時間は全くかからなかった。足に力を籠め、悠介に肉薄。驚いた反応を見せる悠介。その中で天衣の拳が悠介に突き刺さった。

 

「ッ!?」

 

不意の一撃に悠介の呼吸が一瞬止まる。動きが止まった悠介の袖をを天衣は掴み、柔道の一本背負いの要領で投げ飛ばす。

その動きは悠介がまったく知らない天衣だった。それが彼女なりの謝罪。軍の中で得たモノを示す事で、自分が再び立ち上がった事を伝えた。

 

「‥‥そっか、大丈夫みてぇだな」

 

空を見上げる形となった悠介は、今の中で全てを察し安堵の声をこぼす。

 

「ああ、心配を掛けた」

 

「気にすんな」

 

起き上がりながら悠介は軽く答える。そんな中ふとある事に気がつく。

 

「天衣って、今何歳だったけ?」

 

「うん?確か…二十一だが…」

 

どうしたんだ急にと問おうとした直後、何の前触れもなく崖の一部が崩れ二人の上空に大岩として落下してくる。

 

「なっ!」

 

「はっ?」

 

余りにも突然のことで二人とも動きが止まる。が、流石は武人とでも言えばいいのか、二人は即座に回避しようと動き出すが…

 

「わあっ!」

 

「天衣!!」

 

駆け出そうとした瞬間、天衣が石につまずき転んでしまう。

 

「しまっ」

 

間に合わない。悟った中で、悠介だけはと思い。逃げてくれと目で訴える。しかし悠介はあろうことか、転んだ天衣の所に来たのだ。

 

「何で…」

 

「うるせえ。お前は俺に成長を見せた‥‥なら俺も見せねえと不公平だろ」

 

天衣の言葉に悠介は気さくに答える。ふざけるなと叫ぼうとした天衣だが、ふと視界に映りこんだ一部が砂塵と化した岩を見て、ある記憶が呼び起こされる。先ほどまでは不幸な自分に敗けて全く気にならなかったが、今になってようやくその異常さに気がつく。そして同時に、悠介が語ってくれたある技の名を思い出す。

悠介に視線を向ける。そこには拳を握り一歩手前の状態の右拳と右手手首を抑える左手を上に向ける悠介の姿。

 

「まさか…」

 

直後、岩が二人のまじかに迫る。普通に考えれば、このまま押しつぶされるのだが…

 

「二重の極み」

 

小さくその名が呟かれると同時、大気の震えが伝わり、天衣に砂塵と化した岩が砂の様に降り注ぐ。砂塵の為一度閉じた目を再び開けた視界には

 

「少し威力が上がったか…?何でだ?」

 

月明かりに照らされる『惡』の一文字を背負う悠介の姿。その姿を見て天衣は改めて思う。

 

「やっぱりお前は私のヒーローだ」

 

その呟きは誰にも聞かれる事無く闇に消えた。

 

 

「なあ天衣。実はお前に頼みがあるんだわ」

 

立ち上がった天衣に悠介が、若獅子タッグマッチトーナメントのことを、優勝すれば百代と戦えること、そのために自分がペアに求めている条件を伝える。

 

「だから、お前が少し寄り道をしていいっていうなら、頼む!!俺に力を貸してくれ」

 

90度頭を下げる悠介。告げられた天衣の答えは決まっていた。

 

「ああ、むしろこちらからお願いしたいほどだ。また見せてくれあの時(・・・)の様に、君の戦いを‥‥その夢に一歩近づく瞬間を」

 

天衣の言葉に一瞬呆けたが、即座に笑みを浮かべ告げる。

 

「ああ、また見せてやる。だから、俺の後ろでちゃんと見てろ」

 

此処に一組のペアが生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は帰路についてる。そんな中、天衣がある事を質問する。

 

「処で悠介」

 

「何だ?」

 

「チーム名はどうするんだ?必須なんだろ」

 

天衣の言葉にああと告げ、実は候補が一つだけある伝える。

 

「どんな名前なんだ」

 

「まあ‥‥あれだ、ある意味で憧れの憧れの名だ」

 

一呼吸置き悠介が名を告げる。

その名はかつて正義を認められ激動の時代に希望を持った者達が集い、時代の流れと人の悪意によって偽物と言われた軍の名。夢に見た憧れの男が、憧れた男達の希望の名。

そしてこの文字が生まれた理由たる名。

その名を

 

「『赤報隊(セキホウタイ)』」

 

悠介の上げた名に天衣は否定せず同意する。

 

チーム『赤報隊(セキホウタイ)』結成

 

 

――――祭り開催まで、後五日

 




と言う訳で、悠介のペア&チーム名が決定しました!!
チーム名は、前々から決めていたのですが、どうでしょうか?

最近原作を読んで、悠介と兄妹登場させての話を考えてしまう
でも一人っ子てしてしまったしな・・・・惜しい事をしたな

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