真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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いよいよ、水上体育祭も大詰め
果たして、熊の正体は?・・・・まあ、皆さん簡単に想像できてるかもしれませんが
楽しんでくれたら嬉しいです


悠介と水上体育祭 その4

鋭い蹴りが義経の動きをけん制する。余波として生まれた旋風は、周りに控えている生徒達をけん制する。

 

「ほらほら。その程度の連携じゃ捕まらないヨ」

 

「流石はルー先生だ。隙が無い」

 

ルーの蹴りを躱した義経は、そのキレに感嘆の声を上げる。

 

「やはり個人技では限界がありますね」

 

「どうすんだよ。このままだと最下位だぜ」

 

「仕方あるまい。協力して倒すしかないのじゃ」

 

「ハハハ。義経よ、指揮は任せる。見事討ち取ってみせよ」

 

英雄の言葉に義経は了解したと頷く。それと同時に今まで個人技だったSクラスの面々の動きが変わる。

たった一言。それだけでバラバラだった面々をまとめ全てを役割を決めたのだ。正に王としての資質と言えるモノを垣間見せる。

 

義経が指示を出そうとした刹那、轟音と土煙を立てながら義経の目の前に誰かが落ちてきた。

 

「え…?」

 

突然の出来事にその場にいた全員の時が止まる。立ち込める土煙、それが晴れる。そこにいたのは

 

「悠介君!!」

 

「何じゃ山猿風情が。此方らの邪魔でもしにきたのか」

 

悠介。その存在にSクラスの面々は、さまざまな視線が集まる。そんな中、義経をはじめとする一部の面々はある事に気がつく。

 

―――聞いていない?

 

そもそも自分達の存在を認識すらしていない。見ているのは、唯の一点のみ。その鋭き眼光が見据えるその先に何かいる。

 

瞬間、悠介の元に何かが突撃してくる。

 

「ッ!!」

 

―――奥義の防り 刃止め

 

上から叩き潰すように放たれた拳を悠介は、甲を交差し受け止める。その衝撃で砂が舞う。

直後、悠介は受け止めた腕を起点に、一気に熊の元に駆ける。

 

―――奥義の攻め 刃渡り

 

一気に間合いを詰める悠介。体勢を固定されている熊には躱す術がない。

 

「シィ」

 

加速する勢いも乗せた拳が、熊の腹に直撃する。甲高い音と共に熊の身体が浮く。しかし、吹き飛ばされる瞬間、悠介の腕を掴む。

 

「やっ‥」

 

吹き飛ばされる勢い+回転力。声を漏らす事すらできず、悠介は浜辺に激突する。

数メートルと跳ね上がる土煙。

余りに突然の出来事に、誰も言葉を発しない。硬直する面々を戻したのは、最も最初にその出来事を目撃したEクラスの面々。

 

「大丈夫か」

 

「お嬢様!?」

 

「大和君…一体何があったのですか?」

 

「わからない。急に相楽のヤツが吠えたと思ったら…今見たいな状況に」

 

冬馬の問いに大和は答えれない。自分ですら状況を把握できていないのだからというが。

 

「師範代!!これは…」

 

そんな中一子は、事態を知るであろうルーに話しかけるが肝心の本人は何も答えない。

 

「師範代…?」

 

一子の言葉にも何も答えず、ルーは無言で悠介と熊を見つめている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶつかり合う二つの拳。右から放たれた拳を悠介は、僅かに顔を逸らす事で躱す。対して右拳を熊の脇腹に叩き込む。着ぐるみの奥に伝わる確かな手ごたえ。更に一歩押し込もうと深く足を踏み込む悠介。

 

「ッ!?」

 

瞬間、悠介の視界が反転する。重心が乗ったタイミングで放たれた足払いが、容易に悠介の身体を宙に浮かせる。自分が浮かされたと認識するよりも早く激痛が悠介に襲い掛かる。

 

「がぁッ」

 

激痛と共に悠介の口に塩辛い海水が入り込む。此処に来て漸く悠介の意識が現実追いつく。即座に海水から立ち上がる悠介。

髪から滴る海水が視界をぼやかすが、その目はしっかりと敵である熊に向けられている。

クイクイと熊が明らかに挑発とも取れる所作を見せる。

 

「野郎‥」

 

海水を拭いながら悠介は獰猛に笑みを見せる。

 

「行くぞぉッ!!」

 

宣言と共に地面を蹴る。相対する熊も悠介の駆けるのを確認してと同時、土煙をまき散らしながら同じく地面を蹴る。

 

「オラァッ!」

 

「…‥」

 

最早何度目かも判らない二人の拳の激突。二人はぶつかり合っているの構わず、もう片方の拳を握り、放つ。衝突による音が辺りに響く。ぶつかり合った拳が離れ、何度も衝突を繰り広げる。

防御のいろはも見せない純粋な激突。乱数で敗けているのか、悠介の頬を熊の拳が掠る。その事実悠介はより獰猛に笑みを浮かべる。乱打ならば、乱数では負けないだろう。しかしそれでは圧倒的に威力で敗けて押し負ける。故に悠介に出来る事は、力負けしない様に威力に意識を向ける事のみ。

打ち合う中で悠介の脚が弧を描きながら熊の脚に向かって放たれる。崩しの一撃に対して熊は、狙われている脚とは逆脚を細かく振るい、砂を巻き上がらせる。

 

「ッ!?」

 

巻き上げられた砂が目に入り、悠介が一瞬の痛みに動きが止まる。どれだけ鍛えようと生物としての反射。無意識に動く身体に悠介は、不味いと悟る。闘いにおいて敵がいるのに目をつぶるなど、愚直。刹那、脇腹に重い衝撃が悠介に伝わる。肺の空気が強制的に外に押し出され、声すらあげれない。

 

―――クソッ、相変わらずじゃねえか!!

 

激痛と衝撃で身体が僅かに反る中で、悠介が感じたの歓喜。

 

「はっはっはははッ!!」

 

身体を持ちなおした悠介から自然とこぼれる哂い。拳が掠り切れたのだろう額から血が流れている。それでもなお悠介は獰猛に嬉しそうに哂っている。

その笑みを見ていた者達は理解出来なと言わんばかりに表情を歪まめる。

 

何で哂える?自分が押されてるのにも関わらず。

 

勝っているのならわからなくもない。だが、明らかに押されているにも関わらずにどうしてと言う感情が渦巻く。

 

しかし、当事者たちは周りの想いなどお構いなしにぶつかり合う。

 

「だあッ!!」

 

「ッ!?」

 

右横腹への拳と左足への蹴りの二か所同時攻撃。出だしを阻まれる形で放たれた二つの攻撃。必然、熊の放とうとした拳が、防御の役割に変わり、左足への蹴りが熊の重心をグラつかせる。

 

「ぉ返しだッ!!」

 

興奮しているのか、僅かに言葉の大きさにズレがあるが、本人は気づく様子もなく、己が拳を叩き付ける。

重心が崩された状態で受けた一撃。堪えが効かずに、熊は海は側に吹っ飛ぶ。水しぶきが宙に舞う。

 

「…今のでへばる訳ねえだろ。来いよ」

 

悠介の挑発。瞬間、先ほどよりも巨大な水しぶきが舞い上がり、熊が駆ける。

 

「オラァ!!」

 

拳が何度も何度もぶつかり合う。獰猛な笑い声が辺りに響く。連打の嵐の中、悠介は熊を見据えながら話しかける。

 

「おい、こら。いい加減、そのふざけたナリを止めやがれ」

 

「…‥‥‥‥‥」

 

悠介の言葉に熊は答えない。それでも悠介は拳を通じて察する。だったらお前が脱がしてみろ。

その意思を察して悠介の動きが変わる。

直線的に放っていた攻撃から、往なす動きへ。左で往なし、右が打つ。守りに入ったのではない。往なす左は、隙あらば掴み引き寄せるつもりでいる。

距離が縮まる。一歩分の間合い。二人の動きが止まる。

 

「…‥‥‥‥」

 

「…‥‥……」

 

息を吐く。刹那、互いの拳が真っ直ぐ放たれた拳が悠介をぶらつかせ、下からアッパーの様に放たれた拳が熊の顔を上にかち上げる。

遂に露わになる正体。

 

「うそ‥!!」

 

「やはりネ」

 

その正体に一子とルーは真っ先に反応する。そう、彼はこの場に居るはずなない男。その顔を拝んだ悠介は笑みを浮かべながらその名を叫ぶ。

 

「釈迦堂ぉぉぉおおおおおッ!!」

 

悠介と戦っていたのは、かつて川神院にて師範代を務め、その在り方故に破門された男。そして悠介の師の一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

釈迦堂の姿が露見する。それはその場にいない者達も同じ。

 

「これは…もしや」

 

「おい、ジジイ」

 

「悠介君?」

 

三人も猛者も

 

「…‥‥ほう」

 

「どうしたのだ?ヒューム」

 

最強の執事も

 

「この気配は‥」

 

「やべ~ZE」

 

悠介とぶつかりし剣士も。

その存在に気がつく。

そして察する。何ゆえにその場に居るのかを。だからこそ、彼ら彼女らはその場に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔が飛ばされた。そう判断した釈迦堂は、隠していた気を解放する。濃密で禍々しい気が発せられる。それだけで、一定以下の者達は震える身体を止められない。

 

「おら、いけよ。リング」

 

「ッ!!」

 

リング状に形成された気弾が、前進しようとしていた悠介に直撃する。必殺に近い一撃。絶対の自信を持つ技にも拘らず、釈迦堂は己を隠す着ぐるみを即座に脱ぎ捨て、前方に投げる。

 

「オラァッ!!」

 

「へっ!!」

 

前後から同時に放たれた一撃が、轟音をたてながら容易に着ぐるみをプレスする。

 

「テメェ。手抜いて打ちやがったろ」

 

「ハッ!ぬかせよガキ。モモ如きに勝てない(・・・・・・・・・)お前に全力になれるかよ(・・・・・・・)

 

「!!…そうかよッ!!」

 

釈迦堂の言葉の意味を察した悠介は、上等と言わんばかりに吠える。

 

「行くぞッ!!」

 

「こいや」

 

宣言と了承。二つが追えたと同時に、先ほど以上に苛烈な拳の打ち合いが始まる。

それは最早武術と呼んでいいのかすらわからない程のモノ。見ている者達は、その荒々しさに息を呑む。

そんな中でも一部の者達は察する。荒々しさの奥にある、似ても似つかないモノの存在に。

 

――――強くなって…いや、戻ってやがる。

 

打ち合う中で悠介は、釈迦堂の実力が己の知るモノに戻っている事に気がつく。亜巳の発言から、身体を鍛えている事は察していたが、既に戻している事実に流石としか言えなくなる。

鈍痛が襲う。完全に力負けをしている。

 

「チィ」

 

舌打ちと共に悠介は、拳に技術を織り交ぜる。多彩な打ち方、力加減の違い、重心の折持って行き方。

先ほどとは違い、痛みは薄れる。いけるその想いが湧く。

しかし

 

「あめぇ」

 

「いッ」

 

威力が上がる。まるで子供の浅知恵など意味がないと言わんばかりに。心を折らんとあする様に容赦なく。

それでも尚、悠介は哂い引かずに拳をぶつける。その事実が釈迦堂を歓喜させる。

 

何時までも続いてほしいとさえ思った打ち合い。しかし、終わりは当然の様に告げられた。

 

「そこまでじゃ」

 

「そこまでにしておけ」

 

「これ以上は見逃せないヨ」

 

「「ッ!?」」

 

二人の拳を止める様に鉄心とヒュームが、そして悠介の背後にルーが現れる。

瞬間、悠介の頭は怒りに染まるが

 

「これ以上、楽しい体育祭を壊すのはダメだヨ」

 

ルーの一言でそれが消える。今回は場所が悪いと納得させ、悠介は拳を納める。そしてそれは釈迦堂も同じだった。

 

「あ~あ、時間切れか。まあ、しゃーねえはな」

 

驚くほどあっさりと拳を納める。鉄心とヒュームが睨み付けるが

 

「ハイハイ。わるーござんました」

 

「のお、釈迦堂よ。何ゆえに現れた」

 

鉄心の問いはある意味で分かり切っていた。それでも聞いた。

 

「…‥」

 

「そうか」

 

「フッ」

 

一度だけ悠介を見る釈迦堂。それだけで全てを察する二人は、何も言わずに釈迦堂を見送る。

 

「仕切り直しじゃな」

 

辺りを見渡した鉄心はそう判断する。

かくして、水上体育祭は波乱を含みつつも、無事に終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水上体育祭も終わり、悠介は帰路についていた。

 

「ジジイのヤツ…扱き使いやがって」

 

夕暮れの中、釈迦堂と勝手に戦った罰として一人、片づけを手伝わされた悠介は、文句を言いながらも、先ほどの戦いを思い返していた。

 

「…そうこなくちゃよ」

 

「何がだ」

 

決意に燃える悠介の声を掛けたのは、釈迦堂本人だった。

 

「何か用か」

 

「いや、ただオメェの悔しそうな面を見に来たんだが…」

 

そう言いながら釈迦堂は、悠介の瞳に目を向ける。

 

――――たっく、相変わらず可愛げのねえ目をしやがって

 

「脱力‥」

 

「あ?」

 

ふと発せられた言葉に疑問を持つ悠介。しかし釈迦堂は、気にせずただ告げる。

 

「オメェは、打ち込む瞬間にまだ気負いすぎなんだよ。より力抜いて打ってみろや」

 

「‥‥まさか、それを」

 

言いたい事だけを告げて姿を消した釈迦堂。余りの事実に呆ける悠介。次第に意識が戻ると小さく

 

「ありがとう」

 

礼を述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの中、大和は悠介と釈迦堂の一戦を思い出す。荒々しいの闘争。直ぐに辺りに現れた壁越えの猛者達。その中には当然百代や燕もいた。

 

「‥‥」

 

悔しいと思う。あの時の百代の表情を、武士娘達の表情を見るとそれ以外には何も思えない。

自分では決して作れない笑み。転校してすぐ仲良くなっている燕先輩もまた例には漏れない。

何でだと思う。自分は間違っていないのに。

 

「何でお前は…」

 

その答えを知るのはきっと神様だけだろう。己の湧き上がる感情に蓋をして大和は、いつも通りの顔でファミリーの待つ秘密基地に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの川神山。一つの大岩の前に悠介は佇んでいる。

思い起こすは、先ほどの釈迦堂の言葉。

 

「フゥー」

 

ゆっくりと息を吐く。何時もはここで構えを取るのだが

 

「フゥ」

 

更に息を吐き、力を抜く。

 

―――意識しろ。力を抜く事に。ただ立つ事に力はいらない

 

そしてその感覚に慣れろ。実に五分間、悠介は目をつぶりただ立つ事だけに意識を集中した。

そして遂に、左手を右手首に添え、握る一歩手前の右拳を作る。

 

「…‥‥‥‥‥二重の極み」

 

直後、ぶつかった岩が塵と化す。

 

「‥‥‥」

 

悠介は何も言わず、ただ己の拳をみる。感じた。今まで築き上げたモノが、重なり形となった音が。

 

「へへ」

 

確信がある。今の自分ならば、両手打ちは完璧だと。

 

「残すは‥‥片手打ち」

 

切っ掛けはつかめた。ならば、より一層進むのみ。

 

 

――――祭りの開催まで、後六日

 




本当は一子の心情も書きたかったんですが、長くなりそうだったんで断念しました
何か片手打ちを別格扱いしてる気もしますが・・・大丈夫だよね?

良かったら、感想をお願います。

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